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竜司の大事な探し物

 部屋の中には武器がズラリと並んでいた。

 日常生活では見ることなどあり得ない、一種壮観な眺めと言えるだろう。強いて似たものを探せば包丁などの刃物専門店が近いだろうか。


 先に入ったウェインは扉の横の壁にもたれて立っている。


「あんたを捕まえた時に奪った装備はこの中にある筈だ。倉庫も兼ねてるんで他のもんやら農具やらも色々混じってるけどな」

「この中から選ぶのか」

「済まねえな、俺は直接見てないんであんたが何を持ってたのか分からないんだ。悪いが自分で探してくれないか」


 なるほど、こういう趣向か。竜司は内心感心することしきりだった。


 公式サイトに紹介されたキャラクターの設定としてはある程度の経験と身体能力を有した一人前の古強者(ふるつわもの)ということになっている。その初期装備を決めるならキャラクターエディットで一気に決めてしまうくらいだろうと思っていたが、上手くストーリーに絡めてきたものだ。


 まずは目の前の武器の山に歩みより、その中から手近にあった剣を掴んでみる。

 手に感じるのはずっしりとした重み。硬い金属質の柄に巻いてある荒い布地のゴワゴワした感触。

 胸のワクワクは抑えられそうにない。


「凄いな、リアルなんてものじゃないぞ」


 思わず口に出してしまっていたが小声だったせいかウェインは特に反応しなかった。まあ、今は武器選択モードに切り替わっているという(てい)でフリーズしているのかもしれないが。

 いや、どちらかと言えば設定として時間が停止していると考えた方がいい。というのもキャラクターにとっては愛用の武器の回収である。長々と悩む筈がない。かといってプレイヤーにとっては大事な初期装備だ。むしろ悩みたいわけで。


 一応ウェインの様子を確認してみると、やはり完全に固まっていた。


 視界の端に浮かんでいるウインドウには確かに『初期装備を選択して下さい』との案内が表示されている。

 ならば存分に選ぶことができそうだ。倉庫内にはちょっとしたスペースもあり、武器の試し振りも充分に出来そうである。


 取り敢えずは手に持ったままの剣を軽く振ってみる。

 手にかかるのは金属の重みと振り回した遠心力に慣性の法則か。確かにリアリティに溢れているし自分の動かした通りに剣も動いている。だが、なにか違和感があった。

 つまるところそれでモンスターを()れるかと考えた時、全くそんな気がしなかったのだ。


 だがゲームとしてそれで成立する筈がない。武器を武器たらしめる何らかの方策があるだろう。


「あ、そうか、コントローラーだ」


 メニューアイコンから操作説明画面を呼び出すとVRモードと戦闘モードの切り替えの説明があった。


 感圧グローブのお陰で指先まできっちり動かすことの出来るVRモードでは自分の動いた通りにキャラクターが動き、得た感触は体感スーツを通じてフィードバックされる。

 その代わりその動きはプレイヤー本人の動きそのもので当然スキルの恩恵もなにも反映されるものではない。一人前の戦士という設定も宙に浮く。


 そこで戦闘モードだ。

 コントローラーをホルスターから抜き、剣のように構えてみる。


 竜司の持つコントローラーの形状は剣の柄のような形をしており人差し指で引くトリガーと親指で操作するボタンが1つ、さらにその横に十字キーが付いていた。右手用と左手用で対になっている。今手にした剣は片手剣なので取り敢えずは右手だけコントローラーを握ってみた。

 剣のように構えてみたらキャラクターも剣のように構えてくれる。あくまで剣のように。


 そしてトリガーを引いた瞬間だった。


 ()()()()()()()()()()

 コントローラーで何かを切るように腕を振れば、風を切る効果音と共に同じ軌道の斬撃を放つ。


「おお、格好いいぞ」


 何回か振り回してみるとアバターの動きは厳密に竜司の動きを再現したものではないことが分かった。ただ大雑把に斜めに振れば正しい袈裟斬りに、横方向に振れば真横への胴薙ぎに、下から振れば斬り上げに、と力強い斬撃が振るわれている。

 また、剣速は力強くはあるもののさほど速いものではなかった。しっかりとしたモーションで自然な連携をとるように動いているようだ。


「これ、後方斜め視点で見たいな」


 呟いてはみるもののセカチューのコンセプトは自分自身が世界を歩くこと、世界に入り込むことである。俯瞰モードなどある筈がない。

 その代わり、スクリーンショットで動画を撮ることが可能だ。スクリーンショットモードではカメラワークは自由自在とのこと。それはそれで楽しみがひとつ増えたような気がするのだった。


