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世界の 法則が 乱れる!  作者: JR
第06話 異世界の中心で I と叫ぶ
91/169

ひとつの命を救うのは、無限の未来を救うこと


――――グルゥゥゥ!!


ついに、部屋の入り口から魔狼の唸り声が聞こえた。

既にドラコニーは、謁見の間の入り口で戦闘態勢に入っている。


暫くは1人で持ちこたえてもらおう。


僕は念動の魔法【インヴィジブルテンタクルス】を使って、謁見の間の入り口となる両開きの扉の片側を閉める。

床と天井に棒を突き刺して施錠するタイプなので、片側だけ閉めるという事が可能なのだ。


入り口を絞る事で、魔狼を1頭ずつしか入れないようにして、ドラコニーと1対1の状態を作り上げる。

入り口から撤退する時は、ドラコニーが戦闘不能になるか、閉じた扉が破壊されたらだ。

(む、確かに1対1ならばドラコニーはカニス・ディルスには負けんじゃろぅ。問題は疲労じゃな)


うん。そういう事。

これで4分もたせる。



僕は、左腰にあるサバイバルナイフをホルダーごと左腕にあてがい、結束バンドでテーピングする。

添え木として無いよりマシのレベルだが、仕方ない。

左手にはソーサリーダガーを持たせる。

右手でグレイブを持とうとするが……重ッッ!!



ダメだ、持ち上げる事ができん。

うわ。これ、よく見たら柄の部分まで金属製だ。

道理で重い訳だ。

どんな馬鹿力だよ、豚顔巨漢。



そもそも、何で棹上武器なんて迷宮[ダンジョン]攻略に不向きな武器を持ってきてたんだ?

通路とかじゃ幅が狭くって、棹上武器はそのリーチを活かす事ができないだろうに……?


……。

漢の浪漫だろうか?

ああ、うん、よく判る。

かっこいいっ!

きっとそうに違いない!


(あー、違うと思うぞぇ。

 多分主武装は、両刃の戦斧じゃろうな。

 グレイブは牽制と罠の捜索、敵の足止めなどに使用していたのじゃろう)

そうなんだ。





ヴラドと話をしている間にも、次々と手を打つ。



魔法【インヴィジブルテンタクルス】でカラスをそっと包み込むと、玉座の方に送る。

トランシーバー役として働いてもらおう。

現在、部屋の中央にいる僕が、カラスと心話を通じて玉座にいる冒険者3人組と話ができるからだ。


早速、僕の言葉を喋ってもらう。

「リュネットさんとグレイブさんは玉座で待機していて下さい。

 後でこちらまで前線を後退しますので、その時に動いてもらいます」


ジョフクは気絶している。

グレイブは、まだ赤スライムによる全身洗浄が終わっていない。

マトモに動けるのはリュネットだけだが、タンクは勤まりそうに無い。


「グレイブさんには後でタンク役をお願いしますので、もし失明しているようなら、リュネットさんが目の代わりをして下さい」

「タンクってなに?」

「壁です」

「壁?良く判らない隠語にゃ……こほん、隠語ね」

えーと。

なんて言えばいいんだろう?


「この部屋の入り口を突破された後に、玉座に近づく狼の押さえ役をしてもらいます。

 暫くは入り口で頑張れるので、それまでに回復しておいて下さい」

「ああ、そういう事ね。判ったわ」

「それから、コレを渡しておきます」

「なに?」

「カラスが脚に掴んでいると思いますが、催涙スプレーです。

 使用方法は、ヴラドが知っていますので聞いて下さい」

「ヴラドって誰?」

「あーっと、この城の主です。

 さっきから貴女達に話しかけていた人ですが……」

「あー。えーっと、祖竜喰らい[ドラコエド]だっけ」ぷwww

あ。

ごくっ。


僕は急いで退散した方が良さそうな気がしたので、引き下がる事にする。




カラス、じゃあこっちの方はヨロシク。

(いや、お主様?従属魔とは言っても、きちんと名前は呼んでやるべきじゃ。

 いつまでも“カラス”では可哀相じゃろう?)

あ、それもそうか。

ヴラドの努めて冷静な声を聞きながら、僕はフギンとムニンに、冒険者3人組の様子を伝えてもらう様にお願いする。

(だが断ル)

命令する。

(イェス、マスター)


はぁぁぁ~~~っ

いや、まぁ確かにね、何百年と仕えたヴォータンから引き離して悪いとは思うけど、こうもあからさまだと傷つくなぁ。





「ごあ!ごあ!」

あー。はいはい“血だ!血だ!”ね。

おkおk、後で血ぐらい上げるよ、輸血してもらいながら……もう。


ん?


