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中には、髪を振り乱し、暴れまくっている女の人がいた。
「テヤァーッ!!!」「ホーーッ!!!」と途中途中で声を出しながらもガシャン、ガシャンと牢屋の鉄格子の一点を蹴り、殴りつけている。
とてもでは無いが、囚人とは思えぬその活発さにナルとラウルはガン見してしまった。
こんな事をして見張りの人に何もされてなかったのか。甚だ疑問ではあるが、「ホワチョーーー!!!」と言う掛け声とともに鉄格子を蹴りつけた時、その女の人も牢屋の外にいるナル達の存在に気づいた。
「……」
女の人はそっと足を下ろし、スカートをパタパタと叩いて埃を落とす。
そしてナル達に微笑みかけ、何事も無かったかのようにベッドに腰を下ろした。
「ぇ……?」
思わずラウルが声を出してしまったのも無理はないだろう。一瞬ナル自身が声を出したかと思ったくらいだ。
まさか全て無かった事にするつもりなんだろうか…?
ナル達の疑問には当然答えてくれる者もなく、女の人は首を傾げナル達に話しかけてきた。
「えーと…君達って村の子?もしかしてここの牢屋の鍵って持ってない?」
「あ、いえ、持ってないです。それにこの村の者でもありません」
「…、そっかぁー、残念!」
それじゃあ仕方ないねと困った風に笑った女の人だったが、ナルは聞き逃さなかった。この人、最初に舌打ちした!
「…お姉さんはなんでこんな所に入れられてるんですか?」
「私はね、諦めない女なの」
「…は?」
この村の事だから、その神とやらを嫌っただけで入れられてしまった可能性もある。おそらく捕まってしまっているであろう、研究員達も連れ出すつもりなのだ。悪い事をしていないなら一緒に出してあげても良いかもしれないと思ったナル達だったのだが、返ってきたのは全くもって意味の分からないものだった。
「いろんな事に挑戦し続けて自分の限界を試しているの」
「はぁ…」
「この村に来たのは寝床をゲットする為だけだったんだけど…、神とやらを信仰しないってだけで私はここに入れられてたの。だから私はここでも挑戦するわ!ここから自力で出てみせるって!!!」
その瞳はキラキラと輝いていた。
…何度蹴りを入れても鉄格子は壊れなかったというのに、女の人の諦めない気力も凄い。
「そうだ!良い事を思いついた!」
ベッドから軽やかに立ち上がり、鉄格子の前まで来てしゃがみ込む。
そして、土の地面をもの凄い勢いで掘り始めた。もちろん道具など無いので素手で。
「「………」」
ナルとラウルはもう何も言えなかった。
何も悪い事はしてなかったようなので、罪は村にあるだろうと勝手に判断した2人は、独断で牢屋の鍵を壊してあげた。
「ふぉぉおおお!!!!!自由!!!!!私は自由だっ!!!!!」
「ありがとう」と牢屋から出てきて微笑んだ女の人は、茶色の瞳に、これまた茶色ベースの髪の毛、ただ毛先はピンク色で可愛らしさに溢れていた。
「じゃあ、私は自分の限界に挑戦する旅の続きに出るから!──さらばァッ!!!」
「え、あ、ちょっと!?」
そう言って軽やか…と言うよりも風を切るように走って行く後ろ姿。ナルが呼び止めても聞こえてないのか、あっという間に階段を駆け上って行く。……見張りの人に気付かれる心配しかない。
「…急ごうか」
「そうだな……」
そして早足で2つの牢屋の中を確認しながら通り過ぎた時、
「ぅわっ!?」
突然ラウルの小さな叫び声とカシャンといった音に、ナルが驚いて目をやると、ラウルの手が鉄格子の中へと引っ張り込まれていた。
「ちょっ、離せ!」
ラウルが腕をブンブン振っても、力が強いのか、なかなか取れないらしい。
中からラウルの手首を離さないで、あぐらをかいて座ってる人が、ゆっくりと顔を上げた。
随分長い間ここにいたのだろうか、髪も髭も伸びっぱなしになっている。さっきの女の人とはここに入っている年月が違うように思える。
だけど、こんな所に入れられて、虚ろになっていくであろう目は、今もギラギラ輝いていた。
「なぁ、ポーション、持ってねぇか?」
ガラガラにひしゃげた声が辺りに響く。
「もう、限界なんだ……」
そこでナルはハッと我に返った。
「どこか怪我を?!見せて下さい!治します!」
「いや、ポーションが良いんだ。持ってないか?」
「ありますけど…」
「おお!ありがたい!!!」
空間収納から取り出したポーションを渡すと、男は一気に飲み干した。
「プハァーッ!これ、良いやつだな!生き返った!やっぱこれがねぇとやってらんねぇ。なぁ、金はここ出たら払うからよ、他に持ってる分出来るだけ譲ってくれねぇか?」
ナルは首を傾げる。
今渡したのは、高級で高性能なポーションだ。一本飲めば大体の傷は治るはずである。
それとも、余程重症なのだろうか?
いやいや、もしかしたらここを出て、ここに閉じ込めた奴を倒しに行くのかもしれない。
考え込むナルに何か思ったのか、男は更に言い募る。
「まぁ、細けぇ事は良いじゃねぇか。金はちゃんと後で渡してやるから。良いだろ?な?」
男の人の強い押しに負け、もしもの時の為に必要な分は置いといて、残りを渡してあげると、男はありとあらゆるポケットにポーションを入れ、2本はちゃっかり片手で持って、新しく開けた1本をちびちびと飲んでいる。
まるでポーションがお酒のようである…。
フゥーーーと大きく息を吐いた男は、立ち上がり身体を慣らすように動かし始めた。
ガキッ、ボキッ、ゴキキッとまるで人体から発されたとは思えないような音が鳴る。
「うしっ、元気も出たし出るか」
「えっ」
「お前らちょっと離れてろよ」
そう言って鉄格子を持った男の人は素手で左右に引っ張った。あまり力を入れてるようには見えなかったが、鉄格子は面白いように簡単に男の手によって広げられていく。
やがてそこから出てきた男の人はナル達を見下ろした。
「なんだ、別に悪い事した訳じゃ無いんだし、出ても何も問題ないだろう?それとも、さっきのポーションの金か?それなら街に戻ってから払うって。俺はちょっと用事があんだ。お前ら、さっさとこんな村出た方が身の為だぜ。んで街に戻ったらギルド訪ねな、俺の名前はガディリアスだ」
そう言ってヒラヒラと手を振りながら行ってしまったガディリアスさん。
ほんと、ここはどうなってるんだ。
いくら酒を飲んでいた見張りでも、流石に2人も外へ出たら気づくだろう。
2人は最後の牢屋へと急いだ。
「ダンさんとゴンさんですね?」
寄り添うように俯き、座り込んでいた2人にナルは声をかけた。
その声にハッと顔を上げた2人は、ナルとラウルの服装を見てホッとしたように息を吐き出した。
「貴方方はユニバースの隊員の方ですね…。良かった。連絡も出来なかったのでどうしようかと…」
「一体何があったんです?」
そのナルの問いに返ってきた答えは、とてもマズイものだった。




