「あざと天奈」
「さて、午後からも実は特に式神や妖怪の目撃情報とか、そういうのないんだよ。本当に平和な一日だね」
ご飯が終わった後での定例会議。
リュウの顔色はまだ優れないみたいだ。本当にあの二人は何いれたんだろ……。
「そんなわけで午後も好きにしてていいよ」
けっこうアバウトな集団だなぁ僕ら。
――ピンポーン
来客を告げるチャイムが鳴り響いた。
「あ……」
そういえば昼過ぎまでには届けるって言ってたなぁ。
急いで玄関へと向かうと
「こんにちは、孔弌君。はいこれ、さっき注文してもらった大型テレビ」
見知った電気屋の人がやけにでかい箱を持って玄関に入ってきていた。
ていうか、僕が玄関に出る前に勝手に入ってくるなよ。
「設置場所はもう決めてあるの?」
「あ、うん。リビングにおこうと思って」
「はい、じゃ運ぶから案内して」
との事なので居間のほうまで案内する。
「孔弌君って一人暮らしだったよね?」
僕の家の事情を知っている電気屋の兄ちゃんがどうも家の雰囲気に気がついたみたいだ。
「うん、それなんだけど今ちょっと居候というか、そういうのがいっぱいいて」
いや待てよ? テンちゃん達は僕と家族みたいなもので、一緒に暮らすのは当然なわけだから、実質居候はリュウだけか……。
「ここに置けばいいのかな」
テレビと一緒に注文したテレビ台を居間に設置してその上にテレビをのせる。
「う~ん、うちで扱ってる一番大きいテレビなんだけどねぇ。この部屋と比べると流石に小さいね」
電気屋の兄ちゃんの言うとおりだけど、まぁ大丈夫だろ。
「テレビの配線繋ぐためにちょっと穴開けますね」
電気屋の兄ちゃんはドリルでガツガツ穴を開けたり、テレビの線を2叉にしたりしてる。
「それじゃ今度とも御贔屓にねぇ」
手を振りながら何ともフレンドリーな感じで電気屋の人は帰って行った。
「ふぅ、これで僕の小狭い部屋に皆が集まってきたりしないだろうな」
これからドラマの時間は居間に集合だ。
「これまた大きいテレビじゃのぅ」
「まぁ僕と比べると、まだまだ小さいけどね」
蛍さんとリュウが食堂から出てきた。
「このテレビのほうがリュウより大きいし頑丈だと思うんだけど……」
いや、割と本気で。
「ふっ、台所とかに出る黒い奴らの如くしぶとい僕を侮るなよ」
爽やかな喋り方だけど、例えに使っている生き物は多くの人の生理的嫌悪対象だ。
「それじゃワシはいつも通り散歩でもしてくるかの。何かあったら連絡するのじゃぞ」
蛍さんは、そのまま居間から出て玄関へと向かっていった。
「僕はいざという時のために体でも鍛えてくるよ」
とリュウ。ついでに心も鍛えてきてね!
「部屋で筋トレしてるから何かあったらよろしく」
えっ!? っていうか君は連絡係兼情報収集係みたいなもんでしょ?
何ナチュラルに体鍛えて前線メンバーに加わろうとしてるんだよ。
今までの結果を見る限りそれは絶対無理だから!
「兄ちゃん、兄ちゃん」
今度はスザクが出てきた。
「どうしたのスザク」
「僕もテレビ拾ってきたよ」
「は?」
いきなり何言ってるのかな、この子。
「入ってすぐの横の部屋に置いておいたからちょっと見に来てよ」
とりあえず言われるままついて行ってみると
「うわ……」
確かにテレビがあった。
普通に一人用の小さいやつで、あきらかに中古だけどまだ十分に使えそうだ。
「これどうしたの?」
「テレビ探してたら、いらないテレビあげるっていうおばちゃんがくれた」
おばちゃん……何者?
