格好悪いと笑われてもいい 不器用だから同じ生き方しか選べないんだ
残る武器は、左腕のサバイバルナイフとっ
秘密の切り札“燃える闘志”……!!
もしも死んでしまってチート転生できるんなら、必ずスタンガンを買おう。
そう心に誓うほどの絶体絶命のピンチっ!
僕は現在、4匹の魔狼から逃げるべく、ゴロゴロ廻って岩壁がコの字状にそそり立っている場所に来ている。
この場所の利点は、左右と後方が岩壁なので、正面の魔狼1体だけを相手にすれば良い事だ。
そこで、目の前の1体を念動の魔法【インヴィジブルテンタクルス】で押さえ込む。
魔法を使われるとやっかいなので、今までとは違って、口と両前足、身体の4箇所だ。
はー、ぜー。
息が荒い、力が入らない、血を流しすぎてる。
出血性ショックで死ぬ前に血止めしないと。
というか既に、その兆候はこうして現れている。
だが、そんな僕のちょっとした休憩すら許さないとばかりに、魔狼達は次々とやってくる。
具体的に言うと、後続の6頭が第2防衛ラインを突破、玉座へと向かうのが見て取れた。
やばい!
このままだと、ドラコニーや猫耳眼鏡っ娘が挟撃される。
しかも、あっちにはブランカ、白い魔狼がいる。
「ゴメン、グレイブさん、反対側が突破された!
第3防衛ラインに逃げてッ」
僕はフギンとムニンを通じて、隠し通路まで誘導する事にする。
隠し通路ならば狭いから、1対1で戦闘を行える。
グレイブを先頭で壁にして、次にドラコニーで魔法対策、リュネットには遠距離攻撃をしてもらおう。
その為にも早く赤スライムに怪我を治してもらわないと……。
死ぬわけには行かないんだ。
僕は左腕に結束バンドで止めてある、添え木代わりのサバイバルナイフを抜く。
これだけでは心許無い。
残る最後の触手を伸ばして、ソーサリーダガーを拾いに行く。
はっし
あ。
思いっきり魔狼の前足で踏みつけられた。
じゃあ、グレイブは?
あれ?ないっ!
どこに……?
……。
あっ
2頭で咥えて、外に持っていこうとしてるっ!?
頭良いな!くそっ
待って、止めて、それは大事な武器っ!!
早っ!!
届かない~~~っ!!
僕は残った見えない触手を伸ばすがそれより向こうの方が早いみたいだ。
人間が自分より巨大な生物に挑む場合は、剣や鎚といった物では駄目だ。
リーチが無いので、実際は棹上武器一択となる。
そうで無い場合は、こちら側から戦場を指定しなければならない。
少なくとも、相手が全力で戦えるような場所で戦うのは愚の骨頂だ。
どういう事かというと、グレイブないと戦えない。
あ。
そういえば、一択という日本語は存在しないらしい。
このまえ調べるまで知らなかったよ。
閑話休題。
いかんいかん。
思わずボーっとしていたらしい。
血が足りない。
血が欲しい。
「ゴアッ!」
上空に黒い影が舞う。
フギンとムニンだ。
何をするつもりだと問う前にワタリガラスは行動を起こしていた。
僕の方を一瞬見た後に、急降下。
「??」
「ゴアッ!」
「グルァアッ!!」
「ーーー!!」
フギンとムニンはソーサリーダガーを踏んでいる魔狼へと襲い掛かる。
「グルゥゥ」
しかし、それを察知した魔狼は、バックステップしてかわす。
あ。
脚が離れた!
僕はソーサリーダガー目指して触手を伸ばす。
あと少し!
「ごあっ!ごあっ!」
「ガルルル、ウォンウォン」
しかし、魔狼とワタリガラスの戦いの決着は、一瞬でついた。
「グルアァァァッ!!」ガブッ
「ぎゃっ」
魔狼がフギンとムニンの翼に牙を突きたてる。
だが、それだけでは終わらなかった。
ビキビキ、ブチィッ
「ぐあっ」
翼を噛み砕かれる音が響き、
ブン!
べシャァァッ!!
そのまま地面に叩きつける。
翼は半ばから千切り取られ、辺りには血と黒い羽が散乱する。
そのまま、魔狼は全体重を乗せて
前足を
カラスの頭に―――
う
うわああああああぁっ!!
何故だろう?
