「穏やかデイズ」
――よし、午前中はすっごく疲れたから部屋でゆっくりするぞ!
って言ったのがついさっきのことで……。
「孔弌、どうしたの?」
「兄ちゃん、やっぱりこっちのほうがうまく進めるんじゃないの?」
「スザク。お前、さっきのヒントをしっかり聞いていたか?」
「オラオラ、どうしたぁぁあ!!(←指相撲をしてる)」
「う、うわぁ(←同じく指相撲をしている)」
八畳の部屋に六人はちょっとなぁ……。
「やっぱり居間に行こうか」
うん、それが一番だな。
ゲーム機を抱えたスザクにぞろぞろと着いていく。
しかし、すごいなこの行列は……。
居間についてソファにもたれる。
う~ん、気持ちがいいなぁ。
スザクもすっかりゲームのコードを接続するのに慣れてしまってる。
どう見たって現代っ子にしか見えないし。服装も、別に不自然じゃないし。
他の式神は不自然なのばっかだけど……。
あれ、そういえば……。
「ねぇアルテ。今更で申し訳ないんだけど聞きたいことが」
「ん、どうした?」
「あのさ、皆って服の洗濯とかどうしてるの?」
風呂に入る時脱いだりしてたけど、洗濯には誰一人として出してないような……。
「あぁ、この服か」
服を掴んでパタパタ。
「うん、洗濯しなくていいの?」
「ふむ、洗濯か……」
顎に手を当て考え込む。いやいや、このぐらいのことで別にそこまで長考しなくても。
「実はこの服は厳密には服ではなく、私の一部なのだが」
「え!? この服はアルテの一部なのっ!?」
服の端を掴んでこすってみる。
「ぁ、ぁ、そこは……あぁんっ♪ ……なんて言うと思ったか?」
「いや、別に思ってないけど……」
ていうか何今のノリノリなリアクション。
「確かに私の一部ではあるが、見ての通り別に神経が通っているわけでもないし着脱もできるから、基本的には普通の服だと思って差し支えないだろう」
「へぇ、なんか便利そうだね」
「あぁ。一瞬で裸になることも可能だから、その、い、急ぎの時は便利だぞ」
一体どういうシチューエーションで、そして何を急いでるんだ……。
「それに少し時間をかければ服を変化させて、違う服に着替えることができるぞ」
「変化?」
「例えば今来ている服だ。その時代に合う服を着ないと色々と不都合だから、今の服は現代に合う服にしている」
えぇ!? あきらかに浮いてると思うんだけどその服。黒軍服っぽいし、マントだし。
正直テンちゃんとスザクぐらいなんじゃないかなぁ……今っぽい服着てるのって。
アロ、セラは和服っぽい服装で、氷凍も何を参考にしてあのウェイター風の服になったのか。
「あれ、それならアロの攻撃を受けてもすぐに服が出せるんじゃないの?」
「あいつの攻撃はそういう次元じゃないんだ……」
珍しく鬱屈とした顔になるアルテ。そんなに凄まじい攻撃だったのか……。
「話を戻そう。アロやセラは少し古くさい恰好をしてるだろ? あれは昔の服のままだからだ」
へぇ、つまり皆昔はあんな恰好してたんだ。
「そういうわけで、服は私達の一部だから汚れたりしても浄化すればすぐに治るのだが」
「それなら大丈夫なんじゃないかな。洗濯しなくても」
よくわからないけど、する方がむしろやばい気がする。
「お前はしたほうがいいと思うか?」
「ん~、してもしなくてもいいなら好みの問題になってくるんじゃないの? そもそも予備の服もないわけですし」
う~ん……。
「ま、正直言うと洗濯物が増えるとその分大変だから、平気なら出さないでくれると助かるけど」
家事はやらなきゃいけないだけで、好きじゃないし、得意でもないからなぁ。
大体、学校でやってる家庭の時間は正直あんまり役に立たないと思うんだよ……。
まぁどうでもいいんだけどね。
「ふむ、そうか……お前が洗うのか」
「まぁそうだけど」
「よし、それなら私は明日から洗濯物を出そう。そういうわけで孔弌、ちょっと服を買いに行ってくる」
えぇ!? 大変だからって言ったのに、わざわざ服を買ってきてまでして敢えて出すとは……いじめ?
