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『一条山開拓記』第十三話:しいたけを栽培しよう

【前書き】

※本エピソード(一条山開墾記)は『Bar風花』本編の設定をベースにしたスピンオフ/パラレルストーリーです。

※本編との時期・時系列に一部独自のアレンジやIF要素が含まれますが、白黒赤三人娘と結社長の賑やかな日常をお楽しみください!


山気を切り裂く四気筒の咆哮とともに駆け上がってきたのは、赤髪ツインテールの元気印——赤城遥花。

白・黒・赤の「現場三人衆」がようやく勢揃いした一条山で幕を開けるのは、一年越しの夢を仕込むガチの原木しいたけ栽培プロジェクトです。

チェンソーが刻む芳しい木の匂い、HACCPガチ勢による厳格な駒打ち、そしてスギ木立の木漏れ日に組み上がる美しいホダ場。

一日の汗を流した夕暮れの峠道を駆け下りれば、今夜も『Bar風花』の柔らかなアンバー色の光と、炭火でじっくり焼き上げた極上の秋の味覚が待っています。

賑やかでどこまでも温かい、山と森のスローライフ。

どうぞごゆっくりとお楽しみください。

第一章:血の十字架とツインテール

 

 朝の澄みきった山気を切り裂き、爆発的な四気筒の重低音が一条山の坂道を駆け登ってきた。

 フォフォフォフォ……ババババッ!

 ケイヒンFCR39キャブレターの猛烈な吸気音と、月木レーシング『アレーテ・デクスター』フルエキゾーストが吐き出す荒々しい咆哮。

 高強度コンクリート広場に滑り込んできたのは、カウルレスの丸目一灯にパイプハンドル、タンクに『血の十字架』と『ヴァルキリー』のノーズアートが躍る異形のマシン——CBR900RR FireBlade “MYSTIC EAGLE”だ。

 ライダーがキュッと軽快にサイドスタンドを蹴り出し、ヘルメットを脱いだ。

 鮮烈な赤髪に漆黒のメッシュを入れたツインテールが、朝陽を浴びて華やかに躍る。

 アルフォンス・ミュシャ柄のヴィンテージアロハシャツのボタンを大胆に開け、首元には重厚なクロスのペンダント、両手にはクロムハーツ風のダガーリングがジャラリと光っていた。

「テンゲキーーーーッ!! マジでエモいッス! 一条山のニュー舗装、タイヤのグリップ感ヤバすぎッスよーーー!!」

 ヘルメットを抱えて叫んだのは、風花農業高校OGにして『一条山農林』加工部製造責任者——赤城遥花だった。

「やかましいねぇ、遥。相変わらず朝から脳汁ブーストがかかってるかい?」

 オリーブドラブのジムニーの横でポニーテールを揺らし、白石まひろがハスキーに笑った。首元には厚手のミリタリータオルが無造作に巻かれている。

「まひろ先輩! 葵先輩! おはッス! ウチ、CBRのFCRセッティングと新しいエフェクター買ったら、またしても銀行残高が【三十八円】になっちゃったッスけど、テンションは無敵ッスよーーー!!」

「……三十八円って、相変わらずギリギリを攻めすぎっすよ、遥花……」

 モモタロウピンクのサンバーの陰から、ワークマンプラスのピンクヘルメットを被った黒木葵がジト目で呆れつつも、嬉しそうに低音で呟いた。

「ふふっ、白、黒、赤……これで『一条山農林・現場三人衆』が全員揃いましたのや〜」

 プレハブの木製デッキから、バインダーを抱えた一条結がおっとりとタレ目を細めて見守っていた。



 

第二章:原木の選定と倒木作業

 

「さあ、全員揃ったところで、本日のメインプロジェクトを発表するよ」

 まひろが腰の鞘から使い込まれた重厚な剣鉈を引き抜き、山裾の雑木林を指差した。

「今日やるのは、来季に向けた広葉樹の間伐・葉枯らしと、先月伐採してしっかり乾燥させておいた丸太を使った本格的な『原木しいたけ栽培』だ!」

「原木しいたけ……ッ! 菌床のおがくず栽培じゃなくて、本物のクヌギやコナラの丸太に菌を打ち込むガチの原木栽培ッスね!!」

 遥花の赤いツインテールがピンと跳ねた。

「そうさね。原木栽培は収穫までに一年以上かかるけど、身がぎっしり詰まって香りと旨味が段違いになる。……葵、遥、あたしの三人で力を合わせて最高の『ホダ場』を作るよ!」

