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世界の 法則が 乱れる!  作者: JR
第07話 非日常な常識と非常識な日常
101/169

起こらないから奇跡って言うんですよ、みたいな?

今、僕は屋上にいる。

場所は高校。4階建ての建造物。

下には1年生~3年生までの教室がある。

今日は水曜日、時間は放課後午後4時過ぎ。



本来ならば、一般生徒は屋上に入れない。

しかし隣にいる人物、戸隠伊織の手引きにより、僕は入る事が出来たのだ。


「ッて、なんで合鍵持っているの、伊織?」

「合鍵ではない、万能開錠ツール。

 鍵穴のあるレトロタイプならば、これ1本で大丈夫」

「?」

「差し込むとセンサーが反応し、鍵の形状を適切な形に変更する」

「暗証タイプの物は?」

「ダイヤルは無理。他の器具を使用」


雨風に晒されて、誰も掃除する者のいない屋上は酷く汚かった。

鉄条網型のフェンスの高さは2m程で、下には再開発中の街並が見える。

この高校の建物は上から見ると、ちょうど“H”型をしている。

隣の建物の4階から屋上を見ると、居るのがばれてしまう。

あまり目立ちたくないので、僕は真ん中に辺りに立つ事にする。





魔狼が地球に逃げ込んでから、既に1週間以上たっている。

その間、国の捜査は何の進展もしていない様だ。

証拠と言っても、大した事は無い。


熊を想定していて毛の鑑定をすれば、犬の毛で種類は不明。

歯形から判断すれば、野犬だけど大きさが桁違い。

何処から来たのか、何処へ行ったのか不明ともなれば……。


判明した結果は、どれも想定していた事と別の事実を浮き彫りにさせる。

未知の存在など無いと思っているから、真実はそこに明らかなのに、認める事ができない。

事実を歪曲しない限り、自分達の現実を保てなくなる。

自らの知る世界にあわせないと、世界の法則が乱れる。

そんな人間特有のジレンマに陥って、どこも慌てている。


一応、初老のロリコン・沖津さんに事件の真実については話してある。

そこから、日本政府の何処かは知らないけど、異世界の侵略対策してくれる所に、話がいけばいいんだけど……。

あーでも、そこはニューエルサレムと繋がっているのか。


どっちにしろ、魔狼については、こっちで片付けれそうだったら、やるべきなんだろうなぁ。

雲雀も張り切ってるし、知り合いが襲われると言うのも、後味が悪い。

何より人を見捨てようと言う行為を雲雀は嫌がる。


その為の準備だ。





「さて、じゃあ、やってみようか……」

僕はコンストリクターVSPをカバンから取り出す。

持ち物検査されたら1発アウトでした。

そんな、太くて、ごつくて、たくましい黒鉄色の人気者は、ヴラドの魔法によって修理されている。

手にしっかりと馴染む感覚。

まだそんなに長く使っているわけでは無いのに、この安心感。

「太いんだよぉ!硬いんだよぉ!!暴れっぱなしなんだよぉ!!!」

「……時雨?」

「何でもないです」

「そう」そっ

お願いだから熱をはかろうとしないで下さい。


「発動!魔法【ハンマーコック】【インヴィジブルテンタクルス】【マジックイーター】」

別に言う必要は無いけど、景気付けに言う。

僕の脳内に圧縮封印[メモリー]された3種類の魔法が展開する。

同時に右腕に軽い痛みがはしる。

魔法【ハンマーコック】の発動と共に、身体に鋳込まれた5種類の魔法の構造式が目覚める。

今、学生服に隠された僕の右腕は、幾何学模様の刺青が青く輝いているはずだ。

左腕には黒い球体が4つ現れる。

魔法で無い限り人畜無害の凄い奴だ。

僕の胸から見えない触手が生えて来た。先端部分を「くぱぁっ」と5つに別ける。うむ、えろい。

伊織の頬をなでたら睨まれた。




前回の戦いでの反省点から、幾つかの魔法は更に使い勝手が良くなる様に改造された。

僕の無茶ぶりに、ヴラドは快く答えてくれて、しばらくは頭が上がりそうに無い。


【インスタントエードヘイシヴ】

これは、前回一番のご活躍の瞬間接着魔法だ。

接着力強化を考えたんだけど、残念ながら変更はされず、据え置きとなった。

最初から非常に高い完成度の魔法で、下手に弄るとバランスが壊れるというのがその理由だ。

製作者が言うんだからその通りなんだろう。


【ファーストエイド】