気にくわないカラスなのに、身体が勝手に動いていた。
僕はコの字状の安全圏から飛び出すと、ソーサリーダガーに向かっていた触手の目標を変更、魔狼の前足を掴み、行動を阻害する。
くそう、急に動いたから、めまいに襲われるが、やる事をやっておかないと殺される。
フギンとムニンにもう1本触手を伸ばす。
安全圏に脱出……いや、僕の方へ。
先程までの感覚から、ダメージを受けると念動の魔法【インヴィジブルテンタクルス】は束縛を解除する。
これは、仕様上しかたない事だろう。
今回の場合は触手で空中に持ち上げて安全圏とするよりも、僕が抱えていた方が良いだろう。
下手に僕がダメージを受けて、空中から落下するよりかはマシなはずだ。
僕が動くと同時に、魔狼が一斉に襲い掛かってきた。
現在、3本の触手は真後ろの魔狼を掴んでいる。
残り2本のうち、1本はフギンとムニンを包み、急いで自分の元へ。
もう1本は前方の魔狼の脚を掴んで空中に固定だ。
左の魔狼を止める為に、僕は3本のうちの1本を外して身体に巻きつかせる。
「グロォォォォォッ!」
しかし、左の魔狼は口を開け、雄叫びをあげる。
衝撃波の魔法か!
魔狼の口の中に空気の塊が発生しているのを見て取ると、攻勢防御に出る。
はぁぁっ!!
その魔法は口さえ閉じればっ!!
声にならない声を出しながら僕は、衝撃波の魔法を放とうとした魔狼の顎の下から、サバイバルナイフを突き刺し魔法の発動を邪魔する。
僕の後ろの魔狼が動く気配がしたので、僕は前方に転がり、ソーサリーダガーを取る。
間一髪、振り下ろされた爪から逃げると、真後ろの魔狼にダガーを投擲。
「ギャッ!」
右目に深々と突き刺さる。
そのまま、拘束に使っていた2本の触手をフリーにし、ダガーを掴む。
右目から更に奥に突っ込み、脳を抉る。
2度3度と痙攣すると動かなくなったのが、何となく判った。
既に僕の意識は、他の魔狼に向けていて観察している余裕が無いからだ。
まだだ、動き続けないと……!!
僕は、目の前の前足ごと持ち上げている魔狼の心臓っぽい所にサバイバルナイフを突き立て、後方に転がり逃げる。
またもや間一髪、先程居た場所を、衝撃波の魔法がすり抜けていった。
どうやら右側の魔狼が放った物みたいだ。
僕は岩壁を背にして、攻めこまれる方向を限定する。
はぁはぁと自分の息があがっているのが判る。
予断を許さないが、フギンとムニンを確保できた。
ちょっと安堵。
そのまま触手は左腕も固定してテーピングの代わりにする。
残り4本の触手の内、2本をソーサリーダガーとサバイバルナイフの回収に向かわせる。
残り2本はフリーにして守りに。
僕の周りの魔狼は残り2匹だ。
何とか逃げれるか?
はぁ
そう思った時期もありました。
「ウォォォォォーーン」
ブランカが叫ぶと、それを聞いた2匹の魔狼が一斉に襲い掛かってくる。
はっ
左足で横に跳躍する。
僕が飛んだ方向には、口を開けて飛び掛ってくる魔狼がいる。
背中に向かって振り下ろされる爪を、触手で防ぎ、目の前の魔狼の顎に2本目の触手を乗せて僕は転がる。
魔狼の下をくぐって包囲網脱出を試みるが、見事に僕の考えが浅かった事を知らされる。
多分、白狼の指示だと思うが、僕の念動の魔法【インヴィジブルテンタクルス】対策に6頭2組を1パーティとして魔狼は襲撃しているらしい。
第3波は第2防衛ライン突破と共に、挟撃のため玉座へ向かっている。
そして包囲網を突破した僕の前には、防衛ラインを突破した第4波の魔狼6頭が、ヨダレをたらしながら待っていた。
「ぐるあぁぁぁっっ!」ガキンッ
うわぁっ
急いで、ナイフを回収する。
サバイバルナイフはしまって、ソーサリーダガーを右手に持つ。
僕は3本の触手を使って、周りから襲ってくる魔狼の攻撃を何とかしのぐと、残り1本を柱に向かって伸ばす。
息が上がって辛い。
一旦、落ち着ける場所に逃げよう。
「グォォォンっ!」
またかっ!
爪を避けつつも僕は、見えない触手で掴んだ柱に向かって跳躍、伸びていた触手を一気に縮ませる。
「ゴムゴムの~~~っ!!」
あ、良かった、カラス死んで無い。
血を吐きながらワンビーンズのギャグを言ってくれた。
そんな気を抜いた瞬間だった。
――― 熱っ!
