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世界の 法則が 乱れる!  作者: JR
第06話 異世界の中心で I と叫ぶ
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3人揃えばこわいものなしさ


「ヴラド!私、この子、飼う!」

「ダメじゃ」


「そうです、止めてやってくれやせんかねぇ……」

路地裏の奥から声が聞こえた。

太く、しわがれた通りにくい声。

それなのに、心にぐいぐいと働きかけてくる。



暗い。

陽の光届かぬ路地から何かが歩いてくる。


冷気。

背筋を寒さが駆ける。


伊織と同調しているだけの僕でさえ、その奥から来る異様な気配には気づく。

ましてや面と向かって顔をあわせている3人だ。

相当なプレッシャーを感じている事だろう。




陽炎のように闇が揺らめく。

一際大きくプレッシャーを感じると、暗闇から一頭の狼が姿を現す。


「え……犬?」

「不確定名、獣。危険度、甲……」

「青の狼かや……」



体長は1mと少しぐらい、少し大きめの中型犬といったところだ。

毛並みはふさふさとして青みがかった白だ。

シンリンオオカミやシベリアオオカミなどの寒い方の生まれの種類なのだろうか、子犬とは明らかに種類が違う。


賢そうな顔つきをしている。

だが威圧感は膨れ上がったままだ。


「姐さん、その手を離してやっちゃあ、もらえやせんか?

 嫌がってるのを無理矢理ってぇのは、穏便じゃありやせんぜ」


言葉は柔らかいが、眼光鋭く雲雀を威圧する。

思わず失禁しそうな程だ。


子犬はじゃれていた雲雀の腕を振り解くと、声の主の方へと一目散に駆ける。

「あ、あにきぃ。

 ぼ、僕もうお婿に行けなぃぃっ!」



犬は雲雀、ヴラド、伊織と見回す。

「何処の人間の方かぁ知りやせんが、ちょいとおいたがすぎやせんか?」

「む、すまぬ。

 決して害意があっての事では……」

ヴラドが謝ってしまう。


海外では謝ったらダメなのに……というのは地球の日本での話。

今回は、こちらが一方的に悪いだろう。


と、ここまで考えて、おや?これって美人局なんじゃ……?



「あっしらは好きで野良をやっているんでさぁ。

 畜生は畜生、人は人でキチンと住み分けやしょうや」

「う、うむ」

「ん」

「……」む~。


「コレより先、青く壁を塗った場所は、あっしらランセの縄張りでさぁ。

 カタギの衆はお引取りなすって下せェ」


犬は妙に時代が飼った台詞で、事を水に流そうとしてくれる。

美人局じゃないみたいだ。


「美人局じゃない……?

 あ、もしかして喜捨[バクシーシ]なの?」

「――!!」

「ぬっ!」

僕の心を覗いていた雲雀が、言わんでも良い事を言ってしまう。

だから、あれほど口を閉めろと、っていうか喜捨[バクシーシ]の文化は無いってヴラドが言ってたじゃん!!


「……!!」

言葉の意味が判ったのだろう、それを聞いた目の前の蒼い狼の瞳が細められた。


少しばかり怒気が込められた言葉が発せられる。

「姐さん、あっしらは物取りや物乞いとは違いまさぁ。

 確かに、孤高にはなれず、群れていやすがね。

 それでも野性のプライドまでは、捨てたつもりは無いんですよ」

「……」

「……」ごく

怒気が伝わったのか、ヴラドと伊織が気押される。


「ふぅん」

まるで挑発するかのように雲雀は話の続きを促す。

って、さっきから雲雀、この凄みのある威圧感を感じていないと言うか、動じていない?



「さっきの話だけど……」

「なんです?」


「やっぱり、その子がペットに欲しい!」

「――!!

 姐さん、あっしの話を聞いてなかったんで?」

「聞いてたわよ!!

 ついでに貴方もペットに欲しい!」


「「「「……」」」」

伊織もヴラドも子犬も狼も呆気に取られた。


「姐さんの……その胆力は、馬鹿なのか大物なのか、あっしには判りかねますが……」

「馬鹿じゃな」

「ん、大馬鹿者」

激しく同意。

「ちょ、なんでよーっ!!」



「そうですか、馬鹿なら仕方ない。

 死んで治してもらいやしょうか」


威圧はそのままに威嚇の唸り声を上げる。

心臓を鷲掴みにされた様な、目の前の光景から目が離せなくなる。


「ふふふ。そうこなくっちゃ!