「「「ご安全に!!!!」」」

 威勢の良い掛け声とともに、まずは来季用の原木選定から作業が始まった。

 山林の奥へ入ると、まひろが剣鉈の背で樹皮をポンポンと叩いた。

「しいたけの原木に最高なのは、適度に樹皮が厚くて栄養を蓄えたクヌギとコナラだ。樹齢十五年から二十年、太さ直径十五センチ前後の幹を選ぶ。樹皮が剥がれている木は雑菌が入るからNGだよ」

「選定ライン、了解っす!」

 葵が愛用のエンジンチェンソーのスターターロープを勢いよく引っ張った。

 ババババッ!

 鋭い回転音が響き、葵の手によって選ばれた来季用のクヌギの木が、狙い通りの方向へ「バリバリ……ドスン!」と安全に倒されていく。

 すかさず、コマツの大型ユンボに乗った葵が、アタッチメントの全回転フォークグラップルで、先月伐採してじっくり葉枯らし乾燥させておいたクヌギの原木を鮮やかに掴み上げ、広場へと集積していった。

 そこへまひろと遥花がチェンソーを持って飛び込み、適度に水分が抜けた原木へ一定の寸法で素早く刃を入れていく。

「長さを一メートル二十センチに揃えて玉切り完了ッス!」

 広場には、芳しい木の香りを放つクヌギのホダ木が整然と積み上げられた。



 

第三章:HACCPガチ勢の駒打ち

 

「さあ! こっから先はウチの領域ッスよーーー!!」

 先ほどまでの派手なギャル服から一変。

 遥花は髪をすっぽりと衛生キャップの中に収め、真っ白な長袖の衛生白衣にマスク、自爪を短く切り揃えた「加工部製造責任者・HACCPガチ勢」の姿へと変身していた。

「原木しいたけ栽培は、有用菌と雑菌の戦争ッス! ドリル刃のアルコール消毒はもちろん、種駒を触る手袋の衛生管理まで徹底するッス! 菌糸を打ち込む前に原木に余計なカビ胞子が付着してたら一発でアウトッスからね!」

「ひぇ……遥花、急に『鬼の製造責任者』モードに入ったっす……」

 葵がタジタジになると、遥花は手際よく「しいたけ用ダイヤドリル」を構えた。

「原木一本につき、千鳥状に等間隔で深さ二センチの穴を開けるッス! 穴が浅いと菌糸が乾くし、深すぎると駒が沈んで空隙ができ、雑菌が入るッス! コンマ一ミリの誤差も許さぬッス!」

 ドリルが快音を立て、クヌギの原木に綺麗な穴が次々と穿たれていく。

 そこに、しいたけの菌糸が純粋培養された木駒をあてがい、専用の木槌でコンコンと小気味よく叩き込んでいった。

「駒打ち完了ッス! 菌糸が乾燥しないよう、打設面は樹皮とツライチに叩き込むのが鉄則ッス!」

「見事な手際どすな〜、遥花ちゃん」

 バインダーを抱えた結が、おっとりと拍手を送った。

「結社長! この原木しいたけの施設整備ですが……まさか……!?」

 遥花が目を輝かせると、結はスパコン並みの計算結果が表示されたタブレット画面を提示した。

「ええ。農林水産省の『特用林産物生産振興対策事業補助金』および県の『林業六次産業化支援交付金』の要件を完璧に満たしておりますのや〜」

「神ッスーーー!! 助成金で設備投資が半額以下ッス!!」

「浮いた予算は、遥花ちゃんの加工部の最新殺菌スチーマー購入費と、全員の十五分単位の残業手当の原資に回しますのや〜」

「結社長マジ神ッスーーー!! 残高三十八円のウチに光が差したッスよーーー!!」



 

第四章:ホダ場の形成

 

