勘違い
攻撃ヘリを撃退し、とぼとぼと家に戻る男。縁側には猫の亡骸が… 無い。確かに縁側に寝かせた筈だが、まさか巫女が何かしたのだろうか。巫女は芝生の生えた庭の端からこちらに歩いてくる。
「あれは一体何なのかしら。 こんな木の実を投げつけるなんて馬鹿にしてるわ。」
自衛隊が木の実を投げるなんて聞いた事がない。巫女の持っている枯れた木の細い棒の先に、真っ赤な液体が着いていた。
こんなに鮮明な赤色の液体を出す木の実なんて聞いた事がない。それに攻撃ヘリがバラ撒いただろう薬莢も多数転がっている。もしかしてあれは訓練用の模擬弾なんじゃないのか?
そう思ったとき、猫が室内のソファから上に顔を覗かせていた。
「あのうるさいのはどこか行ったのかにゃ?」
猫は生きていた。
□
巫女をリビングに案内してソファに座らせ、ふたりでお茶を啜っている。猫はミルクだ。
「ふう、ひと息つけたな。」
「ふーん、お茶は美味しいわね。」
「これっ、すごく美味しいにゃ!」 んぐっ、んぐっ!
二人とも気に入った様で何より。
「それで、あれは一体何なのかしら、あ、な、た。」
「嫁にするとは言って無いんだけどな、まあいいか。 あれは自衛隊って言って、国を守る人々だな。 本来の目的の部分で巫女のお前と同じものなんだが。 それに町の中でお前らに声を掛けた女がいただろ? あれも警察って言う、自衛隊よりも普通の人に寄り添った人々だな。」
「つまりどちらも人を守る人達って事ね?」
「そうだな。 で、だ。 自衛隊が最初に来たときに逆らうなって言ったよな。」
「そうだったかしら?」
「これ、おかわりにゃ!」
「あのまま彼らに確保された方が丸く収まったんだよ。 まあ、猫が飛び出して目茶苦茶にはなったが。 猫は俺を助けようとしただけで罪は無いよな? 巫女さん。」
猫のコップに牛乳を継ぎながら話を進める。
「そうね、今回は貴方を助けるのが目的だったみたいだし、悪気は無いわね。」
嬉しそうに牛乳を飲む猫を不本意そうに認める巫女。
「どうもこの猫は俺が見る限りじゃ子供並みに純粋な考えで動いてるみたいだから、ちゃんと教えれば問題ないと思うぞ?」
「それは誰がやるのかしら?」
「そうだな… 猫。」
「なんにゃ?」
上唇に牛乳の跡をつけた猫が応える。
「俺の事好きか?」
「大好きにゃ! お前良い奴にゃ! 猫はお前と一緒が良いにゃ!」
「美味しいものが食べたいだけじゃないの?」
「猫を守ってくれたのにゃ。」
「おし、それじゃ猫は今から俺の家族な。」
「嬉しいのにゃ、それとおかわりにゃ!」
「はぁ… そんなんで良いの?」
「良いんだよ! 楽しそうだろ?」
「まあ、それなら私はもうあなたの嫁になるしかないわね。」
猫のコップに牛乳を注いでいる巫女は討伐を諦めた様だ。
そんな所へ一人の自衛隊員が丸腰で普通の訪問客みたいに庭から挨拶してきた。
「あのー、お取り込み中済みません。 ちょっと良いでしょうか?」
一人でやって来た隊員をリビングに案内して隣に座ってもらい無線を通じて話を聞いた結果、過度の行き違いがあったと言う事で彼らが臨時の拠点とする現地指令所へ全員で行く事になった。どうやらさっきの話は全て聞かれていたようだ。
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「やあ、私がここの指揮官だ、来てくれて嬉しいよ。 こっちに来て座ってくれないか。」
近くの海水浴場の駐車場に設置されたテントの中に通されて目の前には会議していただろう椅子と机が並んでいた。俺、猫、巫女の順に並んで座り、向こうは俺の目の前に指揮官、補佐官、記録係が座る。巫女の下座にはグレイのスーツを着た女性が座る。猫は俺の腕に抱きついて離れないのでこの順になった。当然だが部屋の四隅に武装した隊員が居るし外は自衛隊隊員だらけだ。
「来て貰ったのは他でもない、今回の騒動と言うには大き過ぎる事態の原因を知りたくてね。 その中心に居た君たちに来てもらった訳なんだが、出来ることならもっとスムーズに会えたら良かったのだが起きてしまった事は仕方ないとして、我々としてはこれ以上損害が出ないことを望んでいる。 まずはこれに同意してもらえるだろうか?」
言っている事は至極まともで当然だ。寧ろ縛り上げられて拷問じみた尋問が行われてもおかしくない。ここは素直に応じるのが良い。
「はい、同意します。」
「それは良かった、これで肩の荷が半分は降りたよ。 それじゃ、次は何故この様な事態が起こったのか説明して貰えるだろうか。」
特に隠す事もないのですらすらとあった事をありのまま話す。
「ふーむ。 とても信じられないが、町中での戦いも自分で見るまでは信じられなかったからな。 それと今の話は記録させてもらっているが問題はないかね?」
「ありません、事実ですから。」
巫女の隣に座って居たスーツ姿の女性が男の後ろに移動して「ちょっと宜しいでしょうか」と前置きしてから耳元で囁く。
「これは裁判で使われる正式な記録として保存されます。 その点ご注意を。」
そう言われても事実は事実だ。
「そちらの巫女さんも猫耳の少女も、あの狐の女も現代人ではないと言うことか。 本当に信じ難い事だ。」
「でしょうね、私が育った所も他の人はみんな普通だったわ。 寧ろこの男が異常なのよ。」
「あっちの人が言ってるのはそう言うことじゃないと思うぞ。」
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このとき、逃げ出した狐が遠巻きに状況を確認して現地指令所の直ぐ近くに身を潜めて様子を伺っていた。あのときはやかましい音に目を覚ますと宙に浮く巨大なトンボがいたので、ビックリして建物の影に隠れたのだ。そしてその威力を目の当たりにして少し冷静になり状況観察していた。
逃げようと思えばどこへでも行けたであろう状況にあったのに狐は男のそばにいることを望んだのだ。それは何故か、男からはそれまで感じたことの無い強い力があった。狐が今まで接した誰よりも、あの巫女すら霞む程の力を感じたのだ。そんな男が自分を救い出した、いや、直ぐ目の前で自分の存在を否定しないどころか体を求めるわけでもなく受け入れてくれた(妄想)のだから自分はそこにいて良いのだと喜んだ。
その男が同じ物の怪の猫のためにあれほどの怒りで戦ったのだ、自分のように肌で触れあい、受け入れられた者ならどれだけ大切にしてもらえるだろうと、狐は将来の幸せな自分に酔っている。そしてその未来を実現するために行動を起こすのだ。




