「他人嫌いと孤独」
――どうしてこんなことになっちまったんだ……。
町が燃えている。
悪の炎で燃えている。
「ふはははは、もうお前たちにこの街を救うことはできん」
「やめろぉ……!」
「まだ、生き残っておる奴がおったのか。うわ~、ははは、燃えろぉ」
――ズゴォォォン
「うぉぉぉおおお、誰か街を救ってくれ!あいつらを倒してくれ!」
「――承知した」
「……ん、今の声は誰じゃ!」
「そこに悪がある限り……、助けを求る人がいる限り……、どこにでも参る所存なり……」
「どこじゃ、どこにおるんじゃ!」
「ヨモギ~♪ ヨモギ~♪ ヨモギが鳴くよ~♪」
「こ、この歌は……!」
「貴様ら悪を癒し倒してやる、このヨモギにかけて!」
「何奴じゃ!」
「癒しの英雄、ヨモギー、マンッ!」
「なにぃ、ヨモギーマンじゃと?」
「ヨモギーマン……聞いたことがあるぞ……。どこからともなく現れて理不尽の限りを尽くす悪に鉄槌を下す正義の味方……!」
「それがどうした……! そんなふざけたやつなどひとひねりにしてくれるわ、はぁ!」
「ヨモギーマン危ない!!!」
「なんの……この攻撃を避ける方程式はすでに立ててあるぅっ! 格子点の個数は四十三個だぁっ!」
「何じゃと!? わしの攻撃をいともたやすく避けおったわい」
「少年、大丈夫か! とにかく安全なところまで逃げるんだ」
「だめだよ、足を怪我していて動けないんだ」
「大丈夫だ、足にヨモギをはっておいた。すぐに治るはずだ」
「ほ、ほんとだ。ちぎれていた足が戻ってきてくっついたっ!」
「さぁ、ここは私に任せて君は行くんだ!」
「貴様ら! わしを無視して何をやっておる! これならどうじゃ」
「アップリケシィィィルドォッ! さぁ、少年今のうちに!」
「ありがとうヨモギーマン!」
「さぁ行くぞ悪の手先! 俺がお前を許す事は確実ににいっ!!(リアル話)」
「………………」
なんぞこれ。
少し早目の朝ごはんを食べて、みんなで居間に集まってテレビを見ていたんだけど……。
今時のヒーローものってみんなこうなんだろうか。
ナウイよ、ナウすぎる。
「いやぁ、とにかくツッコミどころ満載のテレビ番組だったね……」
「そもそも町が炎上してからかけつけていたら手遅れではないのか?」
アルテの意見はもっともだ……。
あのタイミングは明らかに遅すぎるだろ……正義の味方として……。
どう見ても町壊滅してたし。
「今の番組何ていう名前だったっけ?」
これほどの作品、名前ぐらい覚えておかないとね。
「ん~、確か『コマンダー伝説ヨモギーマン~シーズン4~』」
僕の質問にスザクが答えてくれる
ってか4って何だ!? そんなに沢山シリーズがあるのか!?
この世界も随分奥深いんだな。休日は昼まで寝てるからこんな番組全然知らなかった。
「さて、今日は特にこれといった報告もなかったし。何しようかなぁ」
式神どころか、悪い妖怪がでたって話すらひとつもなかったぐらいだし。
そういうわけで珍しく蛍さんも家にいる。
僕も特にやらなきゃいけない用事とか家事もないしなぁ。
午前中はこのまま部屋で休んでるかな……。
「孔弌……?」
ドアを開けてテンちゃんが部屋を覗いてきた。
うん、まぁすぐに誰か来るとは思ってたけどね。
「どうしたのテンちゃん?」
「何となく来ただけ」
だろうね。
「兄ちゃん、何かして遊ばない?」
すぐにスザクもやってきた。
ん~、この流れで行くと……。
「孔弌入るぞ」
「うん、来ると思ったよ流れ的に」
想定の範囲内だ。
「ん? どうしてだ? ってなんだみんないるではないか」
みんないるか……ふむり。
