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世界の 法則が 乱れる!  作者: JR
第06話 異世界の中心で I と叫ぶ
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人間どもの悩みは小さい小さいちーさいのぅ。ほいさっ


雲雀がハッスルして戦い、伊織とヴラドがそれにてんやわんやだった頃、実は僕も忙しかった。



雲雀がチンピラ、もといルトゥムカンケルのリーダー格をぶん殴り、一撃KOをきめて少したった頃。

僕は相変わらず、悪魔城の奥深く、謁見の間にある玉座に座って考え事をしていた。


並列思考で情報処理用のスペースを5つ。

コレが今の限界だった。

まずは雲雀、伊織、ヴラドの3人分。

これは覗き用、要するにログファイルみたいな物だ。

次に僕自身、こっちは入力用。

3人のボケに突っ込みを入れるところだ。

最後の1つは赤スライム用のログファイル。

このうち赤スライム用以外を、情報処理用バトルフィールドマップに統合した。


しかし、情報処理用バトルフィールドマップが役に立ちそうにないのは、戦闘開始1分もすれば判った。

あんなチンピラ相手に必要ないのだ。

3人の実力なら。


「はぁ……」

思わず溜息。


って何気に雲雀も人間離れした強さだなぁ。

ヴラドが何か強化する魔法でも使っていたのかな?


さらにもう1つ。

情報処理用バトルフィールドマップは、現状だとどうしても死角が多くなる。

やっぱり、神の目と言うか、俯瞰する視線が必要だ。

それこそ人工衛星みたいな高度からのが欲しい。


うぅん、無理っぽいなぁ……。





そんな観戦気分の僕の耳元が、異音を拾う。

カラスの羽音だ。


そのすぐ後に赤スライムもカラスの生命活動を感知する。

スライムは人間と感覚器が違うので、僕はフィルターとしてヴラドの感覚を通している。

こうする事で、僕はスライムの感覚を知る事ができる。

なんとも奇妙なやり取りだが、間にヴラドを通しているので、既にヴラドには気づかれている。


悪魔城に侵入者がいるという事を。



僕の家、内蔵(うちくら)に落ちていたカラスの羽を取り出す。

カラスが何処で見ているか判らないから、捨てた様に見せて再度回収しておいた物だ。




ヴラドの予想では、昨日ラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]の先遣隊が、地球の異界門[ゲイト]を越えてくるはずだった。

でも来なかった。

それどころか、その気配すら無いという。

地球とラパ・ヌイが次元回廊[コレダー]で繋がった事を、ヴォータンが知らないという事はありえない、とヴラドは言っていた。


そして先遣隊が来ていない中で、カラスの羽が落ちていた……。


いや、落ちていたというのは語弊があるのかもしれない。



外から進入できない部屋の中に、カラスの羽が落ちてれば、誰だっておかしいと思うだろう。

ましてや、これ見よがしにあったんだ。

これは、落ちてたんじゃなくて、ワザと置いてあったんだ。


そう、発見させる為に置いた。



何の為に?

知ってもらう為に。


誰に?

決まっている。


ヴラドだ。




そう、ヴラドに知らせる為に、羽は落ちていた。

「お前を見ているぞ」と。


言うならば、橋下の落書き“俺、参上!”と同レベル。

だけども、やったのはヴォータンだ。

確信している。


今朝方、ノーパソで検索した時に、ついでにヴォータンも検索してみた。

結果として面白い情報が出てきた。

それら全てが、イプセプスの不滅存在[イモータル]と同じかは判らないが、ヴラドも知らないであろう幾つかの行動動機も類推する事が出来た。



うう。

ちょっと武者震い。




カラスは、地球を偵察してきた帰りだ。

僕達と同じコースを辿って帰って来ている。


あ、魔法を使って扉を開けている。

そうか、手がないんだっけ。

確かに扉は手がないと開けられないよな。


だから、魔法を使って開けるのか。

カラス科の鳥は賢いと言われている。

最近の研究では、確か大型類人猿クラスの頭脳を持っている個体も居るとか。

使い魔……ヴラドは従属魔と言っていたっけ?になると更に賢くなるのかなぁ。





「がう」

あ、御免。ドラコニー。

君は、更に賢いよ。

頭を撫でる。

「……」ふんふん、ぴすぴす。


あれ?でもどうやってドラコニーって僕の心を覗いているんだ?