応急手当の魔法だ。同様の理由から、これも据え置き。


【パーカッションウェイヴ】

衝撃の魔法だ。初速を速める事で、威力増強と範囲の広域化が可能になった。


【アグリームコンプレッション】

防御魔法の貫通効果を狙ったレーザー魔法だ。

これは、収束率を更に上げて威力の増強を行なったのと、トリガーを引きっぱなしで照射し続けるようにしてもらった。

その分、更に燃費が悪くなったが、事実上この弾が最後の武器“必殺技”なので仕方ない。


【マジックアロー】

役立つ所が無かった攻撃魔法なので、お亡くなりになりました。

正直に言うと使いどころが無い残念魔法だったのでチェンジ。


【スモークディスチャージャー】

新たにエントリーした煙幕の創造魔法で、弾が当たると煙を発生させる。

しかも、この煙は将来を見据えて、地球の知識で創造されている。

ただの煙ではなく、煙の中には金属粉が入っており、視界の阻害以外にもチャフの効果と赤外線の遮断効果を持っている優れ物だ。

ロリコンの高科さんが、色々と教えてくれました。さすが現職自衛官。


その上で、3つほど弾種を追加で作ってもらっている。

音と光を出す弾と、物理防御用の弾、魔法破壊用の弾だ。





さて、そんなわけで試射。

ファニングショット。

左手の代わりに、見えない触手を使って、本来の左手は動かさないでおく。

少しばかり引っ掛かる。

触手は、力があるけど器用な事は難しいようだ。

それでも3連でなく、通常のファニングショットなら何とかやれるだろう。


心の中で弾種交換、それぞれを6発ずつ撃つ。

問題は無かった。



だが



それこそが問題だった。


スマホモドキで僕を取っていた伊織は、試射終了と同時にテストの結果と僕の体の異常を知らせた。

「時雨、やはりおかしい」

「……」


「我々の計算では、ヴラドの作成した魔法は、地球の世界法則[リアリティ]下では働かない。

それに、ヴラドの居ない所で圧縮封印[メモリー]された魔法を展開できるというのも、世界法則[リアリティ]に反しているハズだ」

確かに伊織の言う通りだ。

前回みたいにラパ・ヌイに居る状態や、駅前の事件の時の様に、ヴラドが魔法を認識できる状態でないのに、僕自身が魔法を使えるのはおかしい。




先週、皇國代理天に居た時からの僕の身体の変調。


それは、皇國代理天の世界法則[リアリティ]下にあっても、地球の世界法則[リアリティ]を保っていたという事。

そう、体現者[シュトゥルム]と同じ事をやっていた。

僕は体現者[シュトゥルム]でないのに、だ。


ラパ・ヌイで、ワルサーP99を撃った雲雀みたいに。

地球で、高性能すぎるサイバーアイを使う伊織みたいに。

皇國代理天で、呪法を使って僕と心話が出来るヴラドみたいに。


だがそれは、そのまま僕が体現者[シュトゥルム]に覚醒したというわけではない。

今、僕は地球の世界法則[リアリティ]下にあって、ラパ・ヌイの世界法則[リアリティ]でしか働かない魔法を使う事が出来た。

もし僕が体現者[シュトゥルム]に覚醒したというのであれば、地球とラパ・ヌイの世界法則[リアリティ]を持っている事になる。

だけど、彼女達3人に通じる、一種独特の体現者[シュトゥルム]同士の感覚が、僕にはないらしい。

一般人のままだと言うわけだ。

僕には、この感覚は理解できないが、本物の体現者[シュトゥルム]である3人が言うんだから間違いは無い。

ちなみに冒険者の2人、リュネットさんとグレイブさん、それにジョフクさんも体現者[シュトゥルム](ラパ・ヌイではコマリというらしい)だったのだが、僕には何も感じなかったとか……。

よよよ……。




「時雨がおかしくなったのは、魔狼王ロボとの戦い以降。

 あの時、ヴラドの治療で何かあったのか、それとも他の要因があったのかは不明。

 時雨、何か覚えている?」

「うぅ~~ん」


あの時、何があったのか、実はしっかりと覚えていない。

「右腕が、ちぎれ飛んだ事までは覚えているんだけど……」


「あの時、時雨が死んだと感じた」

「え?」

「一瞬だけど、世界樹[ユグドラシル]の呪いを感じた」

「一度、僕は死んだという事?

 じゃあ、誰が蘇生したんだろう……ジョフクさんかな?」

「いや冒険者達3人は私達が、魔導機獣のハッチを開けるまで、そこに隠れていた」


「ふぅぅむ……」

何だろう、何があったんだろう。


他の要因かな?

