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おちていくメイド

「な…!?」


私と共に落ちた手負いのお姉様は驚愕の顔を浮かべて何かを叫ばれました。それを聞きながら私は静かに目を閉じました。…何故だか心は安らかです。…そうです。ここでこれの足止めさえできれば…エマ様方は確実に脱出することが可能なのです。どうせここから追い出されたら私の居場所はなくなるのですから、どこでどうなっても同じことでしょう。行く当てもなく彷徨うのは…居場所がないあの頃に戻るのは…もうごめんです。ならばいっそこの世から消え去ってしまえれば、今よりずっと楽に……


「リオっ!!!」


私を呼ぶ声が聞こえ、私は瞑っていた目を開けました。まさか…そんな……


「エマ様!!!! リオッ!!」


視界の奥にはこちらに走って来られるアヒム様のお顔が見えました。しかしそれは、閉まっていく扉に隠れてだんだんと見えなくなります。私の胸に温かく、柔らかいものが当たりそれを感じるとともに私は無意識に剣を取りだし、それを思いっきり地面に叩き付け衝撃を和らげました。


ガチャン…


私は仰向きで地面に伏しながらも、隠し通路の…唯一の逃げる道である扉が閉まった音を耳にしました。


「………なぜ…」


私はこの状況に呆然となりました。体を起こすと、視界の端で手負いのお姉様が血が出ているのにも関わらず、怒鳴り散らしておられるのが見えました。


「ふ…ふざけんな! あの女…私を突き落とした!! いつも偉そうにして……地の下に落ちろ! 狂女!!!」


私は彼女の罵声を聞きながら、ここにいてはならない…真っ先に逃げ延びなければならないその方を見ました。


「な……なぜ…何をしておられるのですか!! エマ様!!!」


私の胸の中にいたエマ様が、顔を上げ私を見ました。その緑色の瞳は、いつも以上に強い意志を感じ、私は一瞬ひるんでしました。…私の心の中を見透かされたような…気がしたのです。


「何をしているのかと答えるなら、リオが落ちたから一緒に落ちた。なぜこんなことをしたのかと聞かれたら…分からないわ」


埃を払いながら、エマ様ははっきりとそう答えました。私はエマ様の腕をつかみました。


「あなた様は一国の王女なのですよ! それを…一介のメイドのために命を落とすなどあってはならないことです。今すぐ扉を開けて……」 


「無理ね。城中の隠し通路は一度開けてしまうと外側からは開かないようになっているの」


私が慌てて起き上がろうとすると、それをエマ様が制しました。私はエマ様のその淡々とした口調に頭に血が上るのが分かりました。


「それを知っていながらなぜ…今のあなたの行動は国を滅ぼしかねないのですよ!! アヒム様やマリア様のお言葉をもうお忘れになったのですか! あなた様はこの国に必要な存在なのです! 私にはここから逃げる術を持っていないのですよ! エマ様、あなた様のことを命がけでお守りした兵の命をあなた様はみすみす……」


「分かっているわ!!」


私は思わず口をつぐみました。それはエマ様の剣幕に押されたからではなく、その力強さを感じる瞳から…大粒の涙がボロボロとこぼれていたからです。エマ様は嗚咽交じりの言葉で、私に言いました。


「分かっているわ。分かっていて来たの。自分がどれだけ馬鹿なことをしたのか分かっているのよ。…でも、多分私は何度だって同じことをするわ。だってリオ、あなた死ぬ気だったじゃない!!」


エマ様が私の胸を弱く叩かれました。それはエマ様の言葉と共に私の胸に刺さりました。


「分かるわよ…どれだけ一緒にいたと思っているの…。最近リオの元気がなかったことも知っていたわ。また誰かに何かを言われたのかと思ったけど…リオ何も言ってくれないんだもの。周りに聞いても…はぐらかすだけで何も言わないし…」


