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無限ガチャの転生者 ~毎日引いてスキルを集め、育てて最強になる~  作者: わわわ


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第51話 Cランクと、ヴェルナの足場

 坑道から運び出した格上の素材は、買取の窓口に持っていく前に、いったん腰の革袋から出して布にくるんで、両手で抱えて運ばなければならないくらいの大きさだった。


 ボウグを地上へ運び上げた翌々日、肩の重さがすっかり引いて爆炎の元の熱がまた手のひらに馴染んだころ、俺とリタは大支部の中庭を抜けて、素材の買取に並んでいた。坑道型の格上から取れた魔石と素材は、坑道の岩肌の獣型から取れるそれとは、見るからに桁が違う。並の素材を出す窓口じゃ、明らかに収まりが悪かった。受付の若い職員が品を一目見て、少し待つよう言い置いて、奥へ取り次ぎに走っていった。


「これ、いくらになるんだろうね」リタが、布にくるんだ素材を覗き込みながら言った。「街道のやつより、ずっと重いよね」


「重いな」俺も布の上から、その重みを手で量った。「坑道のやつは、深層の甲羅持ちとはまた格が違ったし。値が付くなら、それなりにはなるだろうけど」


 しばらくして通されたのは、先日、腰の革袋のあの品を検めてもらった部屋とは別の、買取の精算を捌くための、もう少し慌ただしい一室だった。


 出てきたのは、前の職員とはまた違う、買取の数字を扱い慣れた、そろばん勘定の早そうな男だった。格上の素材を布の上に広げると、男は手際よく一つずつ秤にかけ、傷や状態を確かめ、台帳の区分と照らして、慣れた手つきで書付に数字を書き込んでいく。その手の動きには、先日のあの品を検めた職員が見せた、桁が決裁を超えていて筆が止まる、というような滞りは一切なかった。坑道型の格上から取れた素材は、本部圏の支部の台帳に、ちゃんと区分のある品だった。値が付く。それも、相応に、跳ねる値が。


「ヴェルナ近郊の坑道型から、これだけの個体が出ましたか」男は数字を書きながら、ひとりごとのように言った。「坑道で押されたという報告は上がっていましたが。誰が落としたんです、これを」


「俺と、こいつです」俺はリタを横目で示した。「坑道で、押されてた組に、割って入る形で」


 男は手を止めて、書付からこっちを見た。それから、台帳の別の頁を繰って、何か照らし合わせた。


「ラドリスから来た二人、というのは、あんたらか」男は短く言った。「坑道で、一区画を丸ごと崩して格上を落とした、という話なら、こっちの探索者の何人かが、もう支部に上げてきている。荒れた坑道で甘い汁を吸ってた連中が、急に渋い顔をしてるのも、それでだろう」


 書付に並んだ買取の数字は、坑道で格上を一体落とした手応えに、ちゃんと釣り合う額だった。革袋のあの品の桁とは、また別の重みが、銀貨と金貨の数字になって、目の前に並んだ。坑道に潜って格上を落とすと、それがこれだけの値になって戻ってくる。当たり前といえば当たり前の、けれど確かな手応えだった。


「Cの札の件も、合わせて進んでる」男は書付を奥へ通しながら、付け足すように言った。「あんたら二人、本部圏での受理が下りた。台帳には、もう、そう書いてある。札は、隣の手続きの窓口で受け取れ。それと――先に革袋の品を出した件で、上の職員が話があるそうだ。札を受け取ったら、奥へ寄れ」


 札を受け取ってから奥の一室へ通されると、出てきたのは、先日あの品を検めた、髪をきっちり撫でつけた職員だった。


「上げた品の件で、動きがあった」職員は、世辞も前置きも省いて、書付を一枚、卓に滑らせてきた。「本部のほうで、扱える買い手のあてがついた。値の交渉は本部が引き受ける。あんたが受け取る取り分は、ここに書いてある下限を、まず下回らない」


 書付に書かれた数字を、俺は二度、目で追った。


 坑道で格上を一体落とした買取の額が、それなりに跳ねた、と思ったすぐあとだ。革袋のあの品の取り分は、その買取の額を、さらに何段か上に置いた数字から始まっていた。しかも、それが下限だという。会社にいたころ、自分の判子で動かせる金には、上に枠があった。その枠を超える話は、自分の手を離れて、上の人間の判子に乗って動いていく。いま、目の前の数字も、それと同じだった。俺が底から拾って腰の袋に入れて運んできた品が、俺の手を離れて、本部の人間の判子に乗って、動き始めていた。


「念のため言っておくが」職員は、書付を回収しながら、少しだけ声を落とした。「こういう品が、坑道や大穴の底から、ぽんと出てくると思わないことだ。十年に一度、出るか出ないか、という類のものだ。次もあると当てにして潜ると、足を踏み外す」