「魔狼王の屍骸に、何か特別な事はあった?」

「死因は、出血多量による急性循環不全。

 脳の一部、延髄から視床下部にかけて溶解。

 心臓が無かった。原因は不明。脳と同様に溶解された物と推測。

 両脚アキレス腱が断裂、外傷はドリルによる物と判断」

「それ以外は?」

「再生中のすり傷があった」


うーん。

「室内に蘇生ができる謎アイテムがあったとか?」

「ヴラドは無いと言っていた」

「じゃあ……なんだろうねぇ……」

「……」


「……」

「……時雨」

「うん?」

「ヴラドが言っていた」

「?」

「時雨が魔狼王の心臓を食べた、と」

「は?」


「事実なのか?」

「え?いや?初耳なんですけど……」

「確かに地球人の1部は、ハツと言って好んで食べるゲテモノも居るが……」

「まってまって!それはおかしい!!美味しいよ!」

「そんなっ……!!まさか時雨がっ」よろ……


取り合えず僕は、臓物の旨さを伊織に教育しなければならなかったので、実験を中断して帰る事にする。

また、初めて僕の家で食べたどて煮が、もつ料理である事、栄養価の高いもつを食べる事が、いかに健康的な暮らしに役立つかを熱弁する。

「時雨。健康的と言うなら、栄養チューブと各種サプリで、効率良く時間のかからない食事の方が……」

「ダメです」





帰り道。

再開発の始まった駅前通りを、伊織と歩く。

何故か伊織は僕の1、2歩後ろを歩く。

何故だろう?

一緒に帰って、友達に噂とかされると恥ずかしいからだろうか?


「い、一緒に歩かない?」

もつ料理で熱くなり過ぎたかもしれない。

それで、ご機嫌がナナメってるのかも、と考えた僕は、手を出して伊織と隣に並んで帰ろうとする。


「いや、ココがいい」

あからさまな拒否。


嫌われた……?

昨日は用事があるといって五十鈴さんの所に行っていたし、一昨日はクラスの女子と作戦会議とかで、一緒に帰っていない。

実は、2回目。

一緒に帰宅するのは、まだ2回目なのだ。


「さ、さっきのは言いすぎた。謝るよ、ゴメン」

「さっき……?さっきの殺気!?」

「え?」

「今のは、時間軸上の少し前と言う意味と人を殺害する時に発すr」

「説明責任はいいから」

「あ」

埒が明かないので強引に手を取る。

伊織には積極的過ぎるぐらいにした方がいいんだろうな。

「し、時雨、横に並ぶとストーカーとしての立場が……」

「気にしない」

僕達はそのまま列車に乗り、2駅移動する。





列車から降りると、駅前ロータリーにいつもの集団がいた。

ニューエルサレム教団の街宣カーとビラ配りの人々。

今日はシスター姿の人も混じっている。


―――神は、我々を新天地へと(いざな)います

―――常に幸せに満ちた理想の都にあって

―――人は全ての苦しみから解き放たれます

―――幸せは義務であります


相変わらず胡散臭いなぁ。




「はい、おねがいしま~~っす」

ビラを持ったシスターが、左手で僕に渡す。


同時に

「ていっ」びしっ


僕と伊織の繋いだ手にチョップ。


「ていっ」びしっ


「ていっ」びしっ


「何してんの、シスターさん?」

「なかなか外れないなぁって」

「ん、私達の愛は強固、鋼鉄(はがね)の誓い」ふふん

「ていっ」ずびしっ


「ほらほら、シスターさん。

 他の人が不振がる前にビラ配りに戻った方が……」

「むーーー」

「ん、諦める」

「きーーーーっ!」

雲雀はシスターらしからぬ形相で伊織を睨む。

さすがに、不味そうなので話を変える。


「今日は帰ってくるの?」

「もうしばらくは宿舎。本当だったらヤシロの家から通うはずだったのに……あんな事やそんな事だって、ううぅぅ。

 色々と慌しくなって、村の教会の建設もまだだし、何よりシスターの見習い以下だから、自由に外に出れないし……」

「そっか、残念」

「むーーー」

不満そうだったが、伊織はきびすを返してお勤めに戻っていった。


と思ったら、心話。

(時雨、聞こえる?)

「?」

(そのまま聞いて。下手に話し掛けられるとボロが出ちゃうから)

うぃ、了解。

と僕は返事をするだけに留める。


(見知らぬ人達が何人も敷地内に居るの。

 月曜日から少しずつ多くなってきてる感じ。

 それでかは判らないけど、上の方が色々と騒がしくって。

 何か偉い人が来るらしいって噂もあってねー)

質問したいのを、ぐっとこらえる。


(多分、この人達、異世界ニューエルサレムから来た人だと思う。

 私たちの学園に何人も居るけど、明らかに風変わりって言うか、戦闘向きの身体つきって言うの?