あれ?

今、耳元で……。


見るとフギンとムニンが僕の右肩に降りてくる。

いや、ついさっき玉座で連絡員役をしてって命令したじゃん!



「マスター、今すぐ血ヲ貰ウ!」

それは却下だ。

せっかく傷塞いだんだから。

それより、僕の命令……っと玉座の方を見ると、向こうにもカラスがいる。


あれ?


「フギンとムニンダ。夜露死苦」

あ……。

ああっ!

もう片方のフギンとムニンか!

どうやって来たのか判らないけど、ありがたい。



ヨロシク、フギンとムニン。

僕は手を差し出す。


「違う」

へ?

「フギントムニンダ」

フギントムニンダ?


「そう、それが名前ダ」

そ、そうなんだ。

じゃあ改めて……


よろしく、フギントムニンダ。


「冗談モ通じないのカ、馬鹿ダナ」



―――ぶちっ






こいつ絞めよう。

「冗談ダ、マスター」

カラスだって結局は鳥肉だ。

「フィクションでス、マスター」

鶏肉と一緒の味だよ。

「冗談の判ル男はかっこいいゾ、マスター」

鍋だ。

「違いの判ル男だナ、マスターハ」

今日の夜は烏鍋だ。

「ごめんなさイ」

そうか、今から血抜きしなきゃ……

「許しテ」

鳥の血を使って、魔法で僕の血に変成できないかな?

「ツンデレなんでス」

……。

「……」

……デレてないようだけど?

「ま、まだツンの状態なのダ!」

そっか、じゃあ価値は無いから食べちゃおう。

「待て待テッ!すぐにデレル!

 穴に入れられテ、ひーひー言うようになル!」

口からでまかせを……。

「ほ、本当ダ!

 それより戦闘準備をするべきダ!

 マスターッ!!」


フギンとムニンは肩から下りると、グレイブへと飛び移る。

「今からこのグレイブを軽くスルッ!」

え?できるの?

「命令なラ」


……。

うーん。

命令される事にこだわっているみたいだけど、ココはフギンとムニンにとって譲れない所なのかな……?


むぅ……

判った、命令する。

このグレイブを軽くして?


「ふ、ふん!!

 アンタの為にやるんじゃないんだからネッ!」

はぁ。

カラスに言われてもなぁ。





魔法をかけ終わったグレイブを持ち上げる。

驚いた。

あれだけ重かったグレイブが物凄く軽い。

物干し竿みたいだ。いやいや刀の事じゃなくて、家の軒差しに置いてあるのですよ?

ただ、少しばかり問題がありそうだ。

完全に重心バランスが狂っていて、片手で持てるけど扱いづらい。

棹上武器のリーチの長さを活かして戦うなら、右手と念動の魔法【インヴィジブルテンタクルス】を併用して使うしかないようだ。


はぁぁぁぁぁ。

カラスでさえ魔法が使えるってのに僕は……。


「アホーゥ、アホーッ」

むか。


耳元で五月蝿くさえずるカラスを睨む。

「ただ、鳴いていルだけダゾ?アホーゥ!」

くそう。






「ところデお前様ヨ」

「?」

フギンとムニンが話してくる。


「お前様、マスター、主殿、うえさま、御主人様ぁ、お兄ちゃん、どの呼び方が良イ?」

お兄ちゃんって……


まぁいいや。

じゃあ、普通にマスターでお願い。


「だが断ル」

はぁぁぁ。

こいつは……


「命令するのダ、マスターよ」

あ、そっか。

なんというか、少しずつだけど付き合い方が判った気がする。


「命令だ、フギンとムニン。

 僕の事をマスターと呼べ」

「イェス、マイマスター!」






既に魔狼とドラコニーの戦いは始まっていた。

ドラコニーの周りには魔狼の屍骸が4頭ほど積み上げられている。


グルッゥゥゥ、ウォンウォン!!

バシッ!