 アンタ、自分の事、野良って言ったでしょ?

 野良ならやる事は1つ、実力見せて相手を従わせるだけでしょーが!」


ちょ、やっぱり喧嘩売ってたー!



「あたしが勝ったら、あんたh」

「えぇい!すまぬ、妾等が悪かった。

 後で詫びに魚を持って来ようぞ」

「ん」

伊織とヴラドで後ろから羽交い絞めする。

「ちょ、ちょっとー。

 まだ、私の交渉が終わってないぃッ!」

「「五月蝿い」」




「雲雀はまだこの街の事を知らんじゃろ?

 後で案内しようぞ、こってりとな」

「極道と交渉するには雲雀は馬鹿。

 時雨に頼むべき」

うゎ、伊織さんは僕を過大評価しすぎ。


向こうから子犬がワンワンと吼えている。

さながら「もう2度来るな、バカヤロー」みたいな感じに。




「ああああ、私の幸せな結婚生活がぁ……。

 旦那様と私と白い犬に小っちゃな家、幸せな家庭がぁ……」

「判った判った、じゃが御主の御主人様は人でなしじゃ、諦めるのじゃな。

 夢は夢のままじゃ」

「ん。現在の時雨には、家一軒を買う為の貯蓄はない」

うわ、酷い。

確かにその通りだけど。

「狙うなら、祖父の秋霖を狙うべき」

「あ……そっか」

えぇえッ!?


もうNTRですか?

らめぇっ!お義父さん止めてぇ、私は息子さんの妻なのよ~ですか?

ううう。


「ちょ、冗談だってば。

 だいたい、寝てないのにNTRなんて発生するわけ無いじゃない」

えー。

でも雲雀の事だからイケメンと見るとフラフラ~って行っちゃうんじゃない?

「あー。それはあるかも」


ううう。

もうだめだ。

立ち直れない。


「そこで弱気にならないでよ?

 そこはあれでしょ“キチンと俺様の事を身体で覚えさせてやる”とか

 “雌犬にはキチンとした躾が必要だな”や“お前が誰の物か、身体に聞いてやろうか?”的なフェロモンで頑張ってよぉ。

 だいたい遺産目当てなら、兄さんと父さん殺せばそれなりに入るってば」

(ん、手伝うか?)

「有難う、いおりん。だけど大丈夫。

 頼む時は後腐れなくギルドに依頼するから」

(ん、判った)


怖い会話だなぁ、もう。

そうか、そんなに雲雀さん家は家庭崩壊が進んでいますか……。

「兄さんは医大受かってから、家出て行っちゃったしね。

 母さんは私の顔見ると不機嫌になるし、父さんh」

「話す時は口を閉める」

伊織が雲雀の顎を押し上げ、無理矢理、口を閉めた。

(あはは、ごめぇん)




どうやら、ランセとかいう狼達は追ってこないらしい。

「結局アレってなんなの~?」

雲雀の疑問はもっともだ。

僕も聞きたい。


「アレはランセと言うカラーギャングでの。

 主に人狼[ヴェアウルフ]からなる集団じゃ」


「えっ?人狼[ヴェアウルフ]って事は人間なの?」

「いや、今では生まれながらに人狼[ヴェアウルフ]の者も居るが、獣人症[ライカンスロープ]を患っている人間は死人として扱うのが決まりじゃ」

「死人って、でも生きてるじゃん」


「ミュータントと同じだと思う……」

「あ、そういう事かぁ」

雲雀、今の説明で判るのか……。


「人権が無いという事じゃ」


多分、地球で言う基本的人権とは内容が違うんだろうなぁ。

そもそも基本的人権って考えがあること自体、王権と対立した考えに成りがちだし。

一応ココって王政だっけ?

(いや、議会制じゃな。

 地球の歴史で言うと古代ギリシアに近いかのぅ。

 王は権威を持っておる。

 じゃが、政治に参加するには10人の代理人を通じて、議会に意見具申書を提出するしか無いのじゃ)


うわ。結構近代的な思想だ。

でも、そしたら、世の中には人権思想という宗教にはまっている人達も多いし、そういった行き過ぎた人も要るのでは?