「一人で運んでくるの大変だったよ」
「一人で運んできたの!?」
とても人間業とは思えない……。
「いや、僕ら妖怪だし……」
「ん~……ところでこのテレビどうしよっか……」
「テレビって電源っていうの繋いだらすぐに見れるようになるの?」
「あ、いや。テレビの配線引っ張ってないし多分無理だと思う。ゲーム、ビデオ専用かなぁ」
先に言ってくれればさっきの電気屋の人にこっちも線繋いでもらったんだけどなぁ。
「スザク、これ自分の部屋に置いてみたい?」
現状ではスペース取るだけの荷物だが。
「うん」
「そうか、それならスザクの部屋におこうか」
というわけでテレビをスザクの部屋に運んで行く。
「とりあえず、ここにセットしてっと」
二階まで運ぶの……疲れたなぁ。
まぁ途中からスザクに運んでもらったんだけど。
「しかし流石に何もないのは酷だよねぇ……」
といっても、ビデオデッキとかは特に余ってないしなぁ。
「僕のもうやらなくなったゲーム機を持ってきてあげるよ」
確か部屋に最近触れることもない昔のハードがいっぱいあったような。
「うわっ兄ちゃん危ないよ」
「ふふふ、海面ギリギリまで下降して魚に食べられるか否かの瀬戸際を楽しむのがいいんじゃないか」
やってみると意外と懐かしくてはまった。
「わー、風船割れた。どうしようあと1つだ」
「僕が割ってあげるよ」
「兄ちゃん酷いっ!」
ちょっとレトロゲームで遊ぶつもりが、すっかりはまってしまったなぁ。
「こっちのゲームもお勧めだよ。いやぁ出るのが遅すぎただけでかなりの名作だよ、これは」
ファ○コンはやっぱり神ゲーの宝庫だ!
「こっちのゲームは?」
「こっちは敵と会話しながら、後ろの変な奴を銃で撃ったり、交渉が決裂した時目の前の奴を撃つゲームだよ」
よく考えると意味不明な説明かも。
そんなわけでしばらくスザクにゲームの師事をしていた。
ていうかテレビゲームする妖怪って……。
そのあともしばらくレトロな世界を楽しみながら、スザクに一通りのレクチャーを済ませて部屋に戻った。
次はセ○でも持っていくか。
スザクって18推とか18禁に引っかかったりするのかなぁ。精神年齢的な意味でさ。
そうなるとアドベンチャー系はほとんど全滅か……。
い、いや、僕は別にそう言うの目当てでやってるわけじゃないからね!?
「……孔弌、いる?」
部屋に戻ってすぐにテンちゃんがやってきた。
「ん? どうしたのテンちゃん」
「……何でもない。ちょっと来ただけ」
「そっか、まぁ汚い部屋だけどゴロゴロくつろいでてよ」
テンちゃんはベッドに腰を掛け。
「……孔弌の部屋は汚くないよ。いい匂い」
いい匂いって、普通に漢臭(おとこしゅう:漢の臭いである。発生源である漢達はなかなか気付かない)がするだけだと思うんだけど。
「……孔弌、ボクは今の暮らしが好き。孔弌やアルテやスザク、リュウ達と一緒に同じ家で生活するのが」
「うん」
「……だから孔弌、ボクを幸せにしてくれてありがとう」
テンちゃん、それを言うためにわざわざ部屋に来てくれたのか。
「僕のほうこそありがとうだよテンちゃん。僕の願いが……ずっと望んでいたものをテンちゃん達は……」
「……そう」
軽く相槌をうって。
「……孔弌、寂しかったの」
「…………」
数秒の間を置いて。
「……あの、孔弌、ボク変なこと聞いてごめん」
「いいよ、別にテンちゃんは何も悪い事してないよ。僕のほうこそごめん」
「あのね、孔弌。ボクも今まで寂しかった」
寂しかった? どういうことだろう。
「ボク、スザクやアルテとこんなに仲良くなかった」
……どういうこと? テンちゃんは何を言おうとしてるんだろう。
「ボク、孔弌の式神になるまでまともに他の式神と喋ったことなかった。ボク達式神はとっても仲が悪かったから」
え……全然そんな風に見えないのに。
「ボク達は、この世に禍をもたらす為だけに生みだされた。だから、ボクは誰かの事を気にしたりなんてしなかった」
それは、他人と干渉はしなかったって事か……。
「式神同士でも互いに話をしたりすることなんてほとんどなかったの。多分他のみんなも。ボク達12人は常に1人だった。でも、封印から覚めて、孔弌に会って、誰かと交わることの楽しさを教えてもらった」
初めて会った時のことか……。