キャインッ!!ぴくぴく


5頭目だ。


しかし、本当に大きいなぁ。

この狼。


何年前だったか忘れたけど、カナダで巨狼が罠にかかったっていうニュースがあったけど、あの狼も体高は1m無かった。

それでも充分大きかったんだけどね。




さぁ、僕も戦おう。

僕はグレイブを持ち上げる。


傷は塞いだが、傷めた部分は治っていないので右脚を引きずって動く。

すぐに嫌な汗が出てきて、眩暈が僕を襲う。


ぜー、はーっ


息を整えつつも前線、謁見の間入り口へ。

すでに7頭目の魔狼の屍骸が積んであった。




僕も入り口横に隠れるようにして陣取る。

部屋の中に入ってきた、魔狼に対してグレイブを一薙ぎする簡単なお仕事です。


しゅるしゅるるるるるっ


「がぉんっ!!」

ドラコニーが吼えて、魔法をかき消す。

発動中の魔法を意志の力で、捻じ伏せる特殊能力【咆哮】だけど……どうやら魔狼の中で魔法を使う奴が居るらしい。



ぐるぁぁぁぁっ


魔法が掻き消される直前ぐらいに、部屋へと突撃してきた魔狼に向かって、僕は思いっきりグレイブを振り下ろす。

重量が無くなっているので、当然威力は落ちている。


その分は遠心力でカバーだっ!

くらぇっ!


魔狼を斬り伏せる。

よい感じに首に当たった。


ストンッ

ごんっ

ぼとっ。ごろごろ。


ぷしゃあああああっ





……え?


うぇえっ?


威力ありすぎ……なんだこれ。

首を一薙ぎで落とすって……まるでギロチンみたい。

鈴の音が聞こえそう。



「少しばかリ重量軽減の魔法【デクリーズウェイト】ヲ改造した魔法ダ」

「?」

「重量は変更して無イ。

 改造点は重力のかかル方向が、インパクトの瞬間に刃先の移動ベクトルと同じ方向になル様に、変更しただケ」

それは……凄い。

というか、このカラスの脳ミソが鳥のレベルを超えている。


「褒めテ」

だが断る。

……と言いたい所だけど、強気に出れないの僕の性か……。


ありがとう、助かった。

素直にお礼を言っておく。


「言葉よリ、態度よリ、血デ!」

はぁ。

何はともあれ、ありがたい事なので、次に怪我をした時に血を舐めて良いという事で手を打つ事にした。


それにしても魔法ってのは、使用者が柔軟な思考を持っていれば色々とできるんだなぁ。

「個人個人の才能次第ダ。

 今回の魔法ハ地球の世界法則[リアリティ]下で無ければ普通ハ使えなイ」

あ、もしかして……

インパクトとかベクトルといった考え方が、世界法則[リアリティ]に引っかかるのかな?

いや、それとも重量とか重力かな?






さて、こんな事をしてる間も魔狼の侵攻は続いている。

ただ、僕の予想していた4分は持ちこたえた。


グレイブが思った以上に使えるのだ。

僕みたいな非力な人間でも割りと使いこなせる。

まぁ、【インヴィジブルテンタクルス】を併用しているからこそなんだけど。




さてグレイブと言えば、玉座の豚顔巨漢な人ですが……

僕はフギンとムニンに心話の中継をお願い……じゃなかった、命令する。

「グレイブさん、そっちの用意はどうですか?

 催涙スプレーは落ちましたか?」

「ああ、取るには取れたぜ。

 だが、ちょっとばかり問題があってな」

「なんです?」

「爺さんが起きねぇ。

 そんなに力を入れて殴ったつもりは無いんだがなぁ。

 それともう1つ、俺の目が見えねぇ。

 こっちは、爺さんが起きれば解決する話だ」


……。

う~ん、結構厳しいかも……。


「グレイブさん、失明状態で魔狼と戦えそうですか?」

「1頭ずつなら何とかなるが、集団は無理だ」


「そうですか……」



僕は次の前線構築ラインを伝える。


現在、謁見の間はジョフクの作り出した岩壁で部屋が2分割されている。


2分割された部屋の内、ドラコニーが使っていた方が横幅が4mぐらいで、玉座まで一直線という回廊になっている。


僕とジョフクが戦っていた方は、横幅が15m程だ。

だけど途中で僕を囲おうとして、岩壁がコの字状になっている部分がある。

この部分は部屋の横幅が10mぐらいまで短くなっている。

そこで入り口を放棄したら、次の前線を構築するラインは、岩壁がコの字状になっているここに設定して迎撃を行う。


ただし、玉座を抜かれると挟撃される事になるので、グレイブ、リュネットはドラコニー回廊出口で回り込もうとする魔狼を迎撃する。

僕とドラコニーは、第2防衛ラインを2分間守って、その後、隠し通路まで撤退。





「隠し通路?」

猫耳眼鏡っ娘リュネットが疑問を返して来る。


ん?