右脚に衝撃と痛みが走る。
魔狼の爪が掠ったらしい。
だがそれだけで、それなりに厚い布地は引き裂かれ、僕の脚からは血が吹き出ている。
まずい
空中で体制が崩れるっ!!
あ、死ぬ。
もう、これは死ぬ。
でも死ねない。
死ぬのに死ねない、死ぬ死ぬ詐欺。
というか出血性のショック症状の事を心配しておかないと。
こんなところd
じゃなくてっっ!
再度、触手を柱に伸ばす。
フギン、ムニン、まだ意識はあるね?
「イ、イェス、マスター」
もう少しだけ我慢して。
まだやれる。
逃げ切ってみせる。
柱に触手を巻きつけた僕は、触手が縮む力を利用して空中に浮かんでいる。
正確には柱を中心に空中を横回転している最中だ。
まぁ、ジョフクとの戦闘中にやった事を、そのままやっただけなんだけど。
僕のすぐ横を衝撃波が駆け抜ける。
数頭の魔狼から放たれた魔法だ。
うーん。
どうも魔狼は縦横などの2次元的な動きにはすばやく反応するけど、上下といった3次元的な動きには一瞬反応が遅れるみたいだ。
衝撃波も命中精度が落ちているみたいだし、飛び上がって爪を立てる奴、牙で引き裂こうとする奴、その全てがワンテンポずれている。
コレは使えるかも。
僕は、左腕にまきつけてフギントムニンを落とさないようにしている触手以外をフリーにする。
一瞬、遠心力で飛ばされるが、今度は3本の触手を、それぞれ別の柱と岩壁に巻き付ける。
暫くすると、僕の身体は空中で静止した。
丁度、三角形の中央に位置する所だ。
だけど高さは4mぐらいなので魔狼がジャンプすれば、すぐにとどく。
そこで、この3本の触手の長さをそれぞれ連動させて伸長させる。
要はランダムに三角形の平面上を動いて回避しようという策だ。
これで身の安全は確保した。
息も整える事ができる。
残った最後の触手は、フギンとムニンの翼の回収に向かわせ、僕はソーサリーダガーを構えると、玉座の方の魔狼に投擲する。
玉座の状況は甚だまずい。
第3防衛ラインに撤退したくてもできないという状況だ。
白狼とドラコニーが対峙しているが、頭1つ分ブランカの方が大きいのでドラコニーが不利だ。
実際、ブランカの傷はドラコニーの爪によるかすり傷だけだ。
しかしドラコニーの方は、金色のたてがみは血で赤く染まり、翼は右翼が半ばから折れて飛行できない状態になっている。
リュネットとグレイブはドラコニーの反対側で、僕が取り逃がした6頭と戦っている。
だが圧倒的に不利だ。
失明してる割には的確な攻撃をしているグレイブだが、やはり多勢に無勢だ。
相手に一撃を入れている間に3箇所も傷を負っている。
驚くべきはそのタフさだけど、いつまでも持つはずが無い。
リュネットに至っては、玉座の後ろで寝かされているジョフクを、護衛しながら何とか戦っていると言ったところだ。
フギン、ムニン。
「ご、ごあ?」
僕の呼びかけに、少し弱そうに応えるカラス。
重量軽減の魔法【デクリーズウェイト】って僕自身にかける事はできる?
「む、無理ダ。
構築時に単体の無機物のみに使用すル魔法として設定してあル。
再構築して造りなおス事もできルが、時間がかかる上に難易度が跳ね上がる」
そっか……。
じゃあ……次の策だ。
僕は魔狼を一網打尽にする策を全員に伝える。
もちろん白い魔狼が人間の言語が判る可能性を考慮して、向こうのフギンとムニンには小声でグレイブとリュネットに伝えた。
僕の投擲したソーサリーダガーが玉座の1頭に当たると同時に、その隙をついてリュネットがナイフを投擲する。
「うおぉぉぉっ!!」
それを気配だけで察したらしいグレイブが、両刃の戦斧を叩きつける。
脳漿を飛び散らせ1頭が沈む。
だが、その間に2頭の爪が、鋼の鎧を引き裂いている。
「今だっ!」
向こうのフギンとムニンを喋らせ、第3防衛ラインへと撤収させる。
まずリュネットがジョフクを抱えて、フギントムニンの案内の元、壁の幻影によって隠された通路に飛び込む。
次に、ドラコニー。
最後にグレイブだ。
白狼がドラコニーを追撃しようとした所を、触手で回収したソーサリーダガーを投擲する。
そのまま触手はグレイブを追撃しようとする先頭の魔狼の脚を引っ掛ける。
やっぱり使えるなぁ、触手。
日本文化の極みだよ。
(ほぅ……そこまでお主様に褒められるとは、なんと言うかこそばゆいのぅ)
(高い拡張性にステルス、非常に効率的)
(へー♪そんなに触手プレイが好きなんだぁ~。
やっぱり御主人様ってば、純愛より陵辱が好きなんじゃない?
