きゅうわ
ヨウタ、説明中……。
「と、いうわけで、一応合意の上で、色々される事になります」
「そうか……でもヨウタが“魔性”属性、しかも“村人B”と。どう考えてもゲーム内で最弱な組み合わせだから、それが反転して最強魔王になったと」
「本当にごめん、ユウシ。僕もこう、拒否権があるとはいえ感じさせられる事はもう沢山なんだ」
「そうだな……でも、心配したんだ、魔王に捕まっていたし」
「……ありがとう」
はにかむようにヨウタが嬉しそうに笑って、その笑顔にユウシもつられて笑う。
現在倒された勇者達が案内される客室にヨウタがユウシ達を案内している最中だった。
先ほど卑怯な罠を連続されて倒された事などユウシの頭から吹き飛んでいた。
そんなユウシを何処か面白くなさそうな心持で、ツバサとヨクトは見ていた。と、
「やっぱり、ユウシは良い人だね。ユウシが友達で良かった」
そうヨウタが嬉しそうに言うのを聞いて、ユウシは立ち止まる。
それにつられて立ち止まったヨウタが不思議そうに、
「ユウシ、どうしたの?」
「俺は……ヨウタの事を、友達だなんて思っていない」
「え……あ、うん、そっか……酷い事しちゃったし……」
「違う! そうじゃない! ……そうじゃないんだ」
ユウシがヨウタが顔を伏せると必死になって違うと叫び、そしてすぐに俯いた。
そこでヨウタは顔を上げてユウシを見る。
酷い事をされて怒っている、そんな表情ではなくて、何かを迷っているようだった。
けれどすぐに顔を上げて、真剣な眼差しでユウシはヨウタを見た。
「俺、ヨウタが……好き、なんだ。恋人になって欲しいんだ」
「……」
ヨウタは沈黙して、それからしばし今言われた事を反芻しながら考えて、
「僕、男だよ? ユウシは女の子が好きなんじゃ……」
「俺は、ヨウタが好きなんだ。ヨウタだから、男とか、女とかそういうんじゃなくて、ヨウタだから……」
そのユウシの向けてくる気持ちはヨウタの身に覚えのあるものだった。
ヨウタがアキラに向けて思った、そんな“好き”という感情。
けれど、ヨウタはそのユウシの想いに答えられない。だから俯いて一言、
「……ごめん」
「……そう、だよな。ヨウタは、女の子が好きなんだもんな。ごめん」
「……違うんだ、僕は……アキラが好きなんだ」
ユウシはヨウタにとって“友達”だから嘘をつきたくなくて、はっきりと自分の想いを伝えた。
けれどそれを聞いた途端ユウシは、ぽろぽろと涙を流す。
今の何がいけなかったのだろうかとヨウタは焦って、とりあえず名前を呼ぶ。
「ユウシ?」
「なんでだよ、なんで……何時だって、アキラ、アキラ、アキラ。皆アキラにばかり。俺の何がいけないんだよ!」
「ユ、ユウシはアキラに負けていないよ! 優しいし見た目も良いし、きっとユウシの事が好きな女の子が……」
「皆そうだ、俺が好きな女の子は皆アキラが好きで、ヨウタだってアキラが好きで……」
「ユウシ……」
ユウシが泣き出して、ヨウタはおろおろする。
ここでどんな言葉をかければ良いのかヨウタには分らない。
ヨウタがユウシの事を好きになれば良いのだが、ヨウタはアキラの事が好きで、それは譲れない。けれど、
「ユウシの気持ちは嬉しかった。ありがとう。これからも友達でいて欲しい……」
「……断られる言葉だって同じじゃないか」
そこでユウシがヨウタを押し倒した。突然の事にヨウタは反応できない。
そしてユウシは今までの爽やかさも何処かへ行ってしまったような、暗く病んだ笑みを浮かべて、
「もう良い、もう我慢しない。これからヨウタを、××××で○○で△△△△△な目に合わせてやる……」
伏字でしかお送りできないような不健全な言葉を口走り、ユウシが暗黒面に落ちた。それにヨウタが慌てて、
「ユウシ! 戻ってくるんだ、話し合おう……って、僕の服を脱がそうと、や、やめぇ……」
「まずは既成事実からだ……」
「ユウシ?! というか、ツバサさんとヨクトさんは何で見ているだけ……」
そこで状況を見守っていたツバサとヨクトにヨウタは声を上げると、その二人は、
「先ほどから考えていたのですが、やっぱりユウシが幸せなのが私達も嬉しいですし……」
「四人でというのもまた良いかなって、そういう結論に……」
「意味が分りません! く、こうなったら自力で何とか……とりあえず魔王城の魔物~、僕を助けろ~」
と、呼んでみた。ちなみに、魔物を呼び寄せる能力が魔王にもあるので呼んでみたのだが。
もぞもぞもぞもぞぬるぬるぬるぬる。
助けに現れたのは、巨大なピンク色のスライムだった。
そしてヨウタを押したユウシに覆いかぶさるピンク色のスライム!
