「命名会議-大裳編-」
「天奈、もうこのくらいでいいのではないか?」
アルテが終わりを促す。
「……んー、大裳の位はこれで満足?」
そうそう、もともとはこの人が言い出したことだ。
「そうだな、この勝負は俺の負けだ……」
え? 僕いつの間にか勝ってたの? やったー。
「悔しいが俺よりお前のほうがよっぽどバカだ……頑張れよ」
ビシッと親指をたてる大裳の位。
う~ん、勝ってもあんまり嬉しくないなぁ……。
「だけど、その前にちょっと試させてほしい。勾陣の位」
ん? 試すって……それにアルテを呼んで何するんだろ。
「ん? あぁ……孔弌、お前たちは少し離れていろ」
よくわかんないけど、言葉通りアルテから距離をとる。
そしてお互いの武器を出し合って向き合うアルテと大裳の位。
「え? 戦うの?」
あきらかにそういうムードなんだけど。
「安心しろ、すぐ済む」
「三合ほど打ちあうだけだ」
だけだって……。
「いつでもいいぞ」
と、アルテが開始してもいいよみたいな合図を出す。
アルテさんカッケー!
「行くぞ……」
――スッ
と大裳の姿が消えたかと思うと
――キィン、ヒュッ、キンキン
という剣戟だけが聞こえてきた。
「これで満足したか?」
その場から動いていないアルテがどこか誇らしげにそう問いかけると
「あぁ、もうこれでいいぜ」
いつの間にかアルテより後ろに立っていた大裳が答える。
この二人は何をしていたんだ。いや、何のためにしたんだ。
「とりあえず説明してほしいんだけど……」
僕という主役を置いていって話を進めるのは勘弁願いたいよ、ホント。
「ん、まぁお前が本当に俺たちを従えられるか見せてもらっただけだ」
…………どゆこと?
「こいつは、私と打ち合うことでお前が私を御しきれているか見極めたんだ」
そんなことできるのか……。
「御しきれない妖怪を式神にした場合、主も式神も足を引っ張り合う形で弱体化するんだ。霊力がだだ漏れになるからな」
「なるほど……って、ということは今のは間接的に僕の器が試されてたってことじゃないか!?」
「あぁそうだ」
「安心しろ、俺は満足したぜ」
ということは、僕は合格したわけなんだね。
「わりぃな、だって普通俺たちを従えることができる人間なんて存在しないと思うだろ?」
そりゃ、それはよく言われるからね。
「私だって、最初はそんなこと不可能だと思ってたからな……お前と絆が結ばれた天奈の姿を見るまでは」
そういえば君も最初は鼻で笑ってたね。
「ボクは孔弌の事どんなことでも信じてる」
いつの間にか横に立っていたテンちゃんが腕を引っ張ってくる。
「うん、ありがとねテンちゃん」
「はっ、やっぱお前面白い奴だな」
ガハガハと笑う大裳の位。
「うん、孔弌はとっても面白い」
と、まぁ色々あったものの、
一応は一段落がついたということで一旦家に戻ることに。
これで残りの式神は……。
まだ半分以上か……。
とにかく順調で何よりだよ。
「ただいまー」
玄関のドアをあけてゾロゾロと中に入っていく僕たち。
とりあえず居間に向かおう。
ドアを開けてホールに入ると
「あれ孔弌君、随分早かったじゃないか。まだ家を出て二時間ちょっとぐらいしか経ってないだろ」
リュウが一人でくつろいでいた。
無線はもういいのかな。
「えっと、新しい式神を連れてきたんだけど」
こう言えば伝わるよね。
「何……?」
不意を突かれたような顔をするリュウ。
「お、神じゃねーか。なんだお前も一緒にいるのか」
「……なんだ大裳の位か。はぁ……」
「うおぉぉおい、何ちょっと残念そうな顔してんだよ!」
う~ん、やっぱりこの二人が揃うとうるさそうだな。
「これは、バカコンビの誕生だね!」
「……孔弌も入れてトリオ」
「テンちゃんや、それはどういう意味かな?」
確かに僕は少しバカかもしれないけど、この二人と肩を並べるにはまだまだ実力不足だ。
「そういえば孔弌君、もう契約はしたのかい?」
「まだしてないから今から名前つけようと思って」
「ふむ……そういうことならみんなを呼んでこないといけないね」
……う~ん、まぁ別にかまわないけど。
リュウが勢いよく部屋から出ていった。
そして…………
「はい、始まりました……第一回名前をつけようシリーズ。司会はこの僕リュウと」
「名前を付けられる本人大裳の位(仮)だぜっ!」
「「イエェイッ!」」
でたよ……いつの間にか意味不明なことになってるこの流れが……。そしてこの二人無駄に息ぴったりだ。
そもそもアロの時にした話し合いが、同じ趣旨の会議としては第一回目じゃないのか?