あ……。

「そー言えば言ってなかったっけ……

 玉座の後ろにあるって」

「聞いてねーぞっ!」

豚顔巨漢グレイブの怒りのお言葉。


「ああ、ゴメン。

 とりあえず、ジョフクさんが起きても、この事は黙っておいて」

「何でだよ!」

「僕達全員が逃げ込むシェルターだから。

 もしもジョフクさん1人が入って、岩壁で蓋をされると全員が魔狼に殺される事になるからね」

「爺さんは、そんな事はしねぇ!!」

「判った、その言葉は信じるよ。

 だけど念の為、隠し通路の事は僕から話すから」

「ちっ!いけすかねぇなっ!てめぇはよっ!」

なんとでも言って下さい。

生きのびるのに必死なんだ。





バァンッ

僕の目の前で閉じていた扉がきしむ。


頭の良い魔狼が、僕が閉じた片方の扉を破壊しようと突撃をしたようだ。

この前線も、もう持たないだろう。

ドラコニーは今のところ魔法に対処できている。

流石にジョフクみたいな老獪な魔法使いがいない事を祈りたい。


僕は、近くに落ちていたリビングアーマーの剣を【インヴィジブルテンタクルス】で拾うと、フギンとムニンに魔法【デクリーズウェイト】改を剣にかけてくれるように命令する。

「イェス、マスター。命令なラ仕方なイ」



僕はドラコニーの翼に噛み付いている魔狼にグレイブを叩き斬る。

トータルで20頭近く殺している。




「魔法完了ダ、マスター」

ありがとう。


僕は剣を扉に対して垂直に構える。

もちろん【インヴィジブルテンタクルス】でだ。

右手に持ったグレイブは、ぺちぺちと入り口から顔を出している魔狼を突き刺している。



さてと。

扉の向こう側の魔狼が、体当たりをする瞬間を狙って……


ふんっ!!

僕は剣を突き刺す!


バァンッ

僕の目の前で、再び閉じていた扉がきしむ。

しかし、そこに吸い込まれる様に魔法【デクリーズウェイト】改を施した剣がするっと入り、反対側に突き出る。




「ぎゃいんっ」


手応えがあった。

今、扉の向こうには、自ら串刺しになった魔狼が居る。

扉をガリガリこすっている様だが……暫くすると聞こえなくなった。




僕は剣を突き刺すと同時に、もう1つのアクションをしている。

見えない触手、念動の魔法【インヴィジブルテンタクルス】を伸ばす。

狙いは扉の取っ手、両開きの扉の開いている方だ。


ふんっ


ばぁんっ!

「ぎゃいんっ!」


突っ込んできた魔狼めがけて、思いっきり扉を閉じる。

これで完全に扉は閉じた。

ガキ、カチャンッ

先程と同じ様に、杭の様な鍵を床と天井に突き刺し、施錠する。


ゴトン

更に今回は中央の取っ手部分下にある通常の鍵も使う。


すると一瞬、扉が輝く。



なんだろう?


(ああ、気にしなくて良いぞ、お主様)

ヴラドからの心話だ。

(ただ単に、施錠の魔法【クローズドドア】がかかっただけじゃ。

 完全に施錠すると、再び魔法がかかるようにしてあってのぅ。

 まぁ、要するに魔法の物品じゃ)


へぇ。

じゃあ、魔法破壊の魔法【ディスペルマジック】とか開錠の魔法を使われない限り、もう大丈夫って事なの?


ふぅ、助かった。

これで後はヴラド達が来るまでココで耐えれば良いんだ。


(ソレは無理)

伊織から、つれない返事。


(物理的に破壊する)

あ。

そっか……。





「第2防衛ラインまで撤収!

 グレイブさん、リュネットさん玉座側の防衛お願いしますっ!」

「おうっ!気に入らねぇが任せとけ!