「エ、エマ様…」


エマ様は小さく震える体で私を抱きしめました。エマ様の温かさが私を包み、私は息が詰まりました。


「…なんで飛び降りたのか私にも分からないわ。でも…リオがあんな顔して…落ちていくのを見て我慢ができなかったの。一目で生きる気なんてないんだって分かったんだもの。まだ…約束を守ってもらってないのよ。私の嫁ぎ先までついてきてくれる約束。そして、エドが立派な王となるのを見届ける約束よ。私との約束を破って、勝手に離れていくなんて…許さないんだから」


エマ様が私を抱きしめる力が強くなりました。エマ様の柔らかい髪の毛が私の鼻さきをかすり、途端に私は泣きそうになりました。私の存在がエマ様を殺してしまう…。その恐怖が私を支配しました。……いいえ、まだです。エマ様がここにいらっしゃるのであれば、私の仕事はまだ達成されていないのです。私は目をこすり、エマ様の腰を軽く叩きました。


「……承知いたしました。エマ様。そうしたならばお早く、こんなところから出ましょう」


「ええ!」


私は立ち上がり、エマ様の手を取りました。お姉様は狂ったように壁を叩いておりました。周りでは再び何かが蠢き始めているのが分かりました。どうやらあれらはあの異形のものが分裂したものたちのようです。私はお姉様の元に行きました。エマ様の言うことは本当のようで、アヒム様が押されたボタンのようなものを押しても何も反応いたしません。


「何やってるの!…あなたも手伝って……」


お姉様は何もない壁を必死に叩きながらおっしゃられました。メイド服に血が滲み始めております。興奮し動きすぎたのでしょう。私は彼女の手を掴みました。


「無駄です。これはもう開けられません。ここから逃げましょう」


「どこにっ…逃げるっていうのよ!! どこにも逃げられるところなんて…」


「地下です」


お姉様の手を掴みました。食物庫には保存用の地下倉庫があります。そこは確か別の部屋に通じたはずです。ですが…ここで問題が少々…


「むっ、無理よ! それに唯一そこに通じるところはあの怪物が塞いでいるじゃない」


そうです。唯一の問題…まあ、最大の難点となるのですが、そこに行くには必然的にあの異形のものと対峙しなければならない…ということです。


「大丈夫です。あれは今衝撃で分裂しております。私がお二人を誘導いたしますので、お二人はただ私についてきてくださればよいのです」


「で、でも…」


ちらりと通路があった方を見られるお姉様。どうやらまだ隠し通路が起動するという望みを捨てきれないでいるようです。しかしこうしている間にも、敵は私たちの方へ近づいてきています。分裂した彼らの動きは遅く、スライムのようです。…問題なのは数…ということですか。私はどう説得しようか悩んでいると…


「ぶつぶつうるさいわね。行かないならここにいればいいのよ。これ以上私をこんな危険な場所に置いておくつもりなの?」


イライラとされる様子を隠そうともなされないで、エマ様はじろりとお姉様を見られました。まさかエマ様がいらっしゃるとは思っておられなかったようで、お姉様は真っ青になって快く返事をしてくださいました。


 「では参りましょう!」


ふんっと鼻を鳴らされるエマ様に、それを横目で見られてそわそわなさっているお姉様を連れ、私は剣を握りしめました。目の前には敵が殺気をたたせ、うじゃうじゃといます。


「……そぉりゃあ!!!」


私は剣を伸ばすことのできるだけ伸ばし、それを彼らに向かって振り下ろしました。どんっと大きな音がし、そこには道のようなものができました。かろうじて潰されなかったものも衝撃によって飛ばされ、潰されて事切れたスライムたちのぶよぶよとした道を私たちは通りました。


 「リオ!」


「はい!!」


エマ様が注意深く辺りを見て指示され、私はそれを切り倒していきます。お姉様はエマ様に支えられながら足を進めていかれ、その歩調の速さは順調なものでした。私たちの周りに多くの敵が集まってきますが…あと少し…あと少しです。私たちは足を速めました。囲まれたら絶体絶命です。それだけはなんとしても避けなければ…。