「では本日の罪深い参加者を紹介しましょう」
罪深い……?
「さて一人目はぁぁあ! 大本命、数々の式神に真名を与えた男、阿保孔弌ィィイ!」
「ヒャッホォォォウ!」
「どうも、孔弌です」
それにしても大裳(仮)テンションたけぇ……。
謎の奇声を上げ、無理矢理に場を盛り上げようとしてくれてるのか?
「今日も全員が目をむくような鬼才を発揮してくれるのか」
そんなもの持ち合わせてません。
「ちなみに俺はどちらかというと奇才だとよく言われます」
「続いて二人目、小さな体に無限の可能性、天奈君」
「コォォッォオオイ」
「ん」
「青い箒星天奈、今日も綺麗なスターダストを見せてくれるのかい?」
くふっ……。だめだ……リュウの説明が意味不明すぎて吹き出しそうになったのを我慢したら、唾液が肺のほうにはいりそうになってむせた。
「ちなみに俺は流れ星に願い事を言う速度は誰にも負ける気がしません」
「三人目は、実は一番名前がてきとう、スザク君」
「確かにそのまんまだ!」
「もう名前ネタ禁止にしようよ……」
ごめんねスザク……。
今更になってあんなにも安易な気持ちで名前をきめてしまった事を後悔してしまう。
「子供らしい純粋な思考でこの戦いを制することができるのかな?」
「ちなみに俺もよく子供っぽいって言われます」
「四人目、メンバー随一の頭脳派、アルテ君」
「カムカムゥえいごぉっぉお」
「うむ」
「計算しつくしたネーミングセンスを見せつけてくれる……だろうと僕は期待している!」
お前が勝手に期待してるだけかよ!
「ちなみに俺も計算は得意だ」
嘘だっ!
「五人目、逆らったら命がなくなる、蛍君」
「うぉお!? あの時の化け物、あんたまでここにいたのか……」
「人を暴君みたいに言わんでくれんかのぅ」
「今日は無駄に多い霊力を使って、霊的に勝利をつかむのか?」
「無駄と言いおった!?」
ていうか名前付けるのに霊力は関係ないだろ……。
「ちなみに俺はよく無駄にうるさいといわれます」
「って、蛍さんは見回りいってたんじゃないんですか?」
いつの間にここに参上したんだ。
「リュウが戻って来いとうるさくての。しかし来てみれば何やら面白そうな事をしておるではないか、今は興じさせてもらうのじゃ」
リュウとの通信機になる例の石を見せる蛍さん。
僕は今日出かける時、素でそれを忘れていったのに。
いつも持ち歩くなんて偉いなぁ蛍さん。……偉いのか?
「六人目、超大穴、アロ君&猫のチコ君」
「ぁ……ぅ」
アロは半分以上無理矢理リュウが連れてきた。好き放題やってるな、この神。
「それにしてもお前までいたのかよ……」
「今回唯一のタッグチームだね、勝利の鍵はチームワークかな?」
「ちなみに俺はよく勝利の鍵だけじゃ不安なので勝利の合鍵も用意します。しかも5、6本っ!」
どういう意味だ!?
「さぁ、メンバー全員の紹介が済んだところでルールを説明をさせてもらおうかな。ルールは簡単、順番に大裳(仮)にふさわしいと思う名前を挙げていくだけ。ナイス回答にはポイントが与えられ、一番高い方には豪華賞品が!」
もう遊びになってるじゃないか!
「さぁまずは孔弌君から順番にいってみようか」
うわ、いきなり僕からスタートか……。
「そうだなぁ……」
この人は確かバカでバカな人だから……。
「空……と書いてうつけと読むのはどうだろう」
うつけ……かっこいいっ!
自己紹介でいきなり『うつけです(キリ』なんて言われた思わず脱帽しちゃうよ。
「わしはお主のセンスに脱帽じゃ……」
「これまたストレートな回答がきたね。本人としてはどうだい?」
「空、カッコイイじゃないか……!」
あ、やっぱりかっこいいよね!
