第20話:未来へ続く魔導帝国 ~華がないといわれた錬金術師は、実力で世界を彩りました!~
世紀の結婚式から、数年の月日が流れた。
ガルディニア帝国の首都は、以前にも増して活気と笑顔に満ちあふれていた。
空を見上げれば、リーゼが開発した魔導人形のルミエールが街を綺麗に保ち、農村部では魔法の全自動耕作クワによって収穫量が従来の三倍へと激増。
病に苦しむ人々には、彼女の調合した万能ポーションが安価で届き、帝国の生活水準は世界最高峰へと躍進していた。
人々は口々に、親しみを込めて彼女をこう呼ぶ。
――崇高なる錬金皇后と。
◇◇◇
「――よしっ! これで全自動全身マッサージ&ハグ機・試作一号の組み立て完了です!」
皇宮の広大な専用工房。
すっかり大人びた……と言いたいところだが、相変わらず白衣の袖をまくり上げ、顔にうっすらと機械油の汚れをつけたままの私は、目の前の魔導具を見て胸を張る。
机の上に鎮座するのは、フカフカのクッションと機械のアームが組み合わさった、一見すると怪しいマッサージチェアのような装置だ。
「ふふふ、ジークは毎日執務で忙しくて肩がガチガチですからね! これで私が実験で遅くなっても、いつでも最高のマッサージと抱擁が――」
「リーゼ。妻の抱擁を機械に代行させようとする不届き者は、誰かな?」
「ひやああっ!?」
背後からぬっと伸びてきた長い腕に抱き上げられ、私は思わず悲鳴を上げる。
振り返ると、そこには皇帝の冠を外し、上着を脱ぎ捨てたジークハルトが立っていた。翡翠の瞳には、呆れと……そして、底なしの愛おしさが揺れていた。
「ジ、ジーク!? いつからそこに……!?」
「全自動と言い出したあたりからだ。……まったく、君という妻は、少し目を離すとすぐに私への愛情表現まで自動化しようとする……」
ジークは溜め息をつくと、私の腰をガッチリと抱え直し、そのまま工房のふかふかソファへと倒れ込んだ。
私の頭がジークの広い胸の中にスッポリと収まる。
「……もう! ジーク、私、油で汚れてますよ! あなたの服が……!」
「構うものか。君の匂いなら、機械油の匂いですら私にとっては最高の香水だ」
首筋に顔をうずめられ、低く甘い声で囁かれる。
薬指に嵌められた永久結合の指輪が、ジークの熱い魔力を拾ってカチリと心地よく共鳴した。
「それに……私に必要なのは機械の抱擁ではない。君の、温かいこの腕だ」
「……~っ! ジークは相変わらず、ずるいです……!」
私が降参して首に手を回すと、ジークは満足そうに目を細め、私の唇に深く、甘いキスを落とした。
何度重ねられても、胸の奥がキュンと甘く痺れるような、世界で一番大好きなキスだった。
◇◇◇
「失礼いたします、陛下、皇后様! 本日の定期報告に……って、あぁぁぁっ! 申し訳ありませんっ!!」
工房の扉が勢いよく開き、書類を抱えたエレーナが飛び込んできたが、ソファで抱き合う私たちを見て一瞬で顔を真っ赤にし、バタッと扉を閉めた。
「「……」」
「……エレーナ、入っていいぞ」
ジークが咳払いをして声をかけると、エレーナは恐縮しきった様子で再び顔を出した。
「い、いつもお熱いところ大変申し訳ありません! ですが、本日のご報告です! 旧ラムーバ王国領の復興計画ですが、リーゼ様の土壌浄化装置のおかげで、来月には避難民の帰還が完了する見込みです!」
「本当ですか!? よかったぁ……!」
旧祖国ラムーバ王国は、チェルシーたちの暴走によって崩壊したが、現在はガルディニア帝国の保護下に入り、新たな技術によって豊かな農村地帯へと生まれ変わりつつある。
なお、逃亡したチェルシーとレナード王子は、一生解けない環境奉仕の魔法罰を受け、毎日汗水垂らして農作業に励んでいるそうだ。
当然、私を捨てた実家のアインワース家も貴族のままではおられず、平民となって同じ農作業をしているらしい。最近伝え聞いた話では、後悔を口にしていたようだ。全て今さらのことだけど。
ただ、チェルシーの生家に至っては、チェルシーを勘当するから貴族に戻せと騒いでいるみたい。
そんなことをジークハルトが許すわけもなく、一蹴していると言っていた。その彼が、ふと思い出したように口を開く。
「そういえば、レグザニア公国のクロードから『例の目覚ましオルゴールのレプリカが、思いがけず国で大ヒットした。増産を求む』と親書が届いていたんだ。なんだかんだ言いながら、あの魔改造オルゴールを気に入っていたからな」
ジークが楽しそうに笑う。私もつられて「山のように作りましょうね」と笑った。
かつて自分を虐げていた過去も、襲いかかってきた脅威も、すべては二人で乗り越え、最高の笑顔へと塗り替えられることが出来た。それが今は誇らしかった。
◇◇◇
夕暮れ時。
皇宮の広大なテラスから、私たちは手を繋いで茜色に染まる帝都の街並みを見下ろしていた。
心地よい風が吹き抜け、頬にかかる青い髪と、ジークハルトの美しい金色の髪を優しく揺らしている。
その光景に目を細めながら、彼に声をかけた。
「綺麗な街ですね、ジーク」
「ああ。君が救い、君が作り変えてくれた、私たちの愛する国だ」
ジークが繋いだ手にギュッと力を込め、愛おしそうに私に視線を向ける。
私は笑みで受け止め、再び街を見た。
「ねえ、ジーク。私ね、次は空を飛ぶ巨大な空中庭園船を作ってみたいんです。それで、ジークと一緒に世界中を旅行して、もっともっとたくさんの人を笑顔にしたいなって……!」
思わず目を輝かせて未来の野望を語る私に、ジークがフッと優しく微笑んだ。
「いいな、それは素晴らしい。……だが、その旅行には一つ条件がある」
「条件……ですか?」
ジークは私の腰を引き寄せ、耳元で甘く、絶対に逃がさないというように囁いた。
「私と二人きりの遅すぎる新婚旅行にすること。そして……空の上でも、私をたっぷり甘やかしてくれることだ」
「~っ! もう、ジークったら……!」
赤くなる私を抱き締め、ジークは幸せそうに空を見上げた。
その横顔に、わずかばかりあった不安が消えていく。
地位も名誉も持たない、ただ道具づくりが好きなだけの私が……隣にいていいのだ、と。
二人で紡ぐ未来の物語は、きっとこれからもたくさんの発明と、あふれるほどの甘い愛とともに、どこまでも続いていくはず――そんな予感を残して。
fin.