「そういえばアロはどうしてるのかな?」
昨日とか今朝のご飯のときも呼んだけど来なかったし。
食べなくても平気なのかな。
「一番気難しいからなぁ、あいつは」
「僕ちょっと様子見てくるよ、少し三人で遊んでて」
言いながら部屋から出る。
「……孔弌、ボクも――」
「待て天奈」
「アルテ……?」
「一人で行ってもらったほうがいいだろう」
「…………」
「大丈夫、あいつなら大丈夫だ。私達の主人だろう?」
「……うん」
「孔弌ならバラバラの私達をうまくまとめてくれる。あいつには妖怪を引き付ける魅力があるのかもしれんな」
「……ん」
「ねぇ、何のゲームして遊ぶ?」
「お前は本当に順応が早い奴なのな……」
――パタンッ
部屋を出ると
「ん?」
ん~、誰かの気配のようなものを感じたような。
「気のせいか…」
さてと、まずはアロの部屋に行ってみよう。
そういえばアロの部屋ってどこになったんだろ。
てきとーに空き部屋を使ってると思うんだけど。
「ここかなぁ、アロ……入るよ?」
数度ノックして、そう呼びかけたあと
――ガチャ
ノブを回して扉を開く。
「アロ?」
中を見渡してみたけど誰もいない。
唯一、机の上に何やら開いたままの本があるだけだ。
若干整頓された部屋の状態や、ベッドのここで寝起きしているらしき跡を見る限りアロの部屋はここで間違いなさそうだ。
う~ん、それにしても……。
やっぱりみんなにもお金を渡して何か買ってくるように言ったほうがいいのかなぁ。
あまりにも部屋が無個性すぎるのもちょっとなぁ。
デフォルト配置のベッドと机しかないしな。
「…………」
ん~。なんかまたものすごく誰かに見られてるような気が……。
「誰かいるの?」
振り返ってみたけど誰もいない。
「気のせいか」
ここのところ変なことばっかしてるせいで、自意識過剰になってるのかもしれない。
それにしてもアロはどこにいるんだろ。
少し家の中を探し回ってみるか。
「どこにもいない」
家の中は一応くまなく回ったつもりだけどいなかった。
それと。
――ジィィ……
絶対誰かに見られてる……。
「よし!」
とだけ言って、突然全力ダッシュ。
ふふふ、この家で僕を追跡できると思ったら大間違いだぞ。見せてやる、家主力を!
肉体強化も発動して軽やかに移動。
あらためて思うけど、ほんとにすごいなこの肉体強化っていうの。
壁を蹴るように移動できたりとか普通に忍者みたいな動きできるんだけど……。
そして廊下をぐるりと回りこむように一周して。
「よっと」
一瞬でさっきまで自分が立っていたところに戻ってくると。
そこには……。
「キャッ……!」
「やっぱりアロだったんだね」
案の定アロの姿が。
「って、ちょっと待って、どうして弓を構えてるのかな…?まるで僕をねら……」
――ヒュンッ
「っちょ……」
撃ってきたよ!?
いや、ギリギリで回避できたけど……肉体強化使ってなかったら死んでたな(社会的に)
「あ……ぁ……」
当のアロは動揺しているみたいだ。
「あのっ……私っ……う、ぅぅ……」
そういうと今度はしゃがんでうつむき泣き出してしまった。
「あのさ、どうして泣くの?」
アロが怖がらない所まで近寄って話しかける。
「……っ、あ……の……」
涙をためた目で少しだけこっちを向いて、またすぐに伏せる。
ん~、この仕草じゃ流石の僕もアロの意図がわからない。
「僕の事見てたけど、何か用だったのかな?」
もしかして僕避けられてるとか?
「怖いんです……」
とアロ。
って、やっぱり僕避けられてる!?
うわぁぁぁあ、ごめんなさい。
「自分以外のすべてが怖いんです……」
自分以外のすべて……?