「あの、僕家事とか好きなので洗濯とか手伝いましょうか?」
横にいる氷凍が話に入ってくる。
「おらおら、もう350カウント目に入ったぜ、はい352、353...」
ていうか指相撲まだやってたのか。
しかも一方的にやられてるし。
「あ、気にしないでください」
気になるよ……。むちゃくちゃ指潰されてるし。
「でも、そっか。家事が好きなら、助かるよ。洗濯も、」
「いや、いい。お前は、皿洗いでもやってていろ」
「なんでアルテが断るの!?」
「わかりました……僕は皿洗いします。任せてください……」
少しショボショボとして、そのまま沈み込んじゃった。
「まぁいいけど……、とりあえず今の話他のみんなにもしといて」
「あぁ、洗濯の話か?」
「うん」
「わかった」
「じゃ、僕は少しアロの所に行ってくる」
「あぁ」
アロは……まぁ洗濯には出さないだろうなぁ。
そもそもあの服って普通に洗濯機で洗って大丈夫なのかなぁ。洗濯表示ついてるわけないよなぁ。。
数回ノックをして
「アロ? 僕だけど入っていいかな?」
声をかける。
そしてすぐにドアが開く。ん……? すぐに?
「あれ、蛍さん」
出てきたのは蛍さんだ。
「うむ、わしじゃ」
「ミィ~」
後ろでチコが鳴いている。
「少し様子を見に来ておったのじゃ。まだか弱い子猫じゃからな」
そういえば蛍さんは時々この部屋に来てるみたいだ。
「もっとも、その飼い主とはまだ面と向かって話すには至っておらぬのじゃがな」
部屋を見渡すと、隅のほうでで静かに本を読んでいるみたいだ。
僕が来たことには気づいてるのかなぁ。
「それでも……うん、頑張ってるよ」
アロは自分にできることをしっかりやってくれていると思う。
「うむ、わしもそう思う。きっと、自然に直接皆と触れ合える日もそう遠くないじゃろ」
やっぱり蛍さんから見てもアロは、頑張ってるように感じるんだ。
「それとな、話は変わるのじゃが」
何となく蛍さんの話し方から少しだけ重い空気が伝わってくる。
「そうじゃな、ついでにアロも聞いてくれ」
本を読んでいるアロも少しだけこっちに体を向けてくれる。
「もうすぐ戦いが増えるやもしれぬ」
戦いが増える?
「蛍さん、それってどういう意味?」
「わしも今回の事件については今だによくわからぬのじゃが……孔弌、この町に妖怪が集まってきておるのは知っておるな?」
「あ、うん。確か結界の力が弱くなって、人を襲うような知能が低い妖怪がこの町に集まってくるってリュウが」
それに蛍さんも前に言ってたし。
「まぁそういうことなのじゃが、それにしてもどうもおかしいことがおこっておるようなのじゃ」
おかしいことか……。
「周りからのぉ、この町へ向かってすごい数の妖怪が集まってきておるという情報があってな。どうも、結界がなくなったにしてもおかしい数らしいのじゃ」
「それってさ、かなりやばいってこと?」
「うむ。今まではわしが一人で町を飛び回っておればなんとかなったが、次は町全体が戦場になるやも知れぬからの」
町全体が戦場か。漫画とかだと燃える展開なんだけど、実際にこういうことになるとやっぱ嫌だなぁ。
「とにかくそんな予感がするのでな」
「そっか……。うん、その時は僕も頑張るから」
「うむ、それじゃ居間におる者にも同じ話をしてくる」
そのままバタンと扉を閉めて部屋から出て行った。
「昨日といい今日といい、どうも蛍さんは嫌な予感がしてるみたいだけど……」
蛍さんほどのお方の予感だ。確実に何かあるんだろうなぁ。
実際妖怪が集まってきているらしいし。
「アロはどう思う?」
机の前に座っているアロに訪ねる。
「あの、ご、ご存知かもしれませんが私達は長い間封印されていました」
顔を伏せたまま話を続けていく。
「中からじゃ、そう簡単には……解けない封強度だったんだけど……」
「その割にはあっさりと出てきたよね、みんな」
「あの、だから、その……」
どもりながら必死に言葉を選んでいるアロ。
「誰かが私達の封印を、解いたんじゃ……」
ん……?
そういえばそうだ……"なんで封印が解けた"んだろ?