HENTAI的な)
うう、雲雀はなんでいつも、そっちに話を持っていくかな?
(あははっ、ごめ~ん。
さて、今、駐輪場についたから)
(すまんの、少しばかり手間取った。
見た所、何か策があるようじゃが、まだ持ちこたえれるかや?)
(……面目ない)
三者三様の話が入ってくる。
それぞれに対して、答えてもいいが、ちょっとばかり忙しいのでたった1つ返事をしておく。
へるぷみー。
いや実際、困った状況ではある。
皆は第3防衛ラインまで下がったので良いけど、白狼は再び威力偵察を試みるべく3頭を玉座付近に置いて、残りは全部僕に向かって来てる。
20頭近くの魔狼に囲まれた状態が今の僕です。
まだ入り口から6頭ずつ入って来るし……。
今は、時間稼ぎをしている最中だ。
困った事と言うのは、予想以上に魔狼が頭良かった事。
いや、正確には指揮をしている白い魔狼・ブランカの頭が良くて、その部下である魔狼が高い練度を持った兵隊となっているという事か。
ブランカは、空中に浮かんでいる僕のランダム回避範囲が3角形であるという事を読み取り、飽和攻撃させるという事に出たのだ。
この回避方法を使い初めて、まだ1分ちょっとしか立ってないのにっ!!
あー、もう!
今度ヴラドに無敵の魔法【ヤンマーニ】を作ってもらおう!
事象操作ぐらいきっとお手の物さ!
「もう少し待ってクレ、マスター」
フギンとムニンの苦しそうな声が、僕を冷静に戻す。
ふぅ、大丈夫。幾らでも待つよ。
この作戦の要はフギンとムニンなんだから。
成功すれば一網打尽にできる。
だけど……。
うわわわわ。
衝撃波がそこらから飛んでくる。
僕はそれを左腕の対魔法攻撃用防御魔法【マジックイーター】で受け止めってえええええっ!!
僕の左腕にあるはずの黒い球体が無い。
しまった、さっきの魔狼の攻撃で消えていたのか!!
くそう。
消えるんなら、警報ぐらい鳴らしてくれ!!
っと、急いで回避をsぶべっ!!
衝撃波が僕を襲い、空中に飛ばされる。
一瞬の浮遊感。
今ので念動の魔法【インヴィジブルテンタクルス】の拘束の力が途切れ、僕を固定しておく事ができなくなったのだ。
まずい。
4mも落下したら、確実に死ねる。
あ、でもスペランカーな冒険家よりは凄いかも。
とか言う前に、再度触手を伸ばす。
目に付いた物に適当に巻きつかせ、空中で身体を固定しないと、狼地獄にまっさかさまだ。
「ウォォン!」
え?
玉座の隣、白い魔狼・ブランカの口から雪弾が発射される。
いや、正確に言うと直径1mぐらいの雪球だ。
ヴォォォンッ
まずい、避けれない!
ガンッと衝撃とともに押し上げれれ、僕は天井に叩きつけられる。
がはっ
身体中から何かが折れた音が聞こえ、意識が遠のく。
しまった、左手!
雪球の直撃を受ける事はなかったが、今のショックで念動が解け、フギンとムニンが落下している。
くぅ。
落下を止めないとっ!
急いで【インヴィジブルテンタクルス】を使って、落下中のフギンとムニンを拾う。
残り4本中、2本の触手をそれぞれ柱にからめて、残り2本で物理防御用に玉座を持ってくる。
「ウォォン!」
再びブランカの吼え声。
あっ!!
僕の行動は織り込み済みかっ!!
