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世界の 法則が 乱れる!  作者: JR
第07話 非日常な常識と非常識な日常
102/169

奇跡も、魔法も、あるんだよ、みたいな?

事実は小説より奇なり。

ローマ法王ベネディクト16世が2月28日に退位なさるそうです。

さて困った。

あと10年ぐらいは大丈夫だろうと思っていたのですが、また1つの終末預言が外れてしまいました。

作中では、ベネさん在位中と言う事でここは1つ。

金曜日、夜の12時少し前。

明日は休みなので、ゆっくりとしている。

予定も何も無い、いつも通りの日々。


「ではの、お主様。妾はそろそろソロで寝る」

「ないす駄洒落」


「くふふっ。お主なら何点つける?伊織よ」

「ん、9点。説明責任をおこたった。画竜点睛を欠く」

「くふふ。そうかや」


ヴラドが僕の部屋を出て行くと入れ替わりに、伊織が僕の部屋を訪ねてきた。


「ではの、良い夜を。伊織、お主様、お休みじゃ」

「お休み、ヴラド」

「ん、お休み」


「で、どうしたの?伊織」


内容は至極簡単な物。

一緒に寝たいと言う事だった。




雲雀が勝手に決めたローテーションは、すでに動き始めている。

月、木曜日は雲雀、火、金曜日は伊織、水、土曜日はヴラドだ。

月、木曜日は雲雀本人が居なかったのでパス。

火曜日は、伊織は僕の部屋に来なかった。

だから水曜日にヴラドがやってきて、熱い夜を過ごしたのが実質上のローテーション開始だ。


でも、僕は未だに伊織と、雲雀に手を出すのが怖い。

もしも懐妊してしまった時の責任とか、そういった高尚な理由ではなく、ただ単に2人の前で裸になるのが怖い。

毎度、いつもの事だが、自分で自分を見て思うのだ。

醜い身体だと。

ケロイド状の皮膚が、黄土色の死んだ様な肌が、飛行機事故の傷痕が嫌だ。

だから醜い肌を剛毛で隠す。

類人猿は言いすぎだが、全身に境目など無く生える剛毛は醜くもあり、惨めさを隠す鎧だ。

そんな情けない自分を見られたくない、笑われたくない、嫌われたくない。

そもそもこんな事を考えている時点で、2人を信頼しきれていないのではないか。

そんな風に思ってしまう自分が嫌で、さらに醜く感じる。


ヴラドの言葉で、楽にはなったが、やはりまだ踏ん切りがつかなかった。

コンプレックスは、そうそう乗り越えれる物ではない。

性欲もそんなに強くない……はずなので、もう少し様子を見て少しずつ時間をかけて歩み寄ろうと、考え始めていた矢先だった。



「時雨、抱いて欲しい」

正座して、僕の目を見て言う。


「え、と……」

「大丈夫、子宮の無い私でも、時雨と1つになる方法が見つかった」

「?」

「これだ」


伊織は次々と特定年齢未満閲覧禁止条項のある漫画本を置く。

米一文字、水月森太郎、林谷さい、只野定規……。

ああ、何故か判る、ココに積まれた作者の作品はどれも一定の傾向がある。


「学習した」胸をはる。

「……ああ、うん」

「では、いざ尋常に」

「違います、えーとですね、明かりを消しませんか?」

「それでは観察が出来ない」

「観察?」


「気付いていると思うが、私は皇國代理天で要人暗殺の役目を担い、訓練してきた体現者[ビジネスマン]だ」

「うん。毒娘だっけ?」

「そう。だが、途中で仕様変更がかかって、私はいくつかの学習を受けていない。

 その為、特定の知識が欠如したまま出荷された」

「特定の知識?」


「ん、寝技だ」


「寝技?」

「前にヴラドに話していただろう?48の殺人技について」

「違います。それは混ざっています」

僕は取り合えず48手をノーパソで教える事にする。


一緒にベットに入って、眠くなるまで話した。

それだけでドキドキしたが、お互いの体温でだんだんリラックスしてきて……

結局、僕はその日、伊織と一緒に寝た。文字通り。






朝、外がほのかに明るくなっている。


伊織は僕に抱きついて寝ている。

寝間着として着用している白い肌襦袢が艶かしい。

綺麗な黒髪を三つ編みにしているけど、痛まないのかな?

くんかくんか。

雲雀の使っているシャンプーの匂いがする。

多分、雲雀のシャンプーを無断使用しているんだろうけどなぁ。

今度、それとなく話しておいた方がいいかなぁ。

雲雀専用のだよって……。

でも雲雀自身が、他人が使用しても、こだわらないって言うか、むしろ喜んで「使ってっ!」というタイプだからなぁ。


気にしないでおこう。

僕自身も安心する匂いだし、もしかしたら、それが元でいま以上に2人が仲良くなるかもしれない。




しばらく見ていると、伊織の両目がぱちっと開いた。

心臓が跳ね上がったが、朝の挨拶はしっかりと。

「おはよう」



「……う」

「?」

顔を真っ赤にした伊織は、僕の胸に顔を埋めるように抱きつく。


「うぅ、は、はずかしいぃぃぃ」

うわ。

いかん、朝から微妙にモエモエしていたのに、こんな事をされては、テンションがマックスになる!


人間の3大欲求を全て恥ずかしい事とする常識。

これが、皇國代理天の世界法則[リアリティ]の真の姿か!

恐るべき萌え成分[パワー]。


朝一番で元気溌剌になった益荒男だが我慢する。

まだだ、まだ頂くには早すぎる。

もっと時間をかけたいんだ。

いやいや、待て待て、その前に僕のトラウマをどうにかしないと。

そんな事より、抱きたい。

おお、凄い。

もうトラウマ克服だ。


これが萌え成分[パワー]の偉大な力っ!

