side・ゼラ
ラストです。
少し長くなりました。
少女は才能に裏打ちされた公式チートです。
まったく、ようやく終る。
綺羅綺羅としたシャンデリア、光を反射し輝く一つ一つに、防御の、守護の、攻撃の、解毒の、録画の、録音の、他にもありとあらゆる役に立ちそうな術式が練り込まれていることに、どれだけの人が気がついているのかな?
二年近くもかかったけれど、こことも今日でお別れ。アーゼルへの借りもこれで清算終了。正直、疲れたよ。
私はゼラ。ゼラフィネス。家名も幼な名も洗礼名もない、ただのゼラフィネス。
捨て子の私を育ててくれていた炭焼き小屋の住人を、魔力暴走で傷つけてしまい、師匠に売られた。師匠は西の大国に生まれた姫太子殿下の補佐官にするために、私を買ったと言ったけれど、しばらくしてその話もなくなった。西で政変が起こったらしい。
多分師匠は情が移っていたんだと思う。その後も私を育ててくれた。魔術の修行と剣術や一般常識の訓練は厳しかったけれど、お陰で私は生き残れた。
一通り色々覚えて、実地訓練に出されたのが五年前、10歳位のとき。自分の正確な歳は知らないし、多分それくらいだと思う。
魔導傭兵として従軍した。人を殺すのも、傷ついた味方を治すのも、見捨てるのも、見送るのも初めてだった。
そこで、アーゼルともう一人、お節介で心配性のやつらと出会う。二人は所属集団が違うからいつも一緒という訳ではないけれど、同じ戦場に出された時は何故かいつも近くにいた。
ある日、気がつかない間に、私達傭兵全てを生き餌として策が練られていた。かなり上手い策で、気がついた時には孤立し、味方のはずの正規軍からも、その場にいる敵ごと攻撃をされていた。指令部から「鏖殺せよ」との命令が出ていたらしい。
その恐怖で私は狂った。人生二度目の魔力暴走と狂戦士化を同時に起こし、二人に命がけで止められるまで傭兵以外の全てを殺し続けた。
その戦闘で、ありがたくもない通り名を2つも与えられてしまった。戦場の半数を敵味方の区別なく殺しまくれば当然だ、と笑われたけど、笑い事ではないと思う。
お節介二人が中心になって雇い主に話をつけ、私は殺されもせず捕らわれもしなかった。お陰で二人には大きな借りができた。
例え子供でも受けた借りは必ず返せ。とそう師匠からも言われていたので、私も出来ることをするつもりだったのだけれど、二人とも頑としてなにかを要求することはなかった。それどころか、わたしを労ってばかりだった。しびれをきらして、なにかあったら連絡をと、通信石を渡して逃げるようにその場を去った。
師匠の家に報告に帰ると家が荒らされ、少し離れた森の中で師匠は死んでいた。数日帰還が遅れていたら、師匠の戦闘の余波で逃げた魔物が戻り、師匠も家も跡形もなくなっていただろう。
後片付けと、無くなったものを確認し、師匠の仇の痕跡を探して世界を放浪し始めた。魔物狩の冒険者としての立場があれば、何処の国にも入れた。
三年近くが過ぎて、身につけるのが当たり前になっていた通信石の片割れが鳴った。話を聞けば荒事らしい。その国でもし情報があった場合、流して貰う約束で国土解放軍とやらに参加した。
三年ぶりに会ったアーゼルは少し大人になっていて、ふわふわとした彼女も連れていた。しばらくの間、彼女からの当たりがきつくて困惑したこともあったが、これが恋愛かと羨ましく思って二人を見ていた。
どうやら、その視線も誤解されていたようで、少し波乱もあったけれども最終的に二人とも幸せになったからまぁよしとしよう。
軍への加勢は、少々気合いが入りすぎてしまい、幹部達に目をつけられた。気がついていないと思っていたようだけれど、わたしをこの国に縛り付けようとする動きがあるのは感じていた。
何より悲しかったのは、アーゼルとリズの二人ともその動きを知っていても、止めようとも、私に忠告をしようともしなかった事かな。少なくとも、私は友だと思っていた。でも、国への忠と恋愛には勝てなかったみたい。うん、当然か。
私は諦めてその時を待った。薬も精神侵略系統の魔術も効かない自信があったから、微かに異臭がするその紅茶も躊躇わず飲んだ。意識を失った振りをする私は、魔封じの拘束具をつけられ、湯あみをさせられ、寝所に放り込まれた。幸いにして相手はまだ来ていなかったから、拘束具を外し、服を着替え、また拘束されているように装った。
入ってきた相手は一瞬目を見開き、そして目を伏せた。その動きだけで、相手にとってもこの状況は不本意だとわかったが、私は手を緩める気はなかった。
だってそうでしょ?陛下。もうすぐ貴方はこの国の柱となるのだから、部下の不始末を負うことなど当たり前。
目を光らせる私に対し、陛下は膝を屈された。すぐにでもこの国を立つとの宣言に、どうにか即位の御披露目まではと、アーゼルやリズの今後の事も匂わせつつ、交渉してきた。
ひたすら面倒だったけど、戦場の借りを返しきるのにもう少しだけ加勢することにした。
御披露目の舞台となる広間にこっそりと忍び込み、天井を飾るシャンデリアや壁画にほんの少しの意趣返しをしたのは、出来心。
これを起点に、王城全てに仕込んだ術式を展開できる。そもそもの約束である、情報すらも寄越さないこの国に、払う仁義はないでしょ?
普段は何もしないけれど、次に仕掛けてくるなら、例え相討ちになったとしても、後悔して貰いましょう。
さて、そろそろ、婚約発表のタイミング。二人が惚けた間抜け面を晒してくれるなら、実験ついでに録画してしまいましょうか。
さぁ、宴の終わり、終わりの始まり、これでこの国とも最後よ!!
四者四様の思惑を同じ場面を通して描いて見ようと試みたら、全員腹黒かヤンデレ臭がしてしまいました。
最後までお読みいただきありがとうございました。