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世界の 法則が 乱れる!  作者: JR
第06話 異世界の中心で I と叫ぶ
90/169

君が口ずさむ哀しい歌を聞いて、僕は怒り取り戻す


「お前が喋れなくテ、悩んでいるのは判っていタ」

え?

じゃあ、なんですぐに教えてくれなかったのさ!

「ゴアッ、面白そうだったカラ」www


…………ぐ、こ、こいつぅ~~~!!!



なんかどっと疲れてきた。


「まぁ、しょげるナ、どうせ奴隷ダ。

 気に入らなければ煮るナリ、焼くナリ、穴に棒を入れてヒィヒィ言わせるナリ、好きにするがイイ」

いえ、獣姦は結構ナリ。


「ギャハハハハ!

 俺のケツを舐メロ!!

 FUCK ME!」

これってあれかな。

ヴォータンが教えたのかな。

それより、このカラスって雄かな、まさか雌?


「雌雄1対!」

そーですかー。


む?

あれ?


僕はカラスの羽を調べる。

赤スライムの酸によって、風切り羽が酷い事になっていたはずなんだけど……。

……。


治ってる。

どうして?


「血ダ!血ダ!!」

……。

僕の血を吸う事で、何か癒しの力とかが働くんだろうか……?



それにしても……


君、品性が下劣な割りに、妙に高尚なギャグを言うね?

「ゴア、ゴア!」と叫んで「血だ、血だ!」なんて。

伊織も見習うと良いかも。


(ゴア=流血?)

伊織からの返信。

うん。


基本的に語学は苦手なんで、みんな日本語翻訳をしてくれるとうれしいなぁ。

あ。

いや、実は忘れがちだけど何でもかんでも翻訳せずに、意図的に翻訳しないとか……

この翻訳の魔法、実はかなり高性能なんじゃ……。


(カラスだけにクロウしてる?)

あー、うん……そんな感じ。



「ゴア、ゴア!」

レロレロレロレロ……

叫ぶとカラスは僕の体から流れ出ている血を舐め始める。

本当にカラスか?これ?


「まぁ、あの冒険者達に話すナラ、通訳ぐらいはスル。

 その為にも血が必要ダ!ごあ!」


うん?

何か、魔法か呪法の対価に必要なの?

「いや、何となク」


そーかい。






ソーサリーダガーが突き刺さったままのコンストリクターVSPを取り出す。

シリンダー部に突き刺さるって、どんな力で突っ込んで来たのやら……

普通は軌道がそれたりするもんなんだけどねぇ。


シリンダーをスイングアウトする、


ぼとっ!

ゴトンッ!ゴロゴロゴロ



おや?