伊織の頭をかき抱く。

伊織の体温が心地いいな。



「そういえば、以前、デートしようって話だったけど、今日はどう?」

「ん、判った」

「だけど、高校前のデパートはダメだから……豊川か豊橋まで出張るかなぁ」

「ヴラドは?」

「うん、伊織は優しいね。

 でも今日、デートしたいのは、伊織だけだから……」


みんなを平等に特別扱いするのは難しいけど、それでも決して嘘は言わない。

喋らない事があるだけなんだ。

あれ?どこかのマスメディアみたいだ。


「デートか……ストーキングが難しいな」

「発信機ぐらいは我慢するけど、デートの時ぐらいは止めようよ、隣に並んで歩こうよぉ」


水曜日に僕の後ろを歩いていた理由が気になったので聞いたところ、並んで歩くのが落ち着かないらしい。

背中が見えないのは、非常に不安なんだとか。

というか伊織は、ストーカー行為を崇高な使命と感じている節がある。

どうもボディガード的な何かと勘違いしているのかもしれない。


まぁ、それでも今はありがたい。

伊織が言うには、時折、警察かマスコミか判らないけど、こっちを見ている人達が居るらしい。

伊織はそういった視線に良く気付く。

ところが隣に並ぶと、僕の方に気がいっちゃって、ストーカー行為に専念できないんだとか。

隣に並んだストーカーって言うのもなんだけどね。


それでも、デートの時ぐらいは横に居て欲しいので、今日は遠出するのも一興かなと思ったのだ。





本当だったら、待ち合わせる所からやりたかったけど、諦めて伊織の青いジムニー・コソボイに乗って出かける。

もしもの為に、僕と伊織は後部に座り、運転席にはダミー人形ジンライくん(命名、雲雀)が置かれている。



さて、デートと言っても、僕にはそういった知識はない。

お手本は漫画やアニメなので、あまり期待はできない。

要するに洒落たお店とか、話題のテーマパークとか、流行の最先端といった情報はまったく知らないダメ人間だ。


むむむ、新田に連絡してそこらへんアドバイスをしてもらおうかなぁ。


「時雨」

「ん?」


「デートについては、ヴラドからある程度のレクチャーを受けた」

「あ、そうなんだ」


ヴラドには頭があがらないなぁ。


慣れてないのにリードとかなんて、やっぱり僕には無理だ。

なれない事はするモンじゃないね。

よし、これを教訓に、次回はリードできるようになっておこう。



「まずは服を買う」

「うん、判ったよ、じゃあ豊橋のt」

「近場のユニクロは押さえてある。

 今日は効率的に回って、ヴラドよりも早くデートを終わらせるぞ!」

「は!?」

「飛ばせ、コソボイ!」

「いぇす、まむ!!」

うわっ、コソボイまでキャラが替わってるっ!



その後、近場のユニクロについた僕と伊織は店内に入る。


下着類は無理だけど、服ぐらいは贈ろう。

伊織には何が似合うだろう?

ココならジーンズや普通のシャツだが、それではあまりにも……。

ワンピースあたりだろうか、あ、白のサマードレスなんかは黒髪に映えるなぁ。

いや、淡いピンク、暖色系もいけるか……?


「時雨、こっち」

「え?」


スタスタと店内を歩き出す。

まるで最初から買う物が決まっているかの様だ。


いや、決まっているんだ。

テキパキと迷う事なく商品を取って試着コーナーへ。

シャッ

カーテンを閉め3分で、着替え終わる。



「時雨、似合う?」

「えぇ、まぁ……」

伊織が選んだのは、チェックのシャツにイエローのレギンス。

似合うには似合うけど……。


「え、と……ちなみに、何でこの服を?」

「ん。動きやすさ」

「動きやすさ……」

「動く時に音が出ない物がいい。

 その点ではジャージが一押しだが、ドレスコードに引っ掛かる場合が多い」

まぁ確かに。

でも……

「この服もドレスコードに引っ掛かりますよ?」

「大丈夫、普通に外出するには充分」


彼女はコレを買う事に決め、そのままセーラー服は持って帰る事にしたみたいだ。

その他にも数着の服をカウンターに持って行った。

今まで、セーラー服2着とジャージ、体操服、和服だけで、良く2週間持ったなぁ。


「裾の直しとかは?」

「自分でやる」

「さすがにもう1、2着ぐらいは……」

「時間が惜しい」

「え?」

「次は時雨のおもちゃを買いに行く」

「おもちゃ?」


僕は引っ張られる様にユニクロを出た。





次にコソボイが止まったのは、おもちゃ屋の前。

「ココは却下。ダメです、そもそもまだ閉店中です」

「そうなのか?

