表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

隣を歩く距離

 森を抜けた先には、なだらかな丘陵が広がっていた。


 風が草を揺らす。


 さっきまでの張り詰めた空気が、嘘みたいに穏やかだ。


「……王都って、遠いの?」


 隣を歩くリゼが聞いた。


「分からない。だが、人が集まる場所には情報も集まる」


 それだけ言って、前を向く。沈黙が続く。


 けれど、不思議と重くはない。


「ねえ、アキラ」


「なんだ」


「どうして、私の近くにいると……あれが止まるの?」


 黒い揺らぎのことだろう。


 俺は少しだけ考え、肩をすくめた。


「体質みたいなもんだ」


「体質って……そんなのある?」


「あるんだよ、俺には」


 それ以上は言わない。


 言うつもりもない。


 俺はこの世界の人間じゃない。

 だが、それは俺だけの話だ。


 リゼは納得していない顔をしながらも、それ以上は追及しなかった。


 代わりに、小さく笑う。


「でも、よかった」


「何がだ」


「一人じゃなくて」


 足が一瞬だけ止まりそうになる。


 だが、歩幅は変えない。


「……勝手についてきただけだろ」


「それでも」


 彼女は、ほんの少しだけ俺に近づいた。


 五メートルより、ずっと近い。


――――――――――――――――――――


 丘を越えた瞬間。


 嫌な気配が走った。


「止まれ」


「え?」


 草原の向こうに、黒い影。


 四体。


 森で遭遇した個体よりも素早い。


 一直線に――こちらへ。


「……やっぱり」


 偶然じゃない。


 あれは、リゼを追っている。


「下がってろ」


 俺が前に出る。


 魔物が跳躍する。


 炎の弾が放たれ、空を裂く。


 五メートル。


 霧のように消える。


 だが、二体が左右から回り込む。


 速い。


 俺は地面を蹴り、距離を調整する。


「くっ……!」


 物理は消えない。


 爪が頬を掠める。


 血の匂い。


 その瞬間。


 背後で、空気が歪んだ。


「やめて……来ないで……!」


リゼの感情が波打つ。


 黒い魔力が、地面から噴き出す。


 草が焼ける。


 空が震える。


 魔物が一瞬怯む。


 暴走。


「リゼ!」


 俺は一気に距離を詰める。


 一歩。


 二歩。


 三歩。


 五メートル。


 黒い揺らぎが、薄れる。


 さらに近づく。


 完全に消える。


 静寂。


 残った魔物を、俺は枝で叩き伏せた。


 砂のように崩れ落ちる影。荒い呼吸。


 リゼは震えていた。


「……私のせいだよね」


「違う」


 即答だった。


「狙ってるのはあいつらだ。お前は悪くない」


「でも……!」


「悪くない」


 荒い呼吸。


 強く言う。


 彼女の瞳が揺れる。


 やがて、小さく頷いた。



――――――――――――――――――――


その夜。


 丘の上で焚き火を囲む。


 火の明かりが、リゼの横顔を照らしている。


「ねえ、アキラ」


「なんだ」


「もし、私が危ない存在だったら……どうする?」


 迷いのある声。俺は少し考えて、答える。


「危ないなら、止める」


「……敵になっても?」


「その時考える」


 嘘は言わない。


 でも、今はそれでいい。


 風が吹く。


 リゼはそっと、俺の隣に座る。


 肩が触れそうな距離。


五メートルなんて、とうに忘れている。


――――――――――――――――――――


遠くの丘の上。


 月明かりの下。


 黒い外套の存在が、静かに立っていた。


 人の形をしている。


 だが、影が揺れている。


 手にした水晶に、二人の姿が映る。


「修正装置、及び例外を確認」


 感情のない声。


「王都へ報告。回収準備を開始」水晶が暗くなる。


 風が止む。


 世界が、静かに動き出した。

※気に入った方はメッセージであなたがよく見る時間を教えてください


!第六話公開予定!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