名も知らぬ少女
魔物の残骸は、風に溶けるように消えていった。
森に静寂が戻る。
「……助けてくれて、ありがとう」
少女は震える声で言った。
「礼はいらない。俺も生き残りたいだけだ」
立ち上がった少女は、まだ怯えを残している。
「私は……リゼ」小さな声。
「堺アキラだ」
短く名乗る。
リゼは少し首を傾げた。
「変わった名前……」
「そうかもな」
それ以上は言わない。
言えない。
森の奥から、嫌な気配が漂う。「村が……襲われたの」
リゼは俯いた。
「急に魔物が増えて……みんな、逃げて……」
その瞬間。
空気が歪んだ。
リゼの足元から、黒い揺らぎが溢れ出す。
「っ……!」
地面が震える。
木々が軋む。「やだ……やめて……!」
彼女の感情と共に、魔力が膨れ上がる。
魔物以上の圧。
森が裂ける音が響く。
だが――
俺は一歩、近づいた。
二歩。
三歩。
五メートル。黒い揺らぎが、霧のように薄れていく。
「……え?」
リゼの瞳が揺れる。
さらに一歩。
完全に消える。
静寂。
「俺の近くにいれば、暴れない」
「どうして……?」
「分からない。だが事実だ」
本当は、分かる気がしている。
俺はこの世界の“外側”だ。
だから——
いや、今はいい。
森の奥から、複数の気配。
さっきより多い。
「……来る」
「え……?」
「魔物は偶然じゃない。お前を探してる」リゼの顔が青ざめる。
「俺と来い」
「どこへ……?」
「王都だ」
情報が集まる場所。
力を持つ者がいる場所。
「お前の力の正体も、魔物の理由も。全部調べる」
リゼは迷う。
だが、俺を見る。「……一人よりは、ましだよな?」
少しだけ笑うと、彼女は小さく頷いた。
こうして。
俺の二度目の人生は——
一人じゃなくなった。
だが同時に。
世界は、俺たちを見つけた。
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