 しかしヴラドの時は、おもちゃを買いに行ったと……」

「そうですが、僕はまだ子供なので、子供用のおもちゃで無いとダメなんです」

「そうか。難しいな……ドレスコードか?」

「……そんなもんです」





「次は食事だ」

時間は、11時を少し過ぎたあたり。


「え?早くない?」

「効率がいい」

そう言って彼女は、皇國代理天印のゼリー飲料と、各種サプリを取り出す。


「すでに帰路についている。

 食事を車内で済ませれば一石二鳥だ」

「あ、ああ~、そ、そうなんだ……」

「時雨のデータは109からもらっている。

 だから基本データに加えて増血作用のある……」

伊織は後部座席に座りながら、とても嬉しそうに、個別包装されたサプリとゼリー飲料を出す。


「時雨の分はコレだ。 

 3分間あれば食事を片付けれる、凄いだろう♪」


価値観が完全に真逆なんだなぁ。

なんだか、やるせない気持ちで一杯になり、ゼリーとサプリをいっきに食べる。


うぇ、薬臭い……。

喉に残るケミカル臭、イガイガする。

吐きそう……。


「時雨?」


無理矢理飲み込む。

腰のペットボトルを取り出して、流し込むと同時に口の中をゆすぐ。


ごくん。




……ふぅ。


朝の9時30分に出発して、途中でコンビニによっても12時前には帰宅って、素晴らしいデートだ……。

涙出てきちゃうね。


八代家の駐車場でコソボイから下りる。


なんだかウキウキしていた自分が馬鹿に思えた。

いかん、どんどん落ち込み始めている。


「時雨」

「ん?」

「今日はありがとう、充実したデートだった」

「え?」

伊織はやり遂げたといった感じで、満足そうな顔をしている。


「あ、ああ……うん。伊織は、た、楽しかったかい?」

「もちろんだ」にこっ


ああ、いい笑顔だな。

2週間前の水曜日に見たあの笑顔だ。

無表情な事の多い伊織の笑顔を見たのは、まだ2回しかない。

もっと見たいな、笑わせたいな。


さっきまでのブルーな気分が嘘みたいだ。

たった2時間だけど、この笑顔を見れたのなら充分だ。


ふと見上げると、少し心配そうな顔で、伊織が覗き込んで来る。


「時雨は、楽しくなかった……か?」

「……」

「時雨……」しゅん


僕は伊織の手を握る。

「充実したデートだよ。でも……」ぎゅっ

「でも……?」

「家に帰るまでがデートです、まだ玄関に着いてないからね。

 ほら、行こう、デートは続いている」

「あ、うん」


僕はスロープの高低差を利用する。

伊織より先を歩き振り返ると、少しは身長差が埋まっていた。

僕は伊織の頬を撫でる。


「あ……」


微妙な空気を読んでくれたらしい。

僕と伊織はお互いの顔を近づけ口付ける。


「今日は最高に楽しいデートだよ」

「……」てれ


「伊織は?」

「うん、最高に充実した、その、デートだった」

やっぱりテレた顔も可愛いなぁ。





でも、それだけでは終わらせない。

デートより帰ってきた僕は、呆気に足られているヴラドを横目に、ヴラドと冒険者2人分の食事を作る。

その後、その余りを持って伊織の所に突撃する。


「伊織、今何処にいる?」と心話を送る。

(ん、内蔵で漁っている)


どうやら漫画を読んでいるらしい。

伊織が何を読んでいるのか知りたいので、感覚同調しようとしたが、思いとどまる。


先日、みんなと話し合って、プライバシーを守る為にも非常時で無い限り、感覚同調する時は、一言断りを入れようという事にしたのだ。

心話は別に構わないんだけど、感覚同調はまずい。

さすがに真夜中アレの真っ最中の時とか、トイレの時とか視覚、聴覚、触角、嗅覚、味覚、どれをとっても色々と問題が出る。


ちなみにヴラドとヤっている真っ最中は、右目に眼帯をする事で、皇國代理天の監視対策とした。

音声は仕方が無い、諦めている。




僕は内蔵の中に入る。


「伊織~~」

「ん、ココ」

僕は伊織の隣に座る。


「はい、あ~ん」

「ん」あーん


漫画に夢中になっている伊織は、口をあーんと開けて、視線はコマを送っている。

良い感じだ。

僕は作ったばかりで、しっとり感のないサンドウィッチを、伊織の口に入れる。

「ん……」もしゃもしゃ


おお、食べた。

漫画に夢中になりすぎて、咀嚼すら忘れていたらどうしようかと思ったけど、これならいけそうだ。

次々とサンドウィッチを放り込む。

面白い様に入っていく。

そろそろ水分が必要か?

