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『マスターッ!応援を願いますっ!』
『ここは俺たちだけじゃ、っ!厳し…ッグハッ』
「ラウルッ!!!」
木の幹へと激突したラウルに、ヤツは更なる攻撃を仕掛けてくる。それを防ぐ為、ナルはすぐさまその間へと割り込み、迫ってくる魔法の攻撃を剣で叩き斬った。
『ラウル!?ナル!何があった!』
『魔物ですっ!おそらく中級下位の!!!』
『何ッ!?それをお前達が相手をするのはまだ無理だ!一旦引け!!!』
『ッ、出来ませんっ!!!』
まだ近くに村人達が沢山いるのだ。しかも大半は動けない状態である。魔物はまだ彼らを襲う事は無いかもしれない。だけど、そんな人達を放って逃げるなど、ナル達には出来なかった。
* * *
何故あんな事になってしまったのか。時間は地下牢にいた時に遡る。
「あれは神なんかじゃない。魔物です」
「何だって!?」
「どうやら人間を洗脳する能力があるようで…。この村にいる人達は、アレを神だと思い込んでいるのです」
「なら、お二人はどうして無事だったんです?」
「この護符がどうやら俺達を守ってくれたようなんです」
そう言って見せてくれたのは、ただの布の塊と言っても良いようなものだったが、ナルとラウルにとっては物凄く見覚えがあるものだった。
隊長達とふざけて作った、魔力を目一杯込めたお守りの一つだったはずだ。これを持っていれば、ある程度の攻撃は無効化される。ただし、数回使うと魔力が切れ、ただの布の塊となってしまうが…。それをマスターが念の為にと彼らに渡したのだろう。
「これが…」
「はい、これのおかげで助かりました。ただ、ここに入れられる事になってしまい、連絡が出来なくなってしまいましたが…」
「でもお二人が無事で良かったです」
素早く牢屋の鍵を壊すと、二人を外へと促す。
あまりここでジッとしている訳にもいかないのだから。
先に出た二人の動向も気になる。
それよりも先にマスターに連絡かと、通信しようとしたところで地面が大きく揺れた。
「うわっ!」
「おぉっと!?」
地震ではない揺れ。研究員の二人は慌てて鉄格子を掴んで転けるのを防いでいるのを尻目に、ナルとラウルは咄嗟にその出所の方を見てしまう。ただ地下にいるので、そこを向いても何も見えないが。
ただ感じる大きく邪悪な気配。これは──。
ナルとラウルは咄嗟に外へと走り出る。その後を慌てて追いかけてくる研究員たち。だけど待っている余裕はない。
研究員達は放っておいて、だんだんと明るくなっていく空の下、大きな気配のする方へと駆けた。
「おい、村人ども。そいつは神じゃねぇ。そこをどきな」
その気配の元へと辿り着くと、さっきポーションを大量に欲しがった男性、ガディリアスさんが村人達の前に立っている。
村人の後ろには、何かがいる。
そう、何かがいるのだ。嫌な汗が流れるのをナルは感じた。
「神様に向かって不敬だぞ!謝れ!」
「そうだそうだ!」
「もうこの村に来ないで!」
「そうよ、今すぐ出て行きなさい!!!」
村人達に何を言われても気にする風もなく、スラリと剣を抜いた男はそれを肩に軽く当てニヤリと口角を上げる。
「ったく、物分かりの悪りぃ村人どもだ。そんなもん、正気に戻れば幾らでも分かんだろ」
そしてゆっくりと村人達の方へと歩を進める。
彼らはジリ、と後ろへ逃げようとするが、彼らが崇めている神様がいる事を思い出したのか、顔を青くするばかりでそこから動かない。
「なんだぁ?神様ってのはあんたらを守ってもくれねぇのかい?あんた達の言う神様ってぇのも大した事ねぇのな」
「失礼な!恥を知りなさい!」
「ふん、恥、ね?ま、好きに思えばいいさ」
剣を持つ手とは反対の手でポーションを呷り、きっちりと蓋を閉め懐へと仕舞う。
「ほら、早くこっちへ来いよ、おめぇ、あれだろ?モンスターじゃなく、魔物」
村人達の奥から鋭い視線が飛んでくるのがナルにも分かった。
