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キズナの鬼  作者: 孔雀(弱)
第3章「勾陣の位と平和な一日」
19/86

「天国か地獄か」

 例の女性と別れた後、道すがら考えていたのはもっぱら今日の昼食は何にしようかなという事だ。

 リュウのリクエストに答えるのは非常に嫌だけど、パスタ食べたい気分なんだよなぁ。

 ミート、カルボナーラ、ペペロンチーノ、ボンゴレ、あさりとホワイトソース。

 う~ん、何にしようかなぁ。

 そんな風にパスタ料理について深く考えながら歩いているうちにいつのまにか家の前まで来ていた。





「……孔弌おかえりなさい」

 玄関に入るとテンちゃんがいた。

「やぁ、ただいまテンちゃん」

「……うん」

 それだけを言うとテンちゃんは食堂の方へと走って行った。


「ふふ、ようやく帰ってきたか孔弌」

 食堂ではアルテとテンちゃんがテーブルの上に何やら食器を並べていた。

「孔弌、今日のお昼ご飯はボク達が作ったの」

「え?」

 それはつまりテンちゃんとアルテが料理をしたってことか。

「ふふ、私達の渾身の一撃をたらふく食らうがいい」

 なんか嫌な言い回しだな。


「お、やっと帰ってきたのかい孔弌君」

「あとはスザクだけじゃのぅ」

 廊下からリュウと蛍さんがきた。

「あぁ……まだ全員そろってないのか」

 スザク、テレビを捜しにいくとか言ってたけど大丈夫かなぁ。

「それじゃ私達は盛りつけの準備をしてくるからな」

「……孔弌達はそこで待ってて」

 テンちゃん達は台所へと入って行った。


「さてと孔弌君」

 何やらリュウが手でこっちに来いとジェスチャーをしている。

「なに?」

「うん、孔弌君。君はあの二人の料理をどう思う?」

 リュウが珍しく真剣な目で……というかかなり必死な目で質問してくる。


「どうって言われても……僕は助かるけど」

 家事を手伝ってくれるのはいいことだと思う。

「恐らくじゃが、わしらの未来は二通りじゃ……」

 こちらも珍しく深く考え込んだ蛍さんが何事か呟く。


「パターン①、美味しい料理が出てくる」

 リュウが指を1つ立てそんな事を言う。

 一体何を言いたいんだ?

「パターン②、面白い料理が出てくる」

 指をもう一本立ててそんな事を言う。

 面白い料理? びっくりするような料理ってことかな?


「ワシはパターン②の確率が約74%と見た」

「?」

 二人の会話の意図がつかめないんだけど。

「知っているかい孔弌君、料理が下手な人って言うの先人達の考察によると三つに分けることができる……」

 先人達って誰だ……。


「一つ目、不器用な者だ。これは、材料の形がバラバラ、鍋をひっくり返す、フライパンをぶちまけるなどの行為に繋がる」

「はぁ……」

 何、この流れ…………。

「二つ目、いいかげんな者だ……。アバウトな調理をすることによって究極のマテリアルが誕生したりする。更にその場にない材料を別の物で代用したりすることもまた悲劇の要因の一つだ」

「うん……」

 よくわかんないけど、とりあえず頷いておく。


「そして三つ目は……」

「味音痴の者じゃな」

 と何やら深く考え込んでいる蛍さん。

「その通りだ蛍君……」

 リュウが深く頷く。


「これは、味覚が普遍的な人間の感覚から逸脱しているため、とにかく味付けがやばい。隠し味のつもりで爆弾を投下したりとにかくやばい奴らだ。気をつけろ」

「そして、料理下手に共通して言える性質の一つがアレンジ癖じゃ。これも非常にまずい(二つの意味で)。たちの悪い闇鍋が出てくるのと同じじゃからな」

 と二人が言ったところでなんとなく話の意図がわかってきた。

「…………あの、それってつまり……」

 なんというか、言いにくいけど


「テンちゃん達の料理がやばいかもしれないってこと?」

「はっはっはっ、その通りだよ孔弌君。君も察しがよくなってきたじゃないか」

 いやぁ、それほどでも。

「でも、大丈夫そうじゃないかなぁ……あの二人しっかり者だと思うし」

 テンちゃんもアルテも何でも一人でこなしそうだし。


「いや、僕が見た限りあの二人は……」

 リュウが息を溜めて。

 ごくりっ、思わず唾を飲み込んでしまうほどの溜めの長さだ。

「味音痴でいいかげんで不器用だ!」

 全部かよ!?