 約束はきっちり守る!」


「判ったわ。ウチは遠距離やるから!」

「おぅ、任せた」


「ドラコニー!下がるよっ」

僕が2番目の防衛ラインに移動を開始すると、僕の言っている事が判るのか、ドラコニーもついて来てくれる。

フギンとムニンが二羽いてくれて助かった。

話せる事って重要だなぁ……。




歩いている間にも僕は、棹上武器の方のグレイブを念動の魔法【インヴィジブルテンタクルス】に持たせ、入り口に置いておく。

入ってきた魔狼に一撃を入れるためだ。

その後はすぐに手元まで回収する事になるけど。


その為にも、入り口の様子が判らないといけない。

僕は、右肩にとまっているフギンとムニンに、部屋の上空から入り口を監視する様に命令する。

「判っタ」


フギンとムニンの視覚に同調する。

上から謁見の間の入り口を見下ろす形になる。


ちょっと扉に近すぎるので、もう少し離れるように命令。

下手に近すぎると、魔狼の攻撃対象として認識されるかもしれないからだ。






バァンッ


謁見の間の扉が、再び揺れる。

剣が突き刺さってない方の扉に、魔狼が体当たりして破壊しようとしている。


僕は【インヴィジブルテンタクルス】の触手部分を少し慎重に動かす。

グレイブを持ったまま、扉に突き刺さっている剣へと指を伸ばして……

うまい事、グレイブと扉に突き刺さっている剣の柄を握る事ができた。

感覚的には、小指と薬指でグレイブを持ち、残りの指をニュッと伸ばして剣の柄を握っている感じだ。


ずずっ

扉から剣を抜くと、反対側へ。



再び扉に対して垂直に構える。


バァンッ

ザシュッ。

「ぎゃいんっ」


手応えありっ!ぐりぐり。






今の所、魔狼の攻撃は単調だから助かっているけど……。

魔狼達は、本当に僕を殺す為に、来てるのか?

ヴォータンのでまかせとは考えられないか?

何だろうなぁ、必死さが違うと言うか、僕を殺す以外の目的があるような気がするんだよな。

そう、何かのついでに僕を殺すと言うか、別の目的があってそっちを優先しているみたいな……。


楽観的過ぎるかなぁ?



……もし。

もしも、目的が僕を殺害する為で無いとしたら?


だとしたら、そもそも、なんで魔狼はココに来ているんだ?

わざわざ森林から出てきて、迷宮[ダンジョン]の最奥に……。



……。


一応、この謁見の間は、迷宮[ダンジョン]の最奥、これ以上は何も無いという事になっている。


建築学というか、建物の構造的な事を言うと、謁見の間が最奥ってのはおかしい。

城と言う公的な場の最奥であって、本来なら、ここから私室に繋がる通路とかがあるはずなんだけどな。

まぁ、今はいいや。


この謁見の間よりも奥にある物って言うと……?




フギンとムニン、敵の目的って何か知っている?

「それはどっちダ?

 カニス・ディルスか?ヴォータンか?」


うん、そうだね。

とりあえずは魔狼で。


もしかして魔狼の本来の役目って、地球侵略の先遣隊だったのかな?

「……」

別に知らないなら推測や噂話でもいいよ。


「ソレは命令カ?」

今日のところは命令で。


「イェス、マスター。

 魔狼どもには3日前にゲリとフレキがヴォータンより命を受けて話をしていル。

 内容は不明ダ。

 推測だが、新天地に一番最初に攻め込む為の話だろウ」

ゲリとフレキとはヴォータンの従属魔、2頭1対の狼だ。

フギンとムニンは僕と同じ推測か。


やはり、地球侵略への先遣隊……。

でも何故、こんなに遅れた?

ヴラドの推測では、昨日にはついているはずだった。


……。

まぁ、情報が少ない時に推測しても仕方ないので、一旦保留。





次はヴォ-タンの目的を聞く事にする。

今は呪法【隷属の誓い】によって僕の従属魔になっているが、フギンとムニンは元々はヴォータンのペットだ。

色々と知っている事は多いだろう。


だけど、話してくれるだろうか?

正直に言うと、命令で前の主の事を話せ、とはやりたく無い……。



どうしよう……


はぁ~~。

考えてても仕方ない。


今は命令するしかない……か。


フギンとムニンに命令。


ヴォータンの目的だと思える事を、フギンとムニンの推測で話せ。

ああ、ややこしい。



「色々と考えタネ♪ お兄ちゃん」

デレた!?


「ちなみにマスターよ。

 真面目に言うト、推測も何も判らン。

 ただ1つ言える事ハ、ヴォータンの目的は判らなイが、今回の目標は達成されタ。

 私の名前当てクイズをしていた時に余興と言っていただロウ?

 あの時点でヴォータンの目的は終わって、遊んでいたのダ」

ああ、だから余興ね。

確かになぁ。

ヴォータンならありそうだ。

“余の手の者が駆けつけるまでの余興”と言っていた。

ヴォータンの言う、余の手の者というのが魔狼なら、全てつじつまは合う。

まぁ、何か裏があるとしても、こっちも情報が少ない。

保留っと。


意識を現実に戻す。

せっかく考えても、生き残れなくちゃ意味が無い。





いつの間にか、扉に体当たりしてくる魔狼は居なくなっている、

だけど諦めたわけでは無さそうだ。


――――♪~~


あ、魔法か!!

哀しい泣き声の様な、細い細い詠唱。



だが――――



風?

全てを凍らせる寒々しい風を感じた瞬間。




ゴガアァァァァンッ!