「分かってます」俺は頷いた。「拾えたのは、運がよかっただけです」


「運でいい」職員は短く言った。「運で拾えるものを、ちゃんと底まで下りて拾ってきた。それは、運だけの話じゃない」


 Cの、札。


 ラドリス支部の推薦が本部圏に上がっていて、それが受理される段で動いている、というのは、この街に着いた日に、最初の職員から聞いていた。だから、いつかは下りるんだろうとは思っていた。けど、こうして買取の数字を書く職員の口から、ついでみたいに「もう台帳にそう書いてある」と言われると、そのついで加減のほうが、妙に効いた。情でも、おだてでもない。ラドリスの支部が推して、ヴェルナで街道の格上と坑道の格上を落として、押されていた組を助けて、無理の通った一区画を片づけた――その実績が、本部圏の大支部の台帳の上で、Cという札の形に、確かに書き換わっていた。


 隣の窓口へ回ると、手続きの職員が、薄い金属の札を二枚、卓の上に並べた。


 ラドリスでもらったDの札より、ひと回り厚みがあって、縁の刻みも細かい。俺が一枚を手に取って確かめているあいだに、リタが、もう一枚を、両手で受け取った。


「これ……私の?」リタは、札を顔の高さまで持ち上げて、灯りに透かすみたいにして見た。「私、F始まりで、Dに上がったのが、ついこの前だったのに」


「あんたも本部圏の受理が下りてる、って書いてあるんだろ」手続きの職員が、別の書付に目を落としたまま言った。「坑道の格上に、前で剣を通した、と上がってる。連れの付き添いで上がった札じゃない。あんた自身の腕の分だ」


 リタが、札を握ったまま、しばらく黙っていた。


 それから、握っていた札を一度だけ、卓に置いて、また持ち上げた。確かめ直すみたいに。俺が知っているリタは、Dに上がったときも、嬉しさをすぐ口に出す質だった。それが、いまは、口より先に手が動いていた。札を置いて、また取って、縁の刻みを指でなぞって、本物だと自分の指に確かめさせている。


「悠さん」リタが、ようやく口を開いた。札から目を上げないまま。「私、ずっと、悠さんの隣にいるから上がれるんだと思ってた。村にいたころから、剣だけは振ってたけど、それで誰かに認められたことなんか、一度もなかったし」


 俺は、何か気の利いた言葉を返そうとして、やめた。


「でも、これ」リタは、札の縁を、もう一度なぞった。「私が、坑道で、前で止めた分だって。私の腕の分だって、書いてあるって」


「だな」


「うん」リタは頷いた。「うん。私、ちゃんと、自分の分で上がったんだ」


 俺は、リタの手の中の札を、横から覗き込んだ。


「持っとけよ、なくすなよ」俺はそれだけ言って、自分の札を、腰の物入れにしまった。「これから、それを出して受ける依頼が、増えるんだから」


「うん」リタは、もう一度頷いて、それから、ちょっと照れたみたいに笑って、札を物入れにしまった。


 大支部の中庭へ出ると、市場のほうから、両替商の小銭の擦れる音と、荷を積み替える掛け声が、相変わらず層になって流れてきた。中庭の縁石に並んで腰を下ろすと、行き交う行商の話し声が、ところどころ拾えた。西の関所がまた荷を渋っているとか、帝国のほうの相場がどうとか、交易の街らしい、銭の匂いのする話が、雑踏の中に混じっていた。ヴェルナは、ラドリスにいたころには遠かったそういう話が、市場の雑踏のすぐ脇で耳に入ってくる街だった。けど、いまの俺たちには、関所の荷も、帝国の相場も、市場の向こうを流れていく他人の話だった。


「悠さん」リタが、縁石の上で足を揺らしながら言った。「ラドリスの連中、私たちのこと、Cになったって知ったら、なんて言うかな」


「驚くだろうな」俺は笑った。「ラドリスじゃ、ちょっとできる新人扱いだったし。それが、よその街で、本部圏のCだ」


「ね」


 ラドリスでは、二人とも実力派の新人で通っていた。けど、この街に着いた日は、大支部の桁に飲まれて、ただの数合わせの新顔だった。街道では田舎冒険者と値踏みされ、坑道では押されている連中の前に、半信半疑のまま割って入った。それが、いまは、本部圏のCの札になって、腰の物入れに収まっている。ラドリスで磨いたものが、よその街でも、ちゃんと通った。それが、何より、座りがよかった。札の刻みが一つ細かくなったことよりも。


「さて」俺は縁石から腰を上げた。「ガレンさんと、奥の話をしてくる。今日のうちに段取りを詰めとくって、言ってたから」


「奥?」リタも立ち上がった。


「坑道の奥に、無理の通った跡が、まだいくつもあるってさ」俺は中庭の出口のほうへ歩き出した。「片づければ、向こうの稼ぎ場が戻る。組む段取りの相談くらいはしてやってもいい、って、あの言い方だったろ。割り前の話だって」


「あ、割り前の」リタが、思い出して、ぷっと噴き出した。「あの人、最後まで、組むとも案内するとも言わなかったよね」


「言わなかったな。利の話しかしなかった」


 市場の一角の、坑道帰りの連中が集まる飲み屋の前で、ガレンが、組の誰かと、坑道の図面らしき板を挟んで何か詰めていた。俺たちに気づくと、図面から顔を上げて、顎で空いた席を示した。奥の片づけの割り前を、どう分けるか。次に潜るのはどの坑か。詰める話は、いくらでもあった。俺はリタと顔を見合わせて、その卓へ歩み寄った。


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