どうせリュウがポカやらかしたんだと思って、これっぽっちも気にしてこなかったけど……。
「あれって皆が解いたとか、時間経過で解けたとかじゃないの?」
「私達には、その、絶対に解けなかったと思う。時間経過ってこともないと……思う」
「もし、もしアロが考えたように誰かが解いたんだとしたら、何のために解いたんだと思う?」
凶悪な妖怪として封印されている、そんな危ないものに普通手を出そうとするかな。
「……人間に恨みがあるか、私達の力を利用したい人……だと思います」
恨みがあるって言うと、つまり昔みたいに皆を大暴れさせて世の中を壊そうとするってことかな。
そして力を利用っていうと……
「私達の霊力を吸収したり、自分の式神・使い魔にしたり」
「つまり僕のことか!」
衝撃の事実。
「そ、そんなことないです!」
アロが語気を強めて叫ぶ。
「まぁでもほら、そういうつもりじゃなくても一応結果としてそうなっちゃってるってことでね」
「え、あ、はい……」
「うん、でも、ありがとね」
アロの気持ちはわかったから。
「にぃ~」
チコがじゃれてくる。
う~ん、猫は癒されるなぁ。
「そういえばさ、アロって蛍さんのことは割と平気だよね」
さっきといい、意外にも結構一緒にいるみたいだ。あの人も、まぁ猫だからなぁ。
「あの、チコのこと、詳しく教えてくれるから」
まぁなんといっても通訳だからなぁ。
「それに私、みんなの事が嫌いなわけじゃなくて、ただ……誰かと話したり、肌が触れたりするのが怖いだけで……」
「うん、多分みんなもわかってくれてるから。心配しなくていいよ」
「……はいっ」
そのあとしばらくチコとじゃれてた。
当初の目的通りアロにも一応洗濯の話はしたし、
そろそろ居間に戻るかな。
で、居間に戻ってきたんだけど……。
「何やってんだ、うわぁぁあああ」
「何やってんだって……もうセラ、それじゃ味方の足を引っ張るだけだよ。ねぇ次は個人戦にしようよ……」
「……セラは学習能力が低い」
「チーム変えしたいんですけど……」
仲良くゲームでエキサイトしてた……。
ていうか、これも何度も何度も思ったんだけど、こいつら本当に大昔の妖怪なのか?
大騒ぎの四人とは別に、アルテと蛍さんは部屋の隅で何かしてるみたいだ。
「こっちは何してるの?」
――パチッ
「ん? 囲碁だ」
――パチッ、パチッ
石を打つ独特の音がする。
「こんな騒がしい部屋でよく集中できるね」
後ろの方では相変わらずゲーム組が暴れてるのに。
「特に真剣勝負でもないからのぅ」
「あぁ、それに今丁度打ち終わったところだ」
「それにしても碁盤なんてよくあったね。うちにはなかったと思うけど」
「ん? スザクが持っておったのじゃが」
なんでスザクが碁盤を持ってるんだ。
「どれ、孔弌も一局どうじゃ?」
囲碁かぁ。
「ルールは一応わかるけど、やったことないんだよね」
興味を持って調べてみたことはあるけど、周りに出来る人いなかったしなぁ。
「基本的な事がわかるのなら十分じゃ。どれやってみるかの」
「よし、交代だ」
アルテが立ち上がって場所をあけてくれる。
そしてそのままアルテが隣に座る。
「アドバイスは任せろ」
頼もしいセコンドだ……。
「とりあえず互先でやってみるかの」
ハンディキャップなしか……。
それにしても蛍さん凄まじいプレッシャーだ。
ニコニコしながら前に座ってるだけなのに、勝てる気が万に一つもしない。やっぱり猫っぽい笑みが強者の余裕を醸し出しているんだろうか。
「こらこら、そう気張るでない。気楽にするのじゃ」
蛍さんの体から放たれるプレッシャーのせいでとてもそんな気にはなれないよ。
…………
「孔弌、石はもっと水平に打ち下ろすんだ」
「あ、うん」
「孔弌、シチョウの形になっておるようじゃが、このままでは大敗じゃぞ」
「あ、ほんとだ」
そんなこんながあり……。
「ふぅ、囲碁って難しいね」
大敗……ってわけでもないけど、あきらかに手を抜いてくれてたしなぁ。
「何、初めてなど誰でもこんなものじゃ。次やるときは四か五子程置けばいいかのぅ」
誰もが最初は初心者。けどいつまでも初心者を名乗って研鑽を怠るわけにはいかないよね。
「将棋ならまだそこそこできるんだけどなぁ」
「ほぅ、ならば次にやる時は将棋じゃな」
「私も将棋ならば得意だぞ」
うわ、激戦の予感。
「アルテよ、さっきの囲碁もじゃが今の将棋も昔とは違うルールなどがあるから一度調べておいたほうがいいと思うのじゃが」
「あぁ、そうだな」
囲碁とか将棋とかって歴史長いんだなぁ。




