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第24話 未来の大英雄と誇り高き御令嬢

第2話のシヅキの能力紹介が間違っていました、シヅキの能力は空間だけで、空間を歪めて応用することで金属を操っていたと言うのが正確な設定です。


詳しくはまた別の機会で説明します読者の皆様も認識の修正をお願い致します。  


m(_ _)m



歯車が回ったような気がした。


「リュミエール・アレキサンダー様の『全て』を記した手記です――」


執事は、その目に一筋の希望を込めて手記を手渡した。


その手記は、何処にでも売られてるような何の変哲もない普通の手記だった。


――その手記に血が滲んでいなければ。


その手記を見た者は、息を飲み圧倒されるだろう。


血が滲んでいることだけが理由ではない。


何の変哲もない手記に、強い滲み出るような決意が込められてるのを理解できるからだ。


――最初に口を開いたのはロキだった。


「なるほど……な。『有能な』貴族と言われてるリュミエール・アレキサンダーなら、念の為に保険ぐらい用意するかもな――だが、その前に一つ聞いてもいいか?」


「……はい、何でしょうか。」


ロキの質問すると言う言葉に、執事は気を引き締め、真剣な声音で応じる。


――次の瞬間、ロキが執事の頭を鷲掴みにした。


「――おいコラ、クソ執事。」


「は?」


執事はロキを至近距離で見て気づいた。


――本気で激怒していることを。


「そんな重要な手記を何で今まで出さなかった?」


鷲掴みにしたロキの手に、どんどんと力が籠もっていく。


「ちょっ、痛い痛い痛い!?」


痛がってる執事の頭に、地獄の亡者のうめき声もかくやと思ってしまうほどに、低くどす黒い声が反響する。


――ありったけの害意と殺意を込められながら。


「――私刑にされたいのか?」


「今現在進行系でされてますが!? ま、待ってください。べ、弁明を! 弁明をさせてくださ――」


「知るかあああああ!!」


一軒の宿屋に、地獄に叩き落とされたような誰かの絶叫が鳴り響いた――


――『三十分』後。


しばらくして、そこにはやけに清々しい顔をした少年と、ボロ雑巾のようにされた老人がそこにあった。


「ふ~、スッキリした。で? なんでそんな重要なもんを今まで隠してた?」


ロキが執事に弁明を許可し、執事はなんとか起き上がって説明を始めた。


「……えっと、要約すれば忘れたんですよね。」


「……あん!?」


「ち、違いますよ!契約魔術で、当主様が死んだ時に発動するようになってまして!」


「……あ~、なるほど。」


「つまり『誰も知らないなら隠す必要もなくなる』……ってことか。確かに有能って言えるな……けど、アレキサンダーが死んでから何で今まで言わなかったんだよ?」


「……言う暇ありましたか? 私のこれまでを顧みてくださいよ。」


「え? え〜っと、確か……」


アレキサンダーが死んだ。アリアと僕達が葬式に来た。国王に濡れ衣着せられてアリアを人質にして逃げた。チャラ男の格好して宿屋に入ったけどアリアは放心状態。


その後、僕がなんやかんやで執事をノックアウト。その後、アリアと執事を放置して外に出た。その後、白菜食べて情報のすり合わせでまたアリアがショック受けて落ち込んだ。その後、シヅキの励ましで持ち直した。