コンストリクターVSPのシリンダー部分を見る。



ソーサリーダガーと一緒にシリンダーも落ちたって……。

うわ、エジェクターロッドが切断されてる。

こえぇ……。

いくらトイガンと言っても、それなりに硬くて重いハンドガンだぞ、これ。

トイガン企業の作った非実在拳銃だけど。


ああ、そういう事か。


シリンダーと銃身の間にソーサリーダガーが挟まった結果、エジェクターロッドがお亡くなりになったのか……。

エジェクターロッド、簡単に言うとリボルバーの中心の棒なんだけど、これが切断されてシリンダーが取れてしまった。


もう廻す事もできない。


と言っても、たいした被害でなくてよかった。

実際は部品交換で直るレベルだ。

今は部品が無いから直す事ができないが。





しかし、困った。


肝心な時に、最後の弾種【ファーストエイド】が使えないのはいたいなぁ……。

要は血止め用の弾種なんだけど、これでは傷を治す事が……。


……できない、

わけではない。


うぅ。

あまり、やりたくないけど仕方ない。

背に腹は変えれないので、僕は赤スライムを呼ぶ。




赤スライムを形質変化させる。

ゼリー → オブラートみたいな感じにして、服の下から全身を覆うタイツにする。

服を脱げば、丁度、スーパー戦隊シリーズのヒーロー達が着る戦闘服みたいな格好だ。



「うわ、だっセェ」

カラス、五月蝿い。



脚のふくらはぎに深々と刺さっている矢を持つ。


ううう。


すぅ。

はぁ。

深呼吸を一回。


ふんっ

力を入れて引く。


ブビュッと血飛沫が舞い、激痛が身体中を走り抜ける。

「あ、が……」


痛みが引くまで待っていたかったが、今は時間が無い。

どうせ痛いなら……


引き抜く。

筋肉に突き刺っていても、傷口が広がるのも気にせずに、次々と引き抜いていく。

身体中に突き刺さっている矢を気でも狂ったかの様に抜いていく。

時間をかければかけるだけ、次の矢を引き抜く時に感じる痛みが怖くなるんだ。

どうせ、後で魔法の力を借りて治すつもりなんだから、少々の事はほっておいても大丈夫。


あちこちから血飛沫が上がる。

カラスが喜んでいるが、そんなのは無視だ。

傷口から出る血は全てスライムの栄養にする。

代わりに赤スライムの力で、傷口を融解しつつ治癒能力を発動させる。


これで、左腕の骨折、左肩、右膝、脇腹以外の矢傷は治す事ができる。

問題は最後に残った脇腹と左肩、右膝の裏だ。

流石に慎重にならざるをえない。


ん?

……ならざるをえない?


ああ、また、しょうもないネタで……。

竜虎の剣と言う、かなり昔の2D格闘ゲームのネタで“覇王翔吼剣を使わざるを得ない”という台詞があり、ワザワザ習得イベントまである奥義なんだが、コレが大味すぎて使えないのだ。

最初に雲雀と対戦した時は、勝ったと思った瞬間に竜虎乱舞でやられたという非常に悔しい思い出が……。

しかも竜虎の剣2では主役の妹がなぜか簡単に、この覇王翔吼剣を使えるようになっていて“はおーしょーこーけぇーん”という力の抜ける掛け声と共に、雲雀の情け容赦ないコンボが……うう、シューティングも格ゲーも嫌いだ。

だいたい、なんで家にネオジオ2台あるんだ?

祖父の趣味か?

いや……あれか?

雲雀の秘密特訓用か?

まぁ確かに、僕も雲雀も3D格闘より2D格闘の方が好きな人種だ。

まぁ、格ゲーよりもシミュレーションや落ち物などパズル、ADV、ノベルゲーの方が好きなんだけど。

マインスイーパー最高です。

それよりPSV欲しいなぁ、どうしようかなぁ。


……っと、いかん、いかん。

痛みで思わず現実逃避をしていた。





さてと、まずは脇腹から。

そっとそっと外へと引き出す。

下手に内臓に傷がついたらその時点でアウトだ。

今回は運良く内臓を逸れてたけど、普通は4cmも体内に入ってたら只じゃすまない。

【マジックミサイル】のスピードが遅かったから、内蔵の弾力で逸れたんだろうか?


ん?