(居るぞ、ゴロゴロと。

 前にも言ったが人権よこせとヴァンパイアが真夜中に大通りを騒ぎ歩くし、イプセプスやアーラムの紳士的なオーク達は、他の異世界のモンスターとなっているオークに肩身の狭い思いをしておる。

 反対に人権のあるラパ・ヌイのゴブリンと異世界の魔物と成り果てたゴブリンを同列に扱う困り者もおるしのぅ。

 ゴブリン退治を依頼されて行ってみたら、その中に1人ラパ・ヌイ種のゴブリンが居ての。殺したら殺人罪じゃ)


うわぁ、泥沼だ。

でも人権かぁ。

「まぁた、御主人様は難しい事、考えてるぅ!

 もっと簡単に考えるべきなのよ!

 人権が無いなら手に入れるまでの話よ!」

「いや、そうは言うが難しい話じゃぞ?

 おいそれと政府が人権を与える訳無かろう?」

「単細胞……」

「あによ?」

「御主、便利屋のギルドに入って冒険者をするなら、遺跡に入った時に、そこの持主が人権保持者だったらどうするつもりじゃ?

 宝探しが盗掘、物取り、不法侵入に。

 化け物退治が殺人、器物破損じゃぞ?」

「むむむ、そっか。

 じゃあ考えない!」

「おい」


そうか。

でも、この世界での人権というのは自然発生するものではなく、政府が認定する物らしい。

面白いな。

コレに関して何か本とかあるのかな。

アレキサンドリアだから大図書館があるはずだけど……上かなぁ。




「次はカラーギャングって何?」

「チンピラの上位集団じゃな。

 主にストリートの一角を牛耳って縄張りとしておるから、近づかなければ問題ない」

「ふぅん、じゃあ……」

「うん、そうじゃ、妾の周りに居る奴らはチンピラじゃ」

「危険度は、辛。3人なら楽勝レベル」


見るといつの間にか3人は囲まれていた。

さっきから3人を尾行していた連中だ。

先程のランセとのやり取りを見ていなかったのだろうか?


「……辛いのに楽勝とは、此は如何に」ぷぷっ

(これは十干式と日本語の訓読みの違いを基にした高度n)

それ、元ネタ提供、僕だよね!?




さてと、3人はチンピラに抵抗する気満々だし、やられる様な事は無いだろうから僕は実験でもするか。


同時に3人と視覚、聴覚、知識、記憶共有して得た実動データを統合し、状況の推移を分析した結果を、脳内に擬似的に作った3D地図上に映し出す、と言うもの。

これはコンピュータゲームで良くある情報処理用のバトルフィールドマップを形成すると言うもので、コレを参照すれば、戦場でも自分の立ち位置が即判ると言う優れもの……になる予定。


せめて、これぐらいやらないと要らん子どころか、その内に見捨てられる。

「御主人様、不甲斐なぁ~い」とか「お主様はダメダメじゃのぅ」とか「時雨は泣き顔が似合う」とか……。

ましてや、人肉喰らい[マンイーター]なんて言われたr……うう、吐きそう。

まずいまずい。

久しぶりに、妄想で吐きそうになった。

止めようネガティブ、こんにちはポシティブ。


ただ、ちょっと問題がある。

本来ならこっちに全脳力つぎ込んでも良いんだけど、そうする訳にもいかない。

いつ僕の方に敵が来るか判らないからだ。

そっち対策をしっかりとしないといけないので、今回は精度の良さそうな戦場イメージの構築はできそうに無い。

処理が追いつくかな?






「よう、見た所、この街は不馴れみたいだけど、俺たちが案内してやろうかぁ?黒髪さんよぉ」

ふぅ

「いや、結構じゃ」

「ん」


「そうは言わないでさぁ」

「うっとうしぃのぅ、良いと言っておる」しっしっ



「えー。案内してもらおうよぉ~」


その場の雰囲気を壊した娘が1人。

チンピラな人達も乗気な反応を期待していなかったのか、頭の緩そうな発言にしばし絶句している。


「……おぅ、こっちの子もこう言ってんだし、どうよ。

 ケダモノと違ってやさしぃぜぇ、俺達は」

先程の一件を見ていたらしい。


「ケダモノの方が分別がある」

「そうじゃな……」


「う~ん、じゃあ、やさしいついでに欲しい物があるんだけど」

「うん、何かなぁ?」

「馬鹿でかい剣とギター、テンガロンハットが欲しい」


あ、ちなみに雲雀。

怪傑キラットみたいな帽子の事は、テンガロンハットって言わないからね?