僕が空中で身体を固定するのは予想通りだったらしく、ブランカは再度、僕に魔法を打ち込む。
今度は先程みたいな雪球ではなく、ツララだ。
先の尖ったつららが何十本とブランカの周りに現れ、僕に向かって放たれる。
僕は自分の前に玉座をかざして、ツララを受ける。
玉座は、幅は180cm弱高さ250cm程の木製の椅子で、僕みたいなデブでも悠々と隠れる事のできる大きさだ。
更に驚いた事に、物理及び魔法防御能力がある優れ物!!
不測の事態に備えて、という事だろう。
一家に一脚は欲しい玉座!
でもお高いんでしょう?
そんな事はありません!
今なら格安価格で魔狼を全滅してくれたらもう1脚つけちゃいます!!
わぁ、これなら魔狼に囲まれても安心ですね!
「マスター?」
はっ!?
いかんいかん、白昼夢です。
ドガドガドガドガっ
ツララの突き刺さる痛い音が響いてくるが、うん、大丈夫みたいだ。
ドガドガドガドガっ
おお、凄い凄い、さすが玉座だと思っていると
ドガドガドギャッベキッ
え?
いともあっけなくツララに破壊されていく玉座。
ヴラド、もっとましな玉座を置いといて欲しかった……。
こんな玉座じゃクーリングオフされるよ?
フギンとムニンを庇うようにしつつ、小さくなっていく椅子の陰に隠れる。
ぐっ
右足に激痛。
確かめるよりも先に、再度、触手の拘束を強める。
はぁっと息を吐く。
寒気を感じ始めた。
先程の傷の状態を確かめようと右足を見る。
掠っただけで靴の先が消えていて……うう、多分、右足の指は無くなっている……。
血が出てないのは凍っているからだろうか?
とりあえず、誰も言ってくれないので自作自演で。
もうやめて!僕のライフはゼロよ!
「いや、それは嘘だロ?」
弱々しく笑うカラス。
魔法はもういいの?
「完成ダ」にっ
ならココから絶対脱出してみせる!!
どちらにしろ馬鹿な事をやっているヒマなく、玉座のライフはゼロなので、謁見の間の入り口へと触手を使って空中移動する。
その際に右足が血を吹き始めたので、触手を使って圧迫する。
「先に言っておクが、重傷治癒の魔法は使えなイゾ」
うぃ、判った。
ぜー、ぜー
殆どが触手任せで動いていないのに、息が荒いというか、呼吸が速い。
多分、今、鏡を見たら顔面蒼白な僕がいるんだろうな。
さて、謁見の間の入り口に到着。
フギンとムニンにお願いした事は、重量軽減の魔法【デクリーズウェイト】改の効果を高めた魔法を、3つかけてもらう事だけだ。
上手くいけば一網打尽だ。
いくぞっ
「くらえっ」
景気良く、フギンとムニンが僕の代わりに喋ってくれる。
フリーになっている触手2本を使って、ジョフクが【サモンストーンウォール】で召還した岩壁の上と下部分にからませる。
軽い。
そのまま天井近くまで持ち上げ、ブランカ目掛けて投擲っ!
「グルァッ!?」
ゴガァァァァァンッ!!
残念、避けられた。
だが、隠し通路を襲っていた3頭は巻き添えに出来たのでよしとする。
「おい!勇者っ!
こっちまで破片が飛んできたぞっ!!
ぺっぺっ、くそ、口ン中入った」
「ふ、ふにゃ~、なんでそんな高難易度の魔法使っているのよ~~~」
隠し通路にも影響というか、破片が入ったらしい。
「ごめん、まだ続きがあるから気をつけて!」
僕は2人に謝ると、次の岩壁を持ち上げて、謁見の間の入り口に蓋をする。
これで、外の通路で待機している魔狼と分断できた。
「オオオォォォーーーンッ!!」
ブランカが悲鳴にも似た雄叫びを上げる。
それを聞いた魔狼たちがいっせいに散開しようとするがそうはさせない!
ハァァァァッ!
最後のメインディッシュだ!
今までに使用した岩壁はジョフクが3回召還した岩壁の内、小さい物っ!
最後は、一番最初に召還し、僕とドラコニーを分断するのに使用した高さ5m、長さ30mの岩壁だ。
流石に持ち上げる事は出来ないので、そのまま倒す。
くらぇぇぇぇっ!
ゴガガガガガァァァァン
ぶしゃあああっ!!