だがユウシに襲い掛かるという事は自然のとヨウタも襲い掛かられる事となり、
「やぁああ、やめ……このっ、こんなやつにまたやられて、というか前より感度が……ぁああ」
「ちょっ、やぁあ服が溶けて、待ってぇ……僕ぇ、魔王でぇ、このエロすらいむぅううう」
何故かヨウタも襲われて頬を染めて喘ぐ羽目になる。
その様子を見ていたユウシが自分も服を溶かされかかって、そして触れた場所から魔力を吸われて感じさせられているというのも忘れて、見入ってしまう。
頬を赤らめて喘ぐようた。色気すら漂うその様子にごくりとつばを飲むユウシ。
それに気づいたヨウタが、
「な、なんでぇ……ぁああんっ、ユウシ、見てっ」
「うぐっ、ぁああ……だって、ヨウタ、可愛いっ、ぁああ」
ユウシはどうにか動かせそうな手で、ヨウタの頬に手を伸ばしてキスをしようとしてくる。
もう良い加減にしろ、どんなプレイだよこれ、とヨウタは思った。
なので、とりあえずこのエロスライムを倒す魔法を瞬時に調べ、ユウシを気絶させる魔法を使う。
くて、とユウシの体がヨウタに倒れこむ。
「ふー、助かった。はぁ……」
倒れてすやすや眠っているユウシの体を起して、ずっと状況を見守り続けた二人をヨウタは半眼で呼ぶ。
「ツバサさん、ヨクトさん……何で手助けしないんですか?」
「いや、ヨウタさんに倒されたから私達はか弱い存在に」
「なので、あまりにも美味しい……ではなく、泣く泣く手助けできずに見守っていたのです」
どうやらヨウタ達の様子があまりにも美味しいので見ていたらしい。
とはいえ、ヨウタに倒されて初期値+アレな属性にされているので、戦えるかといえば微妙なので、まったく仕方がないなと思いつつ二人にユウシを渡す。
そんな渡されたユウシを優しげな目で二人は見ていて、それが友達とかそういったものではなく、もっと熱っぽいもののように見える。
ああ、そうなのかとヨウタは気づいて、
「ユウシの事をお願いします。ユウシは、僕にとっても大切なここで出会った友達だから」
その言葉に、ツバサとヨクトは顔を見合わせてから、ヨウタに微笑んだのだった。
ユウシは瞬きして目を覚ますと、目の前にツバサがいた。
上半身をゆっくりと起しながら、
「ツバサ、か。えっと俺は……そうか、ヨウタに振られたのか」
そうぼんやりと呟いて、すぐに俯くユウシ。だが、すぐに暗く病んだような悪い顔になって、
「……よし、ヨウタを現実世界で……」
「ユウシ、それは駄目です」
「人間として、踏み出してはならない部分です」
「……黙れよ、もう、いいんだ。心が欲しいと思った俺が馬鹿だったんだ。そんなもの、俺に手に入るはずがなかったのに……なのに、夢みたいな事を言って、願って……」
そこでツバサの顔がユウシに近づいて、そのまま唇を重ねた。
突然の事にユウシは微動だに出来ない。
しかもそのすぐ後で、ヨクトに再びキスされる。
「な、なにを……」
「願えば良いですよ」
「ツバサ?」
「私達であれば、どちらも差し上げますよ、ユウシ様」
「ヨクト?」
「貴方が一向に気づいてくれないから言いますが……私達はずっと、ユウシ様の事が好きですよ? その身も心も欲しくてたまらないんです」
双子の突然の告白にユウシは唖然と双子を見上げた。
幼い時からずっと一緒にいて、家族同然だったからそんな対象とはユウシは見ていなかった。
それがこれである。
「ま、待て……え? 俺の事が好きって……きっと何かの気の迷い、だから落ち着け……」