ジュースの入ったコップに、先の曲がったストローを入れて口へ。


「ん……」ちゅるちゅ…


「ん?」

初めて漫画以外の状況に気付いたみたいだ。


「時雨、苦い」


やはり冷抹茶はダメだったか。


おいしいんだけどな。

抹茶ラテは邪道だと思うんだ。

だから、僕は自分用に持ってきたアイスコーヒーにストローを入れて、伊織の前に出す。


「……時雨、昼御飯は食べたはずだが?」

「はい、おやつです」

「そうか、しかしおやつは太るn」

「おやつは別腹ですので大丈夫」

「そうなのか?」

「はい、地球の世界法則[リアリティ]です。

 それに夕方には、色々と夕御飯の買出しをお願いするつもりなので、その分の栄養だと思えば良いんです」

「……ん、走って行く」

「お願いします」


その日は夕方近くまで、ゴロゴロと内蔵(うちくら)で昔の漫画を読んだ。

途中、膝枕したりされたり、背中合わせで読んだり、未完の漫画の感想を述べたり、こぼれたアイスコーヒーを拭いたりと、色々とイベントがあった。

だけど、こっちの方が伊織とのデートという感じがした。


今度は古本屋とか古書市に行ってみよう。






夜11時。

食事も終わり、後片付けを終えて僕は自室に居る。


家政婦さんが来る水曜日を除いて、日替わりでグレイブさんとリュネットさんを含む全員に、風呂の掃除をやってもらってる。

風呂掃除をした人に一番最初に入ってもらい、次に女性陣に順番をまわしている。

グレイブさんとリュネットさん、2人とも、風呂の文化になじみの無い出身だったので、なれるのにちょっと時間がかかったけど、2~3日で慣れてもらった。

これから暑くなるのに、風呂に入らないのは、周りに迷惑なので。臭い的に。

今は、お風呂はリュネットさんが使っていて、次は僕の番だ。


この部屋には、ワイシャツだけを着たヴラドと肌襦袢(着物の下着)姿の伊織が居て、僕を含む3人ともが炬燵に入っている。

現在の炬燵は、1週間前と違って、炬燵布団は片付けてテーブルの状態になっている。


残念ながら雲雀はニューエルサレム学園の方が忙しくて帰ってこれない。

かなり残念。

とっても残念。

それは雲雀も同じだったみたいで、夕食が終わった頃から心話で、延々と愚痴を垂れ流された。


この1週間が忙しすぎるという事、加えて、ニューエルサレムミュンスターの方が慌しいらしい。

今日は、学生の中にも泊り込みで、お勤めに出て居る人物が多く、シスター・イルゼもそっちにまわされたとか。

その結果、通常のお勤めにも支障が出る始末で、雲雀はそれに忙殺されているらしい。

かなり、うっぷんが溜まった様子だった。


その上で爆弾が投下された。

伊織が雲雀を煽るように

「昨日、時雨と寝た。フフン」

とやったので、雲雀がムギャオーしてしまったのだ。

僕の脳内で火花が散り、熾烈を極める舌戦が行なわれた。

うん、あれは愚痴っている人間に、新たにストレスを溜めさせる状況だった。




ある程度落ち着いた段階で、僕はみんなに夜のローテーション変更を告げる事にした。

これは、雲雀の休みの事もあるし、僕自身の意見も入っている。

というかね、1週間3人×2回なんていう嬉しい状況は、いきなりすぎると思うんですよ。

良く言えば、充実した毎日。

悪く言えば、ただれた生活。

純情路線が好きな僕としては、ここは断固として1週間1回にするべきだと主張したんだ。


一蹴されました。


「妾達は1回じゃが、お主様は3回じゃ!!

 NTRを怖れるならば、妾達を満足させ続けるが良いっ!

 そうじゃな、1週間2回以上は妾達を愛でるが良いぞっ!!」


愛されてるのが、実感できて涙が出てきました。

ええ、スポンサーの意向には従いますとも。


と言う訳で、ローテーションは継続中です。

元の木阿弥。


ただし、雲雀の休みの関係もあって、ローテーションの日程変更を行う事になった。

更に、今月中は1週間1回で我慢するとヴラド。

実際、そうしてくれないと困る。

再来週はオリエンテーション合宿、来週は中間テストだ。


ーーーあれ?


僕は年間行事表を見る。

来週は中間テストだ。


……ふぅ。


時雨、あなた疲れてるのよ。

何処からか声が聞こえた。

来週が中間テストだなんて、超常現象を信じれるわけ無いじゃないか。


「どうした?時雨」

「あ、うん。ちょっとね。

 来週が中間テストだなんていう超常現象が起こってさ」

「来週は水曜日からテストだが?」

「嘘だっ!!」


「諦めてカンニング用テキストを作るべき」

「おおお……って伊織、カンニングはダメだよ」

「何故?」

「えぇっと……」


「能力測定試験なのだろう?

 ならば全力で挑まねば……!」

「あ、うん、そうだけど、カンニングはズルだから。

 測定する能力と関係ない能力を使っちゃダメだから。

 だから自分自身の能力で……」

「もちろん、そのつもりだ。

 どちらにしろ暗記能力を見るのが殆どだ。

 すでに後頭葉にある視覚メモリには、全教科の教科書データはスキャン済みだし、側頭葉のチップには言語プロセッサをインストールした。

 ヒアリングは35ヶ国語対応だ」

「あー、そうだね……たとえ機械でも、確かに自分の力だね。

 僕もそんな高性能な体を、ただでくれる異世界に行きたいよ」

「くふふふ、そのアニメなら見たのじゃ。

 ネジの身体でも貰いに行くのかや?

 コンストリクターVSPをドラグーンとでも名付けるが良いぞ?」

「あははは」

漫画から目を上げてヴラドがちゃかす。


「チャカの話でちゃかす……」

「あ、うん」

「改心のデキ。チャカとは拳銃の事を意味する隠語で……」

「おーけぇ、判った」


ふぅ。

現実逃避していても仕方ないから、勉強するかな。






~~♪


あれ?

スマホモドキが鳴っている。

武居からだ、なんだろう?


「うぃ。八代です」

「おう、1日ぶり。イチャイチャしてたか?」

「ばっちりです、今もです、これからもです」

「そうか。うらやましいな。邪魔してやる」

「おやすみなさい」

「ようつべ見れるか?」

「うん?ちょっと待って」

ノートパソコンを立ち上げる。


「つけたよ、で、ようつべで何を見ろと?」

「おう、ぐぐるでもいいんだけどな。検索をかけろ。ファティマの預言だ」

嬉しそうに武居が言う。


「あーそういえば今日だっけ、もう動画アップされてるの?」

「おう、1時間前の話だ」

「早すぎっ」




携帯のカメラで取ったらしい動画は1分も無かった。


太陽がサンサンとまぶしく輝く中、空中に光り輝く人が浮いている。

女性のような身体つきをしているが、光が強すぎてよく判らない。

いや、体の周りを輝く何かが高速回転しているようで、それで輪郭がはっきりと判らないんだ。


天使の現れた場所は、どこか教会の庭っぽいが、結構な広さで、周りは見物客で一杯だ。

時間は昼間だ。

あ、そうか時差か。

結構な時差があったはずだ、現地時間だと、お昼ぐらいかな?