あ、そうか、脂肪のおかげか。

こんな時にデブである事が良かったと実感するなんて……


はぁ~あ……


内臓を赤スライムの酸で溶かすわけには行かないので、血止めだけすればいいやと、傷口とその周辺を治癒して終了。




次は左肩。

肩関節部分、上腕骨と肩甲骨の間を貫通しているので、左腕を動かすのに少しばかり障害がでている。

矢が引っ掛かって、腕をある一定の角度以上に上げる事ができないだけだが、戦闘が続くなら致命的になる要素だ。


コンストリクターVSPが使えない以上は、最長の射程は催涙スプレーの約8m。

どう考えても接近戦となる。

左腕は骨折しているが、肩だけでも自由に動かせるようにしておくべきだ。


赤スライムに矢を途中から溶かしてもらい、引き抜く。

後は血止めして終了。




膝の裏。

むっちゃ痛い。

痛い痛い、泣きそう。

歩く事もできない。

これ、生き残る事ができたら、後で病院行った方が良いかもね。

靱帯に異状がでていなければ良いんだけど。


コレでもかというぐらい丁寧に、そろりそろりと引き抜いていく。

軟骨にダメージいってないと良いなぁ。


軟骨……

また、みんなで焼肉したいなぁ。

今度は武居と新田と、委員長とえぇと、ウェービーヘアさんを呼んだら来てくれるかなぁ。

今度は串をメインにして、少し変わった素材を使うというのもいいかもしれない。

蛙や蜥蜴、雀はあっさり味でいけるだろう。

羊や猪、鹿は癖が強いから、好き嫌いが判れそうだなぁ。

あ、クジラや馬は生で出せば、焼けるまでの繋ぎに出来そうだ。

虫は嫌がるだろうから外すしかないけど、実際は形さえ潰して見た目が判らない様にすれば好評な素材となるはず。

そーいえば、まだ魔法味というのを食べた事なかったな。

今度、ヴラドに作ってもらおうか。


「よだれーよだれーっ!」

あっと、いかんいかん、ヨダレヨダレ。





ふぅ。

少し時間はかかったが、矢は全て抜いた。

これで、膝を曲げる事ができるし、倒れたりして更に体内を傷つけるという事はなくなった。

まぁ、痛みはひいて無いけど、これは我慢するしかない。


残るは左腕の骨折だけど、添え木が欲しい所だ。

ん?

骨折を治す魔法ってあるのかな?

(うむ。あるぞ)

本当ですか、博士!

(な、なんじゃ?)

(ヴらえもん、のりが悪いよ~。

 そこはキチンと“説明しようッ!”って言わn)

(……あー、なんじゃのぅ。

 雲雀、御主、うざい、とか友人に言われんかや?)

(そう言ってくれる友達募集中!)


(……)

(……)

……。


ぐすん。




(あ~、そうかや。

 なんじゃ、その、すまなんだ。

 今回は全面的に妾が悪かった、泣くな)

(大丈夫だよ!

 ヴらえもんが“うぜぇっ”って言ってくれたから!)


(……ヴラドと雲雀は友達なのか?)

伊織がさも不思議そうに訊ねる。


(はぁ?何を馬鹿な)へっ


(あっ!ひどっ!ソレは酷いよ!!

 ヴらえも~~ん)




雲雀の妙なカリスマというか、物怖じしない対人スキルは正直うらやましい。


先週の木曜日、ニューエルサレムを訪ねた時に、友達が居ないって言っていたから、中学時代の人とは絶縁状態なんだろうな。

でも、雲雀の事だから、すぐに友達ができるでしょ。

すでにイルゼさんって言う妙な人も引っ掛けてるみたいだし。


(いや、あれはダメ。もうダメ。絶対ダメ。

 御主人様にとっては良い趣味かもしんないけど、シスターの前でもイチャイチャしてくるから、私までトバッチリくらうもん)

あ、そうなんだ。

彼女、積極的な感じだしねぇ。

(なんていうの?

 百合は秘めたるところが良いのに、ああもあからさまだとドン引きなのよ)

はぁ。

そうですか。

むぅ、押しが強いなイルゼさん。

一番の強敵かも。


女性にNTR展開なんて哀しすぎる。

断固阻止で!

(御主人様かっこいい!抱いてぇっ!)


あ。

そうだ!

イルゼさんもいっその事、僕が抱いt


ゴンッ!

いてっ


ゴツン

あててっ


ゴキッ

ぐぉっ



3人から痛覚入力された。


冗談です。

許して下さい。

ごめんなさい。





――――アオォォーーーーン!



また、狼の遠吠えが聞こえた。

さて急ごう。

間隔が短くなっている。



僕は3人組の冒険者の所へと向かう。


(お主様、降伏勧告は妾がしても良いかや?)

ん?

何か名案でも?

(いや、急いでいるのじゃろ?