両開きの扉が吹っ飛ぶ!

鍵も魔法もバリケード代わりの魔狼の屍骸も四散する。


室内の温度が下がる。

霜が降り、謁見の間入り口を白く染める。

だがそれも束の間だ。

もうもうたる煙と血飛沫が、白く変わった室内を、元に戻す。





吐く息が白く変わる中、それは現れた。



のそりと白い魔狼が入ってくる。



身体中に、風の結界をまとい、他の魔狼と比べても頭2つ分は大きい。

だが、それよりも僕を驚かせたのは、その眼。


明らかに知性のある眼だった。

直感でしかない。


だけど。


怖い。

この白い魔狼は怖い。






フギン、ムニン!!


僕は急いでフギンとムニンを戻す事にする。

グレイブはまだ必要だから、第2防衛ラインへと持ってくる。

その間、剣で白狼を牽制する事にする。



念動の魔法が、思っていた以上に色々と便利だ。

この魔法、結構当たりだと思う。

何より、触手ってのがいい。

素晴らしい。

エクセレント。

マーベラス。


っと、いかんいかん。





端から見てると、丁度、リビングソードみたいに空中に浮かんでいる剣が、白い魔狼の周りを踊るように廻って攻撃しようとしている。

そんな光景だ。


僕は、白狼めがけて必殺の突きを見舞う。



「ウォン」

バキンッ

一撃のもと剣は叩き壊される。


うわ、一撃かぁ。

あの爪……もしかして鋼より硬いとか?



「オオォォォーーーーーン」


遠吠えすると同時に、魔狼が雪崩れ込んでくる、

今度のは先程の奴らより、体が一回り大きい。

白狼より少し小さいぐらいだ。



部屋に入ってきた魔狼は、予想通りドラコニー回廊ではなく、僕達の居る方へとやってくる、


はー、ぜー。

既に歩いただけで息があがってる。

眩暈と吐き気、更には寒気までする。


血が足りない。

眩暈、息切れが激しい。致命的だ。


武器も足りない。

3人の冒険者達に色々と使いすぎてしまった。


時間も足りない。

あの白狼相手にどれだけ持たせる事ができるか。




手持ちの切札は、やはり魔法に頼るしかない。

しかし、残念ながら僕の脳内に圧縮封印[メモリー]された魔法はもうない。

いや、正確にはあと1つ、嘘発見の投射型感知魔法【ディティクトライ】があるが、どう考えても攻撃や防御に転用できる魔法じゃない。


ジョフクさんが目を覚ましてくれれば、やりようは幾つでもあるんだけど……。

まさか気絶して目を覚まさないとは思わなかった。

本当にグレイブさん、ジョフクさんの変な所を殴って無いだろうな?





僕はドラコニーの影に隠れ、グレイブを構える。

情け無い話だけど、魔狼の動きにはついていく事ができないからだ。

しかも魔狼は大きいので棹上武器のリーチを活かしても、大差が無いと言うか、このリーチがあるおかげでトントンの状況にまで持ち込めているというか……。

まぁ、本来の棹上武器のリーチを活かした戦闘をするなら【インヴィジブルテンタクルス】でグレイブを操るべきだが、今回はそれはできない。



来たッ!!


第2波だ。

何というかタワーディフェンスっぽいな。




魔狼は3頭で1グループとして突っ込んで来ているようだ。

多分、この最初の奴は偵察だ。


第2防衛ラインは、幅が10m程あるから、ドラコニーだけでは手が足りない。

その穴を埋めるのが僕なのだが、前線に出たらすぐ殺されるのは判っている。


ならば、やる事は1つ。

遠距離からの攻撃だっ!!




「サイキック・斬でいくッ!」

フギンとムニンが近くに下り立ち、喋ってくれる。

うう、ありがとう。

実は、良い奴なのかも。



「サァイキック・ウェィィィィイブッ!」


魔狼の動きを次々と止めていく。

ぎゅっ



「サァイキック・ざぁぁーーんッ!」ズパンッ!


近づけた1頭に向かってグレイブを振り落とす。

スルッと額を切り裂き、ぷしゃあああああっっと血飛沫を上げて、倒れる魔狼。



うわぁぁぁ。

テンションあがるわぁ。

(……)

(……)

あ、いや、流石に血飛沫を浴びながらテンション上がるって状況は、既知外の思われかねんので補足させて。


(……いや、大丈夫。

 妾も真なる吸血鬼[ムロゥイ]じゃ。

 血の衝動は良く判る)こくこく

うわぁぁ。

そんな人を吸血鬼か流血鬼みたいに言わないで下さい。

(まぁ、少しばかりお主様は、特異な血の酔い方をする様じゃが、妾の愛はいささかも揺るがん)

お願いですよ、聞いて下さい、ヴラドさん。


(時雨……血に酔っている?)