 駒打ちが終わった数百本の原木は、いよいよ仮伏せ・本伏せの工程に入る。

「しいたけの菌糸を原木全体に回すには、直射日光を避けた風通しの良い木陰と、適度な湿度が不可欠さね」

 まひろが先日整備したばかりの清流と湧水池の脇、スギ林の木陰を指差した。

「ここなら沢の伏流水で湿度が七十%に保たれてる。まずは初期の菌糸をしっかり活着させるために原木を低く寝かせて積む『仮伏せ』をして、その隣に、梅雨前に組み替える本伏せ用の『鎧伏せ』の土台も今のうちに組んでおくよ」

「小型ユンボで、ホダ場の土台となる丸太の枕木を据え付けるっす!」

 葵の操る三トンクラスの小型ショベルが枕木を正確に配置し、そこへまひろ、葵、遥花の三人で駒打ちされた原木を丁寧に積み上げ、上から保湿用の杉葉と遮光ネットを被せていった。隣には本伏せ用の美しい格子状の木枠も完璧に組み上がる。

 スギ木立の木漏れ日の中に、幾重にも重なる木目の美しい『一条山・天然原木しいたけホダ場』が完成した。

「……できたっす! 来年の秋には、ここから肉厚でジューシーな最高級の原木しいたけがポコポコ生えてくるっすね!」

「ああ」

 まひろが剣鉈を鞘に収め、ハスキーに笑った。

「風花町の自然と、あたしたちの技術が詰まった最高のホダ場だよ」



 

第五章:夕陽のツーリング

 

 夕暮れ時。高強度コンクリート広場で洗車を終えた三人衆。

「よし! 本日の業務、これにて無事終了どすえ〜」

 結の声がかかると、遥花がCBR900RRのイグニッションキーを捻った。

 フォン……ババババッ!

 FCRキャブの激しい吸気音が響く。

「まひろ先輩! 葵先輩! 風花町までCBR、サンバー、ジムニーで連なって駆け下りるッスよーーー!!」

「あはは! いいねぇ! 遥、後ろで火花を散らすんじゃないよ」

「うちのサンバーの荷台を煽らないように気をつけるっすよ、遥花!」

 夕陽に染まる風花町の峠道を、赤、ピンク、緑の三台が心地よい排気音を響かせながら軽やかに駆け下りていった。



 

第六章:原木しいたけの傘焼きと脳汁ブースト

 

 夜の八時。

 『Bar 風花 -kazahana-』の重厚なオークの扉を開けると、澄みきった静けさと桜の花のような甘い香りが優しく身体を包み込んだ。

 カウンターには、磨き上げられた鉄刀木の一枚板が静かに艶めき、バカラのクリスタルグラスがアンバー色の光を放っている。

「いらっしゃい、まひろちゃん、葵ちゃん、遥花ちゃん」

 カウンターの奥で、ワインレッドとアンバーの異色瞳を優しく細めた美和が出迎えてくれた。

「美和さんッッーーーー!! 今夜も神々しすぎて語彙力蒸発するッスーーー!!」

 遥花はカウンター前で深々と一礼し、黒い本革ローチェアーに感激の面持ちで腰を下ろした。

「ふふっ、遥花ちゃん。今日もしいたけのホダ場作り、本当にお疲れ様。今夜は一条山の先代のホダ場から今朝採れたばかりの、極上の原木しいたけを使った特別なお料理をご用意したわよ」

 美和がそっと差し出したのは、七輪の炭火でじっくりと焼き上げられた「原木しいたけの傘焼き・自家製出汁バター醤油添え」だ。

 肉厚な傘の裏側に、じわじわと黄金色の旨味あふれる出汁が溜まっている。

「どうぞ、熱いうちに召し上がれ」

 一口頬張ると、プリッとした肉厚なしいたけの歯応えとともに、溢れ出る芳醇なキノコの旨味とバター醤油の香ばしさが口いっぱいに弾けた。

「……ッ〜〜〜〜!? 脳汁ブーストきたーーーーッ!! 肉厚すぎてお肉食べてるみたいッス!! エモの極みッスよーーー!!」

 遥花が感激のあまり涙ぐみながら叫ぶと、葵とまひろも嬉しそうに笑った。

「……美味いっす。傘の裏の出汁が濃厚すぎて、言葉が出ないっす……」

「あはは! これぞ原木栽培の真骨頂だねぇ。美和さん、最高の焼き加減だよ!」

 さらに美和が仕立てたのは、ペストルで丁寧に潰した風花町のハウス産初物イチゴとライムをグラスの底に沈め、氷と微炭酸を満たした上から、丁寧に点てた濃厚な抹茶を静かにフロートさせた特製モクテル『抹茶&ストロベリー・スカッシュ』だった。