「みてれぅ~」

「む。弥生ちゃんを馬鹿にしたな?ぶち殺すぞヒューマン!」

「あっはっはっは、でだな、奇跡の起こった場所はファティマにある大聖堂だ」

「前回と同じ場所なんだ?」

「おう、そう。話した内容はまだ判らん。

 月曜日にはもう少し詳しい情報が出揃っているはずだ」

「うん、ありがとう武居」

「なに、いいって事よ」



ガラッ

「勇者~~お風呂、空いたにゃ、コホン、空いたわよ」


障子を開けてリュネットさんが入ってくる。

風呂上りの健康的な肢体に、ジャージという残念なスタイルだが、健康的な色気を感じる。


「あ、ありがとうございます。リュネットさん」

「はいはーい、じゃ伊織、祖竜喰らい[ドラコエド]さんもお休みなさい」

「うむ、ゆるりと休むが良い」

「おやすみ」


「おい、キチーフ。今のもしかしてリュネットさんか!?

 それに他の女の子の声もしたぞ!?

 俺もハーレムに入れてくれ。俺のケツを舐めても良いから!!」

「いらない」

「なんてこったァァァっ!!」

「いや、そう熱くいわれても。じゃあ、切るね」

「あ、待てって」

「?」


「キチーフ、明日、お前の家で勉強会しようぜ?」

「え?まぁ、別にかまわn―――あ」スルッ

話をしている最中に、スマホモドキをヴラドに取られてしまった。


「武居といったかや?」

「ん?あなたはどちらさんで?」


「すまんな、挨拶もまだじゃったのぅ。

 妾はヴラド、祖竜喰らい[ドラコエド]じゃ。

 主様の愛人をしておる」

「あ・い・じ・んっ!」

「そうじゃ、実はお主に頼みたい事がってのぅ」

「俺に?」

「うむ」

「構いませんけど……」


「そうか、実はのぅ、お主の蔵書を借り受けたいのじゃ。

 オカルトと呼ばれる物の関連なんじゃが……お主がオカルトに造詣が深いと、主様が言っておったのでのぅ」

「別に構わないですけど、多いですよ?」

「大丈夫じゃ、明日、そちらに迎えをよこす。

 それに乗って来るが良い」

「はぁ……構わないですけど」

僕が見ている前で、ヴラドはあれよあれよと交渉を進めている。




伊織が漫画から顔をあげて聞いてくる。

「武居が来るのか?」

「うむ、すまぬが伊織、明日、お主のコソボイを迎えにやって欲しいのじゃが」

「判った」


伊織は自分のスマホモドキを取り出すと、2、3回いじった後で話し始める。

「聞こえるか、武居?」

「あれ?その声は戸隠か……ってなんで、お前までキチーフの家に居るんだよ?」

「ん?時雨の家に住んでる」

「そーですかー。まさにハーレム」

「ん、ハーレムだ。明日そっちに迎えに行く」

「迎えにって、どうやってだ?」

「青いジムニーで行く……時雨、何時?」

後半は僕に聞いたみたいだ。


「そーだね、昼前10時ぐらいでいい?」

「ん、武居、10時に行く。首を洗って待っていろ」

「判った。オカルト関連の書籍を用意しておけばいいんだな?」

「そうじゃ、すまんのぅ」

「あ、ヴラドさんか、じゃあ用意しておきますね?」


ヴラドは僕にスマホモドキを返してくる。

「えーと、ヴラド?」

「うむ、勉強会と言う事なのでな」


「判った……。

 ―――と言う訳ですまないけど、武居、明日はよろしく。

 何か美味しい物を用意しとくんで……」

「ははっ、気にするなってキチーフ!