村人達は「なんて酷い事を!」「バチが当たるわ!」と様々に喚いている。
だけどナルとラウルには分かった。ガディリアスさんと魔物。どちらの視界にも村人達は入っていない。完全なる2人の世界。
ふ、と息を吐いたガディリアスさんは剣を構える。
「悪いな。だが、あんた達は邪魔だ」
一閃。
それだけでバタバタと村人達が倒れていく。だけど見た限り、怪我をしているようにも見えない。
「風魔法…?」
風圧で意識を奪ったのだろうか。だとしたら凄い。力の使い方で重症化してしまう可能性もあるのだから、一人一人に配慮した魔法の操作が必要な筈だ。相当な訓練を積んでいるのだろう。
「さぁ、邪魔者は居なくなった。来いよ」
ガディリアスさんはナル達に気付いている様子はない。
「ふっ、フッフッフッフッ」
「…何がおかしい?」
ゆっくりと歩んで来たのは、見た目はほぼ人間だ。ただ絶対に違うと言えるのはエルフのような尖った耳とコツコツと歩く足の先は人間の物ではない。足の先には黒光りした鱗が付き、2本に分かれた鋭い爪になっている。
その姿は…今までナル達が戦ったことのない、おそらく中級下位の魔物だ。
下級から中級に上がると、側にいるだけでも強いのが分かる。
「あなたが私に勝てるとでも?随分な自信ですね。神だと思っておけば死なずに済んだものを」
「バカを言うな!信じていた者達も殺したじゃないか!」
魔物はキョトンとした顔で首を傾げる。
「あれは彼らが勝手に願って私の元へ来たのです。どうしようが私の勝手でしょう?しかも喜んで逝ってくれたのですよ?何を怒ることがありましょう」
「下衆が!」
「どう言ってくれても構いませんが…、さっさと死んでくれませんかね?あなたは私の計画に邪魔です。──勿論、あなた達もね」
魔物が出した手のひらから、ガディリアスさん、そしてナル達の方へと一気に黒い何かが大量に押し寄せてくる。
「なっ!?」
ガディリアスさんはナル達がいる事に初めて気づき、助けてくれようとこちらへ走り出してくれたようだが、時既に遅く、黒い何かはガディリアスさん、ナル、ラウルを襲った。
ナルは咄嗟にその場から飛び退くが、その黒い何かは後を追ってくる。よく見るとそれはコウモリのような小さな魔物が集団でいるようだ。ガディリアスさんは剣で叩き斬っているし、ラウルは得意の炎で燃やしている。この程度の魔物ならナルも苦戦はしない。だが、慌てて逃げてる風を装って神と呼ばれていた魔物をフードの中から注意深く観察する。
計画とやらを邪魔され苛ついているのか、どう見てもイライラしている。しかもあっさりとガディリアスさんやナル達が死なないと分かると、彼は片手を軽く天に向かって上げた。
ナルは即座に風魔法を使い、周りの鬱陶しいコウモリもどきの魔物を落とすと、ラウルの方へ走り寄り、ガディリアスさんの方へと促す。
ラウルとはずっと一緒に戦ってきた仲だ。戦いでの中なら何を言いたいか言わなくてもある程度伝わる。
ガディリアスさんの半歩前にナルとラウルは走り出る。
ちょうどその時に魔法が完成したのか、大きな闇が詰まったような塊が3人を襲った。
ドカァアアアンという大きな音と共に地響きを立てる。
「ぐっ……」
「これ、キッツ……」
即座に結界を展開したナルとラウルは、何とか抑えようと頑張るが、中級下位の魔物だからだろうか、今までのようにはいかない。
ピキ、ピキピキと結界にヒビが入っていく。
「な…」
「さっさと逃げろ!もう持たねぇ!」
ラウルがガディリアスさんに向かって叫ぶが、庇われたのが信じられないのか、彼は呆然としたまま固まったかのように動かない。
「チッ。ナル悪りぃ」
ラウルが舌打ちした時点でナルは今までよりも更に魔力を込めた結界にしていた。でも持って数秒だ。
ラウルが結界から手を離すと、回し蹴りでガディリアスさんを魔物の攻撃の射程範囲から弾き出すように蹴り出した。きっと青アザくらいは残るだろうが、コレよりはずっとマシである。
とうとうバキィッと結界が割れ、闇の魔法が2人を吹っ飛ばした。