今ここ。


「……あ、本当に言う暇ねえや。」


「しかも弁明すらさせなかったじゃないですか!!」


「メ・ン・ゴ☆」


「軽いんですよ!!」


「まあいいや――本題に入ろうか。」


ロキはそう言うと、そこで初めてアリアへ視線を向けた。


父が遺した手記。


そして、目の前で繰り広げられた理不尽な私刑。


その両方に圧倒されたのか、アリアは未だに固まったままだった。


「ほら、読んで。」


ロキはそう言って手記を差し出した。


「き、今日死んだって聞かされたばかりの父親の手記を、む、娘のアリアさんが読むの?」


シヅキは、さっきまでのアリアの苦しみを見ていたが為に、あんな思いをもう一度させかねないのでは? と焦り始めた。


「そ、それはちょっと酷じゃ――」


「――大丈夫です、シヅキさま。父の決意を継がずに何が娘ですか。それに、あなたが言ったんですよ?」


――『娘が父を信じなくちゃ誰か信じるのだ』と。


「つっ――」


それはシヅキ自身が言った激励だ。アリアはシヅキの手を掴み、決意に満ちた目で見つめる。


「それに言いましたよね、私――自分が知りたいんだって。」


「……わかった。それだけ言うなら止めないよ。」


「ありがとうございます……それじゃあ、読み始めますね――」


アリアは震える指で手記を開いた。


血の滲んだ最初のページ。


そこには父の筆跡が残されていた。


『この手記を読んでいるということは、私は死んだのだろう。』


『アリア。』


『まずは謝らなければならない。』


『私はお前に多くの嘘をついた。』


『そして伝えなければいけない。』


『リュミエール家の足掻きを、そして希望を――』


――そして、手記は過去を語り始めた。


ーーーーーーーーーーー


かつて子供の頃の私は、口が悪い、政治に詳しくない、教養もない。そもそも貴族ですらなかった。


――国に伝わる英雄に憧れる、一人の『孤児』でしかなかった。


昔の私は、俗に言うクソガキだった。


昔からガタイが良くて腕っぷしも強かったから、喧嘩ばかりしてた記憶がある。


英雄に憧れてるくせに、人を助けるのに興味がなく。


悪を倒す、強くなって世界を見返してやることしか考えてなかった、どうしようもない愚か者でね。


喧嘩で勝った子供を手下にして、自警団の真似事をしてたよ。


まあ、真似事と言っても、顔が怖い人に決闘挑んだり、嫌味な人の家に落書きしたりと、自警団と名乗ってる以外は、そこら辺のごろつきと変わらない、孤児院の鼻つまみ者だったよ。


だが、忘れもしない三十年前――


――お前の『母親』。


私の妻のリュミエール・アイビーナに出会った時に、私の人生は変わった。


ーーーーーーーーーーー


俺の名は、未来の大英雄アレキサンダー様だ。


年齢は、多分十二ぐらい。


今日は、ちまたで人喰いの家って噂の廃墟に手下どもと突撃したんだが、何故かそこには人が潜んでいて、樽を囲んでいた。


で、そこにいたやつ全員、人喰いの家の手下かと思って、手下どもと一緒にボコボコにしたんだが、倒した後、顔をよく見たら、これまたちまたで有名なごろつきだった。


そんなごろつきが何で樽を囲んでたんだ? って思って、もしかしたら良いものを入れてたのかもって空けてみた。


――そこには、何故か縄でぐるぐる巻きにされて、さるわぐつを噛まされた女がいた。


「あ? お前誰だ?」


俺は、その女に声をかけてやる。その女はサラッサラな黄金色の髪に目をしてて、俺と同じぐらいの歳だろう。だが、小綺麗で身なりが整ってるし、肉付きもいい。


――良いとこ出のお嬢ちゃんか?