「え?嘘」

本当だよ。

こんな事で嘘吐くわけ無いでしょが。

テンガロンハットっていうのは、カイボゥイハットの1種類d

「じゃあ、あってるじゃない」

う。


えーっとね。

怪傑キラットの被っている帽子はキャトルマンって言うのが正式な名称の帽子だよ。

テンガロンハットは、もう少し頭の部分が上に伸びているんだ。

「むー、細けぇこたぁいいんだよ!」



「お、おいこの娘、何を喋っているんだ?」

「独り言かぁ?」

「ひひ、頭がおかしくても俺達は優しいから、他の女と同列に扱うぜ?」


はぁ。

「だから口を閉めろと……」

「帽子は可能、剣とギターは無理」

周りを見ながら伊織とヴラドは答える。


(だけどアジトに行けば、あるかもしれないでしょ?お金だって)

「御主ッ!いったい何を考えておる!?」

(ヴラド~口、口、喋っちゃってるってば)

(ぐぬぬぬ)


本来なら2人の会話は秘匿心話で僕は知る事ができない。

では、何故、判るのかと言うと、現在絶賛構築中の情報処理用バトルフィールドマップって長いな……IPBFM、語呂が悪いな。

う~ん、まぁいいや。

この情報処理用バトルフィールドマップで2人の会話記憶を再構成したからだ。


(秘匿の意味が無い)

伊織から激しく抗議の意思。

う。

今回は我慢してよ。

なるべく覗かないようにするから。



チンピラさん達の方を見ると、怪訝そうな顔をしていたが気にしない事にした様だ。

もしかしたら、ヴラドも雲雀と同類として扱う事にしたのかもしれない。

(お主様も何気に酷いのぅ)

「ちょっと待ってよ。

 それじゃあ、私だけが可哀相な頭をしてるみたいじゃない!」

「事実じゃ」

「きー!」


そんな3人を見て、チンピラ達は出方を変えたらしい、

今までの強引な攻撃的な態度から一変して、軽いちゃらけた雰囲気を纏い始める。


「ほらほら、そんなとこで話してないで、俺達と良い事しようぜ?

 な、良い場所知ってるんだ」

「どこ?」

「こっちこっち。

 見たらビックリする事、間違いなしさ」

「へぇ~見てみたいなぁ」


「良し、決まりっ!さ、行こうぜ」

チンピラの頭らしい男、赤髪の東洋人風な顔つきの青年が、馴れ馴れしく雲雀の肩を抱き、そっと促す。


「んー、でも、ごめぇん。

 馬鹿でかい剣とギター、テンガロンハットを買わないといけないからぁ、行けない」


「大丈夫、大丈夫。

 その近くに良い店があるからさ、きっと見つかるって」

「そうなのぉ?」

「なー、おい」

「おう、もちろんだ」

赤髪の東洋人が、後ろに控えた手下を振り返り確認を取ると、それにモヒカンヘアーの身長2mの白エルフが答える。


「よし、れっつごー」


「ふぅ」

珍しく伊織が溜息。

ヴラドもやれやれと言った感じでついていく。

チンピラさんはホクホク顔だ。

そりゃあ、上玉3人ゲットなら誰だってそうなるわな。



あー。

ちなみに雲雀、細かい事を言うけど、ギターはこの世界にはないよ。

存在否定はされないけど、そこまでの技術は無いみたい。

ギターの祖先のリュートはあるから、あと500年もしたらギターが誕生するかもね。

(ええ~そこまでは待てないなぁ~)