「見えた!!」


幸いにも床から通じる地下の扉の周りには敵はおらず、また物などによって塞がれてもいませんでした。


「もう少しです!! あそこまで頑張ってください!」


私はお姉様に襲い掛かろうとした敵を切り倒しながら言いました。お姉様は息も絶え絶えで、頷きました。私たちの間で少々希望が見え始めた…その時です。


「リオ、何か来る!!」


何かを感じられたエマ様は扉の方を指さして、叫ばれました。私はばっとエマ様が指さされた場所を見て、そして言葉を失いました。


「な…なによ…あれ…」


お姉様のがちがちと歯が鳴られる音が、ここまで聞こえました。私も体が震えるのが分かりました。そこには三体の私たちの何倍もある異形ものが立っていたのです。ここからは少々離れていますが、彼らの目はしっかりと標的を見定めていました。分裂したのはスライムだけではなかった…というのですか。そして彼らは私たちに向かって、口を開けました。


「危ないっ!!」


ぞわっとしたものが背中を伝い、私は彼女たちに体当たりをしました。私の足を彼らのうちの一匹の歯がかすめ、私はぞっとしました。彼らはあの距離からむき出しの歯を、私たちに突き立てようとしたのです。狙いを外した残りの二匹は自分自身であるはずの、スライムたちを胃の中に入れておりました。


「ひっ!!」


お姉様はずるずると後ろへ下がられようとなさいましたが、後ろにはまだ大勢のスライムたちがいるのです。私は慌てて、スライムたちを切り捨てます。


「行きましょう!!」


無理やりお姉様を立たせ、エマ様の手を引きながら地下へ通じる床穴まで向かいました。


「な…なによあれ!!」


お姉様はもうパニック状態です。今彼らはスライムを夢中になって食べており、今がチャンス。私たちは必死に走りました。あと数メートルです。私は夢中になって手を伸ばしました。あと…数センチでとど……


「リオ!!」


「え? …ぐっ!?」


気が付いたら私はエマ様と共に部屋の中央まで吹っ飛ばされておりました。私はなんとか空中でエマ様を引き寄せ、着地いたしました。右脇腹に鈍い痛みを感じ、私はうずくまりました。攻撃を受けた瞬間、とっさにその場所に魔力を込めたのですが…それでもその衝撃をすべて無力化することは不可能だったようです。


「リオ! どこか痛むの!?」


「だ…大丈夫です。それより…っ!?」


私ははっとして周りを見ました。私たちがいる場所は先ほどあの異形のものたちがいた場所で、スライムたちの残骸が辺りに散らばっておりますが、うようよと蠢いているスライムたちとの距離はまだ余裕があります。しかし…


「きゃああああ!!」


「リオッ!」


やはり!あの場にお姉様が一人取り残されてしまっています。私は痛む腹部を抑えながら立ち上がりました。そしてエマ様の手を取ると、足に魔力を込められるだけ込めました。


「エマ様、お姉様を掴んでください! そのまま地下に突っ込みます!!」


私は深呼吸を一つし、地面を思いっきり蹴りました。ぐんっと周りの景色が飛び、目の前にすごい勢いでお姉様が近づいてきます。しかし…私は気づくべきだったのです。なぜ先ほどまで目で追えるほどだった彼らの動きが急に速くなったのか…。


「っ!?」


私たちの行く手を遮ったのは彼らの中の一体でした。それは私たちに向かって口を開けていました。私は慌てて思いっきり地面を蹴り、方向転換しました。そして大勢のスライムたちに突っ込み、彼らを踏み台にしてさらに足に魔力を込めました。その結果、お姉様の方に向かいながら、目をギラギラとさせたその一体首を飛ばすことに成功しました。これで、あとは床下に飛び込めば、体の大きい彼らはまずそこを通り抜けることは不可能ですし、その先にある扉を閉めればスライムたちも入って来られないはず。


「リオ、下!!」


しかし、エマ様の叫び声と共に足が何かに引っ張られるような感覚がし、足に鈍い痛みが感じられました。がくんっと膝が崩れ、私は床に背中から叩き付けられました。エマ様は寸前のところで腕に抱えたので、怪我はありません。