 ならば、手っ取り早い方法がある)

じゃあ、お願い。

フギンとムニンもヴラドの言葉を喋って。

「ゴア、ゴア!」





「血風のグレイブ、七つ手のリュネット、超人ジョフクよ」



「ひぃーひぃーひぃ-ッ」オロオロ

「ぐおっぉぉぉ」 ガリガリ

「にゃぁーうにゃぁぁぁぁっ」ゴロゴロ


冒険者3人は、催涙スプレーの効果で四苦八苦している。

とてもではないが、人の話を聞ける状態では無さそうだ。




「その……聞こえておるかや?」



「目がぁッ、目がぁーッ!」

「おおおおおおっ!痛い痛い痛いぃぃッ」

「にゃああっ、ぐにゃああっ」


「あ~……」


(お主様、先程の痴漢撃退スプレーとやらの効果はどれぐらい続くのじゃ?)

結構、持つよ。

油とか石鹸で洗えばすぐに落とす事ができるけど、水だと効果は薄いね。

(むむ、そうかや……

 ちなみにお主様は、今、石鹸も油も持っておらんのじゃな?)

うん。

でも、スプレーを落とすだけなら、赤スライムだけで充分できるよ。

(ん?おお、そうであったか。ならば……)





ヴラドは僕の身体を動かして猫耳眼鏡っ娘リュネットへと近づく。

近くにはドラコニーが待機して、残りの2人に睨みを効かせている。


ヴラドは赤いスライムを僕の身体から離れさせ、猫耳眼鏡っ娘の全身へと移動させようとする。


「うぅう、てめぇ……」

気配だけで何をしているかを察知したらしい。

かきむしり過ぎて身体中が血だらけのグレイブは、それでも尚、猫耳眼鏡っ娘をスライムから護ろうと両刃の戦斧を持ってこちらに来る。


「動くな、血風のグレイブ、超人ジョフクよ。

 それ以上動かば、この者の首が飛ぼうぞ」くくっ

スラッと左腰の母の形見であるサバイバルナイフを抜く。

僕でさえ、その存在を忘れていたよ。



「ぐっ」ぴた

「くく、そうじゃ、おとなしゅうしておけば危害h」



「ふぉぉぉっ、目がぁッ、目がぁーッ!」ごろごろ



「……」

「……」


「熱い、痛いーッ!」ごろごろ



「動くなって、爺さん!!」ゴンっ!

「きゅぅぅぅぅ~」




「動いたのぅ……グレイブ」ちゃきっ


「あ、待ってくれ、違う!今のはッ!!」


「ならば誓えッ!!

 血風のグレイブよ、(おの)が二つ名にかけて誓うのじゃッ!!

 今、この日、この時、この場より千億の夜と千億の昼が過ぎ去るまで、勇者シグレを守護する、と!!」


「な!!そんな!」


「グレイブ!

 そんにゃ事聞く必要ないにゃ!!」


「どうしたのじゃ、血風のグレイブ。

 やはり貴様は、二つ名通りの仲間も敵も、全て肉片に変えねば気のすまぬ、バトルジャンキーか!?」

「ぐ、ぐぅぅ……ちが、う。 

 俺は、俺は……違うっ!!」


「ならば誓えッ!!」


「ぐ、判った……二つ名に懸けて誓おう。

 勇者シグレを、今、この時、この場より千億の夜と千億の昼が過ぎ去るまで守護しよう。

 かわりに、必ずリュネットを助けてくれ」


「心得た。

 勇者シグレの二つ名にかけて、その誓いを守ろう」


(ふぅ……何とかなったかや)

ヴラド……二つ名に誓うって、何かの儀式みたいな事なの?


(うむ、簡単に言うと皇國代理天で言う契約書、イプセプスで言う誓約[ヴァーラル]みたいな物じゃな)

地球だと、さしずめ契約書か武士の名誉とかの辺りかな?

(うぅむ、ソレぐらいなのかのぅ?)




「このッ、勇者!卑怯者ッ!!

 よくも人質をとってまで、こんな汚い誓いをさせてっ!」


「そうしなければ、御主らはわざわざ回復させようと、近づいてきた我が主を殺していたであろ?」

え?