 そういえばハンバーグ作ってるとき……。

 刀(極大)で野菜切ろうとしてたなぁ、アルテ。

 スープにタバスコをぶちまけそうになってたなぁ、テンちゃん。

 今朝もパン焦がしてたしなぁ、アルテ。

 甘いほうがいいとかいって、ひき肉を砂糖まみれにしようとしてたなぁ、テンちゃん。

 どうしてだろう、少し冷汗が出てきたぞ。


「もしかしたら古来よりのお約束通り、真っ黒の炭が出てくるかもしれんのぅ……」

 蛍さんのその言葉で、"よくわからない真黒な何か"で埋め尽くされた食卓を想像してしまった。

「いや、紫色のスープっていうパターンも定番じゃない?」

 何の定番!?


「そしてお約束通りそれらを孔弌がうまいうまい言いながら食べるんじゃな、孔弌わしは応援しておるぞ……」

「え!? ちょっ、何で僕だけなの!?」

「そりゃ、主人公の運命さだめさ……」

 おぉぉっ神よ! なぜそのように理不尽なディスティニーを僕に。

「いや、僕に言われても困るんだけど」

 そういえばリュウが神だったね。何とかしろよ、おい。


「とにかく、惨劇を回避できるかどうかは最早僕たちにどうこうできる問題じゃない。僕たちには二人を信じることしかできないからね」

 このセリフだけ切り抜いたら、ちょっとシリアスな言葉だな。

 しかもさりげなく惨劇って言ってる。

「落ちつくんじゃ孔弌、まだ二人が生物兵器を作り上げたと決まったわけではない。かすかな可能性に祈るのじゃ」

「そ、そうだよね。あの二人だし、きっと上手な料理を……」

 ていうか最初に炭とか言い出したの蛍さんじゃないか。


 僕が二人のフォローをした次の瞬間、台所ほうから声が聞こえてきた。

「……あ、アルテ、これ入れてみたら美味しくなると思うの」

「ん? 料理はもうほぼ完成しているんだぞ? お、確かにこれはいいかもしれないな」

「……ん、すっごい味になると思う」

 グッバイ、僕の命。短い付き合いだったな。


「ただいまー」

 玄関のほうからスザクの声が聞こえた。

 この一声によって地獄の晩餐会が始まるかもしれないとはスザクは全く思ってないんだろうなぁ。

「さて、席に着こうか。宴の始まりだ」

 いつも通り澄ましたリュウがゆっくりと椅子に座る。





「へぇ、今日は天奈達が作ったんだ」

 無邪気なスザクがどこか羨ましい。

「……孔弌のために味よりも栄養バランスを一番に考えてみた」

 はい、この一声で爆弾料理にリーチがかかりました。即リーです。

 栄養が一番だとしたら、命は十七番目くらいだろうか。

 一発ツモだけは勘弁してくださいね。


「今日の昼食は、シーザーサラダとミートドリアとスープカルボナーラだ」

 アルテがみんなの皿に麺とスープを入れていく。

 テンちゃんはドリアらしきものを並べていく。

 ていうかカルボナーラとドリア一緒に出すなよ! どっちも主食じゃないか。しかも初心者ならもっと無難な料理に挑め!


「ふむ、見た感じは大丈夫そうだね孔弌君」

 リュウの言うとおり、見た目は普通に美味しそうだ……。

 むしろすごく食欲をそそるにおいと見た目なんだけど。

「見た目に騙されるなよ孔弌。わしだってこう見えて実は900歳なんじゃぞ」

 えっ!? そうだったの? それはそれでかなり衝撃の内容なんだけど。


「もう食べていい?」

 スザクがフォークとスプーンをカチカチ鳴らしている。

「あぁ食べていいぞ」

 アルテの許しが出た……!

 だけどその許しが僕には"Go to Hell!"としか聞こえない。

「いっただきま~す」

 食らいつくスザク……。

 …………南無さん。


「うおっ、うまい。これ、うまい」

 何!? ターゲットがまだ生き残っているだと!?

 これは、やっぱり普通に美味しい料理なんじゃ……。

 僕がそう思って料理に手をつけようとした瞬間四つの鋭い視線を感じた。

 二つはテンちゃんとアルテがじーっと僕を見つめる視線だ。

 残りの二つはリュウと蛍さんが僕に対して何かしらメッセージを込めた視線だ。

 えっと、何て言うんだっけこういう目での合図。

 目で合図、目で合図……eye's合図?


