忙しいモブの生活
ジャクエルがディリア嬢に引っ張られながらもスープレー公爵領に旅立ったのは、一週間前。
その後、全ての罪(ジャクエルの罪ももちろん加算)を暴かれたジュメルバ卿は、教会内部では収まり切れない罪、例えば修道士の殺害なども含めて、公に処罰される事となった。
始終俯いていたジュメルバ卿には、かつての華やかさは一切ない。一気に歳を取った皺だらけの顔に、虚ろな目で素直に罪を認めた彼には、もう抗う気力もないようだ。
そしてキシェリをはじめ教会幹部とも話し合い、彼の処罰は城の地下で一生牢獄という結果となった。
それを聞いたジャクエルがどういう反応を示すか気にはなっていたのだが、スープレー公爵の手紙によれば何事もなく日々を送っているとの事だった。
ディリア嬢は子供がいつ産まれてもおかしくないというのに、相変わらずフラフラと屋敷や外をうろついているらしい。
そんな彼女を追いかけるのに必死で、自分の事やジュメルバ卿の事を考える余裕がないのではないかというのが、スープレー公爵の見解だ。
最も、スープレー公爵自身が幼い時のジャクエルや彼の両親を知っているだけに、娘との事を強く言えなかったのもあるが、娘の本性を知った後ではわざと彼女がそうしてジャクエルを揶揄って楽しんでいるのではないかと、ジャクエルに対して同情している節がある。
とりあえずは、仲良くやっているようで何よりだ。
そうして本日、やっと俺の離宮で世話になった妖精達を呼んでモチパーティーを開く事が出来た。
今ここにいるのは、俺とアリ。ブライアンとシフォンヌ嬢、兄上と聖女にティンやパッションといった妖精達数十名。いや、下手すると百超えてないか? まあ、それほどの大人数でモチをふんだんに使った料理を用意して、パーティーを開いている。
傍目には俺達しかいないはずなのに、多種類の料理だけが山のように置かれている様子は異様で、用意した料理人や侍女達はもちろん首を捻った。
だがそこは、兄上と俺の権力で誰にも文句は言わせず、黙々と用意させて後は近付かないように釘を刺した。
最後まで煩かったのは、兄上と俺が仲良くパーティーをすると聞いたネビールがヤキモチを焼き、兄上のそばにいたいと粘っていた事だが、兄上に睨まれてすごすごと引き下がった。その際、ハンカチを噛み締めて俺を睨んでいたので、わざと兄上と肩を組んでやると目にいっぱいの涙を溜めて走り去っていった。全くもって愉快な奴だ。
「え~っと、とりあえずお疲れ様って事で、乾杯」
(((((かんぱ~い)))))
あちらこちらから聞こえる妖精達の嬉しそうな声。
俺達もお疲れ様と言いながら、互いにグラスを鳴らす。
それぞれが好きなものを頬張っているが、何人かの妖精はモチの伸び具合に目を回している。
「あ~、喉に詰まるから気を付け……」と言い終わらないうちに、俺にくっついていた火の妖精がドンドンと胸を叩いている。
言わんこっちゃない。
俺がすぐに水を飲ませてやると、プハッと息を吐く。
(美味い)とニッと笑う妖精のすぐ隣で、別の妖精まで同じように喉にモチを詰まらせた。おい。
俺は呆れながらも、すぐに水を飲ませる。するとあちらこちらで、ドンドンと叩く音が響いてくる。おい!