連れて行かれた場所は、街の外れ近くだった。

この辺りの街並は先程の煌びやかなビル群と違い、砂を固めて造った3階建てのボロアパートと言った趣きになっている。

眩しさは無くなっているが、みすぼらしさが漂う。

多分、貧民街なんだろう。

壁は全面が茶色だ。


雲雀がいい顔をしていない。

潮の香りが強いみたいだ、嗅覚同調する。

ああやっぱり、かなりキツイ。

道理で雲雀が不機嫌そうにしているはずだ。


「おぃ、どうしたんだい?」

「海の臭いは嫌いなのよ」

「そうか、だけどまぁ、すぐにそうは言っておられなくなるから、気にするなよ」




「カラーギャング?」

伊織が、鼻と唇にリングを着けたドワーフに問う。

「そう!!俺達は泣く子も黙るルトゥムカンケルよ!」

「かっこいい!」

「そうだろう!」

雲雀が黄色い声をあげる。

ぐぐるさんで翻訳すると泥蟹だけどね。


……。


何だろう。

雲雀がキラキラとした目で、いや他の男と話しているだけでムカムカしてくる。

いや、まずいね、これは。

嫉妬だ。


僕は独占欲がかなり強いんだろう。

伊織と108の時もそうだったし、ヴラドとヴォータンの関係には、未だに何とかして割り込みたいと思っている。


ただ雲雀がチンピラと話をしているだけなのに、気が気でならない。

むぅ、なんて心が狭い。



その後、雲雀はギャング団退治の為に、幾つかの心話を伊織、ヴラドと3人で行う。

口に出すとまずいので、その間中、自分の唇を指でつまんでいた。

生き生きとしているなぁ。

3ヶ月前の、あのつらい時期をふと思い浮かべて、なんだか僕も嬉しくなってきた。

やっぱり雲雀は悪巧みをしている時が一番輝いているよ。

(御主人様?

 あとでじっくり話しましょうね?)

あはは。






事態は、雲雀の思い通り進んでいるみたいだ。

雲雀、伊織、ヴラドを取り囲むように20人近い男達が集まってきている。

その容貌、人種は様々だ。

3人をナンパした東洋人、モヒカンエルフ、鼻リングのドワーフに加えて、アフロヘアのゴブリン、舌を二股に別けた黒エルフ、耳ピアス×6の白人、赤い肌の男、浅黒い肌の男、黒人……まさに人種のるつぼ。

だけど、これは……。

(うむ、このギャングは原理主義者の集団じゃな。

 ラパ・ヌイの十氏族以外を人として認めないという連中じゃ。

 じゃから獣人[テリアントローペ]や人竜族[ドラゴノイド]が入っておらん)

(ね、ヴラド、こいつらって正当防衛なら何をやっても良いんだよね?)

雲雀の怖い確認。

(ん、む。まぁ、のぅ)


「さ、善い所につれて来たぜぇ。

 さぁ、これから俺達と良い事しようかぁ」

「えぇー、先に馬鹿でかい剣とギター、テンガロンハットが欲しいんだけど」


「あははは、まぁだ、そんな事言ってるのかよ!」

「1発ぶち込んで、黙らせちまえよ!

 もしかしたら良すぎてヒィヒィ喘ぐかもしれないけどなぁ!ははは」


周りを取り囲む事で絶対的優位と思ったのか、態度が豹変する。

馬鹿にしたように笑い始め、自らの腰に下げた得物を引き抜くと見せびらかす。

「ははは、ぶるっちまったのかい?

 大丈夫さ、おとなしくしていればそんなに酷い事にはならない。

 むしろ気持ち良いはずさ」

そう言うと男達は、3人に手を伸ばして掴もうと迫る。

(御主人様~、絶対に特殊能力【ダメージ転写】は使わないでね?

 今から正当防衛するんだから。私達は被害者になるから)

あー、うん。

でも、それ、日本語としておかしいよね?

(うぅむ。地球の世界法則[リアリティ]は恐ろしいのぅ。

 誘い受けがデフォとは……)

それ、世界法則[リアリティ]なのかなぁ?




雲雀は首筋につけつけられた剣に指を当てると、シュッっとスライドさせる。

紅い、紅い血がつつっと流れ落ちる。

慌てたのはギャング達。

「ちょ、てめぇ馬鹿か!何しやがる!!」


「きゃーこわいー。

 切られちゃったぁ。

 私たち殺されちゃうノ~?」


「え?いや、殺しはしねぇ。

 ちょっとおとなしくしてれば良いんだよ」


「いやぁ~。

 きっと殺されるんじゃなくて、天国に逝っちゃうんだぁ。

 でもそれって殺すと同義語ぉ」


「へへ、そうとも。

 お前を天国に連れて行ってやるぜぇ、快楽と言う名n」



「はい、言質取ったッ!!」ぼくぅ

雲雀の右ストレート。

光る、回る、唸る。


伊織は、ヴラドと自分の近くのギャング達に電撃を流している。

どうやらポニーテイルに髪の毛に扮した伝導体をもぐりこませていたらしく、電撃を受けているギャングにはそれぞれ髪の毛が数本絡みついている。


ヴラドは魔法を使う。

「いでよ、ドラゴンスレイヤー!」

巨大剣の創造魔法【クリエイトドラゴンスレイヤー】だ。

ヴラドが即興で構築した魔法で、地面からいきなり、剣というにはあまりにも大きすぎて、ぶ厚く、重く、大雑把過ぎる、それは正に鉄塊な武器が出現する。

暑さ5cm以上、幅30cm、2mはある刀身とバーサーカーという漫画のイメージそのものの両手剣だ。

「ありがと、ヴラド!」

「何度も説明したが重いぞ!