「……強情ですねユウシ様は。でも、そういえばこれはこれはゲームの世界でしたね。 現実ではありませんから、多少は、ね?」
ツバサが、含みを持たせる言い回しをしてにやりと笑ってユウシに近づく。
けれどユウシはあまりの衝撃に逃げ出す事ができず、気づけばヨクトに背後を取られている。
「もう少しじっくりと時間をかけて口説こうと思っていたのですが……うかうかしていると他の相手に持っていかれそうですしね?」
ヨクトがユウシの背後で熱っぽく囁く。
そのまま抵抗できないように、さりげなくユウシの両手を抑える。
そんな逃げられなくなったユウシに、ツバサはゆっくり手を伸ばして……。
そこで部屋のドアが開いた。
「ユウシ! 大丈夫だった! ……ごめんなさい、ごゆっくり」
中の状況、つまり双子に襲われかかっているユウシの様子を見て、ヨウタは気まずそうに部屋のドアを閉めた。
そしてその時ユウシはヨウタに誤解されたと気づいて、
「ま、待ってくれ、ヨウタ、これは違う……ぁああっ!」
けれど、そんな風にヨウタな夢中な様子が双子の琴線に触れた。
怒った様に笑う双子に気づかないユウシ。
そんなユウシは、その後、嫉妬に狂った双子に二人がかりで美味しく頂かれてしまいました(キス的な意味で)。まる。
そんなこんなで、ヨウタの本命のアキラ達が魔王城へとやってきた。
その城を見上げてアキラはふっと笑う。
「魔王……覚えていろよ? 後ヨウタは、たっぷり色々してやる……」
暗く笑うアキラに、カオルとミチルはといえば、良かった、これで終わりかー、と思っていたのだった。
四天王を倒すという回り道で、戦闘という作業が面倒……ではなく、大変だったので二人は疲れていたのだ。
とはいえもともとレベルも高く装備もよかった三人は更にレベルが上がっており、アキラはその中でも抜群の強さを誇っていた。
けれどヨウタを心配なあまり頑張ったのに実は遠回りだと知らされたとか、エロい名前の奴がヨウタを攫ったりしたと思っているので、アキラは魔王を物凄く恨んでいた。
ついでに逆恨み……でもなかったのだがヨウタにもお仕置きしてやるとアキラは心に決めていた。
「行くぞ!」
そう、アキラは叫んで魔王城に突入して行ったのだった。
さてさて、ヨウタは再び影武者を用意して、玉座の後ろに隠れていた。
「ようやくアキラが来たんだ……」
ヨウタはそう思うとどきどきする。
そして必ず倒して自分のものにしてやるぞ、と決意を新たにして、今どこら辺にいるんだろうなとヨウタは思う。
ユウシがここに来るまでにかかった時間を思い出しながら、まだ時間の余裕があるかなと罠を仕掛けようかと思い立った所で、魔王の間の扉が開いた。
ドガガガガガガガガガガ
開くと同時に魔法攻撃が炸裂する。
しかも一つ一つがかなり高い威力があるため、触れるのも危険だった。
とりあえずヨウタは影武者の座った玉座の背後に結界を張って隠れていたのだが……そこで、影武者がぼろりと砕けて消えた。
今の攻撃で倒されてしまったらしい。
一応ユウシ達三人を相手にしてもほぼ無傷だった影武者が、いとも容易に倒されてしまった。
どうするんだこれ、と、ヨウタは顔を真っ青にして隠れたままでいると、
「魔王、どこだ? まだ倒されていないな……でて来い、止めを刺してやる」
アキラのとても怒ったような声が聞こえた。
それにヨウタはびくっとして、どうしよう、と思って隠れている。
というかアキラがあまりにも怒っているので、動けない。