「お前ら、一旦皿を置け。急いで食うな。モチは伸びるんだ。すぐには飲み込めない。落ち着いて少しずつ口に入れろ。いいな」
俺がモチの喰い方を説明すると、妖精達はパアァ~っと顔を輝かせ、俺の周りを飛び始める。
「礼はいいからゆっくり食べろ。誰も取らないし、時間も気にしない。ほら、ちゃんと飲み物も飲めよ。ああ、そこ。こぼしてる。テーブルクロスは汚してもいいけど、服は汚すな。お前らが着ているのは特殊なんだから」
俺が妖精の周りを布巾を持って走り回っていると、クスクスと皆が笑っていた。
「やっぱりユマ様はお優しいですね」
「根本的に人を放っておけない性格なのだな」
「面倒見が良すぎるというのも困ったものですよ」
「まるで母親のようですものね」
「あら、ユマノヴァ様は男だからお父様ですよ」
アリ、兄上、ブライアン、シフォンヌ嬢、聖女の順に、俺の行動を見て感想を述べる。
誰がお父さんだ、誰が。俺はまだ独身だぞ。
「良いお父様になってくださりそうで、嬉しいです」
「もちろん、良い父親になるよ。期待しててね」
アリがニッコリと笑ってそんな事を言ってくれたので、俺は一瞬にして他の者の感想はどうでもよくなった。
だってお父様だよ、お父様。アリと俺の子供の話だよね。うん、アリとの子供なら滅茶苦茶可愛がる自信あるよ、俺。
アリの手を握り、将来の幸せな姿を想像してデレデレと顔を崩していると、周りがまたもやクスクスと笑っているのが分かった。
ふぅんだ。好きなだけ笑ってろ。幸せな妄想中は、何を言われても許せるからね。
「ユマノヴァ様を見ていると、王子様に見えない時があります。それなのに決める時はしっかりと決めてくれるし……本当に不思議な人」
聖女がひとしきり笑うと、改めてそう言ってくる。
おいおい、ハイスペックイケメン王子と比較すんなよ。所詮モブの行動なんてヒロインには分かりませんって。
「俺の行動なんて、単純なものだよ。アリと幸せになりたい。ただそれだけ」
「その割には国の考え方まで変えてしまったようだが、それに関しては何も思わないのかい?」
兄上がニンマリと笑って俺に反論してきた。何言ってんのさ。
「あれは俺が動いたんじゃないでしょう。母上やマルチーノ様、女性達が頑張った結果。俺は火の妖精と遊んだだけ」
「女性達が立ち上がる為の種を撒いていたのは、ユマノヴァじゃないか。いつも思うが、それは君特有の照れ隠しなのかな?」
俺が誤魔化していると思ったのか、兄上がクスクスと笑う。いや、マジで俺、何もしていないんですけど?
「もういいじゃないですか、ユマ様。貴方の優秀さは皆が認めるところとなったのです。今更後継者問題も変わりませんし、お芝居をする必要はないでしょう」
ブライアンが変な事を言う。
なんだ、これ?
いや、まあ、確かに芝居はしていたが、これでは俺がすっげぇ奴に聞こえてくる。いや、俺、モブだし。必要以上に過剰評価するのはやめていただきたい。
周りがなんて思おうが、どういう扱いをしようが、結局俺は穏やかな生活がしたいだけなんだけどな。
今はアリと二人で幸せに暮らしていきたい。ただそれだけ。
ふわっとティンが火の妖精を連れて来た。
(この子に名前を付けてあげて)
そういえば、こんなに長い事一緒にいるのに、まだ名前を付けてあげてなかった事に今更気が付く。
「俺でいいの? アリの方がいいんじゃない?」
(ユマがいい。おれはユマと一緒にいるぞ)
どうやら俺にはアリという可愛い伴侶の他に、可愛い妖精達まで一緒にいてくれる事になったようだ。
これはモブの穏やかな生活とはほど遠い、だけど賑やかで楽しい生活のお話。
目指していたものとは違うかもしれないが、これはこれでいいかも。なんて考えるのは、やっぱり俺がお調子者だからだろうか?
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
これでこのお話は終わりますが、またあの国がどのように変わったか数年後のお話も書いてみたいなと思ったりもします。
多分ユマノヴァはあのまま何も変わらないとは思いますが、周りの態度が少しずつ変化するにつれ困惑するかもしれませんね。可愛いお父さん、それが私の中でのユマノヴァのキャラだったりします。
他国に行く話も考えたりしたのですが、ああ、これでは終わらないなと一旦、筆をおかせていただく事にしました。
私としては楽しく書かせていただいていたのですが、皆様はいかがでしたでしょうか?
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
次作は少しあいてしまうかもしれませんが、またお付き合いくださいましたら嬉しく思います。
もう一度、感謝の言葉を述べさせてください。ありがとうございました。




