「開放」
「リュウ……」
急いで駆け付けた僕の目の前には裸で倒れているリュウと風変わりな女の子がいた。
独特なうねりのある緑の髪。不安げな眼差し。まるで小動物みたいだ。
だけど、今はそんな事どうでもいい。それよりも、今気をつけるべきは、リュウの姿だ。
「露出狂だぁぁぁああ」
現場の周囲にいた三,四人の一般の人々が口々にそんな事を叫びながら去って行った。
…………最悪だ。
「リュウ、大丈夫か!」
(嫌だけど)一応倒れているリュウのもとに駆け寄る。
「孔、弌君……。ハァ、僕はハァ、もう駄目だ……」
息も絶え絶えになって言葉を紡ぐリュウ(実際には裸になっただけで、ほぼ無傷)。
「死ぬ前に……一度で……いいから……」
「どうしたんだリュウ! 最後に何か望みがあるのか!」
今の僕にできることなら。
「ハァハァ……フカヒレ食べてみたかったなぁ……」
くそ、なんて絶妙な願い事なんだ!
「それから……」
なんだ、まだ何かあるのか。
「犯人は、ヤ、○……」
「意味不明だよリュウ!!」
どんな遺言だよ、まったく。そのネタはもういいよ。
「……何やってるの、孔弌?」
はっとなって振り返ると、テンちゃん、スザク、アルテがいた。
「あ、みんな。リュウが……」
全裸で目を閉じ、安らかな笑みを浮かべているリュウを見せる。
「孔弌、バカなことをしていないで前を見るんだ」
「ぼ、僕は……どうでも、いいのね……」
今度こそ完全に逝ってしまったか……。
とりあえずリュウを放り投げ、アルテの指示に従って前を見る。
「ひどっ! ちょっとは僕を労ってよ」
「何!? まだ意識があるってのか早くくたばれよ」
「孔弌君の豹変トリガーがよくわからないんだが!?」
とにかくリュウから視線を外して前を見る。
「…………っ……」
目の前には涙目で露骨に怯える女の子がいた。
ミニスカ和服で震える小柄な姿が庇護欲をそそる!
よし、ここは
「……ニコッ(極上の笑み)」
天使の笑顔を作ってみた。
「……ひぃ……ッ!」
僕の天使の笑顔が通用しないだと!?
それならば……
「天使の笑顔がダメなら、悪魔の笑みを喰らえ!(ニタァ)」
ある意味極上のスマイルだ。負の方向にだけど。
どうだ、この逆をついた攻撃は!
「ひっ……ッ……」
まぁ、そうなるよね。
「何を遊んでいるんだ?」
「あ、いや……ごめん」
気を取り直して再び前を向く。
「あの子が六合の位なんだね……」
場の空気を読めば、スマートな僕はそのぐらい簡単に悟れるさ。
もちろんコクリと頷く三人。やっぱりね。
「……油断しないで孔弌。六合は力の無力化が得意だって」
「わかったよ」
テンちゃんの忠告を受け取り、一歩前に出る。
「あ、あのさ、まずはその、平和的に話し合わない?」
「う……ぁ……」
一歩後ろに下がる六合。
だめだ、こちらの話は聞いてくれそうにない。
「六合は僕らの中の"三大話できない式神"の一体だからね」
スザクが何やら面白い事を言っているぞ。
それになんだか聞きなれない言葉だね……その"三大話できない式神"って。どういう日本語だよ、語呂悪すぎでしょ。
「"三大話できない式神"か。そうえばそんなのもあったな」
なんだかんだいって楽しそうだね、当時のみんなも。
「三大ってことは三体いるんだよね?」
「あぁ三体だ。あの六合は臆病で話が苦手だったし、騰蛇はそもそも慣れ合いは一切しようとしなかったし、それから……」
妖怪も随分と個性豊かなんだなぁ。
「天奈は無口だったからね」
アルテが話してる横から会話に入ってくるスザク。
「ていうかテンちゃんもそれに入ってたんだ」
「……む……ボクはそんなの入った覚え……ない」
アルテやスザクの言葉に反論するかのように言うテンちゃん。
「う~ん、僕もやっぱりテンちゃんはそこまで口利いてくれない子じゃないと思うけど」
初めて会った時から、普通に喋ってくれたよね。
「いや、正直言ってだな、私は天奈と再会したときはかなり驚いたぞ」
「うん、僕も驚いた。よく話すようになってたし」
アルテの言葉にスザクまでもが賛同。
う~ん、昔は無口だったのかぁ。
「むぅ……二人とも言いすぎ」
そんな感じで和気藹々としていると。
「あ、あの……」
おや、目標が話しかけてきたぞ!