 筋肉質な人が多いし、偉そうな人が多いし、学園までピリピリしてるし、味噌汁飲めないし、御飯はまずいし……)

学園と宗教施設は別って事なのかな?

少し良く判らない単語が出たので聞きたくなったけど、我慢する。


(焼肉食べたいし、イルゼは色ボケだし、伊織は時雨と仲良いし、初夜は流れるし……)

あ、爆発寸前だ。


僕は伊織とその場を離れ、ロータリーを渡る。

右手には雲雀の配っていたチラシ(?)を持って。



僕達が駐輪場で自転車に辿り着く少し前ぐらいに、ロータリーで1人のシスターさんが「うっっきぃぃぃーーーっ」と叫んでいたけど、見ないフリをする。

やっぱりコスプレだよなぁ。

性格がどうみても聖職者向きじゃないんだよな。


そのまま、カバンの中に放り込もうとしたチラシを見る。

「来たれり。神より遣わされし御使い……?」

うわ、うさんくさい。


何でも一昨日、ポルトガルのファティマという都市に天使が現れて、預言をしたらしい。

おりしも、オカルトで有名なファティマの予言のあった地だ。

ファティマの予言については、沖津さんや武居から色々と聞いたけど……。

うーん。これもニューエルサレム側の、侵略行為の一環なんだろうか?


再び、チラシを読み勧める。


何でもファティマの予言100年祭に沸く5月7日に、御使い……天使か?がやって来た……と。

で5月13日に再び預言を行なう……と。

その預言は、救い主が現れると告げる事である。

それこそ我々の教皇パパ・アドルフである?


とっても胡散臭くて面倒くさいので2箇所にメール送信。


1つ目は、自称・枢機卿[カーディナル]の生臭坊主、沖津さんに『こんなチラシがありますよー』と。

2つ目は武居に『ファティマの予言100年祭の天使について』めるめる



返事はすぐに来た。

『おう、来ると思っていたぜ。少し長いぞ。

 ファティマの予言は、この前調べただろうから判ると思うが、一応言っておくと、1917年5月13日が“ファティマの聖母”が現れた日だ。

 その前から色々と奇跡はあったらしいが、聖母が現れたこの日が、ファティマの記念日と言って、教会で色々と式をやる特別な日だ。

 で、今回なんだが100年目を記念して、大々的な祭りが催されていてな。

 特に13日が土曜日だと言う事もあって、月曜日から1週間かけて街を上げてのお祭りだ』


確かに長いな。

ふと、伊織の事が気になって、スマホモドキから顔をあげる。

伊織は、駐輪場の外にある自動車を睨んでいるみたいだった。

「ど、どしたの?」

「ん……?」

僕を見下ろした伊織と目が合う。

「いや何でもない」ふるふる

「?」


何だろう?

ちょっとピリピリしている。

少なくとも、手を繋いでラブラブあま~くてトロトロですぅい~つな恋人同士の雰囲気ではない気がする。

むぅ。

でも機嫌が悪いわけではない。

気になる。

「伊織」

「ん?」(時雨、心話を使う)

「いや?何でもない」

伊織から心話を使うように依頼があったので、使う事にする。

当たりさわりの無い話をしつつ、どうしたのか聞く。


(監視されている。所属は不明だが稚拙だ。テレビ局か警察の関係者だと思う)

うわ~。犯人と思われているのかな?


テレビ局の作った番組内容が、そんな感じだったのだ。

獣に襲われたにしては、不可解な手がかりが多すぎる。

まるでカモフラージュの様に思えるが不明だ。

ところで、この村には名物一家がいましてぇ……

おやまぁびっくり、人肉喰らい[マンイーター]!!

という内容だ。

報道倫理に抵触している内容だけど……どうなんだろ?


(犯人かどうかは不明だ。重要参考人かも知れない)

日本では、それは犯人と同義語の様に放送するんですよ。

(それは酷いな。その様な事をしても赦されるのか?)

特定のテレビ局では、犯人を庇ったりしても赦されますね。

特にスポンサーからの圧力には弱いよ。

(そうか。でも、それは仕方ないだろう。

 そもそもマスコミとはスポンサーの為の道具だ)

それは(はなは)だしく誤解だと言いたい……けど、言いきれないしなぁ。


(この世界の人間は、基本的に自分のやっている事に、責任をもたないのではないか?) 

うん?

(責任を持って仕事をしているなら、失敗した時に腹を切るだろう?)