「……」


アレキサンダーが考えてる間にも、その少女はアレキサンダーの声に応じず、顔を真っ青にして固まっており、酷く困惑したように黙りこくったままだった。


その様子に徐々に苛立ってきたアレキサンダーは、睨みつけながらドス声で脅す。


「おい、こら女。黙りこくってんじゃねえぞ?俺様を誰だと思ってんだ。殺すぞ?」


「む、むー!む〜〜!!」


「ああ、さるわぐつ噛まされて喋れなかったのか。つーか、そうならそうと言えやゴラあ!!」


「む!!? ――」


アレキサンダーのあんまりにも理不尽な物言いと怖さに、少女は遂に涙目になってしまった。


「あ~ったく、しょうがねえな」


アレキサンダーは、そんな少女を見て流石にいたたまれなくなったのか、さるわぐつを外してやった。


「ひっ……こ、殺さないでください!?」


「ああ!? 俺が何でもかんでも傷つけようとする悪党に見えるってのかぁ!!」


「み、見えますうう〜〜!!」


「ぶっ●すぞゴラアアアア!!」


――十分後。


「――で? お前誰だよ」


さるわぐつを外された少女は、アレキサンダーのその質問に少し考えた後、恐る恐る答えた。


「え、えっと……だ、誰だと思います?」


「ふっざけんな!! 海に沈められてるのか、クソ女!!」


「ひ、ひいいい!? りゅ、りゅみめーるありぴーなでしゅうう!!?」


「あ? りゅ? りゅーるあぴー? 変な名前だなあ?」


あまりの恐怖に噛みまくってしまった少女は、顔から火が出そうなほどに真っ赤にした。


「……い、いえ、あの……か、噛みまくっただけでそんな変な名前じゃ、と言うか、どんな風に聞き取ったらそんなに原型なくなるんですか? 私の本当の名前はリュミエ――」


「よし、言いづらいから今日からお前の本当の名前は『あぴ』な? 決定だ!」


「話を聞いてください!? と言うか嫌ですよ私、そんな気の抜けそうな名前絶対!!」


「わざわざ改名の名を俺様が考えてやるなんて、俺様寛大! 俺様最高! お? お前も光栄さに泣いてるのか? 気持ちは分かるぜ〜?」


アレキサンダーは、さっきと打って変わって満足そうに笑い始めた。


「ほ、本当に話聞きませんね……と言うか、この涙は怯えから来たんですけど……と、と言うか、あなた誘拐犯のお仲間じゃないのですか? よく見ると私を攫った人達倒れてますし……」


「ああ!? お前今何つった!! こ、この未来の大英雄アレキサンダー様が誘拐犯のな、仲間だと!? ふ、ふ、ふっざけてんのかああああああああ!!!」


「キャアアアアアアアアアアアア!? い、いいい、言い間違いですよ! み、未来の大英雄様が仲間を引きつけて誘拐犯を倒したって言おうとしたんですよ!! わ、わー! わー! こ、光栄過ぎるなあー! アレキサンダー様に助けてもらった上に名前までつけてもらえるなんてー! こ、これは末代まで語り継ぐ程の名誉ですよーー!!!」


「――そっか。ならいいや! 感謝しろよ?」


 さっきの真っ赤で血管が浮き出た、まるで活火山のような憤怒顔から、気安そうな粗暴だが、どこか純粋そうな顔に戻った。


「た、助かった……。けど、『あぴ』は嫌だ。でも嫌って直接言ったら殺される……! けど、お父様からは平民区では本名を名乗るなって言われてたから、むしろ良かった……のか? でも、『あぴ』なんてあだ名でも嫌だよ〜〜」


「なにボソボソ言ってんだ?」


「い、いえ、なんでも〜。あ、あははー」


 アレキサンダーとあぴがそんなやり取りをしていた、その時。


 外から声が聞こえた。どうやらアレキサンダーの仲間のようだ。


「お〜い、アレキサンダ〜〜! そろそろ秘密基地に帰ろうぜ〜!」


「お〜、わかってる〜! ……お! そうだ、おい、あぴ」


「な、何でしょうか〜?」


「お前、俺様の手下になれ!! 俺様の秘密基地に招待してやるぜ。感謝しろよ?」


「え?」


「そうと決まったら今すぐ来い!」


「あ、あの、い、いえ……」


「あ? 俺様が招待してやるっつってんだぞ!? 何が不満だゴラァ!?」


「ひ、ひい!?」


 アレキサンダーが一気に血管を浮き出させ、至近距離まで顔を近づけてくる。


 一方、あぴはここで上手く答えなければ殺されかねないという死の恐怖の土壇場に、急激に頭が冴え渡る。


 これまでの貴族人生を走馬灯のように思い出し、必死に『言い訳』を考え――そして閃いた。


「え、栄光ある未来の大英雄アレキサンダー様のひ、秘密基地となれば、汚れた服で土足で、な、なんて……。それに、捧げる物を何も持たずに立ち入るとなど、失礼と思われるのです!」


「……あ?」


「で、ですから、未来の大英雄様の聖域を汚さぬために身を清め、衣服も最も上質な物を羽織り、そして最上の捧げ物を持ってから、最大限の謝礼をもって謁見するのが、アレキサンダー様に通すべき筋と存じましゅ! で、ですから、その用意のために、その秘密基地への謁見はまた後日……というのは、い、いかがでしょうか?」