 戦闘モードだと動きはむしろアクションゲームに近くなっていた。剣を振るスピードは一定だ。だから二撃、三撃と攻撃を重ねようと思うとアバターの動きにある程度タイミングを合わせてコントローラーを操作する必要がある。


 だがそれはある意味で必然と言えただろう。

 重量のほとんどないコントローラーだ。無茶苦茶に振り回すだけならばまあえらい勢いで振り回せることだろう。だが、キャラクターの動きがその動きに忠実であればあるほどリアリティからかけ離れていく。

 重たい武器を振り回す以上、補正はむしろ歓迎すべき自然な表現だった。


 トリガーから指を離すと途端に剣が鉄の棒に変わる。


『片手剣と盾を初期装備として登録しますか?』

「ノーだ」


 倉庫内にはざっと見ただけで十種類以上の武器があるようだ。手に持つ剣に視線をフォーカスするとさらに説明文が続くらしい。


 だが、竜司はその案内を無視した。無視して剣を元あった場所に戻す。

 竜司には探している武器があったのだ。どうしても欲しい武器が。

 それ以外に興味はなく、説明文を読む手間も惜しい。たとえ有用なスキルがあろうとも、である。


「あるかな、あるといいな。いや、絶対あるはずだ、カ田中さんならきっと」


 片っ端から武器を手に取り、目的のものでなければ即座に戻す。

 片手剣と盾のセットに両手持ちの大剣。細身のレイピアにメイスや魔法使いの杖のようなものまであった。マジックユーザーとしてプレイすることも出来るのだろう。また、短槍と盾のセットに短めの剣の二本差し、いわゆる双剣や短剣も用意されている。


 変わり種としては中華剣があった。東洋風の舞台もあるというし、竜司の期待は俄然(がぜん)高まる。

 イスラム風のシャムシールもあったし籠手から突き出す格闘用の爪もあった。


 ただ、長柄の武器は見当たらない。

 槍や薙刀は何処にも転がっていなかった。


 実のところこれは当初から発表されていた仕様によるものである。

 VRトレッドミル上で振り回すとはいえ、このゲームはあくまで一般家庭の室内がプレイ環境として想定されていた。コントローラーの形状的にも長物は危険すぎるとしてオミットされたのだ。


 最終的に竜司が見付けられたのは十六種類の武器カテゴリーだった。残念ながら竜司の欲する得物はそこにはない。

 だが、竜司はまだ諦めてはいなかった。

 万が一を考えて一度部屋の外に出ようとしてみる。


『武器を使用しない無手格闘術を初期装備として登録しますか?』

「やべえ、ノーだ!」


 危なかった。

 武器を持たずに部屋から出ると17種類目のカテゴリー、素手扱いになってしまうらしい。


「なるほど、ということはやっぱりこの室内で探すしかないんだな」


 竜司がここまでこだわる武器。それは刀である。

 公式サイトのワールド紹介では東方エリアは東洋風ではあったがどちらかと言えば中華系であり日本風の文化には触れられていなかった。

 だから、普通ならここで諦めるべきだった。


 それでも竜司が諦めない理由はプロデューサーがカ田中こと田中秀次氏であるからこそである。

 彼はこれまで手掛けてきた全てのゲームにおいて、必ず隠し要素を仕込んでいたのだ。インディーズ時代からカ田中を追いかけている竜司はそれをよく知っていた。


 カ田中が仕込む要素、それはとにかく刀だった。

 それもリアル寄りではなくファンタジックな最強武器としての刀である。折れず、曲がらず鉄をも容易く断つ。中二病のロマン武器であり、ラノベ界隈(かいわい)ではKATANAと揶揄(やゆ)されることもあるアレだ。


 刀をこよなく愛する田中氏。

 そしてついたあだ名がカタナカ、カ田中である。


 彼のゲームの中ではたとえ西洋騎士の物語だったとしても、普通のシナリオで手に入る最強装備はエクスカリバー。そしてそれより強い隠しダンジョンのレアドロップで正宗やら村雨やらが用意されていたりした。

 最強NPCとして必ず侍が出てきたり、ライバルキャラは刀使いが珍しくない。ラスボスより強い裏ボスは刀をモチーフとした最強攻撃をひとつは間違いなく持っているものだった。


 そんな彼が刀を仕込む際の絶対の共通点が、プレイヤーが刀を入手する場合必ず何らかのイベントをこなす必要があるということ。

 カ田中氏は徹底してプレイヤーに対し、隠し要素として刀を仕込んでいたのだ。


 ではその隠し要素が反映される時期はいつ頃くらいだろうか?