声がしたほうに振り返ってみると六合さんが"いったい私はどうすればいいの?"みたいな顔でこっちを見ている。
狙ってないのに天岩戸作戦みたいなのが無意識に発動していた。
というか
「今の状況すっかり忘れてたよ……」
何て緊張感のない集団なんだ。
あ、いや、一応リーダーは僕になるのか、主人だから。
「ふむ……話を聞いてくれないなら力づくで話を聞かせるのだ孔弌」
某魔砲少女みたいなセリフだ。
でもまぁ、この場はどうもそういう流れみたいだし。
4対1なんて卑怯な気もするけど、戦隊もののヒーロー達だって5対1で怪人をリンチしてるわけだし。問題ないよね!
あれ、よく考えたら雑魚戦闘員もいるから敵のほうが頭数多いかもしれないのか。
「…………」
オドオドしながらも臨戦態勢に入る六合さん。
いや、というか逃げる態勢だよねどう見ても。後ろ向きに全力だよ。
やばいって、やっこさん逃げる気満々だよ。
これはあれだ。ドラ○エとかではぐれメ○ルの集団と対峙した時と同種の緊張感が……。
「よしっ、かなり丈夫な結界を張った。これでそう簡単には逃げられないだろう」
うん、アルテいい仕事しすぎ。グッジョブグッジョブ!
「といっても、六合は結界も無力化していくからそう長くは持たない。私は結界のほうに力を集中させてもらうぞ」
「うん、充分だよ。ありがと。よし、行くよ二人とも!」
「兄ちゃん、ここは建物が多いからあんまり強い技はやめたほうがいいよ」
う~ん、そんなこと言われたって僕はこの町を一瞬で焦土に変えるだとかそういう極悪な事はできないから関係ないと思うけど。
とにかく捕まえて話を聞いてもらわないと。
いつものロープを出す。
「いけぇ~」
いきおいよく六合さんめがけて飛んでいくロープ。
「きゃぁ! 来ないでっ!」
六合さんがそういうと体から薄緑色の光が出て
「え!?」
ある距離まで進んだところでロープが消えた。
というか六合さんを中心に広がる、円形のドームのようなものにぶつかった瞬間フッと消えていった。
「あれだな、どうせ結界とかそういうのなんでしょ?」
「何故そんな投げやりなんだ?」
「あれは霊力無力化……六合は周囲に霊力を消し去る壁を生みだすことができるんだよ」
解説をくれるスザク。でも正直霊力とかそういう専門用語言われてもわからないんだよ。
「……つまり、術とか放出系の攻撃は効きにくいの。それから霊力で生み出す神装具も役に立たない」
すかさずテンちゃんの補足説明。とっても詳しくてわかりやすい。
でもそういうことは先に注意してほしかったなぁ。
「つまり、近づいて攻撃すればいいんだね!」
あいにく僕にはテンちゃんやアルテのような直接攻撃の武器はないから、この腕っぷし(握力37kg、学年ワースト12位)で倒すしかない。
「いくぞ!」
ダッシュの構えを取る。スタンディングスタートだ。
「まって兄ちゃん!」
突撃しようとしたところでスザクが僕を止める。
止めてくれるな……僕は、やらなきゃいけないんだ!
「そのまま行ったらあぁなっちゃうよ!」
スザクの指差す先にはいまだに全裸で横たわっているあいつがいた。あれは流石に嫌だなぁ……。
「六合の神装具は武装解除能力を持ってるから、それで攻撃されると服とか質量武器が一時的に消されちゃうんだよ」
うむ、再び解説ありがとう。
「さて、攻撃は届かない。近づけば全裸……。どうしようか」
これじゃ鉄壁じゃないか。爆守備じゃないか。
「大きな力で攻撃すれば、霊力が全部消える前に攻撃が届くよ」
「強い霊力を込めれば神装具も完全には消えない」
スザクとテンちゃんの解説が同時に入る。
「それって具体的に言うとどのくらいの攻撃しないといけないの?」
大きな力とか強い力とか言われてもなぁ抽象的すぎてどうにも。
「具体的に言うとアルテの全力の七割かなぁ」
「ん、それくらいだと思う」
いやいや、全然具体的じゃないよね?
そもそも僕はアルテがみんなの中でどのくらい強いのかも知らないし。
「単純な霊力の大きさだけならボクを10としたらアルテは22ぐらい」
うわぁ、微妙な数字の例え。
「ちなみに兄ちゃんは2ぐらい」
うっわ~、弱いな僕……。なんだか涙が出てきたぞ。
「普通の人間が私達より力が劣るのは当たり前だ。孔弌、お前は弱くない」
体がぼんやり光ってるアルテが励ましてくれる。
「うん、ありがとアルテ。僕頑張るよ」
「あぁ。ちなみにさっきのスザク達の基準で行くと今のリュウは0.0005ぐらいだ」
どうしてだろう、俄然やる気が出てきたぞ。
「それに単純な霊力だけが強さではない。現にお前は私に勝っただろう?」
いや、テンちゃんもいて二対一だったし、若干奇襲だったし。
「結界はそう長く持たない。できる限りの時間は稼ぐが、なるべく早く頼んだぞ」
そうだね、時間は限られている。
「テンちゃんやスザクは、その、あれに負けないぐらいの攻撃できないの?」
「う~ん、僕実は力の制御とか苦手だから、攻撃を溜めたりとか集中させたりとかそういうの上手くできないんだよ」
うん、君は何となく僕と似ているね。
「……ボクは、多分できるけど……」
「え!? ホント?」
流石テンちゃんだ。なんだかんだいってやってくれる。
「でも、あんまりいきたくない」
…………ん?