「くっ……従属魔の癖にっ!」

「さて、七つ手のリュネットよ。

 二つ名に懸けて誓え。

 勇者シグレに害意を持つ者から、三月十日(みつきととうか)の間、その身を守ると」


「嫌よッ!!」

「誓わば、血風のグレイブの誓いの期限を、三月十日(みつきととうか)に減らそうぞ」


「――― キサマッ!

 神聖な二つ名の誓いを、駆け引きに使うにゃッ!!」

「ふむ、で、どうするのじゃ?

 よもや神聖な二つ名の誓いで、期限を短くしようなどと言う、取引をもち掛けてくるわけではあるまいな?」


「…………!」ドンッ

床を叩いて猫耳眼鏡っ娘リュネットは心底嫌そうな声を出す。


「最低にゃッ!!お前達は最低にゃッ!」

「それで?」


「誓う!誓うにゃッ!!」

「キチンと声に出すのじゃ」


「~~~~~判ったにゃ。二つ名に懸けて誓う。

 ウチは勇者シグレを、害意ある者から三月十日(みつきととうか)の間、守護する。

 かわりにグレイブの誓いの期限を短くするのを、その恥ずかしい二つ名に懸けて誓え!」


「よかろう、勇者シグレの二つ名において、その誓いを守ろうぞ」

「何でカラスが誓ってるのよ!!

 この卑劣漢!!勇者!

 神聖な誓いを騙そうとしたってそうはいk」

「ああ、待て待て。

 そもそも我が主は、先程から一言も喋っておらん。

 御主等の攻撃で話す事ができなくなったのじゃ」

「じゃあ、代わr」

「だから、代理で妾が話しておるであろぅ。

 今の誓いは、このラピュタを守る者の総意じゃ。

 じゃから安心せよ。騙すつもりは無い」

「本当かどうか疑わしいにゃ……こほん、疑わしいわね」


「はぁ、判った判った!

 そこまで言うなら、妾の二つ名である祖竜喰らい[ドラコエド]にかけて、お前達に嘘はついておらん事を誓おうぞ」

「ぷっ。

 祖竜喰らい[ドラコエド]~~?

 カラス如きが?

 胡散臭い二つ名ね。

 だいたい勇者を“我が主”なんて言う奴が、最強種である竜族を食べれるわけ無いじゃない」



(う、ううう、胡散臭いじゃとっ!?

 あ、あまつさえ……お主様の事までっ!

 ふ、ふふ……ふっふっふっ。

 殺そう、この泥棒猫をさっさと殺そう。

 世界平和のためじゃ、だいたい猫ごときg)

はいはいどーどー。おちついて、ヴラド。




――――アオォォーーーーン!


「―――!!」

(―――!!)



僕は耳を済ませる。


狼の遠吠えが更に近くなっている。

というか、こんなに頻繁に遠吠えを行なうなんておかしい。


……。

ココに向かってきているのが、知恵のある狼だとしたら?

多分群れを率いているから、それの位置確認の為の遠吠えだろうか?


いよいよ時間がなくなってきた。

猫耳眼鏡っ娘と豚顔巨漢は痛みを我慢しているがソレも限界が近そうだ。


もう問答している暇は無い。


赤いスライムはうぞうぞとリュネットの身体へと移動していく。

「フギャーッフギャーッ!!」


「な!おい、勇者ッ!!約束が違うぞ!!」

「あんずるな、まずはお前達の身体についた物を落とすだけじゃ。

 それよりも迎撃準備を急ぐのじゃ」

「はぁ!?迎撃ぃ?

 何を言ってるのよ、このカラスは?」


「御主等が妾達の援軍と勘違いした狼どもが来るのじゃ」

「へ?ウチらが勘違いって……

 え、ええっ!?まさかっ」

「多分ここらの森林を根城にしておるカニス・ディルスどもじゃ」

「え?ええーっ!!

 それ、まずいって!こn」むぐ

何かを言おうとしたリュネットの顔をスライムが覆う。

丁度、全身をオイルで塗ったような感じになっている。

うん。

やっぱりエロイ。


ん、ん……とか、にゃぁ……とか艶っぽい声を出している。

おおおお。


「ゴアッ!」ゴスッ

いてっ

「ゴア、ゴア!」ゴスッゴスッ

いてっいてっ……フギンとムニンがゴスゴスと嘴で僕をつついてる。

て、なっ何をするだァーーッゆるさんッ!!


