ドキドキ、クラクラ、はじめてのおるすばん
今、僕は異世界に居る。
ココは異世界ラパ・ヌイ、ヴラドの居城奥深く。
俗に言う謁見の間と呼ばれる場所だ。
僕が座っているのは樫の木で作られた玉座。
緻密で精巧な唐草の文様が浮き彫りにされた年代物だ。
周りより数段高くなった場所に玉座はあり、ここから前方40m程の所に両開きの大きな扉がある。
扉と玉座までの間には、幅3m程の紅いベルベットの絨毯が敷かれている。
その絨毯の両脇には8本の幾何学的な模様の太い柱が立ち並び、荘厳な雰囲気をかもし出している。
玉座の後ろは石壁だ。
正確には金糸と銀糸で飾られた紅いベルベットのカーテンが石壁を一面覆っている。
天井からは何かの国旗(後で聞いた話だと、イプセプスのスルターン近衛兵の旗だとか)が吊るされているが、紅い色調なのでこの部屋に上手くとけ込んでいる。
しかし、この石壁の内、玉座の真後ろだけは、石壁の幻影になっている。
幻影で隠されている部分には、宝物庫へと続く通路があり、触らない限り判らないようになっている。
往年の古典名作RPGに出てくる、竜王というラスボスの城に同じトラップが出て来るが、そっくりだ。
向こうは隠し階段だけど。
玉座の後ろに、何か隠してあるのは変わらない。
室内の建材は花崗岩みたいだ。
大きな岩から削りだして、この城内を造っているのだろう。
だから柱や壁など、どこにも継ぎ目が無い。
建材を積み上げ、組み上げ、1つの大きな物を造るのではなく、大きな建材を切って削って1つの形として整える。
ラパ・ヌイの建築は、地球とは方法が全く逆に発展した感じだ。
そんな造りの室内に、所々、岩盤を突き破って植物の根が生えている。
世界樹[ユグドラシル]の根だ。
ヴラドいわく、世界樹[ユグドラシル]の根は、補強材としてこの城の役に立っているって言ったけど、それってあれだよね。
河原の土手に植林するのと同じで、根が土を掴む事で、保水力を保つって事だよね?
植物の特性を生かして、土手を強化する方法だけど、それってココで使っても意味無いよね?
コレって土を掴むんじゃなくて、岩盤を割って進入してきてるんだから、強かったはずの岩が非常に脆く弱くなってしまっているって事だよ。
本当にこの城、大丈夫なんだろうな?
崩れたりしないだろうな?
ちょっと唱えてみようか?
バルスって……うわぁ、ドキドキする。
それとも。
実はこの植物、成長するのに水や光、酸素を必要としない。
そんな水も光も要らないんなら、根っこを伸ばす意味も葉っぱを茂らす必要も無いじゃん。
それなのに、何故伸ばすのか?
あれか?
あれなのか?
ボソリと呟く。
「世界法則[リアリティ]が違うから」
ハイ、しゅーりょーっ!!
思考の停止。
それ以上の追及をかわす魔法の言葉だ。
……。
むむむ。
それでも水や光、酸素を必要としない時点で、生命体なのか疑わしい。
呪具って言ってたしな。
ヴラド曰く、この植物の成長に必要なのは魔力素と強い感情だと。
その為に根を伸ばしている?
葉っぱを茂らせている?
そう考えれば、少しは自分自身を納得させる事はできる。
とまれ、世界樹[ユグドラシル]は、大量の魔力素と人々の強い感情を飲み込みながら、それを基にして成長し、それに合わせて体現者[シュトゥルム]と同じ能力を持つに至るって物体だ。
体現者[シュトゥルム]……。
要するに世界法則[リアリティ]保持能力だ。
ううぅ。
植物モドキにもできる事が僕にはできない。
だから、お留守番……。
雲雀、伊織、ヴラドの3人はアレクサンドリアへと向かって出発してしまった。
ぼくは1人で留守番。
あしでまとい……。
(だあぁぁぁぁっっ!)
雲雀の心話というか、叫びが脳内に響く。
その後にヴラドからの心話。
(誰もそんな事は、思っておらんわ。
お主様は、どうもネガティブな方向に走ると全力で落ちていくのぅ)
(そーよそーよ!
暗いったらありゃしないっ!)