いや、それはない。何の解決にもならないよ。

(この世界、特にこの国には責任を曖昧にする為のシステムが数多い。

 大きな組織ほど、責任を曖昧にする事で、物事をなぁなぁにしている。

 誰も責任を取らないから、好き勝手が出来る)

いや、まぁ……ろくに仕事なんてした事が無い高校生ですから、会社の事なんて判らないけど、殆どのサラリーマンとか民間企業の人達は責任もってやっていると思うけどなぁ。

確かに権力に守られて潰れる心配の無い、公務員、電力会社や銀行、マスコミは好き勝手やれるけど……。

それでも、なんらかの規範はあるみたいだし……って、別に擁護しなくてもいいじゃん。


(誰か1人が腹を切れば、そのポストが空く。そうする事で誰か1人が、職にあぶれる事なく仕事に就ける。効率的。

 責任者は喜んで腹を切るべき。

 皇國代理天のシステムは、この国に似合う良いシステムだと思うのだが……ダメか?)

ダメです。

全然ダメです。

それだけは言えます。

っていうか、怖い考えは止めて下さい。

腹切りの部分を、別の単語に置き換えただけで、恐ろしい考えになったので絶対却下で。

そもそも、不景気が続いて伊織の言った社会になりつつあるんだし。




はぁと溜息1つ。


まぁいいか。

今はそれよりこっちに集中しよう。


『オカルト的な現象ってのはたった1つだけだ。

 祭りの最中に異変があった。

 ファティマの大聖堂に、輝く人が降りてきたというのが、その全容だ。

 ただし、その場にいた人全員が、同じ内容のメッセージを受け取ったらしい』


メッセージねぇ……。

集団幻覚でなければ、どこかにスピーカーでも隠して……とか。


『メッセージ内容は、再び5月13日に予言が託される、拝聴せよ。

 という拍子抜けするぐらい簡素な物でな。

 要はその御使い様は、ホントにただのお使いだったわけだな』



それらを踏まえたうえで、もう一度チラシを見る。

『来たれり。神より遣わされし御使い』

『御使いより託宣されるのは、世界の危機』

『世界の危機とは新約聖書に記されし最終戦争』

『新たな救世の主にパパ・アドルフが、罪の時代を終わらせ、新たな契約が結ばれるのだ』

うわー、

預言内容の先取りですか?

これ、もし違っていたらどうするんだろう。


あ。

もしかして自作自演。

終末論を自作自演しようとして、サリンまいたカルト教団があったけど……

それにしちゃ大掛かりな……。

いや、大掛かりだからこそ……か。

あの教団の擁護派も、最初はサリンを作る事なんて難しいみたいな事を言っていたらしいし。


大掛かりだからこそ、良いのかもしれない。

まぁ、集団幻覚のカラクリが証明できなければ、僕の言っていることなんて名誉毀損だ。

専門家に任せよう。


後ろの荷台に、伊織を乗せると僕はゆっくりと自転車を漕ぎ出す。

「代わろう、私の方が効率が良い」

という伊織に、男の浪漫を語って家に帰る。


今日は家政婦さんが家の掃除をしてくれる日だったので、僕は家政婦さんに手紙を書いておいた。

内容は、新しい八代家の住人の事だ。

そこで、ヴラドの事を気に入ったらしい家政婦さんが、色々と引き連れて、この町を案内したそうだ。

その為、僕が帰って来た時には、ヴラドが近場のスーパーで食材を買い込んでくれていたので、出かける必要がなくなっていた。

僕は、そのまま夕食の準備に取り掛かる。


実は、昨日の夜遅くに、フギンとムニンがラパ・ヌイより帰還したのだ。

ところが疲れていたらしく、すぐに寝始めたので、僕は報告は聞かずに学校に出かけている。

今日の料理は、それを労う意味と報告会を兼ねて、少し豪勢にしてある。





夕食の席上で語られた、ラパ・ヌイの現状はかなり想像を超える状態だった。


どうやら、今、ラパ・ヌイは異世界からの侵略を受けているらしい。

それも2ヶ所から。


1つ目は、現地語で極寒の海と呼ばれる北極海に、3週間ほど前に時計の形をしたオーロラが現れた。

それが、エジソンズエンジニアリングエンパイア(略称3E)の、異界門[ゲイト]で、出現と同時に全世界に向けて宣戦布告、侵略を開始した。

進軍速度が非常に早く、飛行船を使った侵略でグリーンランドを制圧すると塔を建設したが、そこで侵略は止まってしまった。

その後、国王からラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]に、3Eと一時的な休戦条約が締結された事を知らせる使いが来て、現在は軍事行動は行なわれていない。