ってことは、僕が特別避けられてるわけじゃないんだね……。
それにしても自分以外のすべてが怖い……か。
だからアロは一人になろうとするのかな。
誰かと一緒にいるのが怖いから。
だとしたら、まさに僕の真逆だ……。
「僕は逆に一人が怖いよ」
「え……」
「僕はずっと一人から抜け出したかったんだ」
小さい頃の事はあんまり思い出したくないけど……。
「僕はね、小さい時からずっと一人なんだ。家族もいないし、唯一の知り合いだったおじさんも家には滅多に来なかったからね」
それもこんな広い家で一人暮らしだったから、より一層孤独感が強かった気がする。
「家族が欲しいって何回も思ったよ……。近くの神社に何回もお願いに行ったりもした。神様に祈ったりもした。でも、そんなのは無理だったからね……。辛かったよ」
「だからね、友達を作ろうって考えたこともあったよ。でも昔の僕は今よりもっともっと馬鹿だったから無理だった」
あの頃の自分は本当に大馬鹿だった。
「家族のいる他の人を恨んだり、あげくのはてにその子達を見下してたんだ。誰かに支えてもらわないと生きていけない存在……そんな風に思ってたんだ」
今でこそ周りには優しい友達がたくさんいるけど、昔は学校でも一人だった。
幸せな人間を見るのが嫌だったから、学校は嫌いだった。
「でもね、その時の僕に一人だけ友達ができたんだ」
普通の友達とはちょっと違ったけど。
「でも僕は実はその人とは直接は会ったことないんだ。ある日ね、たまたま家に間違い電話がかかってきてね」
本当にただの間違い電話だった。いきなり知らない名前を連呼されたりして驚いたけど。
「でね、その時僕泣いてたんだ。寂しくてこのペンダントを擦りながら泣いてたんだよ、暗い部屋で一人で。だからメソメソ泣きながら電話に向かって間違いですって言ったんだ」
「それで間違い電話の人もようやく自分が間違い電話してた事に気が付いてね。それから、どうして泣いてるのって聞いてきてね」
そんな風に知らない相手に話しかけてくるなんておかしい人だったなぁ。
「僕、自分の事とか色々話したんだその人に。そしたらその人、親身になって僕の相談に乗ってくれて電話番号教えてくれて……辛い時はよくその人に電話してたんだ」
今思うと、あったこともない子供から毎日相談電話がかかってきて大変だっただろうなぁ……。
「それから話をするたびにもっとみんなの中に積極的に入っていけとか、もっとお気楽に行けとか、もっと周囲と打ち解けるようにしろとか色々言われたんだよ」
確か、それからかなぁ……。
「電話の人が一回すごくくだらない失敗してみろって言ったから、学校でわざととってもくだらな~い事をしてみたんだ」
「それからなんだ、友達ができ始めたの。すごく嬉しかったよ。誰かと一緒にいれば、こんなに楽しいんだって思ったから。僕はもうあんな風に一人になるさびしい思いはしたくないし、させたくもないんだ」
電話の人の話で目が覚めてからは、本当に世界が変わって見えた。
「だからね、君にしたら無理矢理なのかもしれないけど、僕は君が家に来てくれてすごく嬉しいんだ」
もちろんアロだけじゃない。みんながいる今の生活はすごく楽しい。
「あぁ、もうなんかごめんね。一人で語りだして」
しかも僕が病んでた頃の話なんて。
結構自分の中でも黒歴史指定して永久凍結させてるエピソードだったんだけどなぁ。
「あ……あの……!」
「ん?」
「あ……ぁ……ありがとうございます……」
アロが立ちあがって。
「…………っ」
少しだけ近づいてきて、何かに必死に耐えるような顔でそのまま立っている。
「そっか、今はこれが精一杯なんだね。ありがと」
数字にすると2.5メートルくらいかな。
「あのさ、よかったら離れて見てるだけでいいから、僕の部屋に来ない? みんなで一緒にいたほうが楽しいと思うよ」
アロには少しずつでいいから、せめて仲間の前では緊張とか怖がったりとかしないようになってもらいたい。
もちろん無理にとは言わないけど。
――コクリ。
俯いたまま、首を下げるアロ。
これは肯定のサインだよね?
「それじゃ行こうか」
僕が歩き出すとアロが一定の距離を保ったままあとを着いてきた。
「あ、あの……さっきの電話の人は……今はどうなっているんですか?」
部屋のほうに向かって歩いているとアロが聞いてきた。
「え? 電話の人? そうだなぁ、友達ができた事を報告したらね、おめでとうって言ってくれて……」
えっと、それから
「これからは何でも自分の力で頑張れって。どんな事でも前向きに考えていけば、きっと楽しいからって」
「だから、これからは本当に辛い事がある時以外はかけないって約束したんだ。まぁ、そういうわけでそれ以来電話はしてないからどうなったかはわからないんだよ」
結局直接会うこともなかったから、何処の誰かもわからなかったけど、あの人の事は多分一生忘れない。
「……もう、かけないんですか?」
なんかアロ、珍しく強気だな。
「でも、ほら、本当に辛い時だけかけるって約束だから……」
「で、でも、たまにはかけたほうがいいです。絶対!」
何故か妙に強気だ。アロって勇気を出したらこんなに強い語調で話せる子だったんだ。
「……あの、私も、その人と少し話してみたいから」
ふ~む。
「それじゃ、かけてみる?」
なんて言いながら実は僕も内心ドッキドキなんだけどね。
言うが早いか、早々に覚悟を決め思い切って通話ボタンを押す。
『お掛けになった電話は、なんらかの事情により現在繋がりません。お掛けになった……(リピート)』
「うぅ、少しショックだ……」
「わ、私もです……」
まさか電話がつながらないとは。
なんらかの事情って何だよ。アバウトすぎない?
「ま、この件はまた今度にして、そろそろ部屋に行こうか」
「……あ、はい…………」
何ともしまらない感じで僕とアロは部屋に向かう事に。