雲雀の叱咤の声が送られてくる。
ありゃ、聞いてたんだ。
(時雨はもっと怒るべき……)
伊織からも元気付けようとしたのか意味不明なエールが送られてくる。
ああ、皆に迷惑をかけてしまっていたみたいだ。
愚痴はヤメ。
一回深呼吸をする。
気分を変える。
こっちは玉座で出待ち中、そっちは?
(こちらはアレキサンドリアの駐輪場じゃ)
駐輪場?
ファンタジーには似つかわしくない言葉なので少し躊躇う。
状況把握の為にも早速ヴラドと視覚、聴覚、知識共有を行う。
ああ、そういう事か。
ココに来る時に使った、転移系の創造魔法【フェアリーリング】の出口だ。
この魔法は、入り口に黄色く着色した砂の円陣を作り、出口にも同様に円陣を作って、その間を繋ぐ亜空間作成の魔法だ。
一度この円陣を作ってしまえば、何度でも術者本人が再利用できるので、冒険者や旅の商人、危険地域監視兵などは重宝している。
似た様な魔法で、空間湾曲型の変成魔法とか、移動にかかる時間をゼロにする移送魔法など、結果は一緒でも構築プロセスの違う魔法は数多い。
でも駐輪場と呼ばれる、この魔法専用の場所が作られるのは、それだけこの世界ではポピュラーなのだろう。
知識共有から、ヴラド達のいる場所を脳内地図に描き出す。
ラパ・ヌイの首都アレキサンドリア。
地球のアレクサンドリアと同じ場所、エジプトは地中海に面した港町で、世界中から人が集まる人口密集地となっている。
その都市部の外郭に近い場所に立つ、塔の様に伸びた岩をくり貫いて作った部屋の一室が、ヴラドの駐輪場だ。
この岩の中にある部屋は全て誰かの名義で使用されている駐輪場らしい。
いわゆる月極駐輪場だ。
「ふぅ」
僕は左肘を玉座の腕掛けにつき、頬を乗せて思考の淵に沈む。
雲雀、伊織、ヴラドのそれそれに知識共有した時の情報処理用の思考スペースを作る。
加えて僕自身の本音と建て前用にスペースを2つ。
赤スライムとも感覚共有はできるけど、直接の共有はキツイ。
目も口も鼻も、脳も背骨も血液も無い生命体(擬似だけど)のと、共有できるものなんて人間には無いからだ。
そこで従属魔として使役しているヴラドの感覚をフィルターとしてヴラド経由の共有を可能にする。
で、どうせ、ヴラド経由ならドラコニー用にも1つ作っちゃえ。
合計7つ分の並列思考……いつもは最大で3つだから2倍以上!
あああ、少し無理っぽい。
クラクラする。
削る。
5つまでに落として、なんとかなった感じだ。
上手くやれるかは判らないけど、僕は溜息をついて隣で眠るドラコニーを見る。
赤いスライムは天井で擬態している。
ふぅと深呼吸。
雲雀、伊織、ヴラドの3人と同時に視覚共有する。
「うぐぅ」
まずは4つの視界に、吐きそうになる。
4画面を1つのスクリーンに映した感じだ。
「ううう」
いったんスクリーン上で4分割して、再統合する。
すると、モヒカン店員と戦った時みたいな画面になる。
いや、ちょっと違う。
今回はヴラドの視点ですらない。
3人の見ている場所の平均値から作っている視点だから、ころころ変わる。
「うぇ~っぷ」
コレは酔う。
只でさえ2日酔いなんだ。
却下で。
視線は伊織で固定する。
3人の中で一番くっきりはっきりとしている。
それどころか、ズームまでしてくれる優れもn……ズーム?
(眼球義眼化による恩恵。
情報収集が完了次第、警告表示も可能となる)
僕の疑問に伊織からの心話が答えてくれた。
そうですか、サイバー舐めてました。
(時雨、アクアジェット入れるか?
ジョジョの微妙な冒険のジオみたいな)
目からビームですね?
要りません。
さて、視線も固まったし3人の旅の様子でも来て楽しむとしよう。
暫くは暇なんだ。
さて、その駐輪場だが、出口は2箇所だ。
普通の木製の扉と、その対面にある壁一面が3枚のスライドする木戸となっている。
「コレって何?」
木戸を指差す雲雀。
「まぁ、空ければ判るじゃろ」
「どーゆー事?」
「……」
伊織も気になっているのか、率先して木戸をあける。
ぶぁっと風が入ってくる。
潮風だ。
木戸の向こうは何も無い。
いや正確には床が無い、天井は無い、壁も無い。
果てしなく続くアレキサンドリアの市街地と、青く澄んだ空が広がっている。
丁度ゴルフの練習場の2回みたいな構図といえば判るだろうか?
