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孤高の完璧超人な先輩に手料理を振る舞ったら、俺なしでは生きられないポンコツになった  作者: 世羅 和葉


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プロローグ 紡がれた朝

カクヨムにも投稿しています。

 俺――中野誠也は、寝る時には感じなかった、腹の上の微かな重みと、心地の良い温もりで目を覚ました。


 重い。そして、身動きが取れない。


 この家には猫などのペットはいない。まさか幽霊……ではないことは、カーテンの隙間から差し込む光が教えてくれている。


 腹の上のソレを動かさないよう、そっと首だけを動かして確認した瞬間。俺の口元はほんの少しの呆れと共に緩み、自然と弧を描いてしまう。


 ソレ――剣崎凛が、俺の腹の上で幸せそうに眠っていたのだ。


「……むにゃ、せいやぁ、おかわり……」


 学生時代は学園の至宝だの、完璧超人だのと持て囃された彼女の、あまりに隙だらけで、無防備な可愛い寝顔と寝言。


 愛しい()()のそんな姿を朝から見れたのだ。自然と笑みが溢れるのも、無理はないだろう。もう少し眺めていたかったが……。


 ――きゅるるるるる。


 彼女の腹から響く音を聞き取ってしまった以上は、朝飯を待たせるわけにもいかないな。


 ***


 起こさないようそっとベッドを抜け出した後は、若干寝ぼけながらも手早く朝食を作っていく。


 何百回、何千回と繰り返し作ってきた、彼女の大好きな少し甘めのだし巻き卵。

 箸休めにぴったりな千切り大根を梅干しと和えたサラダに、温かさと栄養をプラスするための、ほうれん草を白出汁で浸し柚皮を添えたもの。


 そして、昨日からこっそり漬けてあるイクラを贅沢に乗せた、まるで宝石のように輝く漬けイクラ丼。


 豪華で完璧な朝食を作り終えたところで、エプロンを外して寝室へと戻る。


 ベッドの上では、俺の気配に気付いたのか、はたまた匂いに釣られたのか。

 寝ぼけ眼を擦りながら「せいやぁ……むにゃ……ごはぁん……」と、のそのそと身を起こしている凛がいた。


「おはよう、凛。朝食は出来たから、顔洗ってきな」


「うむ……おはよう、誠也……えへへ」


 嬉しそうにフニャりと微笑み、フラフラと洗面所へと歩いていく背中。その頭頂部には、見事なアホ毛がピョコピョコ揺れている。


 すれ違いざまにその頭を軽く撫でてアホ毛を抑え込んでやると、心地よさそうに目を細める彼女。


 ……あ、また跳ねた。


 自分じゃ出来ないからと、いつも俺が直してやることになる、彼女の寝癖。

 昔なら「面倒くさい」と切り捨てていただろうが……今は、世話が焼けると思いながらもつい甘やかしてしまう自分がいた。


 こんなにも暖かくて、穏やかで、幸せな朝を凛と迎えてるなんて。ましてや、凛のためならどれだけエネルギーを使っても構わないとまで思っている。この状況を凛と出会った頃の俺が見たら、間違いなく泡吹いて卒倒するだろうな。


 そう。今でこそ何よりも凛のことが大切で、彼女の胃袋と笑顔を守ることに全力を注いでいる俺だが、数年前――凛と出会った当初の俺は、今とは全く違った。


 何に対しても省エネで、人間不信で。「誰にも期待せず、誰の特別にもならない」を信条に、無気力な毎日を送っていた俺。


 常に完璧を演じ、みんなから「学園の至宝」だの「氷の風紀委員長」だのと持て囃されていたものの。実は限界ギリギリで、誰よりもポンコツで、誰かの温もりに飢えていた凛。


 そんな俺たちの出会いは、高校時代のとある秋の昼下がり――校舎裏でのこと。


 この物語は、一つの焼きそばパンが繋いでくれた奇跡のお話。

 奇妙で騒がしい、けれどどこまでも甘い、俺と彼女の救済の軌跡だ。

 最後までお読みいただきありがとうございます!


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