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黄昏の銀月~Until my Life runs out~  作者: 入山 瑠衣
第四章『親善試合』
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43.『襲来』

 都市の中で一番賑わう大通りに、ひとりの少年と、ふたりの少女が買い物するために店を渡り歩いていた。


「どうしてこんなことに……」


 少年こと――ケイ=ファルサは買い物袋で両手をいっぱいにし、さらには箱を積み重ねていた。


 アリスに買い物をするからついてきてほしい、と言われて素直に従ったのが運の尽き。カムイを全身火傷まみれにした、シアと一緒に歩く彼の足取りは重い。


「ケイ。何をぼさっとしておる、早う来ぬか」

「あ、うん、今行くよ」


 然れど少年は違和感を覚えていた。カムイとの試合の時は、殺伐とした、まさに鬼気迫る勢いのシアだったのに、アリスと共に買い物をする姿は年相応の女の子にしか見えない。


 首を振って浮上した雑念を捨て去る。

 育ってきた環境や、過去の経験が気持ちを抑え込んでしまうのを彼とて知っている。


「――おっとっと」

「ちょっと、気を付けてよね。落としたら――燃やすから」

「は……はい」


 ケイは考えを訂正する。――シアは怖い、と。


 彼がひとりで頷いていると、一点を見つめてアリスが足を止めた。


「どうしたの?」

「……来よった」


 神妙な面持ちは、問いかけたシアにもただ事ではないと伝えた。ふぅ、と息を吐いてアリスは振り返り、物陰でこそこそしている男ふたりに声をかけた。レギオン4番隊のシュセットとビーイルだ。


「尾行が下手なレギオンの小僧。そなたらの力が必要じゃ」


 ふたり共々、道の端に行き、話を始めた。


「――ぅっ、バレていたか」

「下手は下手じゃが、おかげで早く伝えられる。心して聞け。魔族が都市に近付いておる。それも相当な数じゃ」

「何だってっ、まぞ――」

「大声を出すな、愚か者が」


 気まずそうな顔のふたりの胸中など意に介さず、アリスは重要な事柄を伝えた。途中、ビーイルが驚きのあまり声を出しかけるが、平手打ちの制裁をくらい大人しくなる。


「早急に本隊の者と連絡を取るのじゃ。不可能なら、即刻都市の民を避難させるか、都市におる警備隊らと連携し、魔族を迎え撃つ準備をするのじゃ」

「それは、本当なのか? にわかには信じられない話なんだが……」

「ほんにそなたらは愚かよの。わらわの顔も知らぬとは……」


 苦汁を噛みしめるような顔で、アリスはレギオンのふたりを見つめる。


「そなたらが動かねば多くの命が失われる。嘘か誠かの分別もつかぬ、本物の愚か者なのか?」

「……我々とてレギオンの一員だ。そこまで言われたらやってやる。だが、もし魔族が来なければ、デートしてもらうぞ」

「余裕じゃの。じゃが、そなた程度では、わらわの相手は務まらぬ。他を当たるが良いぞ」


 残念だ、と苦笑してシュセットはビーイルを連れて行動を開始した。半信半疑の副隊長が、前を走る隊長に問いかける。――どうしてしんようするのか。すると、笑い声と共に答えは返ってきた。


「瞳が本気だった。理由はそれだけでじゅうぶんなんだよ」


 走るふたつの背中を見送りアリスは、呆然とするケイとシアに告げる。


「急いでカムイのもとに戻るぞ。あやつが目を覚ませば、ひとりで勝手に突っ走りかねぬ」

「――ねぇ、アリス」

「何じゃ?」


 走り出そうとしたアリスを、シアは眉を寄せた顔で呼び止めた。


「どうしてあなたは、そんなにスメラギのことを大切にするの?」

「…………」


 何かを言いかけて口を開き、閉じて唇を湿らせる。


 曖昧な言葉で片付けられるほど、安易な問いではないと察したのだ。だからこそ、カムイの相棒としてアリスは言葉を選ぶ。己が相棒を殺すために生きてきたと宣言した少女に。


 ふたつの瞳より、覚悟が伝わってきたのだ。

 憎しみが消えたわけではない。怒りが何処かへ行ったわけでもない。


 だが、赤髪の少女は思う。


 ――殺したい。でも、殺したくない。


 二律背反する感情が、シアの小さな体の中で渦巻いて、壊さんとばかりに心を追い詰める。その行いは正しいのか。本当に兄さんが望むものなのか、と。


「……わらわにとって、あやつは光なのじゃ。暗闇を照らすほどの強いものではない。されとて、わらわが進むべき道を示してくれるかか弱き光。故にわらわはここにこうして、そなたやケイらという大切な友人が出来た」

「希望、ということ……?」


 シアの疑問に、アリスは首を横に振って否定した。


「そのような大層な者ではない。あやつはただ、必死なだけじゃ。手から溢れ落とさぬよう、必死にもがいておるだけ。――自分の周りで誰かが傷つくことを何より恐れる臆病者。この者を支えてやりたい、そう思うた」


 初めてカムイと会った日の情景を思い出しながら、アリスは復讐を誓った少女の問いに答えた。ただ、魅入られたのだと。


「……っ。それでも――」


 一瞬の葛藤の末、シアが声を出そうとしたその時だった。都市の外壁辺りで爆発が起きる。


「来おった。ふたりとも、話は後じゃ。カムイのもとへ急ぐのじゃ」


 魔族の接近を感じ取ったアリスが、カムイのところへ急ぐように催促した。

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