「リオ!」


私は咳をしながら大丈夫だと笑いかけました。しかしなぜ……。私が足を見ると何か気味悪いものが私の足に取り付いており、私はそれを剣で払いました。しかし、それを取り除いても私の足には何か嫌な痣が出ており、相変わらず足は動きません…。私はその痣とこの痛みに覚えがありました。


「まさか…枯渇痕(こかつこん)…」


まさかこのタイミングで!?しかし…何か府に落ちません。枯渇痕は魔力が行きわたらなくなることにより出てくる痣のこと。しかし、事前に込めていた魔力までなくなってしまうものなのでしょうか。まさか……。私は先ほどの切り捨てたものを見ました。今はもうピクリとも動きませんが、先ほどより濁ったような色をしています。


「リオ…まさか枯渇痕って…」


エマ様が私の方を向かれましたが、私は何も答えることができずに、持っていた剣を握りしめるだけでした。彼らは…魔力を外側から取り込むことで力を得るのです。彼らが最初にスライムたちを食べたのには…こういう理由があったのです。私は自分の浅い考えを呪いました。結局、エマ様を助け出すどころか…私自身足手まといになっているではありませんか。


「いやっ!! 来ないで!!」


お姉様の声を聞き、私は足に力を込めました。しかし、足は思い通りに動いてくれず、苛立ちばかりが募ります。こんなところで止まってはいられないんです。せめて…エマ様やお姉様だけでも…


「早く助けなさいよ! あなた勇者なんでしょ!! え…なに…いやあああ!!」


持ち上げられたお姉様は、下半身を一体の異形のものに…上半身をもう一体に捕まれ、それぞれ引っ張られました。足元ではスライムたちがうようよとそれを囲んでいます。私はぞっとして力いっぱいに何度も足を叩きました。お姉様は暴れますが、彼らはお構いなしにどんどん引っ張る力を強めていきます。


「痛い! 止めて! 嫌…死にたくない!!」


「リオ!!」


エマ様が私の手を取り、私の体を支えようとしました。私はなんとか立ち上がろうとしますが、足は相変わらず地面にすねをつけたまま動こうとはしません。足に感覚というものが感じられませんでした。こうしていく間にもお姉様は…顔を上げた時に映ったものは暴れるのを止め、力がない手が重力に任せたままになっている…お姉様の姿でした。


「やめ…止めてください…お願い………止めて!!!」


びりっとしたものが自分の中から発されたのが分かりました。それは私の体を必死で支えようとされるエマ様をすり抜け、敵へと当たりました。スライムたちは塵となって消え、二体の異形のものたちはお姉様を離し、後ろへと下がりました。お姉様は受け身もとれず床に直撃しましたが、体が動いたことからかろうじて息はあるようでした。二体は私を見て、ゆっくりと近づいてきました。私は自分でも何が起きたのか分かりませんでしたが…今から何をすべきかは分かります。私はエマ様を見ました。


「エマ様! そこの扉からお逃げください! 敵が来ます。私は動けませんからどうか、この剣を持って……」


「嫌よ!! リオを置いていくなんて嫌!!」


しかしエマ様は首を横に振り、小さな体で私を支えようとなさいます。私はエマ様の手を掴みました。


「あなた様はここで死んではいけません! 立派な女王になられるのでしょう! エド様もあなたとお会いになられるのを心待ちになさっています。どうか…」


「あの子はリオと一緒にいる私に会いたいのよ! リオを置いて私だけ逃げたとなったらあの子に怒られるわ!」


私は何を言っても逃げようとなさらないエマ様に唇をかみました。どうすればエマ様はここから逃げてくださるのでしょう。ご自分の命を優先してくださるのでしょう。私にはその考えが浮かびません。フィルマン様にこのような時どうすればよいのか聞いておけばよかった。けれども私は必死にエマ様に言い続けました。