辺り一面を血飛沫が舞う。
床には池の様に血溜りができ、壁や柱には赤黒い血と肉片がべっとりと染み付く。
死の臭いが充満する部屋の中、もうもうとした赤い煙の先に動く者がいる。
白い魔狼・ブランカと運良く逃げる事の出来た魔狼2頭だ。
まだ生きているのか。
ごくっ
結果としては良しとしよう。
僕は急いで隠し通路へと向かう。
もちろん、歩きではなく、触手でターザンのように移動してだ。
途中、天井で擬態して様子を窺っていた赤スライムを拾うと急いで身体に巻きつかせる。
もちろんソーサリーダガーも忘れない。
ごほっごほっ
「皆さん、大丈夫ですか?」
とっ、と着地しようとして、転びそうになる。
むむぅ~。
足の指が無いと、物凄く歩きづらいというか、歩けない。
僕は隠し通路へと入ると、状況の確認をする。
酷いものだった。
豚顔巨漢のグレイブの鎧は既に全壊し、上半身裸で戦っていたみたいだ。
魔狼の返り血と自身の血で紅くない所を探すのが大変なくらいだ。
「浅い傷は治してもらってるからな、まだ暫くは持つぜ?」
そうは言っているが、魔狼の爪の鋭さはこっちも把握している。
本当にタフだな、オークってのは。
猫耳眼鏡っ娘のリュネットは、怪我はしていないが、疲労の為か顔が青白い。
「大丈夫ですか?」
「いや、無理、ウチそんなに回復魔法は得意じゃないのよ?
これ以上は無理」
「?」
「魔法のバックラッシュだナ。
余リ無理はさせなイほうが良イゾ?マスター」
じゃあ、そうしよう。
フギンとムニンの助言があったので、それに従い、無理はしないようにと伝える。
「そう言うアンタこそ顔が青いよ?勇者」
「まぁ、お互い様って事で」
僕は辺りを見回す。
「まだジョフクさんは起きませんか?」
「あー、それな……」
グレイブが言葉を濁す。
僕が老魔法師ジョフクを見ると、拳大の岩の破片がこめかみに当たったらしい。
流血の跡がある。
どうやら、僕の投擲した岩壁の破片に当たった様だ。
「あ~~、面目ない」
「一応、ウチが軽度の外傷治癒魔法【ヒール】を使っておいた」
「あ、ありがとうございます」
「だけど、勇者の足や腕の怪我は無理よ、治せない」
「あ、うん。それは大丈夫です」
全然大丈夫じゃないけどね。
ドラコニーを見る。
翼は折れ、全身に深い切り傷が刻まれ、未だ血は止まっていない。
「まだ、もちそう?」
「がぉ……」
返事をするのも辛そうだ。
フギンとムニンを見る。
僕が左腕で抱えているカラスと対になる存在だ。
「ありがとう、おかげで助かった」
「気にすルナ。それよリ片割れをこっちニ」
僕が翼の折れた方のフギンとムニンを渡す。
「しばらクは、休息させたイ。駄目カ?」
喋れなくなった僕は、心話でフギンとムニンに話しかける。
駄目も何も、治癒の手段があるならば急いでやって欲しいんだけど?
これ命令ね?
「感謝すル」
怪我した方が答えると、そのまま影にずぶずぶっと入っていく。
湖面に波が立つように、ちゃぽんっという音と共にカラスは影の中へと姿を消した。
さて、あとどれぐらい待てば良いのか?
予想では5分。
短いようで長い時間だ。
こっちの戦闘能力は、今やグレイブのみだ。
良く持ちこたえたなぁ。
後は防御を固めて逃げまくる。
はぁ
息があがってきた。
寒気がする。
「おい、勇者。この後はどーすんだよ」
「敵、魔狼の狙いは僕の命だと思っていたけど、どうも違うみたい。
明らかにこの奥に用事があるみたいだし……」
そう、先程の戦いから、魔狼は僕の殺害よりも侵攻する事に重点を置いていた。
というか、僕の事を気にかけてない。
どっちかって言うと僕の事を障害物、宝を守る番人みたいに見ている様だ。
となると、奴等の目的、それは地球だ。
魔狼は地球を狙っている。
理由は不明だが、先んずれば人を制す。
地球に一番乗りはそれだけで旨みがあるんだろう。
「……なぁ、勇者。魔狼がこの奥を目指すって事は、あいつらが欲しがる物があるって事か?
それをくれてやって、見逃してもらうってのは駄目なのか?」
「それはできない」
「そっか……」
「……」
「……」
どうしよう、話すべきだろうか?