『アイコンタクトじゃ……』

 蛍さんの目がそう語っている。すごいな、視線でツッコミをいれることもできるのか。

『スザク君に騙されるな、彼も味音痴の可能性があるっ!』

 そしてリュウの目がそう訴えている。

『ふむ、だが、誰かが行かなければ真相は永遠にわからぬままじゃ。中身がわからぬとは……まるで福袋じゃな』

『面白い例えですね……』

 できればアタリが入ってるといいんだけど。


『開けると災厄……まるでパンドラボックスじゃな。はてさて、あの箱の中はどうなっておるのかの』

『僕の見立てでは、三分の四死んでる状態の猫が入ってるってところかな』

『オーバーキルじゃないか! 一体あの料理に何があるの?』

 しかしアイコンタクトというより、もはやテレパシーだなこりゃ。視線で会話してるよ僕たち。


『可哀そうな食材達だ。せめて食材としての幸せを感じたかっただろうに』

『もう、さっきからそういう不吉な事言わないでよ』

『そういえば二人は孔弌のために一生懸命作ったと言っておったのぅ』

『うん。朝から練習したり何かと悪戦苦闘しながら料理を作ってたみたいだけど』

 僕のためにだって? そうか、僕のために……二人は僕のために作ってくれたんだ。


 そうだ、まずいなら何がいけないのか教えてあげればいいだけじゃないか。

 初めてなんだから上手にできなくて当たり前じゃないか!

 よし、覚悟完了……。


『僕は二人を信じる。逝ってくる!』

『無茶しやがって……君の命がけの行動僕は敬意を表する』

 敬礼して僕を送り出すリュウ。

『くっ、わしが蘇生の術を習得しておれば……』

 そんな怪しい技があるんですか。


 料理に向き直り、スプーンにグラタンを、フォークにパスタを

「……いただきます!」

 一気に口に運ぶ。

「…………」

 もぐもぐと口を動かす。

「…………」



 ………………。

 …………。

 ……。

「うまい! うまいぞこれ!」

 濃厚でありながらさっぱりとしたカルボナーラ。

 ご飯のほうまでしっかりと味が付けられており、焦げ目がさらなる食欲をそそるドリア。

 まぁそこまで誇張表現するのもあれだが、とにかく不味くはない。

 多少雑だけど見た目通り美味しい料理だ。

「あぁそうか。それはよかった。頑張った甲斐があるというものだな」

「孔弌が喜んでくれてよかった……」


「ほぅ、なかなかおいしいじゃないか」

「うむ、見た目通り整ったいい味じゃ」

 そんな僕の様子を見て、あの二人もようやく食指を伸ばしたようだ。

 くそぉ、僕を人身御供にしといて……。

 これだから大人って奴は汚いんだよっ!

 ていうか、この前振りは何だったんだ。これだけ引張って結局うまいのかよっ!

 って、バラエティ番組だったらお茶の間の視聴者が一斉に突っ込んでると思うんだけど。





「それにしてもテンちゃんとアルテ、本当に料理上手だね。材料の切り方や火加減はまだ甘いみたいだけど、十分及第点だと思うよ」

 料理にはそれなりに自信のある僕(まぁ長い事やってた割にはそこまで上手くなってるわけでもないけど)が言うんだから間違いない。

「お前の部屋にあった料理の本を参考にさせてもらったんだ」

 あぁ、そういえばそんなものもあったかもなぁ。

 昔料理のレシピ増やそうとして何冊かそういう本買ったんだった。

「孔弌のために頑張った」

 君達がそんなに頑張ってくれていたのに……。

 僕はどうして疑ってしまったんだ君達の料理を。


「そうだそうだ、ひどいぞ孔弌君」

 あー、あのえせ神様うぜぇ。

「えせじゃないぞ、えせじゃ!!」

 はい、放置。


 ……しばらくして

「ぐおぉぉおっっ、何、何これ!? 今パスタ食べたらありえない感触があったんだけど……!」

「……それ、さっき入れた例のアレ」

「ふむ、リュウがアレに当たったか」

 そう言ってアルテはニィっと怪しい笑みを浮かべた。


「ねぇあれって何!? 僕何食べたの!?」

 顔色がサツマイモと同じ色になっていくリュウ。

 やっぱこの二人の料理怖いかも……。





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