(いや、こんな事よりもお主様は早う逃げるべきじゃ)

ん?


(そーよそーよ。

 色目なんか使ってる暇無いわよ。きっと。)

???


(ん。急いで避難すべき。

 人殺しに長けた野生動物は、危険……とばっちゃが言ってた)

(誰が、ババァじゃ!伊織ッ!!)

(そーよ!なかなか良い使い方よ、いおりん!

 次は“ジッちゃんの名にかけて!”を実践で使うのよ!)

(ん)

雲雀は伊織に何を教えているんだ……。

それから、フギンとムニンはどさくさにまぎれて血を吸わない。

「ゴア!」






僕はフギンとムニンに通訳をお願いする。

「リュネットさん、どこかまだ痛い所とかある?」

赤いスライムは、あらかた染料を拭き取ったようで、猫耳内部もでろんとヌメヌメした液体が覆っている。

「まだ少しヒリヒリするにゃ……

 あ、でもだいたいは大丈夫」


「グレイブさん。スライムで染料を落とします。

 ピリッとするかもしれませんが、害があるわけではありませんので……」

「……」


「えーと」

「……」


「できれば、その両刃の戦斧を下ろしてもらえると嬉しいんですが……」

臨戦態勢をとられていたら、こっちだって要らぬ警戒を抱くよ。






(ねぇ、ちょっと質問)

なに?雲雀。


(カニス・ディルスってなに?)

(でかい狼じゃ。

 ここらでは魔狼と呼ばれ、怖れられとるのぅ)

ちょっと待って、ヴラド。

カニス・ディルスってダイアウルフの事じゃないの?

(あーっダイアウルフなんだぁ、ザコじゃん)

いやいや、雲雀。

その認識は明らかにおかしい。


ゲームと違って、実際のダイアウルフは腐肉喰らい……今で言うハイエナを大きくした物だけど、集団で狩りをする以上は、1対多の原則を忠実に守るおそるべきハンターだよ?

サバンナではライオンとハイエナが争ったらライオンが負けて逃げる事になるんだし。


で、ヴラド。

(なんじゃ)

ヴラドがそこまで言うって事は、カニス・ディルスは僕達の考えているダイアウルフとは違って、何か特別な狼なんだね?


(うむ、そうじゃ。

 時間もないので簡単に説明するなら、奴等はラパヌイ出身の狼ではない)

???

(以前、竜族の住んでいた世界・オルビドの話をしたはずじゃが、おぼえておるかや?)

ああ、うん。


狼王ウゴドラク率いる“狼から進化した”人類に世界を侵略されていたって……。


(侵略した異世界の名前はラシュカ・パトリダと言っての。

 どうやって来たかは判らぬが、そこからやって来た狼じゃ)

どう違うの?


(大きさと知恵じゃな。

 体高は1mを超えるのがザラじゃ。

 大きいのだと2mじゃな)

……。


そうですか。

大きいので馬、それも黒王クラス並。

何気にドラコニーよりもでかい……。

地球のダイアウルフは体高80cm程、体長は150cmぐらい。

ドラコニーは体高130cm程、体長は280cmぐらい(全長は4m)だ。

ちなみに柴犬は体高40cm程、体長は80cm程だ。


(次に知恵じゃが、狡猾でのぅ……

 人間の子供並みはあると思ってよかろう)

えぇと。

地球で言うとチンパンジーとかそんな感じの存在になるのかな?

(言いたい事が良く判らんのじゃが、まぁ注意しておくに越した事は無い存在じゃ。

 特に上位個体には気をつけておくのじゃ。

 何らかの魔術や魔法に類するものを使ってくるからの)

うわぁ、了解。







――――ワンワン!!