この奥に異界門[ゲイト]があるって。
彼らの目的は多分、トレジャーハントの類だろう。
だとしたら、この奥に何があるかを知るだけで、その情報は金になる。
結果、他のトレジャーハンターを呼び込む事になる。
そうでなくとも、地球での魔術の様々な概念は、このラパ・ヌイでは価値を持つ。
それで友好関係を築けるなら、ありがたいけど……往々にして2つの文明が出会った時には争いが起きている。
歴史が証明している以上、同じ事が起こると考えて良いだろう。
でも……
「グレイブさん、リュネットさん。
この奥にある宝とは、異界門[ゲイト]です」
「ふにゃ!?」
「え?」
「僕は異界門[ゲイト]の向こう、地球という世界から来ました」
「ちょ、ちょっと待つにゃ!?」
「おいおいおい、じゃあ何か?
お前は、異世界人かよ!」
「はい、まぁ、そうなります」
「稼動中の異界門[ゲイト]が3つって……どうなってやがる。
100年に1つとか言う話なんじゃねぇのかよ?」
「ちょっとまずいかもにゃ……こほん、かもね」
3つ?
いや、ここはそれよりも。
「いえ、僕達は侵略する気はありません。
どちらかというと相互不干渉、悪くて不戦条約に落ち着きたいと思います」
「ああ、そういう事かい。
そうだな、俺のご先祖様もそうやってイプセプスを守ったらしいからな。
いいだろう、必ず守ってやるぜ!」
「ウチは、そんな事どーでも良いけど、まぁグレイブがヤるなら仕方ないわね」
「ありがとうございます。
ですが、無理はしないで下さい。
入り口に蓋をしたから、残りはブランカと魔狼2頭ですけど、それでも充分脅威です」
「確かに、な。
だが裏を返せば後はそれだけって事だろ?
じゃあ、それぐらいはやってやるぜ!!」
「ん?魔狼王は来てないの?」
「さぁ知らん。
おい勇者、そこらへん、どーなんだ?」
「えーっと魔狼王……ですか?
この群れのリーダーはブランカでは?」
「ん?……ああ、今回は別働隊を率いているのね……なら大丈夫なのかな?」
「頭脳労働はリュネット担当だ、まかせるぜ」
「?」
どういう事だろう、魔狼王ってなに?
はぁーはぁー。
「ちょっと勇者、本当に大丈夫なの?」
リュネットさんが僕の顔を覗き込んでくるが、答えるのも億劫だ。
息が荒い。
寒気がする。
力が出ない。
「来たぞっ!!」
僕の思考を中断するように、魔狼が1頭隠し通路に入ってくる。
「うぉぉぉっ、死ねやコラァッ」
ゴンッ!
魔狼の鼻先に両刃の戦斧を叩きつけるグレイブ。
「ギャインッ」
「グレイブさん、無理だったら催涙スプレー使って下がってください。
あと5分ぐらいで援軍が来ます。
それまでの辛抱ですから、無理だけはしないように」
「援軍が?」
「今頃来て頼りになるの?」
「随分な言い草じゃな?」
ヴラドがフギンとムニンを介して喋る。
「何だ?さっきから勇者よりも勇者らしく、大言壮語を吐いていた祖竜喰らい[ドラコエド]じゃない」www
「ほほぅ……言いよるのぅ。
お主様?この猫、魔狼のついでに殺して良いかや?」怒
まだ駄目……。
(ちょっとヤシロ、大丈夫?)
多分、大丈夫。
(時雨、すぐに向かう)
よろしく。
ホッとした瞬間、意識が朦朧とし始めた。
少しばかり、いや、かなり疲れた。
息が荒いが、血止めはスライムで行なったからこれ以上の出血は無いはず。
頭がくらくらする。
寒い。
もう寝よう、すぐ寝よう。
だけど、白い魔狼は、僕を寝かすつもりなんてなかったらしい。
戦意も喪失してないようだ。
「ウヲォォォォォォーーーーーーーン」
疲れた僕の身体を起こす、ブランカの遠吠え。
「ガァァァァーーーッ!」
謁見の間のすぐ外から、今までの魔狼とは違った声が聞こえた。
「あれ?」
リュネットの声
「おい……」
グレイブのいっそう低くなった声。
「来てるわね」
「ああ、こりゃ間違いない」
何だろう?
あ。
さっきの魔狼王って奴だろうか?
ゴガァァァァン!
入り口の岩壁が破壊される。
またですか……。
やはり付け焼刃の策じゃあ、力の前には適わないなぁ。
「……」ごくっ
「……」ぶるぶる
見ると、グレイブさんとリュネットさんが押し黙っている。
もうもうと煙が立つ中を、体高2mはある巨狼が、配下の魔狼を何十頭と引き連れて室内に入ってくる。
「へっ」
「来たにゃ……!魔狼王ロボ!」
言いにくそうな名前だね。
ん?