もし魔王だとばれてしまったら嫌われてしまうだろうか、ふとそんな思いにかられて更に顔を蒼白にするヨウタ。
けれどアキラはヨウタに悩む時間を与えてくれない。
こつっ、こつっと靴音がヨウタに近づいてくる。
気づくな、気づくな……そう思って隠れていると、そこでアキラの何か魔法を使おうとしている音が聞こえて、玉座の上の方が爆発した。
「うぎゃあああああ」
防御の魔法を使っていたので大丈夫だったのだが、いきなり傍で爆発されてヨウタは悲鳴を上げた。と、
「ここにいたのか、ヨウタ」
ヨウタはアキラに見つかってしまった。
けれどその声は先ほどの怒っているものと違い、優しさに満ちていた。
おそるおそる見上げるとアキラが優しげに微笑んでいた。
そしてヨウタに手を伸ばす。
その手をヨウタは握って、アキラに触れているんだなと思って少し嬉しくなりながら立ち上がる。そこでアキラが、
「大丈夫だったか? あの変態なエロエロダイマオウに何かされなかったか?」
「あ、えっとね……僕がその、魔王なんだ、エロエロダイマオウ」
アキラが黙った。
けれど、黙っていても仕方がないのでヨウタはこれまでの経緯を説明する。と、
「……つまり、俺が探し回らないように伝えるためにあの映像を?」
「うん……心配かけたくなくて、でも、結局心配かけたみたいだね」
「ヨウタ、ひどいよ!」
そこでカオルがヨウタに抱きついた。そして頭をぐりぐり撫でながら、
「遠回りして四天王を倒させられた挙句、四天王倒さなくても良いんだよーって書置きが……」
「なにそれ、僕、知らないよ?」
首をかしげるヨウタにアキラはやけに優しげな声で、
「そういったことをしそうな奴に心当たりはあるか?」
「うーん、側近のメイとディーが思い当たるけれど。勇者を倒すのをメインでやっていたのがあの二人だし」
「今何処にいるんだ?」
「捕まえた勇者とイチャイチャの最中だった気がする」
「……仕方がない、少しの間は見逃してやろう」
「そ、それでね、僕、魔王としてアキラ達に勝ちたいんだ」
その言葉にアキラは黙り、今言われた意味を少し考えてから、
「どうしてだ? ヨウタ」
「だって、負けたら“魔性”属性になってエロい事になるんじゃないか! 僕が!」
「別に良いじゃないか、元からヨウタは“魔性”属性なんだし」
アキラが何を言っているんだと嘆息するように言う。
けれどその言葉は、ヨウタには聞き捨てならないないようだった。
「……どうして僕が“魔性”属性だって知っているんだ? アキラは」
「え! あ、いや……」
「確かこのゲームの設定上、相手の属性は見えないはずだよね。そして僕は“村人B”二つだって言ったよね?」
「あ、いや……ほら、魔族になるのは“魔性”属性の奴ばかりだし」
「だったらなんで元からって、初めから知っていたような言い回しなんだ? アキラは」
アキラの額に冷や汗が浮かぶ。
まるで、悪戯を見つかってしまった子供のような様子に、ヨウタはふと以前の出来事が頭に浮かぶ。
「……知ってて、わざと“魔性”属性のアイテムが~とか言って、僕を怖がらせたの? そういえば、“新緑の姫が眠る森”の傍の牧場、確か触手が云々っていっていたけれど同じような場所に、わくわく魔物ふれあい牧場があるらしいね? 他にも“村人B”ならもっと装備がとか、色々言っていたよね?」
「……そうだな」