やっぱりヴラド経由なのかなぁ。





カラスは僕達に近づいてくる。

もう飛んでない、足音を忍ばせて歩いている。

僕の後方8mぐらいの位置だ。

隠し通路の中に居る。




ドンドン近づいてくる。


何らかの事情か、ヴォータンの我侭か、どちらにしろ動いていない先遣隊に替わって地球を偵察して来た優秀な使い魔だ。

今、隠し通路から此方を窺っているようだ。


玉座からカラスまでの距離は3m程だ。

玉座の隣にはドラコニーがいる。

気づいているかは判らないが、天井には赤スライムが擬態してへばりついている。



この城から抜け出そうと思ったら、謁見の間を40m横切り、玉座の反対側にある両開きの扉まで辿り着かないといけない。


だけど、その間に障害となる僕とドラコニーが居る。

更に追加するなら、両開きの扉の両横に騎士の置物が2つ。


実はコレ、リビングアーマーと言う擬似生命体で、ゴーレムやスライムと同種だ。

特定の行動パターンを持っており、侵入者を攻撃する様にできている。

侵入者とはヴラドが認めた人物で無い者全てで、僕や、伊織、雲雀はこの城に来た時に登録済みだ。


飛ぶにしろ歩くにしろ、発見されない様に移動する必要がある。

多分、何らかの認識を阻害する魔法を使用して移動するとは思うんだけど……。


そうはさせない。





「ん……?」


丁度良い事に情報処理用バトルフィールドマップが必要なくなった。

雲雀、伊織、ヴラドで総勢20名以上のチンピラ達を撃退してしまったのだ。

チャンスだ。

並列思考を組み替える。



ヴラドは自身の得意とする火の玉を相手にぶつける変成魔法で、逆鱗に触れた愚か者を始末していた。

雉も鳴かずば撃たれまいに。


伊織が毒娘の本領発揮をし、次から次へと毒殺した。

あ、いや、まだ未遂か。

仮死状態にしたチンピラを解毒している。



雲雀は色物メイドを極めるつもりなのか、大型武器を振り回して、必殺技とでも言いたげに剣の平で先生と呼ばれた男を打ち据える。

この男で最後だった。


カラーギャング・ルトゥムカンケルはこうして壊滅した。


ふぅ。

僕は先程の雲雀の必殺技に一言述べたくて、雲雀と心話する。

「取り合えず、雲雀、名前がダサいよ」

(う、うるさーいっ、良いじゃない少しぐらい、時間が無かったんだからぁ!)

「所詮パチモンはパチモン……」

(じゃあ、御主人様が考えてよ!共振破砕使った技)

共振破砕?

また物騒な言葉を。

というかヴラドの魔法も色々と手の込んだ事ができるなぁ……ヴラドの魔法だよね?


ヴラドからの返事は無かった。






今、僕は全員との感覚同調を切った。

並列思考5つの内、3人の心を覗くのに使っていた部分を撤収する。

その代わりに3人分を1つにまとめて3人の心を巡回して覗き見する思考を1つ。

新しく僕の思考を1つ増やし、建て前と本音にわける。

建て前部分は3人が僕の心を覗いた時に読み取られる表層部分で、本音部分は対ヴォータン用に注力する。

以前……とは言っても金曜日、三日前の話だがヴラドとデートの時に使った技だ。


これからの会話は少し聞かれたく無い。

恥ずかしいから。


3人が僕と感覚同調できないように防御もしておく。





カラスはあくまで偵察だ。

優秀な偵察兵だ。

僕達の感覚を騙すなんて簡単だろう。


だから騙す前に、自分から姿を現すように仕向ける。




小道具として羽を使う。

そのために回収しといたんだ。


魔法も使えない、喧嘩も弱い、権力も無ければ、お金なんてからっきしだし、話術なんて口下手に何を求めるのか、イケメンにマッスルボディは遥か雲の上と、無い物尽くしの僕だけど。



それでも宣戦布告は僕の口から行う。





僕はカラスの羽を玩びながら、虚空に語りかける。

「こんにちは。初めまして」

返事は無い、だが気にせず続ける。


「僕の名前は時雨。地球の代表です。

 お名前を窺っても?」

やはり返事は無い。


ふぅ。

「やれやれ、挨拶もできないんですか?

 昨今の不滅存在[イモータル]は、嘆かわしいなぁ」


「あ、もしかして……」

ポンと手を打つ。

「まさかとは思うけど……従属魔と感覚同調すらできていないとか……

 それじゃあ、確かに返事なんてできないなぁ」


相変わらず僕は虚空に向かって独り言を言っている。

カラスは、僕の後ろ、玉座から3m離れた位置に居る。


「まぁ、小さい男ってヴラドも言ってたし……仕方ないか」


そこまで言って初めて動きがあった。

壁の向こうから怒気を孕ませてカラスが現れる。


――――釣れた!