「戦うことだけを定められたボク達に楽しくて優しい毎日を孔弌はくれた。だからボクもスザクもアルテも孔弌が大好き。ボク達を助けてくれた孔弌が」
「テンちゃん、そんなにも僕の事思っててくれたんだ……」
「……うん。だから前に孔弌が言ってた事だけど、できれば他の皆も助けてあげて欲しい。今度はボクからもお願い」
「うん、もちろん言われなくてもそうするさ」
でも改めてテンちゃんに頼まれると、こう今まで以上に使命感みたいなものが湧いてくるなぁ。
「……ごめん、孔弌。わがままな式神で」
「そんな事気にしないよ。むしろもっと色々言ってね。僕はテンちゃんの事すごく大事にしてるから」
「ん、もうこの話はおしまい。ボク……恥ずかしい、かも」
そういってベッドでゴロゴロするテンちゃん。
「ん~、ふかふか」
いや、テンちゃんの部屋のベッドも同じ奴だと思うんだけど……。
「……孔弌、寝よ?」
そう言ってテンちゃんがポンポンとベッドを叩く。
「は?」
「……一緒に寝よって言ったの」
「錬るって……? あいにく僕は鉄加工の技術なんて習得してないけど」
「……ん~違う~、このベッドで二人でゴロゴロしたい。前みたいに」
「あ、はいはい。普通に寝るってことね……」
確かにこのシングルベッドといっても、頑張れば僕一人とテンちゃんサイズだったら二人でゴロゴロできるけど。
「ごめん、なんか絵的に危ないからやめとく」
「ん~ん~」
テンちゃんが不満げな声をあげながら、僕の服を引張る。
「……ちょっとゴロゴロするだけ」
全く何だかんだでわがままなんだから。
「仕方ないな、ちょっとだけだよ。よいしょっと」
ベッドに身を倒して布団に入る。
「孔弌~」
テンちゃんが頬ずりしてくる。いや、猫じゃないんだからさ……。
「あぁもうそんなにひっついたら危ないよ」
もちろん、絵的に。いや、すでに一回ゴロゴロしたことはあるんだけどね。
――コンコン、ガチャ
「孔弌、ちょっと頼みが」
そしてお約束通りナイスタイミングで入ってくるアルテ。全部僕の予想通りだ。
ていうか、返事が返ってくる前に入ったらノックの意味ないじゃん。
それからこのパターンは大抵事情を言う前に殺される(僕のサブカルチャー知識より)
覚悟は一瞬でできた。アルテ、お手柔らかに頼むよ。
「わ、私も入っていい、か?」
「…………え?」
予想の斜め上を来る返事だ……。
これは返答を誤ると更に不味い状況になる……何とかしなくては。ある意味暴力系ヒロインより交しにく……って、すでにさりげなく布団に侵入してきてる!
うわっ、こっちが抜け出そうとしたらテンちゃんが服を引張って。
くっ、脱出させないつもりか。そうはいかないぞ、テンちゃん。
「それで頼みごとって?」
とりあえずふとんから出てイスに腰をおろす。
「あぁ、また夕飯を手伝わせてもらおうと思ってな」
「それって、どっちかっていうと僕のほうがお願いすることだよね」
料理を手伝わせてくださいってわざわざお願いしに来ることなのかなぁ。
「いや、私はまだまだ未熟だからな。その、役に立つ女になるために料理も身につけようと思って」
はぁ、僕としては君達は自分にできることをやってくれていればそれでいいんだけど。
「元来式神とは、暗殺から家事までオールマイティーにこなす存在だ」
暗殺!?
「しかし私達のような集団の式神は十二体それぞれに役割を分担させられているがな」
「へぇそうなんだ」
掃除担当、料理担当、洗濯担当とか、ほのぼのしてていいなぁ。
「あぁ、指揮担当だとか、奇襲担当、救護担当、遊撃担当……」
「全部戦闘じゃん!」
「……ボク遊撃担当」
へぇかっこいいポジションなんだね……。
僕の中ではテンちゃんは二番セカンドって感じだけど。
「セカンド?」
「いや、何でもないよ」
「ちなみに私は指揮担当だ」
いや、それは何となくわかるから。
「指揮だけじゃなく戦闘もできるんだぞ? 戦う司令塔だぞ?」
いや、それも知ってるから。
「っと話が脇道にそれてしまったな。とにかく、戦闘以外の事でもお前の事を支えてやりたいのだ」
「……ん、ボクも」
なんて甲斐甲斐しいんだ二人とも……。
それに比べてどっかの神様は。
「そっか、ありがとう。二人がそこまで言ってくれるなら今度から家事とかも教えていくから。皆で頑張ろうね」
「うむ、頼んだぞ」
「……ん、頑張る」




