ハッピーエンド?
ほとんどの隊員が砂浜に落ちた狐に狙いを定めて隊長の指示を待っている頃、上の駐車場では狐が創り出した炎の象による延焼を止めようと消火活動をしている隊員が大忙しで駆け回り、指揮所に居た約十名の内、自衛隊の人間だけが周囲を見回しながら状況確認と報告、命令に忙しく喋りまくり、残された男と猫、巫女、女弁護士、そして監視役の武装した四名が静かにしてろと言わんばかりに銃を男達に向けている。
そんな中で巫女だけは鋭い目線で周囲を見遣り警戒していた。
「あいつの何時もの手だわ、気をつけて。」
巫女が言い終わる前に人の姿の狐がテントの反対側から跳び越えて来て、男と猫を捕まえて抱え一瞬で通り過ぎる様にまた跳ぼうとした。それを恐らくテントの反対側で跳ぶ前に気配を察知して構えていた巫女のシールドによって防がれてしまう。
「バン!」
狐は二人を抱えた状態で顔面から衝突し、そのきれいな顔に血が流れたが、それでも二人を離してはいなかった。
「おい、大丈夫か?」
「ひぃー、痛そうなのにゃ!」
猫は抱えられながら器用に見上げて狐の顔を見ると頭を抱えて青冷めた。
「おお、我が主よ、妾を心配するとはもう心も妾で染められてしまったか? これはもう祝言をせねばならぬな! はははは!」
敵地の中心に居ながら宿敵の巫女を前にしても上機嫌の狐は嬉しくて仕方がない。
狐が真後ろに現れ一時的に混乱する指揮官達。四人で男達を監視していた隊員の狙いが一斉に狐の頭部へと変わるが、指示を待っているのか撃たずに位置取りを変えて行く。
「二人も抱えてなんて逃げられないわよ、観念して捕まりなさい!」
狐が衝突した際に幻影の大狐も消えてしまい、指令部の騒ぎを聞き付けて隊員達が戻りつつあった。
「なあ、取り合えず俺はここにいても危なくないし、お前にも危害は加えないから一旦やめないか?」
「主が妾を受け入れるなら妾も受け入れようぞ。」
いままでの話とかなり矛盾はあるがまあいい。
「分かったお前の主になろう。」
「やっぱり貴方は物の怪を手下にしてるんじゃない!」
回し蹴りで巫女の踵が首に入るが特に何ともない。
「痛いじゃないか。」
「主様に何と言う不貞を! 死を以て償うが良いわ!」
「貴方より私の方が先に夫婦になってるんだから! 気安く間に入り込まないで貰いたいわね!」
「それは本当なのかえ?主様よ。」
優しく聞かれているのだがどうしても怒っているとしか思えない。
「俺はそんな事は一言も言ってないが。」
「いいえ、ちゃんとこの耳で聞いたわ、絶対に逃がさないんだから!」
「「くぬぬぅー!」」
俺を挟んで唾競り合いと睨み合いとか、勘弁して欲しいんだが。一歩下がって既に解放されたあと俺の腕にしがみつき怖がっている猫を抱え込む様に抱き締めると、言い争いをしていた二人が揃ってこちらを向く。
「私を先にしなさい!」
「妾が先じゃ!」
なんか面倒になってきた。それに回りを取り囲む自衛隊さん達も呆れたり同意したり色々な反応が見られるが、キッチリと狐に狙いを定めている。
「あー、済まんが言い争いはそこまでにして、こちらの話を聞いて貰えるだろうか。」
「俺からもそれが良いと思う。」
「主様の望みなら聞かぬ訳にはいかぬのぉ。」
「仕方ないわね、貴方が言うなら良いわよ。」
これで混乱は一応終息できたと見て良いのだろうか。このあと隊員の半分が警護、残り半分が消火などの処理に回り、俺たちは場所を駐屯地に変えて話を続けた。
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それから数年が流れ、マスコミに気づかれないように話し合いは進み、結局のところ超法規的措置で無罪となり、軟禁状態で駐屯地生活していた事もあり全員揃って馴染みとなっている。
様々な実験や研究に従事した結果、あの災害の代金はチャラ、おまけに将来何ら不足しない程度の報酬まで貰えたのは良いが、これから先どこへ住むにしても、常に国の監視と、揉め事が起きると災害が発生する事から護衛が着いて回る事になり、VIPの様な生活になってしまい窮屈ではある。
ただ、マスコミをシャットアウトしたとは言っても国家レベルでは情報が筒抜けだったようで、拉致、又は暗殺対象になっている模様。
まあ、ここまでは良い、ここまでは良いんだ。
問題は嫁達が我儘過ぎて地獄のハーレムと化している点だ。唯一の安らぎであった猫を可愛がると嫁達が機嫌を悪くし、最近は猫も嫁になると言い出しカオスと化した。
俺の戦いはこれからだ。 頑張れ俺。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
この作品は『もののけと僕と注連縄さん』で全五話完結するはずだった本来のシナリオを元にした『注連縄さん』とは全くの別作品です。
『注連縄さん』を描いている間に募った本来の話が行き場を失いモヤモヤしていたので、『注連縄さん』で自衛隊が出たタイミングで公開してみました。
『注連縄さん』での自衛隊はこちらとは異なりネタバレにはなっていませんのでご安心を。