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料理を次々と出され、全員が飲み食いしながらも合間合間に互いが互いを手伝ったりしている。側から見れば凄く良い村のように見える。けれどナルは、どこか違和感のようなものを感じていた。
親切な村の人達に声をかけられながら、ナルとラウルは村長の隣で、次々と皿に乗せられていく美味しい料理に舌鼓を打つ。その合間にナルは質問してみることにした。
「久々の客って事は、以前誰かがここへ来た事があるんですか?」
「おお、あるとも」
「その人達は…?」
「この村に定着しておるよ。ほら、これもお食べなさい」
その話はあまり触れられたくないのか、流れるように自然に料理を更に盛られ、ナルはもうお腹いっぱいなんだけどなぁと内心では思いながらも笑顔でお礼を言う。
「俺達、知り合いをここに探して来たんです。多分この村にいると思うんですが…知ってますか?ダンとゴンって名前の男の人なんですが」
「うーむ…、どうだったか。小さな村だし全員の名前は覚えてるから、その者達はこの村には来てないんじゃなかろうか」
この村を調査する為に入った研究員の2人がここに居ないはずはない。
「そう、ですか…」
いかにも残念そうな表情をしながら、2人は確信した。
この村には絶対に何かある。
「あら〜、可愛い坊や達じゃないの」
他の人よりも一際目立つ、綺麗な衣装に身を包んだ女性がナルとラウルの間に入ってくる。その頰は紅潮して嬉しくて嬉しくて仕方ないと言ったような表情だ。
「お姉さんも明日、神様に会えるのを楽しみにしてるんですか?」
「それはもちろん。でもね、今回は私が選ばれたのよ。光栄なことだわ」
「選ばれた?」
ナルが分からないと首を傾げると、お姉さんはうふふと笑いながら教えてあげる、と微笑んだ。
「神様がね、御尊顔をお見せして下さる時、必ず1人がお力になれるよう、ついて行く事を許されるの。毎回立候補が多くてね、しかも神様自らが冒険者の方をご所望されることもあったりして。だけどやっと私に回ってきたのよ」
「冒険者…?」
ナルの小さな呟きは聞こえてなかったようで、お姉さんは続ける。
「この日をどれだけ心待ちにした事か。もう嬉しくって嬉しくって」
「そうなんですか。それは…おめでとうございます?」
疑問形のナルの祝福の言葉にもお姉さんは嬉しそうに笑っている。
「ふふっ、ありがとう」
「あの、ちょっと聞いても良いですか?」
「いくらでもどうぞ」
「その…神様の元に行かれた人達とは会えますか?」
「それは無理ね」
即答された言葉。ナルとラウルは素早く視線を交わし合った。
「どうしてです?」
「だって神様の力の一部になっているんだもの」
妙な言い方にナルは首を傾げる。
「…一部になる?手伝うんじゃなく?」
「そうよ。初めは雑用をする事もあるのかもしれないけれど、最後はみんな神様に吸収されるのよ」
吸収…つまり、死……?
「……死んでしまうんですか…?」
ど直球のナルの言葉にもお姉さんはニッコリ笑って頷いた。
「そうよ」
「それは…嫌がる人もいるのでは…?」
「何言ってるの。みんな喜んでついて行くわよ。だって神様の一部になれるんだもの。嫌がる人なんて1人もいな……くもなかったわ」
ねぇ、村長と語りかけるお姉さんに対し、村長の態度は素っ気なかった。
「あんなにも神々しいお方を前にして、神様と呼ばずに侮辱したんだ。そんな奴らの事なんざ知らん」
「まぁ、村長ったら」
困った人ねぇと眉を下げるお姉さんにナルは詰め寄った。
「その人って今どこにいます!?」
「そうねぇ、確か牢に入れられてるはずよ。でももしかしたら既に神様の一部になってるかもね〜」
直ぐにでも2人を探し出す必要がある。そう考えた2人は、取り敢えず村長の家で村の全員が寝静まるまで待つ事にした。
ナル達はまだ幼いからと宴から早々に村長の家に帰されたのにも関わらず、外ではまだ大人達が騒いでいる。徐々に家へと帰ってはいるが、それでも一向に帰る気配がない人達もいる。
「…見張りか?」
ピッタリとくっつけた布団の中、ラウルがそっと落とした言葉にナルは頷く。
「そうかも。さっきからこの部屋にも、村長と奥さんがちょいちょい覗きに来るし」
だからと言って、このままここでジッとしていると夜が明けてしまう。
「行くか」
「そうだな」
頷いたラウルは空間収納からある物を2つ取り出した。
それは身代わり人形である。新人育成隊B隊長のリアが作ってくれた、ただの抱き枕なのだが、これに幻術をかけると近くで見ない限りはそうとは気づかれない。丁度いい大きさの物なのだ。
監視はされているようではあるが、中までは入って来ないのでこれで充分だろう。
素早く幻術をかけたナル達は空間収納からユニバース専用のフード付きローブを取り出し羽織る。深くフードを被った2人は、自分達に認識阻害の魔法をかけ窓から静かに外へ飛び出した。
* * *
牢の場所は流石に教えてもらえなかったので自分達で探す事になる。
気配を完全に消し、未だに騒いでる村人達に気をつけながら村中を素早く見て回る。
家、倉庫、家畜小屋。村人に見つからないようにしながらも、小さな村なので全てを見て回るのはすぐに終わった。家の中は、怪しそうな所は無かったので入ってはいない。
あと見ていないのは、神が住んでいるという場所とその手前にある地面の中へと続く空間。そこにはおそらく見張りをしているんだろうと思われる人が、1人入り口付近に座り込んでいるが、顔は赤く、眠そうな眼をし、片手には酒瓶を持っている事からどう見ても酔ってる事が分かる。
これなら魔法を使わなくてもナルとラウルが全力で駆け抜ければ、気付かれず中へ入る事が出来るだろう。見た所、扉があるわけでもない。小さな村なのでそこまでしていないのだろう。
もし牢に鍵がかかってたとしても入った後に壊せば良いだけだ。
2人は見張りの人がウトウトして首を落としかけた所で、全力で中へ飛び込んだ。
「……?」
幸い、見張りの村人は一瞬強い風が吹いた程度にしか思わなかったようだ。
そっとそれを確認したナル達は階段を下っていく。
階段を降りると、目の前には木製の扉が1つある。そっと押してみると、鍵もかかっていなかったらしく、簡単に開いた。
中は右側が壁、左側が奥へと続く鉄格子の牢屋部屋だった。
見る限り奥行きは長い。
しかも一つ一つ部屋は区切られているようである。
その1番手前の牢屋からは、ガシャン、ガシャン、と何かが暴れている音が聞こえる。
ナルとラウルは顔を見合わせた後、1番手前の牢屋を何があってもいいように警戒しながら、そっと中を覗き込んだ。