「お前……」


「は、はい! なんでひょうか!?」


「わかってんじゃねえか、おい! 良いだろう。許可してやる」


「あ、は、はい!」


「明日ここで同じ時間に来るから、絶対来いよ?」


 すっかり上機嫌に戻ったアレキサンダーは、あぴの頭をペシペシと叩き始める。


 その時、また外から声が聞こえた。今度は少し焦れたような声音で。


「お〜い、アレキサンダー?」


「お〜う! 今行く〜! おい、あぴ。絶対来いよ? 絶っ対だぞ!!」


「は、はい〜」


 アレキサンダーはそうして外へ出ていき、あぴは一人になってようやくホッとした。


「し、死ぬかと思いました……。今は昼ですけど、もう今日は帰りましょう……ん?」


 帰ろうとしたあぴは気づく。


 自分が縛られたまま樽に入れられており、身動きが取れないことを。


 アレキサンダーの登場のインパクトがあまりにも大きすぎて、縄を解いて欲しいと頼むことがすっかり頭から抜けていたのだ。


「……え? もしかして、ずっとこのまま? ――ちょっ、嫌だ! 誰か助けてええええええええ!?」


「縄を解いてええええええええ!?」


 ――その後、ちまたでは、とある廃墟に「人喰いの家に閉じ込められて喰われた少女の亡霊が、死んだことに気づかず外に出してくれと叫んでいる」という噂が、まことしやかに語られるようになった。


ーーーーーーーーーーー


 少女のあぴ――


 リュミエール・アイビーナは、自室のベッドに倒れ込む。


「……はあ、死ぬかと思った」


 ――あの後、護衛が見つけてくれたから何とかなったものの、普通、拘束されてること忘れて出ていきます?


 ……いや、そもそも私が初めてのお忍びにはしゃいで、人混みを利用して護衛を撒いたのが発端なんですけど。


 でもその後、速攻で攫われるとか、平民区、治安悪すぎません? 改善が必要な気がしますわ。


 ……お父様に相談しましょうか?


 アイビーナはそんな事を思っているが、実際は攫われたのは平民区ではなく、お忍びではしゃぎすぎたアイビーナは周りをよく見ずに、この国屈指で治安の悪いスラム街へ突入してしまっていたのだ。


 身なりの良い、その上、平和ボケして油断しきった少女がそんな地区をぶらついていたら、攫われるのはもはや必然に近しい。


 ――だが、そんな事は当然知らないアイビーナは、生粋の善良な貴族らしく、治安改善案をブツブツと考え始める。


『明日ここで同じ時間に来るから、絶対来いよ? 絶っ対だぞ!!』


「うっ!!」


 治安の悪さを嘆いていたら、アイビーナにとってはその代名詞ともいえるアレキサンダーを思い出し、そしてすぐにその『約束』の事を思い出して、引きつったような声を上げる。


「わ、私は明日ではなく、ご、後日と言ったので、正確な約束ではないですし〜?」


 ――高潔な貴族が約束を破るのか?


 アイビーナは心の声に耳を塞ぎながら、言い訳を言葉に出し始める。


「そ、そもそも、また会ったら殺されかねないですし〜? 縄を解かずに置いていった恨みもあることですし〜?」


 ――だが、あそこであの男が来なければ、どうなっていたのか分からないのでは?


 何も聞こえないように、何も見えないように、枕に顔をうずめ、足をバタつかせる。


「あ、あんな粗雑で乱暴な男の言う事なんて、べ、別に聞かなくてもいいですし〜?」


 ――粗雑で乱暴な男でも、約束は約束だ。


「か、勝手にあの男が言い出しただけですし〜? 私は正確な日程を提示してないので、明日行くという約束は受け入れてませんし〜?」


 ――いい加減、目を逸らすのをやめろ。


「い、行かなくてもいいのでは〜?」


 ――自分は『怖い』のだ。


 ――あんな男との約束を破ったら、それこそどうなるか分かったものではないのでは? と気づくことが。


「あ、あの男は私の名前すら知らないんですよ? じょ、常識的にこの家へ来られるわけありませんし、お忍びもこれから安々とできませんし、そもそも平民区に行かなければ――」


