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みそギ!~三十路で始めるギター教室~  作者: ボラ塚鬼丸
Heart-Shaped Box編
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イエロー・サブマリン音頭/金沢明子

「サクラ、いまAスタの片付けしてるから、もうすぐ出てくるよ」


 そういや遥か以前に、サクラが自転車通勤圏内のスタジオでバイトしてるって言ってたような。


 ミチヨが言ってるAスタってのは、AとBと書かれた部屋の、Aスタジオのコトなのだろうと、潜水艦の窓のような丸いガラスを覗き込む。


 細部までは確認出来ないが、10畳ほどの部屋の中で、サクラがケーブル類をまとめているのが見えた。


「昨日預かったギターはそこにあるから。あと、エフェクター繋がないからシールドは1本でイイのよね?」


 シールドって何だ? 盾か?


 エリカの言っているコトを理解しないまま、環状に束ねられた一本の長いケーブルを受け取り、きっとシールドっていうのは、このケーブルのコトなんだろうと勝手に納得しつつ、ギターのハードケースを持ってマキとミチヨに続いてBと書かれた部屋に入る。


「ここのスタジオって、昔からジャズ系の利用者が多いらしくてマーシャル置いてないんだよ……ボクはどっちでもイイけど、今回は曲調的にもJCで問題無いと思うんだよね」


 マーシャル……諸島ではなさそうだし、曲調がJCで問題無いってどういうコトだ? 女子中学生でもプレイ出来るレベルとか、そういう感じの隠語だろうか?


「ゴメン、みんなが何言ってるか理解出来ないんだけど、素人のオジサンでも解るように話してくれないかしら?」


 セッティングに取り掛かろうとしていたマキとミチヨが、外国人から早口で話しかけられた時のような、生気を抜かれた顔で俺を見ていた。


「いや、怖い……何か俺が変なコト言ってるみたいだけど、マーシャル諸島とか女子中学生とか、隠語で話されてもわかんないのよ」


「隠語じゃないから! アンプの種類だから! あと、女子中学生のコトJCって言うのオジサンだけだから!! あー気持ち悪い……」


 マキは両腕で自分の身体を抱いて、身を守るような仕草をする。


「気持ち悪いって……じゃあアンプのコトだって最初から言ってよ! 俺だって普段から女子中学生をJCなんて言わないから!!」


「はいはい。んじゃアタシがわかりやすく説明してあげるから、とりあえずアミオさんは、その硬いアレから、充血したように赤く艶めいたナニを出してくれるかな?」


「ハードケースからギター出せばイイのね!官能小説かよ……」


 ミチヨがややこしい言い方をしてくれたが、さすが淫たま乱太郎だなと、改めて実感。


「そしたら……黒くて長いソレの先端が猛々しくいきり立ってるから、赤い裂け目の穴に優しく突き立てて……」


「面倒臭ぇ……逆に時間掛かってるし! じゃあ、ケーブルの先をギターに差し込むよ?」


 俺の行動をニヤニヤしながら見るんじゃねぇよ!


「じゃあ反対側を、背の低い方のアンプに繋いで……」


「思い付かねぇのかよ! 急に普通だな……え、っと? どの穴に差せばイイんだ?」


「どの穴に差せばとか!! アミオさんの言い方イヤらしくない?」


 ミチヨはゲラゲラ笑ってて話にならん……まともに対応出来るヤツは居ないのだろうか?


「4つあるウチの真ん中辺りの上でイイよ。これ以上はミチヨが面倒だから」


 いたってニュートラルといった感じで、マキが指示をしてくれた。最初からそうしてくれ!


「右端のスイッチ入れたら、ダイヤルはとりあえず全部真ん中に合わせて音出してみなよ」


 言われるがまま、電源をオンにしてダイヤルの印すべてが真上を向くように調節すると、キーンという甲高い電子機器特有の音波のような圧を感じた。


 ストラップを肩に掛けてギターを構えると、初めて人前で弾いた時も、イマイの墓前でも、テラソニックの時でさえ、生音だけで演奏していたコトを思い出して物凄く緊張した。


 深く呼吸をして、最初に覚えたコードであるGのフレットに左手の指をゆっくり乗せる。


 右手でストロークをしていないが、指を弦に乗せただけで、アンプからは小さく音が聞こえた。


 ピックを握り直して、6本の弦に向かって一気に振り下ろす。


『ジャーン!!』


 密閉された部屋の中に、大音量でギターが鳴り響くと、バックトゥザフューチャーの冒頭で、超大型のアンプに繋いだギターを掻き鳴らしたマーティが、後ろに吹き飛ぶシーンを思い出した。


「こ、これが、俺の…………力? みたいな、能力者が目覚めた時の顔してるけど、アンプの出力なんてそんなモンよ?」


「し……知ってるわ! 急にデカい音が鳴ってビックリしただけだわ!!」


 ミチヨが俺をからかったが、ホントに心臓が飛び出るぐらいの衝撃だったんだ。


「あ、マツノさんお疲れ様。セッティング終わった?やっと片付け終わったよー」


 ガチャリと重く扉が開くと、サクラがエリカとともに部屋に入ってきた。


「いまアミオさんが覚醒したトコだよ」


 ミチヨは笑いながらアンプにベースを繋ぎ、マキももう一つのアンプと接続を完了していた。


 どれも似たような形状なので、自分一人ではギターアンプすらわからなかっただろうな……


「生音と違うからテンション上がりますよね? 私もすぐセッティングしちゃうんで、もうちょっとお待ちください」


 遅れて入ってきたサクラが、ドラムセットの高さや角度を調節している。


 ライブは何度か観ているが、こんなに間近でセッティングを見るコトは無かったので、そんなに事細かに調節するモノかと、しばらく見入ってしまった。


 ステージでは客席から遠いので気づかなかったが、かなり上部にあると思っていたシンバルは、意外と低めに設置されている印象だった。


 サクラは一つ一つの太鼓を、トントンとチューニングしながら叩き、すべてを終わらせると、ドラムセット全体で確認するように短めのリズムを叩いた。


 ブラスバンドや吹奏楽で使う、いわゆる小太鼓をサクラが叩く度に、その音の大きさに驚き思わず目を瞑ってしまった。


 各々が自分の楽器をセッティングし終えたようで、エリカもマイクを2本繋げて部屋の隅にあるスピーカーから声の大きさを調節している。


「ぃよし! いつでもいけるよ」


 サクラが楽器の音に負けないくらいの大声で叫ぶと、マイクをスタンドに差し込んだエリカが、俺の前で手を出し、抱えているギターを寄越せというアピールをしてきた。


 されるがまま、という感じに、ストラップを肩から外してエリカに渡す。


「じゃあ、マツノさん! 私達で課題曲を()るから見ててくださいね? 職場の人のバンドだと、たぶんエリカが弾くパートがマツノさんの担当だと思うんで」


 あ、そういうコトか。予行演習をしてくれようとしてたのね?


 俺が邪魔にならない壁際に移動すると、サクラがスティックでカウントを取り始めた。

サブタイトルの付け方が雑とか言わないでくださいね?

……だってビートルズはちょっと前に使っちゃったんだモン!!

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