 心してかかるのじゃ!」

「大丈夫!私、メイドだからッ!!」

「その根拠が判らんのじゃ!」


3人は背中合わせに立つ。

360度、何処から来ても対応ができるはず。

問題は上空と地下だが、今回は大丈夫だろう。


要らん子な僕の生残りを掛けた隙間産業、さぁ、情報処理用バトルフィールドマップの本領発揮だ。

僕の処理能力が追いつけば良いんだけど。

脳みその中に立体マップをイメージする。

情報が得られていない3人の死角は黒で塗りつぶし、それ以外の部分をリアルタイムでイメージを重ねる。

伊織のインプラント【義眼】がとても役に立ってくれている。

おかげで相手の危険度や状態異常について細かく既定できる。






呆気に取られていたチンピラもといカラーギャング・ルトゥムカンケル達だが、リーダーが倒れ、いかつい格好のエルフやドワーフ、ゴブリンが倒れても闘志を燃やし襲う気満々だ。

「やってくれるじゃねぇか」

「ひひひ、リーダーにゃあ悪いが、分け前が増えた」

「お、お、お、おでの剣の方が、ぶっとく、熱く、そして益荒男すぎるんだなぁ~。

 そ、そ、それは正に肉棒なんだなぁ」

「おい、お前ら、あの剣は創造魔法だ。

 幻覚だよ、恐れる事はねぇ、畳み掛けるぞ」


「試してみる?」

メイドが挑発する。

「やっちまえ!」

二股舌の黒エルフがいっせいに襲い掛かれと合図すると同時に、ドラゴンスレイヤーが一閃する。


「ぶぎゃ」

「べちゃ」

「ぶらぁお」

3人まとめて壁に叩きつけられる。

これで、雲雀側には黒エルフが1人。


「ば、馬鹿な……幻影と判っていても防げない幻影なぞ、よほどの術者でなければ造れぬ……」

「いや、それは実態じゃぞ?」

ヴラドが憤慨したように答える。


「ふ、ふはは、幻影を実体化させるなど、真なる知識で補強する以外、手は無いはずだ。

 それを無詠唱、無圧縮、無動作、無印で行うなど……」

「いや、流石に永続化は無理じゃが、御主も300年ぐらい生きれば出来るじゃろ?」

横目で黒エルフを見ながら答えるヴラド。


伊織はヴラドをフォローしつつも自分に近づいてきた敵を倒している。

鞘のついた忍者刀で触るだけの簡単なお仕事です。


「くそ、この黒髪、何か変な魔法を使いやがる!」

「接触型の麻痺魔法だ!なに、触れなければ良いだけの事よ!!」

「くっ」

遠巻きに8人ほどが残っている。

「……」

伊織は油断無く鞘のままの忍者刀を構え、近づいて来るのを牽制している。



「じゃあ、交代ねぇ」

ぐるっと3人は立ち位置を変える。

雲雀は残り8人に、伊織とヴラドは二股舌の黒エルフに。


「見た目通りの人間じゃねぇのかよ。

 若返りか若作りか知らねぇが、ロリじゃなくてババァとはな……」

「……」怒怒怒

「まかせる」と伊織。

「うむ、こやつは塵1つ遺さん。

 万物構成物質[マナ]に還してやるぞ、小僧」




「此方に加勢……」

伊織は、雲雀の方へと入る。


「後残り8人なら楽勝ね?」と雲雀。

「いや、まだ。奥に1人……」

「ん?」






「やってくれんじゃねぇーかよ」

奥からノソリと巨体が現れる。

身長2m、浅黒い肌のスキンヘア。

得物は何1つも持っていないが、威圧感だけは半端ない。

年齢は30手前ぐらいの地球で言うインド系の人種だ。


「せ、せんせいっ」

「せんせぇ~」

口々に若者がそちらに走っていく。

「あ、あの、黒い長髪の女をやって下さい!

 不思議な魔法を使って仲間を次々と……!」

「お、俺達はあっちの怪力女の方をやっつけるんで!」


「バカヤローッ!!お前達の目は節穴か?