「どうしてさ?」
「だって、ボクだと接近戦になるから……」
接近戦? いいじゃないか、スーパー系みたいでかっこいいぞ。
やっぱりちまちま宇宙コロニーなんか作るより、巨大ロボでそのまま突撃だよね。
「……裸になってもいいの?」
「…………」
「こ、孔弌がどうしても見たいっていうならボク……」
あ、いや、別に僕は変態じゃないからね?
だから、そんな頬を染めて言われても……。
「わ、私が行こうか……?」
とアルテ。
「いや、そのまま結界張っててください」
「アルテはそもそも、近づかなくても大丈夫だよ……」
更に会話を見ていたスザクから突っ込みがはいってくる。
よし、こうなったら。
「僕の攻撃であれを抜く!」
幸い僕にはスザクからもらった遠距離攻撃がある。
これを上手くやれば、いけるかもしれない。
六合さんのほうをむいて、両手を出す。ていうか、よく逃げ出さないでずっとそこにいたね。空気読みすぎだよ。
まぁ結界とやらがあるから、完全に逃げることはできないみたいだけど。
力を込めると、赤い渦が現れる。
「やぁぁっぁあああ」
剣道部員みたいに声を出してみる(偏見)
「…………」
六合さんは泣き出しそうな顔でこちらを見ている。
ごめん、でも今だけ少し痛いの我慢して。
手の甲の例の模様の赤い所がよりいっそう輝く。
「す、すごい。兄ちゃんの霊力が手の所にあつまってる。もうあんなこともできるんだ」
「……孔弌、力の操作上手だから」
いや、もっとだ……もっと力を練り込むんだ。
「だぁぁぁぁああ!!!」
まさに"俺のこの手が真っ赤に燃える"ってかんじだ。
それぐらい僕の手は光ってる! これなら全国狙えるぞ! 何の協議か知らないけど!
「いっくぞぉっぉおお……!」
縮めに縮めたバネを一気に解き放つように、収束した赤い光を開放する。
一気に何かが吹きだしたような音がしたかと思うと、赤い閃光が六合さんめがけて飛んでいく。
「よし、少し弱くなったけど完全には消えない……いけるよ兄ちゃん!!」
そのままいけぇぇぇえっ!
「きゃぁぁあああ!!!」
悲鳴のすぐ後に爆発音が響き渡り、空気が震える。
おぉ、僕ってここまでできたんだ……。
目の前は煙ですごい事になっていた。
「ど、どうなったんだ……」
煙が徐々に晴れてきた。
「…………」
攻撃は……。
「……ごめん、外したみたい」
攻撃は六合さんより大分上の方にあたっている。
ていうか、そこからなんか火がでてるんだけど!
「…………ひっ」
六合さんは涙目でペタンと地面に座り込んでいる。
「テンちゃん、とりあえずあの火消してくれるかな……」
「……うん」
「ふむ、ここで外すとは流石私の見込んだ主だな」
ごめんよ、何が流石なのかわからない。
「兄ちゃん、もう一回できないの?」
「悪いけど、もうできそうにないや……」
体中の力が抜けて行ったみたいだ、ガス欠だぁ。
「……孔弌」
「ん? テンちゃん何か策があるの?」
振り返ると
「抱きぃ……」
いきなり抱きついてきた。
「何してるのテンちゃん?」
「……充電」
…………。
「いや、嬉しいんだけど、特に力は回復しなさそうかな……」
さて、気を取り直す。うん、さっきよりまずい状況になっちゃったぞ。
こういう状況って確か……。
「万事休息だ……」
「……孔弌、それを言うなら万事休す」
テンちゃん、最近ツッコミの速度上がってきたね。
「……休んでどうするの」
くっ、追い打ちまでするのか。
「でもめげない!」
僕は強い子だから! ビ○コ食べてるもんっ!
「兄ちゃん、遊んでないでこの状況をどうにかしないと」
そうだった、そうだった。って、僕は別に遊んでるつもりじゃないよ?