いえ、伊織、違います。

(ん、判った。

 酔いではなく血の興奮……大丈夫だ、判る)

いえ、違うんです。

(殺す事が快楽なのは、その……うん、今は効率が良い。私も時雨の事は判りたいと思っている)

ちゃうねんっ、誤解しないでぇっ。

ていうか、何気に引いているのか、いつもより多弁だよね、ね?


(時雨、GJ!)

ありがとう、雲雀……。

(2人に説明しておこうか?)

お願いです……。

サイキック・斬や超電磁タツマキ、ストナーサンシャインは男の子の浪漫なんです。




あがってたテンションが、だた下がりだ。

胸の奥でレーザーブレードの処刑用BGM鳴らしながら、念動金縛りで動けなくなった敵を斬る簡単なお仕事だったのに……。


現在のところ、僕達を襲おうとした3頭の魔狼全ての動きを封じ、殺害した。

2頭をドラコニー、1頭は僕だ。

ぜー、はー。

ひゅーひゅーと咽喉がなる。





軽快な足音が響き、また再び魔狼が来る。


次は倍数の6頭っ!

だけどやるしかない。


僕は再び念動金縛りを行う。

次は6頭全部だ。


と、まぁ、種を明かすも何も、単純に念動の魔法【インヴィジブルテンタクルス】で魔狼の動きを止めているだけなんだけども。

ヴラドが、この魔法は“多弾系魔法の実験作”と言っていたので、少し発想を柔軟に実験をしてみたわけで。


僕の感覚だと、この【インヴィジブルテンタクルス】は、胸の真ん中から右腕が生えている感覚だ。

その右腕は、触手の様に関節がなく、鞭みたいに柱に巻きつけたり、脚に巻きつけてテーピングの代わりにできる。

更に、この右腕の先端には右手がついている。

これも感覚的に、そういう感触がするから右手と言っているだけだ。

実際の所は判らない。

そこで、指の感覚を腕同様に関節の無い触手として操作できないだろうか、というのが発想の原点。


で、テスト。

まずは、1本1本の指を伸ばす。

次に指の関節を増やす。


先程の剣とグレイブを握った時の話だけど、今まで感覚的に小指だと思っていた指を親指にする事に成功した。

少しこんがらがったが、左手の感覚だと思えば、すぐに慣れ、その状態でしっかりと剣とグレイブを握って扱う事もできた。


魔狼を押さえ込んだのは、指の触手化による恩恵が大きい。

それぞれ1頭に対して、指を触手の様にしてグルグル巻きにしたのだ。

問題は【インヴィジブルテンタクルス】の腕力だったが、僕の体重を支えて柱の周りをグルグル廻れるんだ、それなりに力はある。

大丈夫だろうと思っていたが、魔狼3頭を押さえれて更に余裕のあるレベルとは思わなかった……。



本当に使い勝手が物凄く良いな、この魔法。


さて6頭だ。

いくz

(お主様に褒めてもらうのは、開発者冥利に尽きるのぅ)

ん?

ヴラドからの心話。

どうしたの?

(少々注意事項じゃ)

なに?

(その魔法の効果時間は、だいたい1時間じゃ。

 じゃが、無茶すれば当然、効果時間は短くなるぞ?

 例えば規定値以上の筋力を使うとか、触手の増加などじゃ)

うわぁ。

やっぱり、便利なだけあって落とし穴が……。




でも、やるしかない。

6頭を止める。

1頭に腕をからめ、残り5頭に指を変化させた触手を絡ませる。

今の所の最大数、限界数だ。

触手を縮める事で魔狼をこちら側に近づけさせて……


グレイブで斬る!


ぶしゃあああっ!


額がすっぱりと割れて、脳漿と一緒に血飛沫が舞う。

鼻腔を満たす死の臭いに、口の中に広がる鉄錆びの味。

いつもなら吐いている、絶対。


ドラコニーが1頭殺害したが、まだ残り4頭いる。

ぜー、はー。

少し動いただけで息が切れているが、このままなら何とか活ける。

ーーーそんな事を思っていたから、法則が発動したのだろうか?



「危なイッ!」


―――!