 リュネットさんだけで充分だ!」


「多分、明日は居ないぞ」

何故か、僕のスマホモドキから第3の声、伊織の声が聞こえる。


「ナンだってッ!?どう言うこった!!」

「明日は下着類を買いに行くと言っていた。

 ブラジャーとやらが気に入ったらしい」

「リュネットさん、俺の手をブラ代わりに使ってくれぇッ!」

「切るね、お休み」

同時に伊織も自分のスマホモドキの電源を落とす。





「えーと、伊織」

「ん?」

「さっきのスマホモドキの機能は何?」

「ただの複数会話」

「あ、そうなんだ」


「―――に見せかけた盗聴、及び音声変換機能を使用していない、すりかわり通信」


「えっとぉ、あー、さすが皇國代理天製の品だ……」

「大丈夫、使用するのは時雨が関係する時のみ」

よけい大丈夫じゃなくなったなぁ。


「お主様」

「なに?ヴラド」

「先程の、お主様は非常に格好よかったのじゃ。

 思わず体が震えるほどじゃったぞ」

「はい?」


「なんというか、魂が揺さぶられるほどの響きを持っておった」

「?」

「そこでじゃ。もう一度、言うのじゃ」

「何を?」

「うむ“ぶち殺すぞヒューマン!”じゃ。心が震えたぞ」

「そ、そうですか……」


僕は本棚から『地獄の歌』というタイトルの漫画を取り出す。

ブラム・ストーカーの小説『吸血鬼ドラキュラ』に出て来る人物の名前をもじったダブルミーニングのタイトルだ。

作者の独特の言い回しが人気の作品で、僕の言った台詞以外も名台詞と言われている物が数多く存在する。


「元ネタはコレね、ヴラド」

「うん、吸血鬼ものかや?」


読み終えたヴラドの感想は

「無理じゃ、いくらなんでも妾には出来ん事ばかりじゃ」

だそうで。

日本人の超人願望も米国に負けず劣らずだからねぇ。チート万歳。






次の日、日曜日。

朝食も済んで、今日の準備の為、買い物でもしてこようかと思ったら、グレイブさんとリュネットさんが、伊織ともめていた。


冒険者の2人は、1週間みっちりと風呂で身体を洗ったので、獣臭さは消え、匂いの魔法を併用する事で、なんとか人前に出ても大丈夫な状態になった。

今日は電車で遠出して服を買ってくるらしい。

特にグレイブさんに合う服が無いのが問題で、今着ているTシャツは伊織が買ってきた物だ。

それに僕がマジックで落書きして、いかにもな外人Tシャツっぽい雰囲気に仕立て上げている。

でかでかと白地に『コスプレ中』の文字が映える。

会心のデキだ。


「どうしたの?」

「お?勇者か、いやぁ……そのよぉ」

グレイブさんは頭をかきながら、手を見せる。

緑色の小指大の結晶が幾つもあった。


「それは?」

「魔晶貨って言うラパ・ヌイの貨幣なんだけどよ……受け取ってくれねぇんだ」


「ん、ココでは使えない。だから、依頼を受けて欲しい」

「いや、だけどよぉ。依頼はギルドを通してくれネェとなぁ。ケジメだけはつけときたいんだ。

 だから依頼じゃなくて、アンタの手伝いをするってぇ事じゃ、ダメなのかい?」

「ダメだ。契約をしてくれないと困る。

 私には君達にサービス残業をさせる権限がない」

「「うーーん」」


「えーっと?」

「暗器が欲しくて、買ってきて欲しいという依頼なのだ」


「え?おい、さっきまでと言ってる事がちがっ」

伊織に足を踏まれるグレイブ。

同時に伊織が僕に心話をして来た。


(時雨、今、大事な話をしている、向こうに言って同調して)


ちょっと必死な声だ。


「暗器かぁ~、確かにね、ラパ・ヌイの方が色々とありそうだもね。

 じゃあ頑張って交渉してね」

そう言って僕はその場を後にする。

多分、これは伊織にとってとても重要な話なんだ。



心当たりは1つだけ。

僕の目と耳に仕掛けられた監視装置。

僕を遠ざけたのは、皇國代理天に知られたくないからだ。





伊織は僕と心話が出来る事をグレイブとリュネットに話して、他言無用を二つ名に誓わせると話し出す。

僕は伊織の口と同調して、会話に参加する。


「先程言った通り、両替は金貨とのみだ。

 だが、レートが判らない以上は、まだできない。

 だから、依頼を受けて欲しい」


あー、暗器を買うって依頼じゃなくて……貨幣の交換ね。


「勇者シグレです。

 グレイブさんの目的は、今日使うお金を入手したい、ですよね?」


「おう……しかし、なんだ、不気味な魔法だな……」

「へぇ、アーラムの付与魔術とか、使役魔術とかでもないのよ……ね?」

グレイブさんは妙に感心して、リュネットさんは興味津々、じーっと伊織を見ている。

「ま、俺は肉体労働だ、頭脳労働はお前に任すぜ」

「この魔法バラしたくなって来たにゃ~~。こほん、来たわね。

 今度爺さんにお願いして、手伝ってもらおうかにゃ?」

ラパ・ヌイの2人組みは、しばらくそっちの方に心が動かされていたみたいだ。





「要するに日本の貨幣が欲しいグレイブさんに、伊織が立て替えてあげる代わりに、何かして欲しい事がある……と。

 ところが、それが依頼という契約の形を取っている為に、ギルドを通してくれないと困るわけだ、グレイブさんは」

「おう」

(ん)

「伊織の目的はなんなの?」

3者で話しているので、心話を使わず、伊織の口と同調して話す。

はたから見ると伊織が、エア友達どころか1人2役で、独り言を言っている様にしか見えない。



「純金が欲しい。

 今後ラパ・ヌイとの交換レートは必要になる。

 そこで地球の品を持っていって販売する」


ああ、そういう事か。

「魔晶貨と純金の交換レートは?」

「純金とか砂金は、俺は知らんなぁ。

 だいたいは金貨を使う事が多いな、黒で5:1ぐらいだ」

「リュネットさんは知ってる?」

「そうですにゃ、だいたい……」


リュネットから話を聞くと、ラパ・ヌイでの金の価値というのは、地球とは差がありそうだ。

金貨の位置づけが基軸通貨ではないのだ。


補助貨幣、500円玉とか100円玉の扱いだ。

で、魔晶貨というのが取引には使われているらしい。

魔晶貨には色々と種類があって、色に応じて交換比率が決まっているって話だ。

ただし、黒の魔晶貨というのが金貨よりも安く存在しているので、事実上、金貨は田舎や未開地でしか使われていない貨幣扱いという事だ。


うぅん、先程の日本円の話だと、旧500円札という事になるかな?




「じゃあ、こうしましょう。グレイブさんは僕の手伝いをして下さい。

 内容は伊織の言った商品の買い付けとラパ・ヌイでの販売」

「おう、ソレでいいなら構わんが、先立つ物が無いぜ?」

「はい、それで伊織は僕と契約してもらいます。

 伊織のやろうとしている仕事を僕が請け負う。

 値段はブレイブさんに払うお金で、って言う事で」

何の事は無い。

僕が中間に入っただけの話。

両方とも妙な所で硬いというか、筋を通したがる。

きっと根は真面目なんだろう。


しばらくすると、グレイブとリュネットさんは、いそいそと出かけていった。

問題を起こさなければいいけど……。






「……」

僕はヴラドに心話を送る。

ヴラド、聞こえる?


(なんじゃ?)

ラパ・ヌイの貨幣についてなんだけど聞きたい事があるんだ。

以前、お金を創ろうとした事があったよね?

(うむ)

ラパ・ヌイではお金って、魔法で創るの?


(そうじゃ。魔力素を凝縮して作り出すのじゃ……お主様の聞きたい事は、金属、特に金の事じゃろう?)

あー。判った?