 あっちの両手剣の女に、お前達が向かっていっても勝ち目はネェ。

 だが、あっちの長髪なら押さえれば勝てるだろぉが」

「え、でも……」

「みんな一撃で……」

「頭を使えよぉ!ホラよ」パチンッ

指パッチン。

僕アレできないんだよなぁ。


スキンヘアな先生の指パッチンによって、伊織の攻撃で気絶していたチンピラが回復した。

どうやら状態異常を回復させる魔法だったみたいだ。

「う、くそ……」

「してやられたぜ」


「あ~らら、せっかく、いおりんが手加減してくれたのに、また痛い目を見たいんだぁ」

「次は切る」

鞘から忍者刀を抜く。


「な、なんだ、あの得物」

「ただのスタッフじゃなかったのかよ」

「なまくらさ。すぐに叩き折ってやる」


「何度来ても同じ」



「そうはさせんよ」

ゆら~と先生が前に出て来る。

「お前の攻撃方法は見切っている。

 雷撃の接触魔法の亜種だ」

「おお」「さすが先生だ」「先生ぇ」「俺、先生になら尻掘られてもいい」


「発動!」パチンッ

スキンヘアな先生が、再び指パッチンする。

「お前達に耐電能力を付加してやった。

 もう、これでお前達は負けネェよ」

「おお」「さすが先生だ」「先生ぇ」「俺、先生になら尻掘られてもいい」



伊織と雲雀は動かない。出方を待ってあげている。


「ありがとうよ。ワザワザ待ってくれているとはなぁ」


「当然でしょ?実力を出し切った上で、完膚なきまでに叩きのめしてあげる」

「ココには闇討ちしなければならない程の実力者はいない」

雲雀も伊織も辛辣な事を言う。



「そうかい。じゃあ、この街で最強の俺と遣り合ってもらおうか?

 いまさら後に引こうなんて考えてネェだろう?」


拳と拳をガンッと打ち合わせる。

「発動!移送魔法【コールイクイップメント】ッ!!」


スキンヘアな先生の周りに光が輝き集まったかと思うと、次の瞬間には完全武装の鎧を着た姿へと変わっていた。

バケツをひっくり返したような兜、ぶ厚いミトンの様な小手、獅子を模した胸当て、動きを制限しないまでもがっしりとした脛当て、そして刺のついた鎚矛を構えている。


「ふぅぅ、この姿になるのはひさしぶりだぜぇ」

「おお」「さすが先生だ」「先生ぇ」「俺、先生になら尻掘られてもいい」


(か、かっこいいー!)

雲雀の琴線にも触れたようだ。

(でも……)



「この街で最強?」ふっ

雲雀は完全武装したスキンヘアな先生を見て笑う。

「成る程、あんた、確かにこのストリートじゃあ最強かもしれない……」


「でも……」


「この街じゃあ、2番だ」

相手に手の甲を向け、ピースサインの要領で2本指を立ててみせる。


「はっ、面白い事を言うじゃネェか!!

この竜殺しの武装を壊せる奴が、この世に要るわけないだろうが!」


口笛を吹けない雲雀は、ヒュウと喋る。

「ちっちっち……」

ノンノンノンと人差し指を左右に振る。


「?」

「あたいさ」

自分を指差す。


「―――!!」




なんと言うか、雲雀はやり切った感で溢れている。

(かんどーーーッ!!)

台無しだ。

(まさか、ここまでハマリ台詞を言ってくれる敵なんて!

 この先生、殺すの惜しいよ!)

まってまって、最初から殺す気満々はダメだよ!

一応被害者、正当防衛を言うつもりでしょ?


(あー、そろそろ動いて良いか?雲雀)

伊織も困った様に問いかけてくる。

(すまん。妾の方が先に動いておる)

ヴラドから連絡が入る。



ヴラドの方は、二股舌の黒エルフと睨みあっているが、エルフが動き出す。

「ひゃっはーっ!くらえっ、変成魔法【エアカッター】ッ!!」

唇をすぼめて口笛を吹く要領で3回、フュッフュッフュッと吹くとそれがカマイタチの様にヴラドに襲い掛かる。


「ぬるいわっ!!」

ヴラドの特殊能力【咆哮】で発動中の魔法を意思の力で捻じ伏せる。

起こった現象ごと打ち消す。


「粗末な魔法じゃ!!キチンと初等教育から習って来るのじゃ!

