「また買出し回だよ」
「よし、二人とも準備はOKだね」
いつもの格好で玄関に並ぶ二人に確認を取る。
「うん。初めてだから楽しみ」
「……ん、大丈夫」
なんて風に三人で意気込んでるけど、ただ買い物に行くだけなんだけどね。
「よし。それじゃまずは食器を買いに行こうか」
ということで少し遠くのデパートまで来た。
「食器はたしか……一階で売ってたよね?」
「兄ちゃん、僕ここ来るの初めてって言ったよね?」
最近気づいたんだけどスザクはツッコミのときだけやけに大人っぽい。
なんて考察はさておき、とりあえず記憶を頼りに食器売り場に向かうか。
「兄ちゃん、あれあれ」
「ん?」
食器売り場に向かっている途中でスザクが突然騒ぎだした。
「どうしたのスザク?」
「これこれ!」
ものすごく楽しそうな表情でスザクが指さすそれは……。
『イチコロ☆キャッチ』
「こ、これは……」
怪しい名前の虫網があった。
『――イチコロ☆キャッチは、電流を流す事が出来る虫網です。手元についているスイッチをONにするだけで、人間でも命が危険にさらされるような電流が網に流れます。誰でも簡単に、Let's receive electric shock!』
えぇ、なんだこれ!?
何このちょっとした凶器?こんなもの発売するなよ。
しかもこれ、確実に捕まえる前に虫が死んじゃうだろ!
あとよくわからないけど、最後の英文絶対おかしいって!
「これ買おうよ!」
「いらないよっ!」
何に使うのこれ? 殺人?
「テンちゃんもこんなのいらないと思うよね?」
同意を求めるようにテンちゃんに話を振る。
「……うん」
だよね? だよね?
「え~」
「はい、だめだめ。こんな危ないものうちには置いておけません。というか僕はこれを販売停止に追い込んでやる。ちょっと業者の電話番号メモるから待ってて」
「ねぇ兄ちゃん、荷物全部持つからお願いっ!」
手を合わせて僕にお願いするスザク。
「でも、不必要通り越して危険物だし」
「兄ちゃん、お願いしますっ!」
とうとう祈るように目をつむって懇願。
「ん~……」
そんなに欲しいのかぁ……。
「仕方ないな、もうあんまりわがまま言わないって約束してね?」
網をひとつ掴む。うわ、やけにずっしりしてるなこれ。……!? 電流5A!? バカか!
「ありがと兄ちゃん!」
僕はとんでもないものを子供に買い与えてしまったのかもしれない。
「……孔弌お父さん甘い」
「もう、テンちゃんも茶化さないで」
「食器はこのぐらい買えばいいかな」
カゴに皿とお椀をいれるだけいれてレジに向かう。
「お、おもい………」
二つのかごを持つスザクはしんどそうに呟く。
スザクみたいな男の子がこんな重いもの普通に持ってるって、何も知らない人から見たらすごい光景だけど。
「はい」
レジにかごを出すと
「……?」
店員の人が訝しんでこちらを見てきた。
あれ、僕なんかやらかした? 自分の体を見回す。
「あなた、もしかして孔弌君?」
「……? そうですけど……」
どうして僕の事を知っているんだ?
僕ってそんなに有名人だったかなぁ……。
特定の地域だけでなら多分圧倒的知名度あるけど、学校とか。
「あ、あの私この町の妖怪なんですよ!」
ニヘラと笑いかけながら
「えっ……? あ……へぇ、そうなんだ!」
「はい、一応ろくろ首やってますけど……伸ばしてみますか?」
「え……いや、今は遠慮します。ノーサンクス」
大体いきなり店員の首が伸びたら、一般の方々が驚くよ。
「それにしても全く妖怪だって気付かなかったんですか?」
「うん、全然わかんなかった」
「あのリュウさんがすご腕の討魔師って言うほどだからどれほど強いのかと思えば、妖怪の区別がつかないなんて不思議な人ですね」
今度はふふふと笑う店員さん。う~ん、まぁ僕は新米だからなぁ。
「テンちゃんはわかったの?」
「うん」
あっけらかんと答えるテンちゃん。
「どうやって?」
「んー、勘?」
勘て……。
「あ、じゃあそっちの子が話に聞いていた十二式神なんですね。うわぁ、かわいい。よろしくね」
「……ん」
もはや全然十二式神を怖がってないな……。
「あっと、ごめんごめん。買物の途中だったね」
慌てて会計を済ませていくお姉さん(ただし実年齢は不明)。
「それじゃ、またきてね~」
「あ、うん。また今度!」
まぁそう頻繁に食器を買いに来るとは思えないけど。
食器の次は食材。という事で食品売り場にきました。
「妖怪ってこんな普通に町にいるもんなんだね」
いや、わかってはいたけど……何というか今まであんまり実感なかったからさ。
「兄ちゃんホントに全然気づいてないんだね」
「だって、どうやってそんなの区別するのさ」
大体、テンちゃんとかだって妖怪に見えないし。