 グラスの中で美しい層をなす深緑と鮮やかな赤のコントラストが、アンバー色の照明に艶やかに映えている。

「はい、どうぞ。遥花ちゃんの情熱をイメージして作ったモクテルよ」

 グラスを傾けると、濃厚な抹茶のほろ苦さとイチゴの甘酸っぱさが爽やかに弾け、一日作業に没頭した身体を優しく解きほぐしていった。



 

第七章:温かな食卓とチルタイム

 

「あおい……まひろ……はるか……おつかれ……」

 隣のローチェアーでホクホクの焼き芋をモグモグしていた深雪が、黄金色の瞳をパチクリさせて覗き込んできた。

「深雪ちゃん! 今日のしいたけホダ場、マジで最高に整ったッスよ!」

 深雪は満足そうに頷くと、手に持っていた温かい焼き芋の半分を、そっと遥花の皿の端っこへ置いた。

「……はるか……がんばった……。みわねえちゃんの……新しい妹仲間……。やきいも……半分こ……」

「……ッ〜〜!? 深雪ちゃん……! ウチ、残高三十八円ッスけど今世界一幸せッスーーーー!!」

 遥花が大感激しながら焼き芋を受け取ると、美和は柔らかく微笑み、カウンター越しに三人衆と深雪の頭を順番に優しく撫で下ろした。

「明日からも、安全第一で頑張ってね」

「「「ご安全に!!!!」」」

 アンバー色の光が優しく満ちる『Bar風花』の店内に、温かな笑い声と幸福感がどこまでも穏やかに広がっていく。

 白・黒・赤の固い絆とともに、一条山農林のスローライフは、これからも賑やかで温かく続いていくのだった。

【あとがき】


第十三話をお読みいただき、本当にありがとうございました!

ついに三人娘のラストピース、赤城遥花(ギャル遥)が本格合流となりました。

普段はFCRキャブのセッティングとギターエフェクターの買いすぎで残高三十八円の限界オタクギャルですが、いざ加工現場に入れば自爪を切り揃え、コンマ一ミリの雑菌も許さない「鬼の製造責任者」へとスイッチが入る頼もしい相棒です。

職人肌でローテンションな葵との「っす」「ッス」の掛け合いや、全体を大きく包み込むまひろのアネゴ肌、そして相変わらず制度を百二十パーセント使い倒す結社長の辣腕ぶりなど、四人のチームワークが一気に形になってきました。

今回の原木しいたけ栽培も、伐採直後の生木を使わずにしっかり「葉枯らし乾燥」を経た原木を使うサイクル作業や、雑菌を防ぐツライチの駒打ち、沢沿いの湿度を活かした仮伏せなど、林業・菌類栽培のリアルな手触りを大切に描いています。

じっくり手間と時間をかけるからこそ、スーパーの菌床しいたけとは次元の違う、肉厚でジューシーな旨味が宿るんですよね。

そして作業終わりの『Bar風花』。

傘の裏にじわじわと黄金色のスープが湧き出る炭火の傘焼き、そして遥花の情熱をイメージした深緑と鮮やかな赤の二層モクテル……深雪ちゃんの「やきいも半分こ」も含めて、画面の向こうへ香りと温もりが届いていればとても嬉しいです。


もし「三人娘の賑やかな掛け合いが良かった!」「原木しいたけの傘焼きが猛烈に食べたくなった!」「Bar風花のカウンターでチルしたい!」と思っていただけましたら、画面下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、執筆の大きな励みになります!

ブックマークや感想、いいねもいつでもお待ちしております。


次回も安全第一でお届けします。どうぞお楽しみに!

天照(Bar風花)

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