(うむ、魔力素の変換効率が悪いので、誰もやらんのじゃが、創造魔法で金や銀は作り出せるのじゃ。

 実体化、永続化もそれなりの腕のものなら可能じゃ)

やっぱり創れるんだ。

(そうじゃ、金、銀、銅、鉄、創造魔法で思いのままじゃ)

「……」

(他にも、変成魔法で土くれを変えて金属にする事もできるが、認識範囲外にでたら、元に戻ってしまう。

 これも永続化は可能じゃ。難易度が高いがの。 

 魔法で合金は創れんと思って良い。

 そこまで発達した冶金術がなくての、世界法則[リアリティ]が足りておらんし、存在否定されるのじゃ)

「そうなんだ……」


何となくだけど、そう思っていた。

錬金術が発達していない、全て魔法で解決、となれば当然、経済活動だって。


魔力素本位制とでも言うのだろうか?


その気になれば、ラパ・ヌイは地球経済を破壊できる。

軍事的な侵略しか頭に無いからか、経済的な戦争は世界法則[リアリティ]が足りないから、理解できないだけなのかは、判らないけど……。

理解できなくても、金を作ってばら撒くだけで良いから、理解できる皇國代理天のような異世界と手を組んだら、地球はアウトだ。


(時雨、それをやられる前にこっちでやる)


僕とヴラドの話を盗み聞いていた伊織が心話で話してくる。

口頭で言わないという事は、五十鈴さんに知られたくない話題なんだろう。


(皇國代理天を滅ぼすには、軍事力と経済力の2面で当たるとやりやすい)


……。


素朴な疑問なんだけど……。

今まで考えた事も無かったけど。

何で伊織は自分の世界を裏切るつもりなの?


(簡単。世界の解放。

 皇國代理天から私達の世界を取り戻す)

おぅ、レジスタンス。


(時雨を襲って首を切った男は、別の皇國代理天の者。

 皇國代理天は、侵略されないように幾つかのダミー世界を用意してる。

 私達の世界もそのダミーの1つ)


……。

詳しいね、五十鈴さんも、その事は知っているの?


(判らない。この事を私に教えてくれた人は、脱落者[フリーター]で接触はないはず。

 だけど脱落者[フリーター]と言っても尊敬に値する人物。

 イオリという名前[コードネーム]はこの人がつけた)

饒舌に語る伊織。

少しばかり気になった。


どんな人なの?

(おでん屋のオヤジと言っていた)

おでん屋?

(ん。今は歴史にすら残っていない、(いにしえ)の時代に栄えた文化の総本山らしい。

 オヤジとは現地語で、その総本山のまとめ役、代表取締りの事を言う)


そうなんだ……。

皇國代理天の世界法則[リアリティ]で“おでん屋”ねぇ……。


もう1つ、脱落者[フリーター]って?

(棄民や犯罪者、逃亡者などをまとめて言う)

そっか、ありがと。




さてと、頃合いを見計らって伊織に声をかける。

「武居と新田を呼びに言ってくれない?」

「新田も?」

「多分つるんでると思うけど……」

「判った」



結果は武居だけでした。

「いや、学校だけだぜ。つるんでいるのは」

「そうなの?」

「アイツも結構、忙しいしな……」

「そういえば、バイトやってるんだっけ?」

「探偵助手見習いな」

「この歳で凄いね……」

「……」

「?」

「まぁ……な」

「??」



武居はダンボール一杯の荷物を下ろす。

場所は僕の部屋だ。


「なんだな、思ったよりハーレムっぽくないな」

「何を期待してるんだ?」

「そりゃお前、酒池肉林で落花流水な人が個人授業で保健体育だろ」

「酒池肉林どころか全部使い方間違ってるよ。4字熟語じゃないし」

「いいじゃんか。言葉は毎日、進化し続けているんだぞ。

 明日にゃあ、俺の言った言葉が現代国語の教科書に載ってるぜ?間違いない」

「そーなのかー」


「あ、それとこれ、ファティマの預言・今年度版な。ノーパソか?」

「うん。デスクトップは別の部屋。

 新しいの組み立てようかとは思うんだけどね」

「ブルジョアジーめ!

 プロレタリアートの圧倒的戦力を見せ付けてやる!!」

「人海戦術だよね?それ」


「おお、もう来ておったかや!」


ふすまがシャッと開いてヴラドが入ってくる。

「武居殿と申したかや?昨日は口頭ですまなんだ。

 妾はヴラド、主様の愛人じゃ。以後よろしゅう頼む」

「あーっと……」


「もう少し砕けた方が良いかや?

 客人に失礼かとは思ったが、友達のように接するべきと、主より言葉を賜っているしのぅ?」

「ええっと、呼びかけ以外は、キチーフと同じでいいぜ?」

「ソレは無理じゃ。

 主様と同列に扱うなぞできぬ。妾への屈辱じゃ。

 ふむ、ならば友として扱おうぞ」

「キチーフ、何気に酷い子だな」

「ごめんね。プライドの高い子なんだ」

「む、恥をかかせてしもうたかや?」

僕を見るヴラド。


「うんにゃ。武居にはそのレベルで問題ない」

「そうかや」

「ひっでぇな!キチーフ!」




僕はノーパソに武居から貰ったデータを入れる。

どこかのサイトを丸ごとコピーした物みたいだ。

「来たばっかだけど、食事はどうする?」

「あー、昼はイラネ」

「判った、じゃあ夕食は、少し早めるから食べていってよ」

「お、戸隠とヴラドちゃんとリュネットさんの手料理か!」


「……」

「あー」


「どうしたよ?」

「期待を裏切って悪いけど、料理は僕だ」

「作るのキチーフかよぉ」

「あははは」

「武居とやら、世の中には向き不向き、適材適所と言う言葉があってのぅ、覚えておくと良いぞ?