 過去のゲームにおいては序盤に隠されていたものがあったり、中盤、行動の自由度が大きくなるタイミングに重ねてきたり。中にはラストダンジョンでようやく手に入ったようなタイトルもあった。

 だから、実際のところ今この武器選択の時点で刀が仕込まれている保証はない。世界を歩くがコンセプトのゲームだ。全地域を回りきって初めて刀が解放されると考えても全く不自然ではない。


 それでも竜司の勘は、刀がここにあると告げていた。


 このゲームはカ田中氏がやりたかったことそのものだ。とある雑誌のインタビューではライフワークとしたいとまで言っていた。

 つまりこのゲームはカ田中氏の理想そのもの。もし彼が竜司と同じようにプレイヤーとしてゲームをするとしたら、一体どんなキャラクターで始めたいだろうか?


 間違いない。刀使いだ。

 凄腕の風来坊、浪人こそがカ田中氏の理想だろう。竜司にはそう思える。

 このゲームで共に世界を歩くアバターだからこそ、カ田中氏は間違いなく最初から理想の体現を求めている筈だ。セカチューだからこそ、竜司は確信する。最初から刀を使える道を、カ田中氏は仕込んでいる、と。


 そう思えばあとは隠し場所だ。

 全ての武器を見たはずだがそこに刀はない。ならばどこにある?


 手がかりになりそうなもの、それに一つだけ、たった一つだけ竜司には心当たりになりそうなものがあった。


 昔から、それこそ昭和の時代からのゲームにあったお約束に『いいえの無限ループ』がある。

 はいかいいえで答える質問に対していいえと答えても必ずはぐらかされ、はいと答えるまでゲームが進まなくなるというものだ。


 そんな選択肢がカ田中氏の手掛けたゲームに出現したことがある。もちろんいいえと答えても話は進まず、はいと言うまで同じ質問が繰り返されるパターンだった。

 だがその時、24回のいいえを繰り返し25回目のいいえを選択した時、NPCが根負けしたのだ。


「そこまで言われるなら仕方ありません……」

 そこからのシナリオに大きな影響はなかったが一時的にシナリオの別ルートが展開し、その後正規ルートと合流して後半の展開は元の流れと同じものになったのだが、エンディングのメッセージが一部変化するなどしっかりと作り込まれた隠しルートとなっていたものである。


 なお、ゲームのプレイ上でこの隠しルートにたどり着いたものは皆無だったと言われていた。解析好きのファンが未使用のテキストデータのグループを発見し、フラグ解析からルートが発覚したのである。


 ちなみにそのゲームが発売された年、カ田中氏は25才の誕生日を迎えていた。

 今年はもうカ田中氏も30代後半になっており年齢分いいえを繰り返すのはちょっと違う気がするし同じネタというのも芸がない。だが、いいえの繰り返しに挫けないのがポイントになるのではないか?

 どうせダメ元だ。時間はたっぷりあるのだから気が済むまでやろう。竜司は腹をくくりもう一度全ての武器を手に取り、そしていいえを選択し続けた。

 もちろん扉を出ようとして素手にいいえと答えるのも忘れない。


「どうした、見つからないのか」


 全てにいいえと答える、その三周目が終わった時だった。突然ウェインに声をかけられる。

 その瞬間、込み上げる喜びに思わずガッツポーズが出た。


 今までなかった反応、それは変化の証だ。つまり、何らかのフラグが立った。


 このフラグが即、刀に直結するとは限らない。それは分かっている。だが、少しでも可能性を上げるために竜司は賭けを打った。シチュエーションを管理するAIはプレイヤーの行動に反応することで展開を生み出すという。


 だからこそ。

 竜司はさも当たり前であるかのように。

 ごく普通に困惑したかのように。


「済まない、俺の刀が見当たらないんだが」


 ()()()()()()()()()()()()()、と、ウェインに訴えたのだった。

次話も何とか来週中を目指します。

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