部屋の外から狼の鳴き声が聞こえた。


「―――!!」

「ドラコニー!入り口を死守するのじゃ!!」

「がお」

ヴラド(正確にはカラス)が、ドラコニーに命令すると、その場を離れて謁見の間の扉へと向かう。



「グレイブさんは、ジョフクさんを担いで玉座に!

リュネットさんはグレイブさんの目になって誘導してあげて。

あ、もしも失明が治せるなら治しておいて!!」

赤いスライムをグレイブに貼り付けながら指示を出す。


(……お主様も急ぐのじゃ。

 ドラコニーも耐えて10分じゃろう。

 妾達も急いでおる、うまくすれば挟撃もできようが、万が一の事もある。

 今の間に次の手を考えるのじゃ)


ちょっと待った!

(なんじゃ?)


りぴーとっ

(なんじゃ?)


いや、その前。


(…………ドラコニーの事か?

 仕方あるまい。

 あのこも戦いの中逝けるのじゃ、本望であろ)

……。

ヴラド、それは看過できない言葉だ。


(……)

……。


(お主様が、あの子の事を気にかけてくれるのは有難い。

 嬉しく思う……が、忘れないで欲しいのは、あれは従属魔じゃ。

 決して友達や恋人の様な存在ではない。

 切り捨てるべき時は、切り捨てるのじゃ)


「ケッ」


今、耳元でカラスが不満そうの鳴いた……気がした。

僕はカラスを見る。

「ごあ?」

首をかしげるカラス。


あー、うん。

まぁ、確かにヴラドの言う通りなんだけど……。

間違ってもクジラを友達とか言う集団と同じ事を言うつもりは無いんだけど……。





ヴラド、ドラコニーを助ける、いや一緒に戦うよ。


僕は立ち上がる。




(馬鹿な事を言うでないっ!

 せっかくの時間稼ぎを無駄にするつもりかや!?)

うん。

それはありがたいんだけど……

まだ狼との戦端は開かれて無いから、やれることはあるんだ。





(良いかや?

 何よりも、お主様の命が大事なのじゃぞ?)

まぁ、確かに誰か1人死んだら4人全員死亡は、酷い呪いだよ。

(そんな事を言ってるのではないっ!!)

うぇ?


(御主人様、今のカチンと来た)

???

(ほんっとうに理解して無いっ……!)


うう、何で怒るのー???


(はぁぁぁぁ、何度も言っておるじゃろう……

 妾達はお主様が心配なんじゃと)

(死にたがりはダメだって)

(命をベットする時は必勝が鉄則。

 それ以外の時は逃げるのが基本)



それは充分に判っているんだけど……。


(ならば、ドラコニーについても、お主様自身の時と同じ様にすべきじゃ)

(そうそう、昨日言ったみたいに言えば良いのよ)


「?」


(あとで、ヴラドが蘇生してくれれば大丈夫でしょ?って)


―――!


(そちらの方が効率的だ)

(たかがペットの命と自分自身じゃ、価値が全然違うしね)



……。


うん。

なんだろう、それは凄く嫌だ。


嫌な考え方だ。


なんというか、ムカッとする。



(今、あんたが感じた気持ち、あの時に私たちが味わった気持ちだから)


(時雨、私は死ぬのは構わないが、1つだけ心に決めた事がある。

 それは、時雨より先に死ぬことだ。

 時雨が生きたままなら、私は笑って逝ける)


(いおりん、その告白はずるいっ!)

(ええっ!?)


(そういうわけじゃ、お主様。

 妾達の気持ちも少しは判ってくれるなら、そこはドラコニーに任せて引くべきじゃ)


なんでそーなる?


(むむぅ、やはり説得は失敗かや……)

いや、だって、その話だと、ここはドラコニーを助けるべき話になるでしょ?

蘇生できるから死んで良いって言うなぁ!って話なんだから


(あれ?もしかして、私が変な説得にしちゃった?)

(うむ、雲雀の辺りから妙な話になっておる)

(まぁまぁ)


それに、ヴラドはどうだか知らないけど、ココでドラコニー見捨てたら、雲雀に嫌われそうな気がするよ。

(あはは、当たり)

困った人は見捨てる事ができない性格だしね、雲雀は。

(私ってば、まさに聖女っ!)

