第六話 「 失敗 」
鬼丸は襲撃の場に潜み、息を殺して行列を待っていた。
「来た・・・ ん? どういう事だ?。」
その行列は、情報より遥かに長く、人数も多い。
神隠しの噂にすっかり怖気づいた大名は、大枚を払い、行列を急遽大増員したのだ。
それに、自分の籠は鉄板で覆って保護している。
その籠の中で縮み上がり、震え上がりながら、大名は念仏の様に繰り返し繰り返し呟いていた。
「神隠しに遭いませんように。 妖怪変化が出ませんように。 御天狗様お助けください。」
予定より遥かに長く、人員も多い行列。
鬼丸は迷った。
しかし、この行列を逃したら、次はしばらく無い。
村に蓄えはあるが、あまり消費させる訳にはいかない。
それに、村人の事情が事情だけに、他所の里との交流は最低限の買い物だけにさせている。
「・・・やるしかないか。」
いつもの通り、列の最後尾に物音一つ無く忍び寄り、数名の首を落とす。
そちらに注意が向いたら最前列に忍び寄り、数名の首を落とす。
今回もそうなる筈だった。
だが、今回の行列は余りに長い。
最後尾の騒動が最前列に伝わらないのだ。
つまり、混乱に乗じて見つからずに最前列を襲うという、いつもの作戦が出来ない。
また、今回の大名は狡猾な者の様で、自分の周りにだけは選りすぐりの手練の者を配備し、中ほどには弓矢隊や鉄砲隊までいる。
しかし、始まってしまった狩りを止める事は出来ない。
それに、時間を掛けては行列が山から抜けてしまう。
鬼丸は、見られる覚悟で行列の最前列に木の上を移動し、頭上から襲い掛かる。
そして、木々の間を抜け、木に上り、列の後ろへ移動して、やはり頭上から襲い掛かった。
後ろで数名、前で数名、移動しながら確実に仕留めていく。
この行列には弓矢隊と鉄砲隊までいるが、大した訓練も無い雑兵の矢や弾が当たることは無かった。
「半分は仕留めたか。 それにしても数が多過ぎる。 まずいな。」
疲労を感じてきた鬼丸は、一旦身を潜めて、混乱を図る事にした。
天狗のフリをして、こだまを利用してあらゆる方向から声を響かせる。
「こーのー山はーおーまーえーらーのー来ーるー所でーはーなーいー。 山神のー祟ーりーにー遭ーうーがーいーいー。」
この声に小便を漏らしながら大名が叫んだ。
「こ、こここ、ここでって、て、ててがてがてが、手柄を立て、立てた者に、者には! わ、わ、我がっりょりょりょ領地の半分を褒美としっ、褒美として取らすぞ!」
急遽増員の即席行列の雑兵は、ここぞとばかりに沸き立った。
それを見て、鬼丸は呟いた。
「こいつら、終わったな。 あとは正面からで行ける!」
鬼丸は地に降り、木々の間を走り、鉄砲隊や弓矢隊を挑発し始めた。
そこからはもう功を焦る有象無象の潰しあいを見るだけに等しかった。
大名籠の周りに配備された手練の者も流れ弾や下手な矢に倒れていった。
大名の首を取るのも造作も無かった。
鬼丸は戦利品を集めて、今回の狩りを終えた。
だが、鬼丸のやった天狗の声に怖気づいた雑兵が一人逃げた事に鬼丸は気付いていなかった。