 ――昔のとある偉い人は言った。


 理屈で感情を制せるなら、心にどれほどの平穏が訪れるのだろうか、と。


 これは感情――特に恐怖によって生まれる不安や、頼まれてもいないのにやらなければいけないという確証のない義務感など、強い衝動はどれほどの理屈でも止められないという嘆きを表している。


 一度その衝動に取り憑かれてしまったら、あとは良くも悪くも行くところまで行くしかなくなってしまう。


 理屈は感情で無視できるのに、何故その逆はできないのかという疑問。


 その偉い人と同じ衝動に取り憑かれた少女が一人。


 ここまで来られる訳がない。行っても危険なだけだという理屈を、「ここまで来そう」「行かなかったら何をされるか分からない」という感情が押し潰していく。


 そこに、約束は破るべきではないという善良な常識と、貴族の誇りが後押しする。


「ま、まあ……でも、確かに意思は淀んでいませんでしたけど……」


 アイビーナは目に手を当てて、そう呟く。


 リュミエール家に遺伝する魔眼の力だ。


「い、一回――本当に一回だけですから――」


ーーーーーーーーーーー


――翌日。


「――遅すぎませんか!?」


「お〜わりい、わりい」


人喰いの家の噂が囁かれる廃墟から、少女の怒った声が響く。


――約束の時間から既に『1時間』後。


未来の大英雄は、大遅刻をかまして少女に怒られていた。


「私、外出禁止食らってわざわざ窓から縄で降りてここまで来たんですよ!?」


「だからすまんって、あぴ」


「あぴって呼ばないでください!!」


「つーか何でお前そんなにボロボロで、目の下に隈があるんだ?」


「話をすり替えないでください!!」


アイビーナの姿は、前の服より上質なシルクのワンピースを着ており、四つ葉のクローバーの髪飾りをつけていて、何かが入っているバスケットを掲げている。


100人に聞けば100人が、生粋のお嬢様に見えると答えるだろう。


――目の下に大きな隈ができて、何故かワンピースが泥だらけで、スカートが大きく裂けており、ところどころ破れていなければ、だが……。


「いや、すり替えてねえって。たんじゅんな疑問だよ、たんじゅんな疑問」


「えっと、それは……」


目の下の隈は単純に、この家に行くのが不安で眠れなかっただけですけど、ボロボロなのは……。


私って好奇心や正義感が強いらしくて。


いろいろ、やらかしてたせいで、お父様や護衛の人達に警戒されてて、部屋でも見張られてたから……。


アイビーナは心中でそう呟きながらここまで来るのにあった事を思い出した


ーーーーーーーーーーーーーー


「よし、できました。」


アイビーナは何故か部屋にあったカーテンや服で縄を作っていた。


「本の冒険記だと、これを窓に垂らしておりたんでしたよね?」


アイビーナはそう一人で呟きながら窓を触る。


その窓は比較的新しい鉄の網戸で覆われており、外からも中からも入り口にできないようになっていた。


「服もシルクの上等なの着ましたし、厨房に忍び込んで土産にカツサンドも作りましたし、準備は万端ですわ!」


護衛も部屋にまでは入ってこないですし、魔眼で何処にいるのかも分かりますし。


アイビーナはそう考えながら窓をガチャガチャと動かす。


パカリ!


窓が窓枠ごと外れた。


――もしもの時の為に護衛が交代する瞬間を合間縫って、コツコツと取り外しておいてよかったですわ。


……護衛達は滅多に私の部屋に入りませんし、掃除も私がしてましたから、なんとかバレずに済みましたわ。


「さてと、今のうちに脱走開始ですわ!」


アイビーナは自作の縄を下ろして、縄を掴んで勢いよく飛び出した。


「ふん!」


――そして直ぐに縄を掴む手に力を入れた。


……そして何故か掴んだ縄ごと落下していった。


「あ、あら?何で――あ!?」


そしてアイビーナは思い出す。


……そう言えば縄を部屋に結んでいませんでしたわ……



……


………


…………あれ?これ死にました?


「えっちょっ!キャアアアアアアアア!?」


そうして叫びながら下に落ちていく。


落ちる――!?