地上20mぐらいの絶景かな、絶景かな。
「ナニコレ」と雲雀。
「トラップハウス?」と伊織。
「ただの玄関じゃ」とヴラド。
「んぅ、判んないよ、ヴらえもん」
「クライミングの練習場?」
「ふむ、えーとじゃな……」
ヴラドは外も見ると、伊織と雲雀も自然と外へと目を向けた。
すると、似た様な石柱は幾つもあった。
何本も何十本も、駐輪場が林立している。
暫く駐輪場を見ていると、その中の1つから人が飛び出す。
「「え?」」
飛び出した人物は、空中を走り始める。
まるで地面があるかのように。
「ナニアレ」
「……」
その後も様々な所から人が飛んでいく。
スーパーマンの様に、平泳ぎの様に、魔女みたいに箒にまたがって、ヒポグリフや馬に乗って、舞空術、ハヌマーン飛び、十傑集もしくは素敵走り、えとせとら。
十人十色、多種多様、ありとあらゆる飛び方で空中を移動する。
「先程も言ったじゃろ。
実力を見せる機会があれば見せつける。
それができねば笑われるのみ」
「ああ、それで……空を飛ぶってワケね」
「飛行能力は実力者の証?」
「まぁ、少なくとも中級者以上ではあるの」
「……」
「?」
「……」
「伊織?どうしたのかや?」
「イオンクラフト……3人は無理」
「イオンクラフト?
なんじゃ、それは?」
「……こう、電気で」
雲雀はヴラドにも判るように単語を選びながら説明しようとする。
「ああ、いや、地面を歩くから大丈夫じゃ」
「浮かない?」
「別に体現者[シュトゥルム]である妾達までもが、世界法則[リアリティ]に従う必要はあるまい?」
そう言ってヴラドは反対側の扉から駐輪場を下りていく。
「……」
伊織もヴラドの後に続いて階段へと向かう。
しかし
「ねぇ」
雲雀が伊織を止める。
「?」
「女狐、アンタ、ココから降りれる?」
雲雀が木戸の下を見ながら聞いてくる。
「……」
伊織も雲雀と同様に木戸から下を覗き込む。
ズーム。
何箇所かに鼠返しの様な出っ張りがあるのが判る。
「所々にある鼠返しを足場に利用する……可能」
「どう、競争してみない?
一番早く誰が降りれるか?」
「……何を賭ける?」
「私とアンタの初夜の権利。2日間独り占め」
「……のった」
え?
ちょっと待って、2人とも!!
そこから下りるなんて、無茶だ!
「お互いの妨害は無しで……」
「ん」
「行くわよ」
「「用意……」」
「「スタート!!」」
伊織は篭手から細いワイヤーみたいな物を飛ばす。
狙い違わず、奥の扉の蝶番部分に絡ませ、強度を確かめる。
「ん」
そのままロッククライミングの要領で岩の塔を降り始める。
グローブの手の平の部分で、たわみを調節しているが、僕は指が切れてしまわないかとヒヤヒヤものだ。
(それなら大丈夫、この小手は指紋擬装用の効果がある。
指貫に見えるだけ)
ああー。
でも気をつけてね。
鼠返しの部分で、カーボンが擦れて切れるかも。
(ん……)
対する雲雀。
「んふっふっふ」
不敵な笑み。
でもきっと何も考えていない。
(それは、ちょ~っと酷すぎない?御主人様)
ええー。
でも実際何も考えていないでしょ?
(成せば成る!成さねばならぬ、愛の為!)
うわ、根性論。
「とう!」
飛び降りたっ
って、おいぃ雲雀!
「くそぅ!特殊能力【ダメージ転写】っ!!」
(やるなって言ってんでしょーがっ!!)
雲雀から要請。
でも聞き入れるわけにはいかない。
(大丈夫だからっ!!
……多分)
多分ってなんだよ、多分って……。
でも、判った、今回だけ止める。
(まったく、心配性なんだから!)
雲雀が楽観的過ぎるんだよ。
勝負は一瞬にしてついた。
雲雀が伊織を追い抜き、地面に激突……と見せかけて、不自然な風が下から上へと吹き上げる。
「よっと」
ふわっと着地。
その差4秒ほどだろうか?