2つ目は、2週間ほど前の話。

竜大陸と呼ばれる、地球で言う中南米と南米を合わせた、竜族が住む大地にラパ・ヌイ産の異界門[ゲイト]ができたと言う。

竜族と言うのは、種族的傾向として孤高を好み、秘密主義で全てを秘匿したがるのだが、その集合体である“竜の住まう大地”州も王国に対して、秘密主義を貫く傾向にある。

今回も彼らは、自らの秘密主義に乗っ取って、この情報を秘匿するが、ギルド《便利屋イザヴェル》にすっぱ抜かれる。

一攫千金を狙う荒くれどもと、次元回廊[ラビリンス]の向こう側との戦争という2面作戦によって、竜族は敗北し敵に異界門[ゲイト]を奪われてしまう。


「その先は?」

「ゴアッ!チャンネルはそのママ!次回をお楽しみニッ!!」

「そーですかー。助かったよ。情報ありがとう。

 フギンとムニンは、このままラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]はヴラドの異界門[ゲイト]に攻めてくると思う?」


「意見を言ウのは命令カァッ」

「命令ダァーッ!……忌憚無く言って?」

「無いな無いもう無い絶対無いあるわけ無い」

「うん判った、ありがとう」

僕はご褒美にマグロの刺身を箸でつまんで、フギンとムニンの口の中に入れる。

「ゴアッゴアッ」


「他の人は?」

「あー、俺もネェと思うぜ?」ぐびぐびっ

「グレイブさんもそう思う?」

「ぷはぁ~~ッ!うめぇっ!

 おう、竜が負けたんなら今度はギルドの連中が、向こうとやりあうだろうけど、まぁ無理だ。

 それでラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]の出番だ」

「あー、ウチもそう思うにゃ……こほん、思うわ。

 ラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]は、竜の方で手一杯でしょ」

「リュネットさんも来ない派と……伊織は?」

「少数精鋭の部隊が来る可能性はある。本格的侵攻はない」

「ヴラドは?」

「一時的にせよ休戦条約を締結した以上は、竜大陸に行くと思うんじゃがの……相手はヴォータンじゃ」


「そー言えば、祖竜喰らい[ドラコエド]さん」

リュネットがヴラドに訊ねる。


彼女とグレイブは、ヴラドの事を祖竜喰らい[ドラコエド]さんと呼ぶ。

ヴラドは、馬鹿にされたのが相当悔しかったのか

「妾の事は、祖竜喰らい[ドラコエド]と呼ぶのじゃ!」

と言ったらしい。


「おう、俺もちょいとお願いだ」

「なんじゃ?ベースアップは無理じゃぞ?」

「「何の話?」だ?」

「ああ、構わん、こっちの話じゃ。何の嘆願じゃ?」


「雇い主の詮索は、あまり行儀が良くないのは判るけど、これだけはちょっと聞いておきたかったから」

「うむ」

「祖竜喰らい[ドラコエド]さんは、異世界との戦争が始まると、常にラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]と敵対しているのよね?」