気がつくと、捕まっていた魔狼の1頭が口を開いていた。

そこには明らかに尋常で無い風が渦巻いていて――――。


衝撃波が僕を襲うのと、対魔法攻撃用防御魔法【マジックイーター】で身を守ろうとしたのは、ほぼ同時ぐらいだった。

「うぐっ」

吹き飛ばされた僕は、背中から血溜りへとつっこむ。


しまった!


今ので【インヴィジブルテンタクルス】の拘束が緩んだ。


「グルゥアッ」

4頭の魔狼は身体をネジの様に回転して僕の拘束を逃れる。

再び拘束しようと、見えない触手を動かすが、すぐ脇に魔狼の放った衝撃波が着弾する。


動かないとやられるっ!

倒れたままの状態から、グレイブの石突を使って立ち上がる。


だが、それを許してくれる魔狼ではなかった。


爪で引き裂こうとしてきた魔狼の前足を、見えない触手で押さえる。

しかし、その間に走りこんできた1頭が、僕の首めがけて牙を突きたようと迫る。


くそっ

ガインッ!

グレイブを動かして、その柄で受ける。

柄を持ち上げる為に、思わず動かしてしまった左腕に激痛が走る。


しかし、その甲斐あってか、構えたグレイブで首元を守りきる事には成功した。

グレイブの柄を悔しそうに噛んでいた魔狼は、後ろへと跳躍して間を取る。


こえぇぇぇ。

今のは完全に途中から車輪の様に回転をしていたぞ。

絶・天狼抜刀牙なんて洒落にならない。

いやここは絶魔狼抜刀牙(仮)か?






「ちょっと勇者ッ!!」

悲鳴が脳裏に響く。

フギンとムニンを介した心話だ。


「な、なにかありましたかっ!?」


「ムリムリムリっ!!」

「うんこか?真下を通るなラ、落としてやるゾ?」

カラス下品。


「ちがっ!ブランカが来てるにゃっ!

 ムリムリッ絶対、無理っ!

 持ちこたえれるわけ無いにゃッ!」

ブランカ?


ナニソレ?


電撃を使う格闘家か?

あれ苦手なんだ。

(お主様っ!ブランカとは先程の白い魔狼の事じゃ!

 気をつけよっ!人間よりはるかに賢いぞっ!)

どうやらさっきの白い魔狼の事らしい。


確かに。

戦力の逐次投入に見える今の戦いが、実は威力偵察だとしたら……。

うう、何頭の魔狼を引き連れてきてるんだよォ。


「ドラコニーっ!

 リュネットさんをフォローに行ってッ!

 第2防衛ラインから撤退っ!」

先にドラコニーをリュネットさんの方に向かわせ、僕は殿を勤める。





1頭はドラコニーを追いかけ、残る3頭は僕にそれぞれ別方向からの攻撃をする様だ。

具体的には左右と正面からだ。



一瞬の迷いの後、僕は左と正面を、念動金縛りにし、右側の魔狼に備える。

「ぐるぁあっ」

再び魔狼は跳躍、回転をする。

絶魔狼抜刀牙(仮)だ!


右腕と触手1本でグレイブを保持、向かってくる魔狼を迎撃っ!


―――!


嫌な気配を感じた僕が全てを投げ出し、前転してその場から逃げるのと、鋭い爪が振り下ろされ、僕の背中を引き裂くのが同時だった。


ぶしゃっ!

左肩が熱い。

縦に背中を切られた。

絶魔狼抜刀牙(仮)からは逃れたが、ドラコニーを追って行ったフリをした魔狼の攻撃まではかわせなかった。


既に息切れしているが、そんな事を構っている暇は無い。


念動の魔法【インヴィジブルテンタクルス】の拘束が緩んだ為に、先程押さえていた2頭がフリーとなったのだ。

この状況はまずい。


まさに四面楚歌。




痛みに喘ぐヒマなく、回転してその場から逃げる。


僕は上空にいるフギンとムニンに視覚同調し逃走経路の調査。

武器、武器は!?


グレイブは魔狼が踏みつけ押さえ込んでいる。

催涙スプレーはリュネットに渡したので最後だ。

コンストリクターVSPは破壊されている。

左手のソーサリーダガーは、さっき絶魔狼抜刀牙(仮)を受けた時にどっかに落としたままだっ!



残るは、左腕のサバイバルナイフ1本ーーー。


(あと1つ秘密の切り札があるよ!)

雲雀……

でも、切り札なんて……!?


(時雨なら大丈夫!上手く使いこなせる!!)

あ、もしかして秘密の切り札って……。

でも、それなら。


確かに、ある……!




“燃える闘志”……!!

これが、秘密の切り札だっ!




……。



…………。


家に帰ったらスタンガン買おう。

そう心に誓った。


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