「取扱説明書をよく読んで、安全に使用して下さい」
「確か、この辺りだと思うんだけど……」
異変の元だという駐車場の近くまで来たところで、すごい異変に気づいた。
「ねぇ、雪が降ってる気がするんだけど……」
真夏の雪か、まぁ異常気象としては結構ポピュラーだと思うけど。
なるほど、これは確かに普通じゃないね。
流石に一般人の方々もかなり困惑してるんじゃないかな。
一応ざっと周囲を見渡してみると
「くそっ、雪が降ってるせいでかき氷あんまり売れないじゃないか」
「お母さん、雪だよ雪」
「まぁ、何かのイベントかしら」
「おーい、雪だるま作ってみようぜぇ」
「いてて、滑って転んじゃった」
なんてマイペースな人々なんだ……。
今までで一番スケールの大きい事件だと思うんだけどなぁ。
何にしろ幸いな事に街は全然混乱してないし、とにかく駐車場の中に入ろう。
『……孔弌、多分一番上』というテンちゃんの勘(シックスセンス?)に従い、エレベータで最上階へ。
扉が開いた瞬間、目に飛び込んできたのは見渡す限り一面の銀世界だ。
こんな事態じゃなければ年甲斐も無くテンションが上がっていたかもしれない。
「そして、やっぱり冷えるなぁ」
扉が開いたそばから冷風がエレベータ内に吹き込んで来たので、肌を刺す冷気に鳥肌が立つ。
流石に雪原で半袖は寒い。遊園地とかにあるものすごく冷えたアトラクションに入った気分だよ。
「さてと、ターゲットは一体どこにいるのかな」
屋上にはほとんど車が停まってないおかげで、簡単に見渡すことができる。
そのおかげで、何もない駐車場の端にぽつんと立っている人影をすぐに発見できた。
「えっと……あれが式神?」
どこか薄幸そうな見た目で、飲食チェーン店のウェイターとかが着ているような服? を着た少年だ。
年のころはスザクよりちょっと上くらいかな? もわりとした白銀の頭髪が雪景色によく馴染んでる。
「ん~、玄武の位」
「玄武の位ね……どういう式神なの?」
「えっとね、水気を操るんだけど……氷を使うのも得意」
なるほど、それなら雪ぐらい降らせられそうだね。
「とにかくまずは話し合おう」
セラの時の反省をいかして、まずは歩み寄ることを第一に……。
「発っ!」
スザクの掛け声がしたかと思うと、傍ですごい熱を感じる。
そしてそのまま一直線に炎が飛んでいき
爆発音とともに、さっきまで人影があった場所が煙に包まれる。
「ス、スザク!?」
「ご、ごめん。つい……」
ついって……、ついってスザク……。
「ーッ! うわぁぁあ、熱っ、熱い!」
爆煙から火達磨になった玄武が出てきた。
しばらくのたうち回って、ようやく落ち着いたところでこちらに気づいて。
「す、朱雀の位ぃ……」
どうしよう、ジト目でこっちを睨んできたぞ。
いや、僕は関係ないぞ、やったのはこいつなんだから……。
「これでもくらえ!!」
「うわ、やばいって、ツララ飛んできたって!」
無差別攻撃だよ! こんなの当たったら学校の天井みたいに穴だらけになっちゃうよ。
ちなみに僕は授業中暇な時によく穴の数を数えたりしてるぞ!
「……孔弌、ボクのうしろに」
ここは言われたとおりテンちゃんの後ろにいこう。
「……障壁」
――パンッパンッ
氷が弾かれる音がする、怖いよぉ……。
「あ、ありがとねテンちゃん。助かったよ」
スザクは無事かなぁ……いや、むしろスザクが持ってる荷物は無事かなぁ。
「兄ちゃん、荷物のほうが心配って……」
「あ、いや、君の事は信頼してるから、その、心配するまでもないかなって……」
と、とにかく無事らしい。
「スザク、荷物を安全な所に置いてきて。最優先で」
「わ、わかったよ……」
「……孔弌、くる」
今度はヒョウが飛んできた
いや、あのネコ科の動物じゃないよ? 氷の塊だよ。
っていうか地味に今までで一番危ない戦いになってない?