「そうじゃ」

「それでよ、この仕事が終わったら、俺達はギルド《便利屋イザヴェル》を追放される可能性がある、というか逃げるつもりだ」

「あー、まぁ確かにの、あそこのギルドマスターにヴォータンも入っておったしのぅ」


「で、まぁスルターンを名前で呼べる様な祖竜喰らい[ドラコエド]さんに、この仕事が終わったら、どっか別のギルドに紹介状を書いて欲しいんだが……」

「ん?ああ、そういう事か、確かにのぅ……

 国家反逆じゃな、あそこはそれを赦さんからのぅ」

「うん、そういう事なんだけど……ダメですか?」


「ヴォータンも、せせこましくなった物じゃな……

 何だか復讐を諦めてから、急に奴が小さく見えるようになったのぅ……」

「復讐って……」

「奴には(ともがら)の悔しさを、知らしめてやりたかったのじゃがの……」

(ともがら)の悔しさって、まるで……」

「その上で妾を、処刑人[エクスキューショナー]に仕立て上げた罪も、払わせてやろうと思ったのじゃが……」

「おいおい、それじゃ、まるで串刺すm[ツェペs]」

「何じゃとッ!?」

「わーわーわーっ!いえ、何でもありませんっ!」

「ふもっがふもっが」


「まぁ、言いたい事は判ったのじゃ。

 フギンとムニンに脱退届を出させておく、同時にギルド《テピト・オ・ヘヌア》に入会させておこうぞ。

 周りには腕を買われてスカウトされた、と言っておけ」


「ちょ、おい、あそこはライバルギルドじゃねぇかよ」

「そんな簡単に行ける訳ないでしょ」


「大丈夫じゃ、お主達の腕前ならば、そのままの位階で充分通用するし、妾が保証人になるから文句は言わせん」

「は、はぁ」

「え、え~~」

「む、信じておらんのかや?」

「いや、そんな事はないけどよ……なぁ」

「う、うん。ちょーっと上手く運びすぎと言うか……ねぇ」


「はぁぁ。大丈夫じゃ、妾はギルド《テピト・オ・ヘヌア》の名誉ギルドマスターにして創始者[プロジェネター]じゃ。

 間違いなく移籍はできる。そこより先はお主達次第じゃ」

「「え?」」

「創始者[プロジェネター]って、おい?」

「確か、反逆の魔女って……殺戮のメリジェーヌ、血塗れの戦乙女……それに処刑人[エクスキューショナー]なんて、串刺す者[ツェペシュ]じゃ……」


「ほほぅ、お主達は知らんで良い知識を色々と持っておるようじゃな……」



ヴラドの怒りをおさめる為に、伊織と僕の感覚同調・入力を使用しないといけなかった。

言われるたびに暴れまわっていたら、そりゃもっと酷い二つ名がつくよ。

この分だと、色々とありそうだな。変な二つ名。

ラパ・ヌイの世界法則[リアリティ]は、ちょっと面白いな。






そんな夕飯も終わり、色々と後片付けや明日の準備をして皆は部屋へと引き上げた。

時間は真夜中の1時過ぎ、もうそろそろ寝る時間だ。


「ねぇ、ヴラド……」

僕とヴラドの汗と体臭が交じり合った匂いの中、僕は訊ねる。

「重くない?」

「何を今更言っておるのじゃ……

 くふふ、この包まれている感覚が良いのではないか」

僕の首を抱き、耳元で囁く。

少しくすぐったい。


僕はヴラドの体温を全身で感じながら、本題に入る。

「本当にヴォータンへの復讐を止めていいの?」

「……うむ、未練が無いわけではないが」

「じゃあ……」

「妾は馬鹿でのぅ、2つの事をしようとすると、どちらも、おざなりになってしまうのじゃ」

「……」

「長い時間生きておると、取り返しのつかない失敗というのを何度もするし、見る事もあっての。

 だからこそ、今回は失敗するわけにはいかんのじゃ」

「どうして?――って痛ッ」

ヴラドに背中を引っ掛かれた。

「憎いのぅ、妾の寵愛を受けながら、未だに知らぬフリをきめ込むかや」

「うぅ?」


「ココにお主様が居るからじゃろう……ココがお主様の故郷だからじゃろうが。

 お主様が、この世界を守りたいと思うのと同様に、妾もお主様を守りたいと思っておるのじゃぞ。

 ソレを忘れるでない」

「うぃ。ゴメン」

さっきまでの熱気が嘘の様にしんみりしてしまった。


「じゃあ、本当に世界樹[ユグドラシル]の合体後、悪魔城をk」

「ラピュタじゃ」

「ラピュタをこっちに持って来たら、次元回廊[コレダー]を破壊していいんだね?

 もう、戻れなくなるよ?」

「お主様の傍以外のどこに帰るというのじゃ?」

「ヴラド……」

「……ん」

僕はヴラドの名前を囁くと、口付けを交わす。


「……」はぁ

「……お主様?」

「ええっと……」

「みなまで言わずとも良いぞ?」

寝る前のピロートークのつもりだったんだけど、そうも言っていられなくなった。

激しくヴラドの舌を求めて、口の中を舐めまわす。

再び起こる戦いの予感に全身が奮い立つ。

「くふふ、こら、焦るでない」

熱に浮かされたように上気した顔で、ヴラドは口付けの余韻を楽しむ。



「もしスルターンが、アレキサンドリアを落とした時におらなんだら、どうなっていたか……考えてみたのじゃ」

「IFの話?」

「そうじゃ。もしアレキサンドリアにスルターンが来ておらなんでも、作戦通りに事は運んだはずじゃ。

 決死隊は、ラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]を引きつける囮として役目をまっとうし、アレキサンドリアを枕に討ち死にする事になろうぞ。

 じゃがそれは無駄死にではなく、その稼いだ時間でイプセプスは、次元回廊[ラビリンス]の破壊に成功するじゃろう」

「……」

「スルターンのやった事は、結果に何の影響も与えておらんかったんじゃ。

 若干のイレギュラーはあれど、全て作戦通りに事は進んでおる……」

「ううん?」

「?」

「ヴラドが残っているじゃない」

「……!」

言いつつもヴラドの身体をきつく抱きしめる。

しなやかな筋肉のついた身体を、もう何十回と蹂躙しているけれど、飽きる事が無い。

それどころかどんどん深みにはまっていく。


「本当なら死んでいたはずのヴラドが生存しているじゃん。

 あの混乱の中、ただ1人で脱出して異界門[ゲイト]を隠したんでしょ?