アイビーナは思わず目をつぶってしまう。


そのまま、地面に勢いよく叩きつけられると思った瞬間。


ガサガサ!


――死んだと思った体に妙な感触を感じる。


ドサ!


「う!?」


ドサ!


「え!?」


そして何度も下に落ち、別の何かにぶつかってまた落ちるのを繰り返す。


ドシン!


ひときわ大きい衝撃が走り、背中にさわさわと草の感触を感じた。


「……たたた、どうなりましたの?」


アイビーナは閉じた目を恐る恐る開けると、そこは木の真下だった。


どうやら落ちた場所に運よく木があり、落下したのが2階だったのもあり、上手く衝撃を緩和したようだ。


「痛い……ですけど……特に体に違和感はありませんし、ちょっと青痣が残るぐらいですかね?我ながら何て豪運な……」


体のあちこちを触りながら特に異常はなく一安心。


――しようとした直後、2階から大きな音が聞こえる。どうやらさっきのアイビーナの叫び声で護衛達が異変に気づいてしまったようだ。


「アイビーナお嬢様どうしましたか――ってまたいない!?みんなー!!来てくれー!!」


「やっばいですわ!?逃げませんと――」


そうして逃走劇が始まった――


「アイビーナお嬢様、部屋にお戻りを――」


「邪魔ですわ!!」


追ってくる護衛達に泥団子を投げて目潰しを狙い――


「わんわん!!」


「くっ犬を放って来ましたね!?ですが甘いですわ!」


ビリビリイ!!


犬を撒くために服を破いてばら撒き、匂いの拡散を狙ったり――


「……ゼエ ……ゼエ……ハア……」


アイビーナは息切れをしながら手で拳を作り、その拳を天高く突き上げた。


「か、完全勝利……ですわ……」


達成感に浸って満面の笑みを出してしまった


「ママーあの子何やってるの〜?」


「しっ!見ちゃいけません」


なんとか護衛を全員撒いて、その嬉しさに思わず道端でポーズをとってしまい、通りすがりの人に不審がられたり――


――とにかくいろんな事があってここまでたどり着いたんですわ。


ーーーーーーーーーーーーー


………えっと、どう説明しましょう。


本当のこと言うわけにもいかないし……な、なんとか言い訳を――。


「……こ、」


「こ?」


なんとか言い訳を――


「転んだんですよ〜!!」


うわああああ、私のバカバカ!! なんて苦しい言い訳をおおお!?


さ、流石に不審がられるに決まって――。


「おいおい、間抜けだなあ〜」


信じたーー!?


「まあ、俺様だって高い木の頂上で転んだり、二階から足が滑って落ちたりしてた時も、同じぐらいボロボロになったしなあ」


「よく生きてますね!?」


「へへへ、それほどでもねえぜ?」


「いや別に褒めてないんですけど」


この人、やっぱりおかしい……。


「で? お土産持ってきたのか?」


「あ、えっと、とりあえずカツ入りのサンドイッチをバスケットに敷き詰めておきましたけど」


そう言ってアイビーナは、バスケットに入っている手作りのサンドイッチを見せた。


……とりあえず夜に厨房に侵入して作っておきましたが、男の子ですからカツサンドにしておきましたけど。


眠れなかったからちょうど良かったですし……。


「よし、俺様の秘密基地に来いよ! たまげるぜ〜?」


そんなアイビーナの心中も知らず、アレキサンダーはニカっと笑ってアイビーナの手を握って引っ張り、駆け抜けた。


「あ――」


そうして引っ張られていった先には、町外れの朽ち果てた屋敷だった。


アイビーナは戦々恐々としながら――。


だが好奇心で胸が高鳴っていくのを自覚しながら――。


その廃墟に足を踏み入れた。

今話で、ようやく謎に満ちていた、リュミエール・アルトリアの母であるリュミエール・アイビーナが初☆登☆場!!!ですねえ。


リュミエール・アレキサンダーも、自分で娘のアリアに真実を伝えると決意したとはいえ、人生最大級の黒歴史を娘に読まれるなんて、草葉の陰で赤面ものでしょうね(笑)。

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