よかったー、気が合いそうだ。
「孔弌君1点!」
わーい。
「……次はボクの番」
おぉ、テンちゃんもやる気十分みたいだな。
「……虚……と書いてうつけっていうのは?」
「僕と同じじゃないか!?」
さては真似したなっ!
「場の流れからは読めない、意表を突いた答えがでてきたね……大裳の位(仮)、君の意見を聞こう!」
「限りなく正解に近い不正解……といったところか」
一見意味が深いような言葉だけど、実のところ何を言いたいのかよくわからないな……。
「天奈君1点!」
ポイントあげちゃった!?
「次は僕の番か……よーし……」
腕を組んで深く考え始めるスザク。
「エンガクジャンマー……なんてどうかな?」
「ちょっと待って!? スザクどこでそんな言葉知ったの?」
「兄ちゃんからもらったお下がりのゲーム」
くっ、僕としたことが……。
「僕も数々の危ない場面を助けてもらったよ……。危ない時に頼りになるという意味が込められたいい名前だ……」
「アリだな……」
アリなのか!?
ていうかリュウのセリフが突っ込みどころ満載なんだけど。
「スザク君2点!」
2点もあげちゃった!?
「次は私の番だな」
さて、アルテのことだ……どんなに難しい名前をつけてくれるのかみものだな。
「末恐ろしい例のアレ……なんてどうだ?」
もはや名前じゃないよね!?
肩書きみたいになってるよ! しかもアレって……代名詞だし。
「これは、流石に意味深な言葉が出てきたね。僕としてはどう末恐ろしいのかが気になるよ」
「う~ん、蟲惑的だな」
今更だけど、この二人の解説は必要なのか?
「はい、アルテ君1点」
「とうとうわしの番か。年長者の力を見せてやらぬばのう」
年長って、確か900歳だよね。で、式神さん達がみんな750歳ぐらいらしいから、このメンバーだと僕が小童すぎるんだけど。
「そうじゃのぅ……バカ……アホ……」
あ、やっぱり名前考えるときはバカとかアホから連想するんだね
「ジェニファー」
度肝抜かれた。バカとアホからどうやってそこに辿り着いたんだ!? 少なくとも横文字がスラっと出てくる感じの人じゃないでしょあなた!
「ジェニファーか……ここにいる全員のななめ上をいく回答だね……」
「ステファニーのほうが好みかな」
これが自分の名前になるかもしれない事理解してるのか!?
「蛍君1点」
さぁ、次はアロの番だけど大丈夫かなぁ……
「ぁ……ぁぅ……」
あー、やっぱりうつむいちゃってる……。
頑張るのはいいけど、あんまり無理させるのもダメだからね助けてあげよう。
「みゃあ、みゃあ」
僕が声をかけようとするより先にチコが鳴きだした。
「おほん、わしが通訳しよう……どうやらご主人さまは体調が優れないみたいなので、ここは私が代わりに答えますなの」
相変わらず人間年齢四歳とは思えない子猫だ……利発的だなぁ。
それにしてもその語尾はどうにかならんのですかたい。
「にゃ~、にゃにゃあ、み~」
「そうですねぇ……ここはもう直球でバカなんてどうでしょうかなの?」
「うん……」
「ん………」
「むぅ……」
「ふむ……」
「ほぅ……」
僕にはわかる…全員の心は今ひとつになった……。
「えっと……これは場の流れ的にバカ……で全会一致っぽいんだけど……」
お? リュウがちゃんと空気読めてる!?
「なるほど……面白い……」
ニヤリと不適に笑う大裳の位。
だから自分の名前になるってこと理解してるの!?
「……ちょっと意見」
テンちゃんが挙手する。
「どうしたんだい天奈君?」
「……バカだと孔弌の事なのか、リュウの事なのか、大裳の位の事なのかわからなくなる」
「「おぉ~」」
「おぉじゃなくて、みんな何拍手までしてるんだい!?」
すかさず立ち上がるリュウ。
うん、リュウのツッコミには僕も賛同だ。
「ふむ……確かに天奈の言ったことも一理……いや真理じゃ。確かにその名前じゃと何かと不都合が多くなるのぅ」
蛍さん、アホなことにまじめっぽい回答をするのはいい加減やめませんか。
「では、この名前は否決……ということだな」
アルテが結論を出す。
どうやらまた僕からリスタートするようだ。
この会議、終わりはあるのか?