 その後は捕まるのを覚悟して、仲間を助ける為に戻ったんだし……」

「う、うむぅ」

「そういった意味では、僕はヴォータンに感謝するよ」

「そう……そうじゃな」

話を続けようか、このまま肉欲に耽ろうか悩んだヴラドは、話を続ける事を選んだみたいだ。


「先程の続きじゃが、妾が行っている事は、罪人として刑の下された(ともがら)を、せめて英霊として弔ってやりたいというのと、罪滅ぼしじゃ。

 同じ罪人としてラパ・ヌイに捕まっておきながら、ヴォータンに操られ、いい様に処刑人[エクスキューショナー]なんぞをやった妾への、な」



「復讐と言ってみた所でのぅ。自己満足の為のもの、それだけでしかないのじゃ。

 故郷を守る為と言って、それすら適わず、ましてや全てを捨てて復讐に走るわけでなし。

 どっちつかずだったのじゃな……その結果が3戦2敗じゃ」

「3戦2敗?」

「守りきれなかった異世界の数じゃ、イプセプスを除いてアーラム、ラプラドル全滅でのぅ。

 じゃが、此度は負けるわけにはいかん。

 勝てんでも良いから、負ける事だけは避けねばならん」

身体を入れ替える。

僕がヴラドの下になった。

ヴラドと僕は、自然に手と手を合わせるとそのまま行為に入った。






木曜日


その日は朝から眠かった。3時間も睡眠が取れていないのだ。

仕方ない……が眠いのはまずい。

とても不機嫌そうな僕の顔は、犯罪者のようだ。

顔で人の事を判断して欲しくないと、僕は世の中に叫び続けるけど、コレばっかりは不味い。

道で出会ったら即行逃げるね、間違いなく。

そんな顔。




今日中にオリエンテーションの班を決定しないといけないのだが、女子はいいとして男子が上手い事まとまっていない。

6人の班と、僕達3人の班、誰か1人が移動してきてもらわないといけないからだ。

それで6人の方でもめているらしい。

もともとが3人と3人のグループの合併だ。

どっちから1人を追い出して、ヤクザの居る班にまわすかって話に……はぁぁぁぁ。



結局、ひ弱そうな人物が折れて、こちらに来る事にしたらしい。


「生贄君いらっしゃ~~い。ようこそ、ヤクザなハーレムへ」

武居の皮肉。


「大丈夫だよ、お尻を差し出せば君も今日から兄弟さ」

新田の冗談に、尻を押さえるひ弱な男子。


「酷くない?」

「「事実」」

「あー。まぁ、いいや。

 実は、まだ全員の名前と顔が一致してなくて……」


僕はひ弱そうな外見の男子と話す事にする。


身長は僕より高め、160cmぐらいだろう。

その表情にはアリアリと、僕が怖いと見て取る事ができる。


実は、名前は知っている、顔も一致している。

彼の名前は和田崎進(わださきすすむ)といい、4月の始め頃に、僕に話しかけてくれた豪の者だ。

クラスから完全に浮いていた僕は、彼に話しかけられて、とても嬉しかったのを覚えている。


さぁ、友達作りは最初が肝心だ。

第1印象を好印象に、せめて友好的雰囲気の中で。


「これから、いっしょの班だね。

 僕は人畜無害だから安心して。ヨロシク」

僕は彼の恐怖を払拭しようと、にこやか手を差し出す。


「ひっ」パシッ

「……」


「あ……」

「あ、大丈夫だよ、だいじょうぶ」

「ひぃぃぃっ、ごめんなさい!ごめんなさい!!殺さないでッ」


シマリス君か、君は。

それに対する僕の答えは2択。

「殺さないよぉ」かアライグマ的に「殺してやるっ殺してやるっ」か。


答えは3択目だ。

聖母の様な微笑を浮かべて、僕の指に噛み付いたリスをあやす様に語る。


「ほら怖くない、怖くない。ほらね、怖くない。

 ね?怯えていただけなんだよね」にぃぃっ


「ひぃぃぃっ!」だだだだっ

「あ」

廊下へと走り出す彼。


「キチクン、脅かしすぎだよ……」

「富士鷹ジュピロみたいに笑えば、そりゃ誰しも逃げるって」


あ、あれぇ?


「ありゃ、トラウマもんだぜ?」

「さすがキチクン、容赦ないねー」


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