 もっともスタンダードな魔法でも使い方次第では、幾らでもやりようはあるというに」

ヴラドは懐からライターを取り出し、しゅっと火を灯す。

「初歩の初歩じゃ、耐えよ。

 変成魔法【オルタードファイヤーボール】」

ライターの炎が一瞬激しく揺らめき、巨大な炎球となると黒エルフに襲い掛かる。





激しい爆炎と共に空から黒エルフが、スキンヘアな先生とチンピラの前に振ってくる。

「ぶべきゃっ」


「最近のラパ・ヌイ人は、やぐいのが多いのぅ」


「あら、早いね~ヴラド」

「ん?まぁ、御主等がある程度片付けておいてくれたからの」

「魔法の実験台とやら、もう少し要る?」

「いや、後は多弾頭ファイヤーアローとか衝撃音波と言った物騒な物が多いのでな、今は控えようぞ」

伊織の問いにヴラドはカラカラと笑う。

「思った以上にライターは使えるのぅ。

 本来ならロウソクや松明といった火元が必要な魔法なんじゃ」

ホクホクとライターをしまう。



「さぁ、やろうか?先生」


「うぉぉぉっ!!」

ガンッ、ギン、ガンッ

2回、3回とモーニングスターの攻撃を、右から左、左から右へ両手剣で軽くいなす雲雀。

「おらおらおらーっ!」

更に雲雀を追い詰めるラッシュ。

スキンヘアな先生は、連続で刺付きの鎚矛を振るう。




当初の背中合わせの陣形が乱れ、雲雀はスキンヘアな先生と1対1の状況に追い込まれる。

ヴラドと伊織は、それを横目に残りの総勢16名と対峙している。

「困った……」

「ん?どうしたんじゃ伊織」


「殺す以外、手がない」

「また物騒じゃのぅ」


「企業忍者の技は、どれもが暗殺術。

 手を抜く事を想定していない」

「あー、そういう事はあるやもなぁ。

 ならば首以外の動脈を狙ってくれれば、後は妾が対象を仮死状態にする魔法【アスフィキシア】で何とかしようぞ」

「ん」

(インプラント【アドレナリンブースター】の使用開始。

 プロテーゼ【バトルドラッグ】投与)


伊織が動く。

忍者刀を構え突撃。

1人目の右腕を切り落とし、2人目は腹を割く。

「な!」

「こいつ、早いぞ!」

更に、ポニーテイルの髪の毛から、まるで意思があるかの様に、何本かが動き出しチンピラを襲う。

「無駄だ!もう電撃は効かネェ!」

「ははは、さすが先生の魔法だ」


だが

「あれ?」

「ぐふっ」

がっ

咽喉を掻きむしる者、痙攣し引付けを起こす者、どちらもすぐに倒れる。

白目を剥き、泡を吹く。

生きてはいるが長くは持たない。

(もともと電撃はフェイク……本命はこっち)

「うぉい、雲雀。

 流石に毒で死なれると蘇らすのは面倒じゃぞ」

「すぐに仮死状態に」






「あっちはすぐに終わりそうだねぇ」

「うらあっ」

雲雀は、攻撃を受け流し続けている。


というか、よくそんなに重そうな得物を……。

もしかして軽いのかしらん。



「んじゃ、こっちも決めるね」

「はっ!防戦一方の癖に、何を言ってやがる!」


「ふっふっふ、必殺技の溜め時間よ!」

「はぁ?」

「こんだけやったんだから、私には適わないって判った?」

「はっっ!!寝言は寝てから言うんだなッ!」



「んじゃ、メイドのみやげ!」


うわ、雲雀、本当に今日はノリノリだ。

怪傑キラットの物真似をやって満足したんじゃないの?

(それはそれ、これはこれ。メイドはメイドらしく!!)


「メイドのみやげ!ブレイクスラッシュ!」


雲雀は思いっきり両手剣を振り上げると横になぎ払う。

「げばぁはっ」ごしゃあっ


壁にぶち当たると共に、鎧が粉々に粉砕されていく。


「が、が……」




取り合えず、雲雀、名前がダサいよ。

(う、うるさーいっ、良いじゃない少しぐらい、時間が無かったんだからぁ!)

所詮パチモンはパチモン……。

(じゃあ、御主人様が考えてよ!

 共振破砕使った技を!!)




そうして雲雀も伊織もヴラドも、1分とかからずに戦いは終わった。


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