「そもそもどうして僕が“魔性”属性だって知っているんだ? まるで初めから……そういえばアキラのお兄さん、このゲームを作っていたよね。……それで、僕にこの属性を割り当てたの?」
アキラは答えない。
けれど長い間幼馴染をしていたヨウタは気づく。
その沈黙そのものが肯定なのだと。
そしてそこでヨウタにとって、魔性属性しかり、魔王属性しかり、真の黒幕はアキラだったのだと気づく。
同時にヨウタが思ったのは、
「そんなに僕の事が嫌いだったの?」
「違う! 俺は、ヨウタに相手にしてもらえなくて、それで、魔がさして……」
「嘘だ。アキラは女の子が好きで、僕の事なんか玩具としか見ていないんだ。そういえばアキラに好きな子がいるっていってたよね? 僕が知っている人で」
「……俺は、女の子なんて言ってない」
「ふーん、じゃアキラは男が好きなの?」
そう聞いて、ヨウタは後悔した。
だって、そうなるとアキラには好きな男が、ヨウタの知り合いでいることになってしまう。
けれど同時にあの女の子を連れまわしていたアキラが言うのだから、わざとヨウタに嘘えをついているんじゃないかとも気づく。
黒い感情がむくむくとわいてくる中で、アキラは、
「俺は……ヨウタが好きなんだ」
と、アキラが告げたのだった。
けれど、ヨウタはその話を信じきれずに、疑わしげな目でアキラを見ると、そこでカオルが、
「アキラが言っている事は本当だよ、ずっと相談されていたもの」
「でも……」
「昔から好きで好きでどうしようもなくて、諦め切れなくて、でも避けられているからどう仕様って相談していたんだ」
「……」
「それで、今回のゲームの話があって、たまたまヨウタがこのゲームに来るって事で、少しばかり仕組んだわけ」
「でもあの属性はないよ……」
「うん、アキラもここまで凄い事になるなんて思って居なかったらしくて。でも、何時だって守ってくれていたでしょう?」
「それは……そうだけれど」
「もう少し信じてあげなよ。それともヨウタはアキラの事が嫌い?」
「……好き」
カオルになだめられて、好きと口にしてみるヨウタ。
言葉は思いの他しっくりとヨウタの中にくる。
好き。
アキラ好き。
そう思ってアキラを見上げて、アキラは優しげに微笑んでいて。
ヨウタは欲しいと思った。だから、
「やっぱり僕はアキラが欲しいから、勝利する!」
「ヨウタ!」
「油断しているアキラが悪いんだ、ひゃっはー!」
ヨウタはアキラ達に攻撃を仕掛ける。しかしアキラ達は防御をする。
それを見ながらヨウタは、
「くくく、こんな事だろうと思っていた。だが、最後に勝つのは僕だぁああああ」
「駄目だ! 俺が勝つ! とりゃあああああ」
そして、早々にカオルとミチルがリタイアして、アキラとヨウタの一騎打ちとなる。
「後一撃……だが時間をかければ僕の体力魔力は回復するからな」
「……魔王は厄介だな、だが、負けた時どういう目にあわせられるか、ヨウタは肝に銘じておけよ?」
「そっくりそのままお返ししてやる。僕が勝ったら、僕の言うとおりにしてもらうからな。主導権は渡さないからな?」
「そんな事は考える意味が無かったとヨウタには教えてやる。行くぞ!」
そのアキラの掛け声と共に、ヨウタとアキラはその一撃に全てをかける。
お互いの力と力がぶつかり爆発が起こる。
そして、最後に立っていたのはどちらかというと……。
「勝者、魔王、エロエロダイマオウ!」
そう、アナウンスが流れたのだった。
ヨウタが勝利したので、アキラは“魔性”属性になった。