「なんかね、明らかに普通の人より霊力が高いんだよ」
だから霊力って何だよ……、そんな厨二的用語言われても……。まぁ最近の生活のおかげでおぼろげながらになんとなくの感覚は分かるけど……
「そもそも霊力ってどうすればわかるの?」
意識すれば自分の中に何か暖かいものがあるなぁぐらいにはわかるんだけど。
「あれだよ、ほら。シックスセンスっていうのかなぁ」
それって僕の中では≒勘になるんだけど。
「あ、でも、ほら。霊力って隠せるんでしょ?」
「うん……ある程度力があれば完全じゃないけどそこそこ隠せるよ。でも僕はそういうの好きじゃないから」
う~ん、僕としてはスザクは意外と細かい作業得意そうなイメージあるんだけど。
そういえばこの前もコントロールは苦手だとか言っていたような。
「テンちゃんもできるの?」
荷物を持ったスザクとは反対側を歩くテンちゃんに話しかける。
「……うん」
そっかー、僕もそういう基本的な事学んだり練習したほうがいいかなぁ。
……討魔師って履歴書の資格の欄に書けるのかな。
「さてと、食材はこれだけ買えば十分だろ」
山盛りに積まれたかごをレジに持っていく。
――ピッピッ。
すごい速度で会計を済ませていくレジのおばさん。
「今日は妹さんと弟さん連れておつかいかな?」
手は動かしながらも店員さんが話しかけてくる。
「……え? あぁ、はい」
そっか、僕たちって周りからは兄弟みたいに見えるのか。
しかし、弟に荷物を全部持たせる兄って……いや、兄より優れた弟なんていないの人を信望する僕としてはむしろ問題ないな。
「こんなに買って、持って帰るの大丈夫かい?」
「あ、はい。大丈夫ですよ」
お金を渡して、カゴと袋とお釣りを受け取る。
「どれだけ上手に袋にものを詰め込めるかが、その人の主婦スキルを測る目安になると思うんだ」
袋に食材を詰めながら僕の持つ持論の一つを語る。
「なんかテトリスみたいだね。兄ちゃんは上手なの?」
「いや、下手だよ……」
残念ながらね。テトリスは得意だけど。
「……孔弌」
「ん?」
「もし……もしスザクがいなくて……ボクと孔弌だけで歩いてたら」
「うん」
ものを詰め込みながら声だけで応える。
「それでも……他の人はボクと孔弌の事兄妹だと思う?」
「まぁ普通はそうじゃないかなぁ」
一般の人がこの光景をパッと見て……主人と式神だって事には気づくわけないだろうし。認識としては普通に兄妹とかそのあたりだろうなぁ。
「……むぅ」
困ったような怒ったような声を漏らすテンちゃん。
「…………?」
どうしたのかなぁ?
「よし、思ってたより随分と早く済んだなぁ、どこかに寄り道でもする?」
このまま直で帰ってもお昼まで中途半端な時間があるし。どうせならどこかで少し遊んで帰ったほうがいいかもしれないと思う。
それに何か無性にアイスとかフランクフルトとか食べたい気分だし。
買い食いヒャッホゥッ!
「兄ちゃん……ちょっとこれ持ったままじゃ無理じゃないのかなぁ……」
「あぁそっか、流石にそんな荷物持ったままじゃどこかに寄るのは難しいね」
約束通り全ての荷物を持ち、両手が塞がるどころかバランスをとることさえ難しそうなスザク。
「その、力をうまく使えばそんなに重くないんだけど……歩きにくい……」
その量で、そんなに重くないといいますか。
「うん、それじゃ寄り道しないでまっすぐ帰ろうか。よく考えたら帰った後に皿とかを棚に入れて整理したりもしないといけないしね」
と、丁度デパートから出たところで
『あー、もしもし?孔弌君?』
そんな声が聞こえてきたから、すぐにピンときてポケットから石を取り出す。
『どうしたの?』
石に向かってそう念じると
『いやー、あのね、式神を見つけたんだよ』
『えっ? 場所は?』
『市街の方にあるデパート……君達が行った方じゃなくて、駅に近いほうね。そこに隣接する立体駐車場にいるらしいんだけど』
うわ、それってここからすごい近いぞ。
『今そっちのほうにいるんだよね? すぐに向かってほしいんだけど』
『うん、わかったよ』
『僕もアルテ君とせせらぎを連れてそっちに向かってるから』
おぉ、頼もしい援軍だ。普段のノリはともかく、二人共戦闘となればすごく心強い。
『ゆっくりとね』
『えぇ!? なんでゆっくりなの? 急いで来てよ! 今すぐ飛んでこいよっ!!』
『ま、そういうわけでまっかせったよ~』
………………。
「孔弌どうしたの?」
「何でも、ないよ……」
リュウのあの性格を今更嘆いても仕方ない。
「簡単に説明すると式神が見つかったらしくて、丁度僕達の近くにいるから今からそこに向かうよ」
「それって何でもない事ないよね?」
「ん、わかった」
「ってちょっと待って……こ、これ持ったまま行くの!?」
頑張れスザク……!




