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最初の邪心   作者: 相澤 沁
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第七話 「 証言 」

鬼丸の襲撃から逃げおおせた雑兵は、方向を見失い、山中を彷徨った。

そして、鬼丸村へと辿り着いた。


「こんな所に村なんぞありやがる! こいつぁいいや! ちょっくら休ませてもらうか!」


雑兵は安堵したが、それも一瞬で消えた。

村の中に鬼丸の姿を見つけたのだ。


「あ、あ、あ、あいつ! あの時の賊!」


鬼丸はその気配に気付いたが、ただの迷い人と思い、いつもの天狗のフリで脅かして追い払った。

雑兵は一目散に逃げ去り、命からがら山を下り、何とか都に戻り、奉行所へと向かった。

御白州に通され、奉行が自ら雑兵の証言を聞き、雑兵は下品な声と口調で答えていた。

その驚愕の証言に奉行所内は騒然となった。


「では、今までの事件はたった一人の賊の仕業だったと申すのか!?」

「へぇ。 そりゃもう忍者か天狗かってぇ身のこなしでやして、こっちの矢も鉄砲も当たりゃしねぇんでさぁ。」


奉行は半信半疑でいぶかしげな表情で更に訪ねた。


「で、お前は一人で逃げ出したという事か?」

「へい。 奴が木に上って天狗みてぇな声で何か言ってる隙に逃げて来やした。」

「なるほどな。 で、お前は賊の顔を見たのか?」

「そりゃ目ン玉に焼きついて離れやしやせん。 それに、奴の住んでる村も見やした。」


その証言に奉行は身を乗り出して目を輝かせた。


「おぉ! でかした! でかしたぞ! この者に褒賞金を取らせろ! これで上様にも御満足いただける報告が出来る! そして、本日よりこの者を我が配下として召抱える。」


雑兵は目をまん丸くして叫んだ。


「え? まさか・・・ お侍になれるんで? あっしがお侍に? こ、こりゃぁすげぇや!」 


奉行は落ち着きを取り戻し、威厳のある声で言い、雑兵は額を御白州に擦り付けながら答えた。


「お前は本日より、れっきとした役付きの侍だ。 精進致せ。 お前、名は何と申す?」

「へへぇぇぇ! 御奉行様! おありがとうごぜぇやす! あっしは呉作ってケチな野郎でさ。」

「呉作か。 侍なら苗字も名乗らねばならん。 本日よりお前は呉作ではなく、 山中呉之進やまなかくれのしんと名乗るがいい。」

山中呉之進やまなかくれのしんかぁ! こいつぁすげぇや!」


こいつを召抱えておけば、道案内や賊の特定に使えるし、用が済んだなら討ち死にとでもすれば良い。

これが奉行の腹積もりであった。

翌日には、奉行に連れられ、城中でこの度の功労者として将軍にお目通りも叶った。

城中や奉行所内での呉之進くれのしんの評判は悪かったが、鬼丸討伐作戦の為の捨て駒に使うという奉行の腹積もりは将軍や奉行所内にも周知させており、皆、むしろ哀れみから呉之進くれのしんに従った。

かくして、呉之進くれのしんを隊長とした鬼丸討伐作戦の準備は進められた。

その作戦の噂はたちまちの内に民衆にも知れ渡り、瓦版屋も面白おかしく書き立てた。

しかし、作戦の成功には否定的な者が多かった。

そして、こんな噂が巷を席巻した。


どこかの山に死神がいる。

その姿を見た者に明日の日は拝めない。


作戦決行の日が近づいたある日、奉行が呉之進くれのしんを呼び出して命じた。


呉之進くれのしんよ。 そなたに次回の大名行列の先頭指揮を命ずる。 この命をしかと成し遂げたなら、そなたには更なる出世と褒賞金を約束しよう。」


呉之進くれのしんは、チンピラらしい下品な姿勢と声で平伏して答えた。


「ははぁぁぁーーっ! 必ずやーーー!」

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