「エマ様、お願いです! お逃げください! あなた様に死んでほしくないのです。せめてこんな時くらい…私の言うことを聞いてください!」


「絶対に嫌! リオがここで死ぬなら私も死ぬわ!」


「エマ様!!」


そこでハッとなりました。こうしている間に私たちは囲まれて…ギラギラとした目で異形のものは私たちを見下ろしていました。私はエマ様を抱きよせました。お姉様のように…エマ様をおもちゃのように扱わせるわけにはいきません。やるならば私にしてください…


「リオ……」


私の胸の中でエマ様が小さく私の名前を呼びました。私がエマ様見るとエマ様は私の胸に顔を埋め、この状況からは想像できない可愛らしい声でふふっと笑われました。


「……最後まで迷惑かけてごめんなさい。大好きよ」


どくんっと胸が鳴るのが分かり、同時にエマ様が血を流されて倒れる姿が目に浮かびました。嫌です…嫌。私はそんなの望んでいない。私はエマ様のメイド。エマ様の幸せとこの国の安泰、そして周りの方々の幸せだけを望んでいるというのに…。大きくなられたエマ様が王女として立派に…幸せに笑っておられることが…私は……。鼓動はどんどん速くなっていきます。……ああ、そっか。私死にたくないんだ。まだまだエマ様のわがままに振り回される日々を送りたいと思いますし、エド様とアヒム様の元で稽古もしたい。フィルマン様からもっとたくさんこの世界のことを学びたいし、ジーニアス様に焦げて失敗したお菓子を笑い飛ばされたいとも思います。アヒム様にまた髪の毛を整えてもらいたいですし……それに……ベルンとは…いつも他愛のないことで口論になってしまいますから……偶には昔のように素直になって話しをしたいものです。それが無理ならせめて……会いたい。会って、またあの大きな手で撫でて欲しい、笑ってほしい…名前を呼んでほしい。抱きしめて欲しい。


「私…まだ死にたくない!!!」

 

それはとても静かに起こりました。水が落ちた音がどこからか聞こえたように思いました。無音。物音一つせず、私の耳は最後に使い物にならなくなったのかと思いました。


「…ん…」


しかし、私の腕の中でエマ様が身じろぎするのが分かり、私はゆっくりと目を開けました。…死後の世界に…来てしまったのでしょうか…


「……リオ?」


エマ様が急に抱きしめる力が無くなった私の腕の中から顔を出しました。そして驚嘆の声をあげました。


「……いない…助かったの?」


部屋の中には何もいませんでした。まるで…今までのことが夢だと言わんばかりに。私は呆然とこの光景を眺めておりましたが、ごほごほと咳をする音でハッと気づき、体を引きずってお姉様の元へ行きました。エマ様はそんな私に気づき、私の手助けをしてくださります。お姉様の状態は最悪なものでした。…正直生きていることが不思議なくらいにひどいものでした。お姉様は私を見て、か細い声で何かおっしゃられています。私が耳を顔に近づけると、お姉様はひっと声をあげられました。


「な…なんなのよ…何なのよあなた……」


…ああ。私はそんなお姉様の様子を見て察しました。お姉様はエマ様と違い、何が起きたのか…見ていたということでしょう。彼女から感じるのは私に対する恐れの感情でした。私は彼女から顔を離し、傷の様子をみました。もしかしたら…専門の方に診ていただければ助かる可能性があるかもしれません。私は無駄かもしれないと思いながら、彼女の腹部を止血しようと手を伸ばしました。


「………ゆう………あれは…も……ばけ………よ」

『あなたが勇者ですって?あれはもう化け物よ』


はっきりと聞こえたその言葉に私は固まってしまいました。お姉様を見るとその目にはすでに光はなく、私は手が震えるのが分かりました。ああ…また助けられなかった。そして視界がだんだん薄暗くなっていき、力が入らなくなった私の体は横へと倒れていきます。


「リオ!!」


エマ様の焦った声を聞きながら、私は目を閉じました。ふと、誰かから体を支えられたような…そんな気がしながら。


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