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覚醒

「どきなさいよ!」

「そう言う訳にも行かないな、少し大人しくしてろ!」

 うつ伏せの巫女に背後から羽交い締めのままのし掛かっている。

「惚れたからって見境無しに後ろから変な抱き付き方して、そういうのはきちんとする事してからにしてよね!」

「お前の頭の中の俺はとんでもない男みたいだな!」

 ヘリの音と風の音で聞き取り難い中でやり取りしているとそこへ地上部隊の兵士5人が到着して道路から庭に雪崩れ込んだ。

「二人とも動くな!!」

 素早く扇状に取り囲み銃に取り付けられたレーザーサイトの赤い光点が二人に集中している。

「抵抗しないから撃つなっ! お前も逆らうなよ!」

 背中と両足をゴツゴツの固い靴底で踏みつけられる。


 そこにソフトボールくらいの火の玉がひとつ現れて兵士達をからかう様に纏わり付いた。

 火の玉は猫が自在に操れるので兵士の気を引く為に使っていた。

 猫はソファの後ろに隠れていたが一番近くて背を向けている男の背中を踏みつける兵士に飛び付き蹴り飛ばす。

「そいつに何するにゃ!」

 反動で上に飛び上がり、上から次の兵士に攻撃を加えようとしたが、攻撃ヘリの機関砲が猫の動きを追っていた。

 『Bhooooooo!』

 ほんの一瞬の出来事だった。

 『バシャン!』

 猫は何が起きたのかも分からないまま吹き飛ばされて瓦屋根に叩きつけられ意識を失った。

『こちら四班、イレギュラーを排除、録画していたか?』

『こちら解析班、大丈夫だ。』

『こちらHQ、続行せよ。』



 肩越しに後ろを見上げたそこは猫が大量の血を撒き散らしながら横に吹飛び、屋根の上に消える瞬間だった。

「猫っ!」

 声を出したときには既に体を捩り隊員達の足を払い、猫を救う為に屋根に飛び上がっていた。

「オイオイ冗談だろ! ここは化け物屋敷か!」

 二人の隊員が男に狙いを定め、三人は巫女を狙う。


 押さえが無くなった巫女は横に転がり隊員達から距離を取ると、跳び跳ねる様に立ち上がり祓串を持ち上げ横凪ぎにする。

 次の瞬間、地上に居た隊員達は棒切れしか持たない巫女に銃を向け構えるだけだったので、突然局所発生した暴風でヘリもまとめて凪ぎ払われてしまった。

 地上部隊の隊員達は突風で姿勢を崩し銃口を巫女に固定したまま受け身を取りつつ転がって行くが、隊員の一人が一発の銃弾を発射し、巫女の体の中心に向かった。

 しかし銃弾は巫女に到達する前に見えない何かに遮られ、空間に波紋と赤い液体を残し弾けた。

『こちら一斑、巫女は対立! 発砲したが何かに弾かれた! ありゃ何だ!』

『こちら解析班、巫女の映像を確認、正体不明の障壁と認定する。』

『こちらHQ、各員は巫女に対する発砲時の跳弾に注意せよ。』


「おい!ねこ!」

 男は服がボロボロになり全身血まみれの猫の頬を両手で優しく包む様にして顔を自分に向ける。

 男の声で気が付いた猫の目は虚ろで、男が自分を心配して顔を覗き込んでいるのをただ眺めている。

 (あれ? にゃにしてたんだっけ、この人間は誰にゃ、そう言えばご飯くれたにゃ…でも何だかとっても眠い…。)

 猫は男の方に寝転がり、抱き付いて目を閉じた。ガクッ

 男の服は抱き付いたねこの血で真っ赤に染まる。

「ね、こ…。 うう、ううおおおおお!! おまえらー!!」


 男が叫ぶ。

 目の前で、自分の腕の中で死んだねこを抱き締めながら。

 さっき会ったばかりの猫又にそこまで感情移入するのは変かもしれないが、男にとっての他者の、実感としてある目の前の死は受け入れ難かったのだ。

 それこそ猫が言っていた『何も悪い事をしてないのに』である。


 怒号は一帯に地震の如く大地を震わせ窓ガラスが飛び散り空気を変える。

 近くの町の火事により発生した大量の煙と雨雲がドーム状に広がる衝撃波により吹き飛び、男を中心に空にぽっかりと穴が開いて晴天の空を覗かせる。

 近くで自衛隊の兵員輸送ヘリから隊員がロープで降下中だったが、ヘリが揺られてロープが蛇行し危険な状態で地面に引き摺られながら全隊員の降下を完了した。


『こちらHQ! 今のは何だ! 一斑報告しろ!』

『こちら一斑ザリ、男が叫んだだけで吹き飛ばされた!』

『こちら解析班、男の映像と周辺映像の照合を完了、確かに男が叫んだ直後に衝撃波が発生しています。』

『何だとぉー! 奴も巫女や狐女の仲間なのか!?』

『こちら一斑、男は叫ぶ以外抵抗なし! 仲間かは不明! 巫女は交戦姿勢を確認!』

『くそっ、巫女の確保を優先しろ!』


「全く何なのかしら、さっきから邪魔ばかりして、あんた達のせいで狐が逃げちゃったじゃない! どうしてくれるのよ!」

 憤懣をぶちまける巫女の怒りは凄まじく、今にも爆発しそうなと言う言葉がピッタリと当てはまるが、それを上回る怒りを以て場を支配する者がいた。


 猫を抱えた男が庭に飛び降りて縁側にその亡骸を優しく寝かせる。

「お前達、猫を殺したな。」

 隊員を背にし、ヘリの音で消えてしまう小さな声で呟く男。

「猫を殺したなあああ!!」

 隊員達に振り返り衝撃波を放つ怒声で叫んだ男は一番近くにいる隊員に一瞬で詰め寄り、水平蹴りで吹き飛ばす。蹴り飛ばされた隊員が地面に着地する前に次の隊員が吹き飛び、また次の隊員が、と僅か数秒で現場にいた隊員が全て無効化されてしまう。


 これを目の前で見ていた攻撃ヘリは照準を巫女に合わせていたとはいえ、男の突然の行動に反応する事が出来ず、事実上指をくわえて見ていただけとなってしまったが、隊員達を蹴り飛ばし、動きを止めた男は格好の的だ。

 『Bhooooooo!』

 次々と撃ち出される弾は目の前にいる男を襲うが、そこに男は居なかった。

 男は弾が撃ち出された瞬間にヘリの下に回り込み、ジャンプしてガンナーの下に設置された機銃を達磨落としのブロックの様に、ヘリ本体に反動も出ない程の勢いで蹴り飛ばした。吹き飛んだ機銃は裏山の中腹にめり込んで土煙をあげている。


『目標消失と胴体下部で接触音を確認、一旦下がる!』

『こちら観測班! ヘリの機銃が消失してるぞ!』

『こちら解析班、ヘリの損失は男が生身で破壊したものと認定。』

『なんだとぉー! あ、すまん、こちらHQ、巫女と男は敵対、イレギュラーは無力化した、狐は行方不明だ、不意打ちに注意せよ。』

連続で4話まで上げましたが、この先は未だ描いてません。

『もののけと僕と注連縄さん』の空いた時間で描くので続きはいつになるのか分かりませんが完結させたいと思っています。恐らく注連縄さんより先に完結出来るのではないかと。

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