そして、カオルとミチルは別室へ案内し、今この部屋にはアキラとヨウタ二人っきりである。
けれどアキラは機嫌が悪かった。
「……ヨウタごときに負けた」
「ヨウタごときってなんだ、ヨウタごときって。でも僕が勝った事には変わりないからね!」
「あーはいはい、ヨウタは強いなー。で、俺をどうする気だ」
「えっと……とりあえずはしばらくイチャイチャしたいかなって」
「……」
「……」
アキラが今ヨウタが言った言葉を反芻して、天井を見て、それからヨウタに視線を戻してから、
「……俺が勝っても変りはないんじゃないのか?」
「ぼ、僕が主導権を握ってみたかったんだ。……もっとこうして、アキラの隣に座って……」
そしてそのまま手を握って体を横に預ける。
こうしているだけでヨウタは幸せだった。
今なら素直に言える気がした。だから、
「僕、アキラが恋愛感情で好きです」
「そうか、俺も昔から好きだ」
「そうなんだ」
「ずっと狙っていたから」
「そうなんだ……」
そう聞いてしまうと、ヨウタもこれまでの出来事全部が許せそうになってしまう。
アキラがずっと前からヨウタの事を好きだったのだ。
そしてヨウタも今は好きで……そう思っているとそこで、アキラが今座っているソファーにヨウタを押し倒してそのままキスをした。
あまりの突然の行動にヨウタは抵抗できずにそのまま押し倒されて幸せなキスをして……そこで、機械音が鳴ったかと思うと、
『魔王は倒されました。勇者の勝利です』
そんな声が聞こえて、ヨウタの服が魔王のものから別の物に変化して……。
ヨウタは焦ったように、
「え、え? なんで?」
「……俺が押し倒してキスしたからか?」
「え? た、確かに倒したにはなるけれど……こ、こんなのずるいよ」
「ずるいとはいえ俺の勝利には変わりないな。さてと」
「な、何でしょうか、アキラ」
そこで嗤ったアキラにヨウタは危険を感じる。
そして逃げようとするけれど、それにアキラは、
「というわけで、これまで散々大変な目にあったのをヨウタには、返してもらおうな。体で」
「こ、これは全年齢版では」
「全年齢の範囲で、たっぷりエロイことをしてやるから覚悟しろよ」
「ま、待って、待って、ぁあああああああ」
こうしてアキラに耳にキスされたりくすぐられたりヨウタはさんざんな目に合わせられたのだった。
その後、魔族側の属性反転が起こった。
その結果、以前客室に案内したドM勇者が“魔性属性”から元に戻されたと怒ってヨウタ達の部屋に乱入して、アキラに倒されたり、それから暫くして、疲れ果てたようなメイとディーが現れて、勝っても負けても変わらなかったの嘆いたり。
他にもカオルとミチルはやけに二人揃ってつやつやしていたとか、城の内部で爆発があったと思ったら、ユウシが逃げてきて乱入してヨウタに手を出そうとしたりとか、そのユウシを迎えに来た双子はユウシに、釣れて枯れそうになっていたとか、おおむね平穏? に事なきを得た。
そんなこんなで、楽しい時間は終わりを告げて、皆が帰っていく。
そして現実世界に戻ってきて、窓を開けてからヨウタは再び椅子に座りぼんやりとする。
いろいろあって、何から手を付けたら良いのかと思って、先ほどやったゲームをもう一度見る。
試作品その1のテストは終了しました。プレイヤーの皆様、お疲れ様でした。
引き続き、その2のテストのお付き合いをお願いします。
その2に関しましてはそのうち個々に連絡いたします。
「……その2があるんだ」
大きく溜息をついた陽太。