とにかくこの状況を打破するには……
「よし! 行けスザク、君に決めた!」
「兄ちゃん、僕の事嫌いなの!?」
「信頼しているから送り出すんだよ。頼んだよ!」
「それって僕に脱げって言ってるのと同じなんだよ?」
うぅ、そう言われると僕がただの変態だ。
しかも、少年の裸を要求してしまうなんて。ショタ好きホモだと思われること間違い無し……。
「孔弌、やはりここは私が行こ――」
「いや、アルテはいい。結界頑張ってて」
全部言い終わる前に言っておく。
「ふむ、わかった……」
渋々了承。なんでそんなに残念そうなんだ……。痴女?
「別に私は……その、お前の前でなら、裸になってもいいんだぞ?」
うん、君はよくても僕が恥ずかしいだろ。
「あのさ、要するにその裸になる攻撃を食らわなければいいんでしょ?」
遠距離攻撃? が消えるのは、結界の様なものだけど、裸になっちゃうのは武器で攻撃されたときって言ってたし。
「……うん、六合の神装具の攻撃に当たらなければ平気」
「………………ふむ」
やるしかないな……。
「僕、行ってきます!」
「兄ちゃん、無事に帰ってきてね……」
「あぁスザク。家に帰ったら新しいゲームをしよう」
親指を立てて返事をする。
デジャブを覚えるやりとりだけど、今はそんな事気にしてはいられない。
大丈夫、僕には主人公補正がかかってるから常に最強なはずだ。
信じてるよ! リュウ以外の神様!
「うあぁぁああ!!!」
気合いを十分に溜めて一気に突っ込んでいく。
もちろん目は閉じちゃだめだ……。
僕は何としても敵の攻撃を避けなければいけない。
そう、僕の威厳と尊厳のために!
とりあえず、最低限の動きで懐にはいって武器を使う前に捕まえる!
どんな武器か知らないけど、とにかく接近しないと話にならない。
「……孔弌頑張って」
「ふむ……」
やけに興味深そうに見守ってるテンちゃんとアルテ。
「兄ちゃん……」
目を閉じて胸で十字を切るスザク。
早いよね? それまだ早いよね?
っていうか、そういう動作どこで覚えてくるの!? 君達国産の妖怪だよね?
「……来ないでっ!」
そう叫ぶ六合さんの手には
「あれは弓かな?」
矢もあるんだろうか、などと思っていると
「夢破の征矢!」
突然弓の所に光の矢? が現れて
「退けよ!」
引き絞り、素早い動作であっという間に矢を放つ。
射法八節ってやつをやらなくてもいいんだろうか。って……。
「……え?」
――スパァァァァン
鈍い衝撃と聞きなれない音が伝わってくる。
「うわ、うわぁああっ!!」
えぇ、気付いた時にはあっさり敵の攻撃に当たっていました。
そうですね、次からは味方にもう少し敵の情報(得物や射程距離など)を聞いておこうと思いました。
「…………」
やけに体が身軽だな……。
なんだろう、この開放感は! この、今にも踊り出したくなるような軽やかさはっ!
「孔弌ぃ……(ぽっ」
「む、むぅ、その、なんだ…………ふむ。見てないぞ」
テンちゃん、アルテ、最近二人ともどんどん壊れてるね。
とりあえず僕の恥部(具体的にはどことも言いません)を見てる暇があるなら助けてほしいかな。
「…………クソタッレ。もう、こうなったら行くとこまでいってやらぁぁぁあああ」
裸のまま疾走する僕……。
自然と一体化した今の僕は流れ星!
「…………きゃぁ! 来ないでください!」
容赦なく矢を撃ち込んでくる六合さん。
「痛っ! だけど……」
そりゃ当たるとそれなりには痛いけど
「その攻撃でもう裸になることはないっ!」
既に裸だからね!
「わはははは」
裸になって怖いものがなくなった僕は一気に距離を詰める。
「兄ちゃん……かっこよすぎる……」
ただの変態です。
「うわぁぁぁああああ」
そのまま六合さんのとこまで爆走。
「だぁっぁあああっしゃぁあ、捕まえたぁぁぁああ」
「……きゃぁぁぁああああああ!!! あぁ……」
大絶叫して、気絶する六合さん。
それをかっこよく受け止める僕(全裸)。
勝った、僕は勝ったぞ!
とにかくこの胸の内から込み上げる達成感。
「やった! やったよみんな!!! 僕やったんだ!」
勝利の余韻に浸りながら振り向くと……。
「そうか、やってしまったか。とにかく話はあとで聞いてやるからな」
「…………」
「警部、こっちにも裸の男が転がってますが」
「一緒に連れて行け」
「…………」
「全く、露出魔で放火魔なんてたちが悪いわねぇ……」
「神社の爆発といい、ここのところたちの悪い事件ばかり起こりますねぇ」
「あぁ、はいはい。通してください」
………………。
…………。
……。