遅れて伊織も大地に立つ。
「……」
伊織は押し黙っている。
でも、この顔は見た事がある。
一番最初に見た表情だ。
悔しいんだろうなぁ。
「……」雲雀を睨む。
「……」雲雀はにやにやと笑っている。
「……いちど」
「?」
「もう一度、勝負だ」むむむ
「ぬふふふ、いいよー」
「御主等なぁ……」
顔段を降りてきたヴラドが、息も絶え絶えに言う。
「遅いよ、ヴらえもん」
「ん」
「何も御主等までラパ・ヌイの世界法則[リアリティ]に、あてられんでも良かろうに……」
「そうなの?」
「それは無い」
「ほら、伊織もそう言ってる、レクよレク。
ただのレクリエーション」
「ん」
はぁと盛大に溜息をつくとヴラド。
「ならば賭け事は止めるのじゃな。
特に後に遺恨が残りそうな物はの」
「えー」
「ん。だが勝負は勝負。
この戦いは私の敗北」
「お、潔いじゃない」
「口約束だが、契約は契約だ」
「え?」
「不当に奪われたわけではないので、復讐もできない」
「は?」
「今回は完敗だが、次回は負けない」
「……」
暫く呆気としていた雲雀だが。
「ふっふっふ、いいわよー。
私は!!
いつ何時、誰の挑戦でも受ける!」ぐっ
「なんじゃ、2人して盛りあがっとるの」
ヴラド、聞こえる?
(なんじゃ?お主様)
取り合えず僕は、ヴラドに先程の伊織が見た、雲雀の不思議現象の鑑定依頼をする。
着地寸前の異様な風だ。
(なんじゃろうな、判らんのぅ。
聞くのが一番じゃろ)
「雲雀、先程の着地寸前の業はなんじゃ?」
「うん、あれ?」
「……」こくこく
伊織も興味しんしんだ。
「あれ、天使の加護よ」
「は?」
「私の脳内お友達が、私に危機がせまると力を貸してくれるの。
万能じゃないから限定的な力だけど」
なんだろう、言ってる事だけを聞くと、ただの危ない人なんだけど……。
水曜日に見ちゃってるからなぁ。
天使[エンゲル]パトリオットだっけ。
確か今は階級が上がって、大天使[エルツアンゲル] パトリオットだった様な。
(そんなわけで、御主人様は何でもかんでも特殊能力【ダメージ転写】に頼りすぎです。
たまには私達を信頼してくれてもいーんじゃない?)
うーん。
信頼とかじゃなくて……傷つかれるのが嫌なだけで。
傷つく所を見たく無いんだ。
(ほっほーう。
それでは御主人様は、私達の所為でヤシロが傷つくのを見ても、
私達が平気でいられると思っているんだ?)
「え?」
思わず声が出る。
(本来なら自分が負うべき傷を、ヤシロが肩代わりして苦しんでいるのを見て、私達がゲラゲラ笑っていられる人間だと、思っているわけだ、御主人様は!)
え!?
いや、違う。
そんな事は露とも思って無いよ!?
(そ?じゃ、あとで卍固め。2晩中)
ひぃ。コブラツイストで許してぇ!
(それが嫌なら、今後、特殊能力【ダメージ転写】を使う場合は、使用タイミングを間違えないようにしてよね。
今回みたいに、自分の能力で何とかできる場合だってあるんだから。
何でもかんでもダメージを取られたら、こっちのコンディションだっておかしくなる時もあるの。
判った!?)
ううぅ。
はいぃ、判ったよぅ。
もう特殊能力【ダメージ転写】は使用しない。
よほどの限りは、ううう。
(おぅ、まさか雲雀がお主様を説得するとは……)
(意外……)
「これは明日は雪が降るのぅ」
「天変地異の前触れ……」
「ちょっと待ってよ、何よそれ~ッ!!」
今回は少しばかり反省。
確かに調子が狂うというのは納得できるし、何よりも僕自身が彼女達の実力を信じていないと取られてしまうからだ。
ふぅ。
溜息と共に、もやもやを打ち消す。
じゃあ、特殊能力【ダメージ転写】解除するよ?
一言告げて僕は、特殊能力【ダメージ転写】を解zy
(あ、2日酔いは解除しなくて良いから!!
あげるっ、ぷれぜんと、ほー、ゆー。愛を込めて)
「はぁぁ……」
「……ん」
「あー……」
色々と台無しだ!