けれど得るものも多くて、エロい目にはあったがそのすべては否定できない。そもそも、
「アキラが好き、か」
「俺が何だって?」
「うわぁああああ」
突然背後から現れた明に陽太は悲鳴を上げた。
そういえば家が隣同士で、窓から出入りできる状態で、良く明はこうして陽太の家に来ていたからなのだが。
そんなアキラは後ろからぎゅっと陽太を抱きしめた。
「陽太、俺、陽太のことずっと好きだったんだ」
「そう、なんだ。僕も……明の事、好き。でもずっとって何時?」
ふと疑問に思った問いかけに、陽太は大した意図もなく問いかけたのだが、
「確か小学校に入った頃の陽太を町で見かけて一目惚れをしたんだ」
「そうなんだ。え? でもそうなると越してくる前だよね?」
「違う、陽太が住んでいたから、この別荘に越してきたんだ」
「……そっか」
ヨウタは何か怖い事に気づきそうだったので、それ以上追求するのをやめた。
現にヨウタは明が好きだし、アキラもヨウタを好きである。
両想いならば、それ以上何を求める必要があるのだろう。
そこで明が、
「今度、カオルやミチル達にも会いに行くか?」
「うん、二人にもお世話になったから、お礼を言わないと」
「俺も随分相談に乗ってもらっていたから、陽太の事で」
「そうなんだ……」
随分と悩んだらしい明に、それだけ真剣に考えてくれていたと思ってヨウタは嬉しくなる。と、
「それで多分このまま試作品その2もプレイする事になるが、また一緒にやらないか?」
「……僕はもう、あんな目に合うのは嫌だよ?」
「そう、だよな……」
「だから明が守ってよ。写真撮るんじゃなくて」
「! そう、だな。前よりも独占欲が増しているから、多分、大丈夫だ」
その答えに陽太は何だかなと思いつつ、そこで目があって、そのままキスをする。
現実世界では初めてのキス。
何処か甘酸っぱい気がして、幸せな気持ちになる。
けれど唇を離すと、なんだか気恥ずかしくなって、それに随分と長い事ゲームをやっていたので陽太は外の風に当たりたくなる。
なので明を散歩に誘ったのだが……。
「こうなったら、力ずくで陽太を貰っていくぞ!」
「ちょっ、まっ……」
何故か突然目の前で黒塗りの高級車が止まったと思ったら、中からユウシが出て来た。
そして陽太を何処かへと連れて行こうとする。が、
「悠史……お前、また俺に迷惑をかける気か?」
「う! だが、諦め切れないから仕方がないだろう!」
「と、言っているんだが、ご主人様を躾けるのも下僕の仕事だと思わないか、翼、翼人」
「「そうですね」」
双子の声が聞こえて、悠史は凍りついたように動けなくなる。
そしておそるおそる振り向けば、双子が怒ったように仁王立ちしていて。
「悠史様を甘やかし過ぎた責任が私たちにはあるかもしれませんね」
「自分でまいた種は自分で刈り取らないといけませんね」
「ま、待て、ひぃ……」
そこで明は陽太の手を掴んで逃げ出した。
それを悠史が追いかけて、それを双子が更に追いかける。
なんだか賑やかになって、明と一緒に逃げるのも陽太は楽しくなってくる。
「……なんだか楽しいな」
「俺は面白くない」
「賑やかだし。また、皆で遊ぼうね?」
「……そうだな」
陽太が楽しそうだから、まあ良いと明は割り切る。
二人でかける夕暮れの道。
太陽が沈みかける夕暮れの空。
もうすぐ夜が来る。
けれど、二人一緒なら何処でも、何時でも楽しいだろうと明と陽太は思ったのだった。
[おしまい]