ロボ?
……。
ブランカ……狼……。
……。
…………。
あ。
えーと……なんだっけ、あー。
シートンだ。
シートンの狼王ロボ、そうだ、それでツガイが確かブランカ……!
あれは確か舞台がカナダだったかアメリカだったか……どっちだっけ?
いやいや、そんな事より、馬より大きい狼なんて、どうやって相手にしろと……。
身体に鞭打って立ち上がらせる。
今ココで、全員に死ぬまで戦ってと言えば、多分僕は生き延びる事ができるだろう。
どんなに数が多くとも、この隠し通路を魔狼が2頭通るには狭いからだ。
だけど。
僕は甘いのだろう。
さっきまで殺し合いをしていた人間を助けようだなんて。
(まぁ、お主様が死なない限りにおいては、あの者達をどう扱おうと構わんのじゃ。
お主様の好きにすると良いと思うぞ)
うん、ありがとう。
たった5分間でも連帯感みたいな物ができているのは確かだ。
正直、見捨てる事はできない、というか見捨てるのは後味が悪い。
(それは偽善だよ~~御主人様ぁ♪)
雲雀が笑いながら心話を送ってくる。
何もこんな時に偽悪を気取らなくても……。
僕が一番最初に好きになった人・月見里雲雀は、困っている人を見捨てる事を良しとしない人だ。
ましてや、一時でも共に戦った人を生贄にして、自分だけ助かろうとしたら見捨てられる。
(そんな事しないって。
私の方が捨てられる事はあっても逆は無いでしょ~~?)
軽蔑はされるでしょ?
例え、どんな状況でも好かれるように努力すると、ハーレム作った時にきめたんだ。
結論として偽善結構、やらない善よりやる偽善だ。
(あと5分以内に必ずつく……!!
時雨は、その間生き延びる為の策を練る)
伊織……、判った。
残り5分間、あがいてみせる。
現在の僕の恋人・戸隠伊織は、効率重視の人で一見クールに見えるが、その実は激情家だ。
(いや、私は常に周囲に気を配り、沈着冷静を心がけ、有事に備え抜かりなく準備をしているぞ)
そーですか。
じゃあ少しだけ見習って、良い案が浮かばないなら、浮かぶように環境を整えようか。
すぅ、はぁ
深呼吸をする。
ココまでの道のりで使えそうな物がなかったか、忘れているものは無いか思考の淵に入る。
頭痛も寒気も疲労も全部忘れるぐらいに集中する。
(お主様、たった1つだけ。
何が起ころうとも必ず生きるのじゃ。死ぬのは許さんぞ)
ヴラド……うぃ、了解。
運命の出会いといえば良いのか、僕の愛人になった人・ヴラド。
ヴラドがいなかったら、多分ハーレムなんて作ろうと思わずに、未だに伊織と雲雀、どちらを恋人にしようか、どっちつかずで迷っていたんだろう。
さて、取りあえず策が浮かんだんだけど、ヴラド、宝物庫を犠牲にする許可が欲しいんだけど?
(好きに使うが良い。
あれらは確かに形見の品じゃが、思い出はこの胸にある。
今を生きる、お主様の方が重要じゃ)
ありがと。
三者三様の事を言われたけど、まぁ頑張れという事で……。
取りあえず、全員が生き延びる為の策を実行する。
再びフギンとムニンに命令して、喋ってもらう。
「次に来るのが、ロボやブランカじゃなければ、少し戦ったら催涙スプレー使って撤退して下さい」
「ロボやブランカだったらどうするのよ」
「すぐに逃げて」
「おいおい、勇者らしい発言だが、それじゃあ俺達の立てた誓いが嘘だった事になる。
それは我慢ならん」
えーっと。
誇り高いというか、なんというか。
「じゃあ、逃走ではなく戦略的な撤退をして下さい。
真後ろに向かって、全速全進です」
「あ、それ、ウチ得意にゃ!」
「それはいいけど、勇者、お前はどーすんだ」
「僕は、宝物庫でロボを迎え撃ちます!!」
後で聞いた所、顔面蒼白で今にも死にそうな顔した僕が、幽鬼の様に目だけはランランと輝かせて話すのはとっても怖かったらしい。
(ロボでロボを迎え撃つ?)
伊織のお言葉。
まぁ、動けばね?