肉体強化と水の縄をフルに使って攻撃を避ける。
「よし、ここだ!」
わずかなすきを見つけて炎を撃ってみた。
「澄月」
――ブゥン……という謎の音とともに大きな円が現れた。
そしてそのまま僕が撃った炎が円に命中……したかに見えたけど
「炎が吸い込まれた……って、そんなバカな!?」
シュウという音とともに炎は円に阻まれ霧散した。
「テンちゃん、あれは?」
「……玄武の位の神装具。すごく硬い」
すごく硬いって、そんな曖昧で適当な表現されても。
「……放出系の攻撃だと通じにくい」
「テンちゃんでも無理?」
「……ボクは玄武の位と戦いの相性が悪いから」
そっか、そうなると
「なら接近戦でいくしかないね」
左手に力を入れる……多分あれが出てくるよね?
チャキッという音とともに僕の手に現れたのは刀だ。
「よかった。やっぱり刀だ」
セラの力だから、多分刀とかそういう武器だと思ったけど。
「行くよ、テンちゃん」
「ん……」
――パキンッ、パキンッ、パキンッ
勢いよく駆け寄ろうとする僕達の出鼻を挫くように、地面からツララが突き出してきた。
危ない、この攻撃は危ないぞ……。
一歩間違うと僕の切ない場所が……考えるだけでも恐ろしい!
ぶんぶんと刀で薙ぎ払いながら進んでいく。
「やけに軽いなぁ、この武器……」
昔、何かの資料館で持った刀はもっと重かったんだけど。
とにかく片っぱしから行く手を阻むツララを斬り払う。
「それなら、もっと!」
バキバキと地面が凄まじく凍ったかと思うと
「うわっ、更に激しくツララが突き出てきたよ」
これじゃ簡単に近づけない。
斬るよりも早くツララが出てきたり、おまけにひょうも飛んできたし。しかも地面滑る。
「もう、これじゃキリがないよ。テンちゃん、何とかならない?」
「……んー難しい」
そっかぁ、難しいのかぁ。
ってそんなに落ち着いてもいられないんだけどね。
援軍も……期待できそうにないしなぁ。リュウだし。
それに
「ぅ……」
なんか力が入らなくなってきたよ。
これはアロの時みたいに、多分エネルギー切れだ。
ほんと、僕ってみんなに比べると弱いんだよなぁ。すぐこれだもん。
「兄ちゃん伏せて!」
「ん……?」
反射的に伏せたけど……。
「発射ぁ!」
熱風が通ったような独特の感じがして肌がピリピリする。
スザクの放った熱光線がツララを消し去りながら直進してるのか。
「あー、やっぱり水にはあんまり効かないか」
あぁ惜しい。熱光線は玄武の手前ぐらいで消えてしまった。
あともうちょっとだったのに。
「……孔弌、今のうち」
「え、あ、うん」
流石テンちゃん。よし、この好機に一気に接近するぞ。
「泡ッ」
テンちゃんが剣で斬りつける。
刃物がぶつかり合うような音が響く。
「くぅっ!」
相手も手からツララを出して何とか受け止めた。
とはいえ、流石に衝撃を全部受けきることができなくて、少しよろめいてるみたいだ。
「兄ちゃん今だよ!」
今がチャンスって事はわかるけど、もう刀は出そうにないしどうすれば……。
「兄ちゃん、これを受けとって!」
スザクが投げてきた何かを反射的に受け取った。
「これは……」
"それ"を振り上げる……そして、玄武の位に向けて、振り下ろす!
「え……何これ」
「兄ちゃん、スイッチスイッチ」
「う、うん。スイッチ、ON!!!」
とたん、玄武の位へ被せていた網に電気が流れる。
「ちょ……あ、あぁぁぁ、うわぁぁぁあああ……ぎゃあぁぁあああああ」
痙攣しているかのように激しく体を動かす玄武。
火花が飛び散り、空気中に電流が迸る。放電してるぞこれ!?
まさかこんな光景を現実で見ることになるなんて……。
「とにかく南無……」
しかし、凶悪な大妖怪にも効くって、これ本当に発売してていいのか?
定格出力電流が気になって仕方ないけど、見るのも恐ろしく知らないフリをする事にした。
「兄ちゃん、これもう一個買おうよ」
「いや……いらない」
所持してる時に職質されたら逮捕されそうだし。