「最近の若いのは、口の利き方がなっていない者が多いのぅ」

カラスの口から、この世のものとは思えない、罅割れた様なしわがれ声が響く。


「おや、これはこれは小さな人だ。

 こんにちは、小さな人よ」

其方(そち)も口の利き方を知らぬ、阿呆の様だな」

「あっはっはっ。

 僕は大きい人なので、小さい事にはこだわらないのです。

 小さな人よ」


「……」

ゴォッと一瞬、空気が揺らぎ、光の矢が宙に何本も並んだ。

「その道化、高くついたようだな?」


しかし

「がぉんっ!!」

ひと声ドラコニーが吼えた途端に、光の矢は掻き消される。

発動中の魔法を意志の力で捻じ伏せる特殊能力【咆哮】だ。


「ぐるるる……」


「まぁまぁ、ドラコニー」

僕はドラコニーをなだめる。


あああ、おっかないぃ。

ナイス、ドラコニー。

ありがとう。

帰ったらお礼に肉を焼きます。


ドラコニーの能力を見てカラスが感心した素振りを見せる。

「ほう……?」


「王たる者が不意打ちとはね」

やれやれと僕は首を振る。





「ふふ、口先だけの実力の無い者を構ってやるのだ。

 余の余興ぐらいには、付き合ってもらわねばな?」

「余興ですか?」

「そう、余の余技を見れた幸せを、噛み締めるが良いぞ?」


「そうですか、判りました。

 うわぁ、幸せだなぁ、僕。

 では本題に入りましょう、小さな人よ」

「なんだ、愚者よ」


「ですが、その前に……」

「?」



「その位置では話し辛くありませんか?」


カラスが居る場所は、僕の座る玉座より右後方2mだ。

少なくとも、マトモに話をする位置関係ではない。

僕は玉座の手前、数段下に下りた部分を指し示す。


「小さな人の為に、特別な席を用意しました。

 そちらへどうぞ」


そこは謁見の間で、使者が口上を述べる場所だ。

上座は僕です、当然でしょう?


「ほうほう、これは、これは……

 愚者よ、其方(そち)は常識も知らぬ者と見える」

「はっはっは、良く言われます。

 ですが家訓が“非常識を持って常識となす”なので」

嘘です。



「ふむ。ならば、余もその愚者の家訓“非常識を持って常識となす”に従おうぞ?」ゴアッゴアッ

カラスはまるで笑っているかの様に鳴きながら、宙を飛び、自らの見つけた止まり木に留まる。

玉座、僕が座っている椅子の背もたれだ。

丁度、僕の頭より1つ分上に当たる。


「うむ、見晴らしも良い。

 このような止まり木を用意するとは中々の者よ。

 愚者よ、大儀である」

「なるほど」

更なる上座があったみたいですね!





いやはや、知恵比べだとこっちが分が悪いかもね。

僕の知っている限り、口先三寸で相手を幻惑させるのはヴォータンのやり口だ。

さすがに一筋縄ではいかないなぁ。



ならばこっちは単刀直入に用件のみを。


「さて、小さな人」


「なんだ愚者よ?」


「ヴラドの尻ばかり追いかけている様だけど、いい加減に諦めたらどうですか?」

「……」

「貴方は、その小ささ故にヴラドに愛想をつかされたんですよ」


「ふむ。其方(そち)彼奴(あやつ)に執心しておる様だな」


「いえ、悪い虫がついている様ですから。

 害虫駆除は主の役目です」


「ふん、言いよるわ。

 だが、彼奴(あやつ)は、未だ余に執心しておるようだが?」

「気のせいでしょう。

 僕という主に、身も心も溶かされてしまっているようですよ?」


「ほう?

 なんじゃ、余の慰み物をそんなに気に入ったか?」

「……」

「ふはは。

 余の教育が行き届いておるからな、彼奴(あやつ)は」

むか。


「そういう貴方こそが忘れられないのでは?