 あと、口は災いの元とも言う、これも覚えておいて損は無い言葉じゃ」

「おおっ、ヴラドちゃん、こぇ~~~っ!」

「妾の殺気をかわすかや。

 それなりの鍛錬を積んでおるようじゃな、お主」

「キチーフ、マジ怖いお嬢さんだな。さすがヤクザの息子だぜ……」

「違うって」




ノーパソで武居から貰ったデータを見始める。

本来なら勉強が先なのだが、どうにも気になる。

「ファティマに現れた聖母って、どんなメッセージを送ってきたの?」

「ソレが今回は、聖母じゃねーんだ。

 専門家が言うには、座天使[スローネ]じゃないかって話だ」

「ふーん」

「それでメッセージなんだが、薄気味の悪い話でなぁ。

 えぇと、どっかに自動翻訳したのを少しだけマシに書き直したのがあるはず」

「これかな?」


『戦争が始まります。過去、誰も経験していない、戦争です。

 それはこの世に地獄を浮上させます。

 これは決められてしまった事です。

 過去再三に渡り、主は子羊に悔い改めよと言いました。

 しかし、主との契約を蔑ろにした子羊は変わる事は無い。

 そこで、主は聖母をお仕わしになり、100年の猶予を設けたのです』


「相変わらず上から目線な宗教だなぁ」



『戦争は続きます。

 それは黙示録に書かれた戦いと告示しています。

 封印が次々と解かれていくでしょう。

 幸せも愛も消え、苦難の時代が来るのです』


「具体的なこと何1つ言ってないんだけど?」

「預言だからな。曖昧にしておかないといけないんじゃねーのか?」



『この戦争には悪魔が加わります。

 子羊には対抗する手段はありません。

 ただ主の名を唱えなさい。

 主は決して子羊を見捨てる事は無いでしょう。

 東より来るその日まで、新たな救世の主を待ちなさい。

 真の教えを守る者のみに、ほんの少し力を貸しましょう』


「うわ、内容はニューエルサレムのとそっくりだ」

「お?それはどういう事だ?」

「これなんだけど」

僕は水曜日にニューエルサレムの人達が配っていたビラを見せる。


「おいおい、こりゃ凄いな、内容先取りじゃんよ。

 しかも救世主[メシア]の名前まで判っているとは」

「本物とは限らないじゃん?」

「いやいや、それはもちろんだが、ココまで内容が似ていると面白いとは思わないか?」

「まぁね」




僕は武居が持ってきた他のデータを見る。

「えっと……何やら色々と項目があるけど……」

「お、それか?俺としては嬉しい悲鳴なんだが、今年に入ってから色々とオカルト現象が多くてな。

 キチーフも興味があるみたいだったし、起こった出来事をまとめてある」

「へぇ、天使以外にも色々あるね……」


中国奥地の宇宙人、イラン、インド、北京上空のモスマン、メッカ、メディナ、エルサレムの天使、ってみんな空を飛んでいる物か?


他にも……殺害事件系か、串刺しとか、魔女だから火あぶりとかイスラームこえぇなぁ。

うわ、愛知県多いなぁ。主に変死系なのかな?村の事以外にも、ラブホで殺人ってコレ、オカルトでも何でもないじゃん。

……ってあれ?

そこのある一文が目に付いて、思わず手が止まる。

ラブホで殺害された男の血が青い……?



スパンっ


「粗茶」

ふすまを勢い良く開けて、伊織が現れた。


「どうしたの?ご機嫌ナナメっているけど……」

「出張が入った」ことっ

「え?」

「これからサウジアラビア」

「は?」

「行って来ます」

「おーい」


お茶を3人分置いて行くと、急いで離れへと戻っていく。


「戸隠も忙しそうだな……」

「いやいや、何をのんきに……」


「そうじゃな、ところでお主様、サウジアラビアとは何処じゃ?」

「ちょっと待って」

僕は、今まで見ていたオカルト情報のページを消して、世界地図を出す。


「ちょっと話を聞いてくる」

僕は部屋を飛び出すと、伊織の部屋に向かう。





離れの自室で伊織は荷物をまとめていた。

「いきなり出張ってどうしたの、伊織」

「サウジの部隊からの連絡が途絶えた。熾天使[セラフ]の急襲を受けたらしい」

「は?」


「現地はかなり危険。

 イスラーム勢力が混乱した状態になっている」

「?」

「現地時間で23時……日本では朝の5時に、サウジアラビアのマディーナと言う都市にある大きな教会が、熾天使[セラフ]によって攻撃された。

 私には理解できないのだが、この町に住む人達は、これをキリスト教徒による攻撃だと判断したらしい。

 ジハードだと言って暴れている者が多い」

えっと、マディーナっていったら、イスラームの聖地で預言者のモスクと言う教会がががががが……



「私も少し混乱している。

 いったん皇國代理天の情報を集めないと不味い。

 管理人も予想外の出来事で対応が遅れている」


何か相当、切羽詰った状況みたいだ。


どっちにしても中東は荒れそうだなぁ。

おりしも、ファティマの預言どおりになるのかな?

日本に、飛び火しなければいいんだけど……。





5月13日、土曜日。

僕はこの日を忘れる事が無いだろう。

悪夢と言う名の奇跡が起こった日だ。

この日から、少しずつ世界はおかしくなっていった。


だけど、この時の僕には、そんな事など判るわけが無く、世界のどこかで起こった出来事は、自分に関係ない物だと思っていた。

未だに世界は平和で、ゆるやかながらも変化を迎えながら、今日も、明日も同じ様な日々が続く。

そう感じていた。


非日常とは、現実に隠れて忍び寄り増殖する、癌細胞みたいな物だ。


気付いた時には、すでに手遅れ。


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