いやいや、それはない。


(それでは妾が冷血な生命体ではないか。

 効率重視は地球人と皇國代理天人で充分じゃ)

(私が冷血……?

 発電すれば少しはホットに……

 むむっ、イオリだけに中はホッとする)

あー、うん。





ヴラド、さっきも言った通り、ドラコニーだけでは戦わせない。

別に情がわいただけ、という訳だけでも無いんだよ。

純粋に、まだ死んでもらうと困るからなんだ。

少人数で拠点防衛をする以上は、犠牲を最低限に抑える必要がある。

この後の事を考えると、猫どころかスライム1匹失うわけにはいかないんだ。

(この後……?)

(先読みは大事)

(……。

 御主人様、猫ってかわいいよね?

 特にあの眼鏡なんか……)

うん。

確かにねぇ。

グレイブにかなり気があるのか、途中から思考が割りと読みやs……

いや、べ、別に気があるとかそういうわけじゃなくて、ですね?


(……)

雲雀?

(あははは、御主人様は気が多すぎるなぁ)怒

ひどっ!

自分で話をふっておいて、それはないよっ!?

(雲雀!まぜっかえすでないっ!)

(猫だけにキャット驚く……)

(伊織もじゃ!!)





(……)

(……)

(お主様、軽口はそこまでじゃ……

 幾らなんでも分が悪すぎる。

 生き残る為に最善の手段を取るべきじゃろう。

 ソレが例えどんなに非情な選択であっても、じゃ)

う~ん。


充分勝算はある作戦だと思うんだけどなぁ。

最後はヴラド達と挟撃をする事になるけど、最終的な防衛ラインを宝物庫にして、そこまで少しずつ撤退していく戦術をとるよ。


(……しかしじゃ。

 あの冒険者3名を味方につけたといえ、やはり劣勢すぎるのじゃ)

……。


(この城の狼がヴォータンの送り込んだ精鋭ならば、子飼いの2匹の狼は来てるじゃろうし、その数は100にも及ぶじゃろ。

 いくら超人ジョフクと言えども、カニス・ディルス相手では、数で押されれば適わぬぞ。

 お主様、心を鬼にしてあたるのじゃ。

 切り捨てるべき時は切り捨てるのじゃ)


……ヴラド、それは聞けない。


まだ僕は、自分が戦えると判断してるし、何よりも雲雀に嫌われるわけにはいかない。


(死に急ぐお主様は、妾が嫌うぞっ!)

いや、大丈夫ヴラドは僕を嫌わない。

(なんじゃ、その自信は……)


さっきも言った通り、まだ勝算がある。

ならば、ソレにかける。


(妾はギャンブラーは嫌いじゃ)


信用して。

ヴラド、伊織、雲雀。


3人が好きになってくれた僕と云う人間は、何のとりえも甲斐性も無いデブだけど……。


ココをみんなが来るまで、守るぐらいはできる。



やる時はやる奴だって。


期待には応える男だって、信じて。



(……)

(……)

(……)


(判った……、そこまで言われてはのぅ。

 ならば我が愛しの殿方よ……御武運を)


(時雨……

 皇國代理天で他人を信用するという行為は、最も意味のない嘲笑される行為。

 でも、いや、だからこそ……

 私は時雨を信じる)


(御主人様、男を上げたね……

 惚れ直した)



あはは、男を上げるのはこれからだけどね。


それと、ヴラド。

訂正しておくと、子飼いの2匹の狼ゲリとフレキは来てないと思う。

(ん?何故そう思うのじゃ?)


ヴォータンは、僕が狼に喰い殺される所を見たかったって、言ってたからね。

見れないって事は、従属魔を送り込んでないって事でしょ?

(ん?

 確かにそうじゃが、あの男が高みの見物をせぬとは……

 何ぞ薄気味の悪い話じゃのぅ……)







――――グルゥゥゥ!!



ついに、部屋の入り口から狼の唸り声が聞こえた。

さぁ、第3ラウンドだ。

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