 調教も途中まででしたし。

 まぁ、僕の手で完成しましたけどね」

「……」

「貴方では、小さすぎてヴラドを満足させる事が出来なかったんですよ」

「ふむ」

ゴアッッゴアッとカラスが本来の鳴き声で笑う。



「ならば彼奴の身体に聞いてみようかの?」

「それには及ばない。

 今現在の結果が全てです」


「いやいや、余の声を聞かせたら直にも濡れ始めようぞ。

 身体は正直よな。

 真の主の事を忘れられまい」


どのような術法かは知らないけど、ヴォータンはヴラドの身体を操る事が出来る。

まるで感覚同調・入力みたいに。

これがもし、僕達の様な呪法による誓約[ヴァーラル]だとしたら、解呪しない限り効果は一生続くのだろう。

ヴラドの事だから、何らかの防御手段を講じているとは思うけど、今はまだヴラドが介入する時じゃない。

そう、これは僕とヴォータンの話だ。

まぁ、逆に禁忌を犯させる事で呪いをかける事も出来るはずだけど、それはヴォータン側も同じ事が出来るって事だからなぁ。




そう考えていたのがまずかった。

僕が、一瞬黙ってしまった隙をついてヴォータン側の反撃。


「では愚者よ」

「?」


「地球の献上、真に大儀であった。

 其方(そち)には褒美として彼奴(あやつ)を与える」

「は?」

「余の慰み物を下賜するのだ。

 安い物であろう?」



「あははは、御冗談を」

地球とヴラドを選べだって!?


「ふむ、愚者よ、其方(そち)は勘違いしておる。

 余は其方(そち)の児戯に寛大な処置を与えたまでじゃ。

 気にするでない。

 では取って返し、準備にかかると良い」


「地球の言葉に“人の命は地球よりも重い”と言うのがあります、小さな人よ」

素晴らしい言葉です。

こんな事を言う人が、政治の中枢にいる脳内花畑の国が僕の住む国です。


「ふむ。二律相反する格言よな?」

「はい、ですのでヴラドと地球を選べと言われたら……」


彼奴(あやつ)よな?」


「はい。その通りです」


地球と愛人なら、愛人を選ぶに決まっているじゃないですか。





「うむ、良いぞ、愚者。

 其方(そち)にh」

「ですが……」

「?」

「ヴラドと地球では、あまりにも釣り合いが取れないでしょう?」

「そうかの?」

「はい」


「ならば、ラパ・ヌイの余の所領より1州も付けてやろう。

 丁度治める者もなく、困っておったのだ。

 彼の地は海の幸溢れ、資源も溢れていると聞く。

 ラパ・ヌイでは活かしきれぬ故、其方(そち)が地球の知識を活かし治めるが良い」

「有難うございます。

 ですが、僕が欲しいのは北の極地じゃないんです」

「ほう、では何を望む?」


「それと少しばかり訂正しますね」

「む?」

「ヴラドは元より僕の物です。

 ですがラパ・ヌイ元首の貴方の顔を立てて、譲り受けたという事にしておいても構わないですよ?」

「ほほう、何を言い出すかと思えば……

 アレの所有権は元より移ってなどおらぬ。

 今も昔も、余の手の平の中にある」



「あっはっは。何を言い出すかと思えば……。

 どんなに遠吠えしても、失った物は失った物なのです」

「?」


「小さな人の元には、成る程、ヴラドと言う物があったようです。

 ですが、それは僕のヴラドと同じとは限りません」

「はっ!何を言うかと思えば。

 先程から其方(そち)彼奴(あやつ)が、余の元に居たという事を認めておるではないか!?」

「仮に同じ物だとしても、失った以上は、それが同じ物であるという証明が必要です」

「だから言っておる、身体に聞けば良い。

 すぐに答えが出る。

 あれは“人間”ではなく、余の所有物なのだからな」

人間って……

ああ、そうかラパ・ヌイの人権の話か。

確かに、真なる吸血鬼[ムロゥイ]は人間じゃないなぁ。

でも、ならばこそ。



「あっはっは、小さな人は何か勘違いしているようですね。

 ヴラドは人間です」



「……」

「それは貴方も、先程の僕の言葉を認めた事から、納得したものと思っていたけど?」

「なに……?」

「言ったじゃないですか“人の命は地球よりも重い”と」

「うむ」

「小さな人。

 貴方は僕が地球よりヴラドを取るのは、さも当然とばかり言ったよね?

 人である以上、地球よりもその価値は重いのですよ」

「――!!」



ゴアッゴアッとカラスが啼く。

笑っているみたいに。

「ふはははははっ!確かに!!

 では、どうすると言うのだ?」


「僕は落し物を届けに来たわけではありませんし、まして教育や人権の話をしに来たわけでもありません。

 街中を歩くアンデットとは違います」

「ほう、では何をしに来たと言うのか?

 観光ならば、余の手の者が案内(あない)しようぞ」

「それも違います。

 最初に言ったじゃないですか」

「?」



「害虫駆除です」



瞬間、カラスから放たれる殺気で、一気にまわりの温度が下がった気がする。

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