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天使なんだけど、人界に降りて本を読めって、どゆこと?  作者: 里井雪
ユキオ君のこと

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14/20

ユキオ君の道

 漠とした不安を抱えつつつも土曜日が来た。私とノブコは二人して、県営球場に向かうことにした。暑い日だったので、水分補給は忘れず、例の日傘をさして。


 この県は大都会ではないので、高校の数も少なく、参加校も少ない。五回勝てば甲子園ということになる。ノブコの高校は公立で進学校ということもあり、いつも一回戦で負けていた。


 だけど、ユキオ君が入ってきて、一回、二回は勝てるようになり、今回は三年の夏。とうとうベスト4進出となった。だけど、今日の相手は優勝候補。県大会のみならず、甲子園でも優勝か? と前評判が高い。かなり分が悪いらしいが、勝てば本当に甲子園への道が開けるかもしれない。


 私たちは、応援団から少し離れて内野席の上方に座った。暑いなぁ〜。なんで、こんな季節に、汗をかくようなことするんだろう。本当に人というものは不可解だ。


 ユキオ君は公称百七十センチ、実は百六十九センチらしい。投手としては小柄だ。だから、打者から自分を大きく見せるような工夫をしている。アーム投法。肩が開いている状態で、手が後ろに残らない投げ方。肘と手を同時にスイングさせる投げ方といえばいいだろうか。


 少年野球では、さっさと矯正される投げ方だ。だけど。え? 調べたのよ野球史。プロでも稀にこの投げ方をする人もいるし、かつて「速球王」と呼ばれた大投手も身長のなさをカバーするために、この投法だった。


 もちろん、矯正されるのには意味がある。肩を故障しやすいこと、普通、この投げ方だと速い玉は投げられないと言われている。


 だけど、ユキオ君のストレートはかなり速い。もっとも、相手投手。オータニ二世ともいわれ、今期のドラフトの目玉と目されている左投手だ。球速は百五十キロを超えることもある。それに比べれば彼の球速は十キロほど遅い。でも。ユキオ君の持ち味は、ボールの回転。バックスピンが効いている。


 ね。詳しいでしょ? もちろん、今日に備えて野球を勉強してきたって言ってるでしょ!! ああ、天使だから球の回転とか良く見えるというか。マウンドからの球は、物理法則に従い放物線を描いて落下する訳だけど、バックスピンが効いていると、思った程は落ちてこない。打者の予想より「上」を通るってこと。


 試合はユキオ君が二回に上げた一点を守り切って、一対ゼロ、回は九回裏。ここまで、二回裏の一死三塁以外、ピンチらしいピンチもなく、以降、一人しか走者を許していない。


 とうとう、大本命、甲子園の優勝候補を大番狂わせで、破ることができるのか? 九回裏も一死。ここで、彼は、少し力んだのかもしれない。一番バッターに四球。でも二番は打ち取る。


 続いて三番。さっきのオータニ二世と並んで、ドラフト候補といわれる三塁手だ。ストレートで内角を攻めて、得意じゃないと言っていたけど、ここでのスライダーは有効だった。みごとに泳がせてショートゴロ、ゲームセットと思ったのだけど。


 なぜ、なんで?? ショートが一歩、ほんの一歩、サード寄りに守備位置を変えていた。打球は虚しくグラブの下を通りセンターへ。二死一、三塁。


 サヨナラのランナーを進めてでも勝負を避ける手もあった。でも、彼、負けず嫌いなのかな。ワンボール、ワンストライクからの三球目。決して悪い球ではなかったと思う。


 左バッターの膝下へのストレート。だけど。さすが。プロが注目する打者の方が上だった。柔らかいスイングでコマのように体を回す。絶妙のバットコントロールでミートした打球はライトスタンド上段に突き刺さった。


 三対一。逆転サヨナラ。マウンドに蹲ってしまい立てないユキオ君。思わず、監督がベンチを飛び出した。本来、高校野球では、監督がグランドに出るのは規則違反だ。だけど、周りも大目に見たのだろう。監督に肩を抱かれるようにして、彼はマウンドを降りた。


「いい球投げてたのに、惜しかったなぁ」


「イリス。野球、勉強したの?」


「ええ。何事も。っていうか、もらったスマホ。とっても役に立ってるわ」


 しばらく、ノブコに野球についての蘊蓄を話していると。


「あれ? ユキオ君からメッセージだ。いろいろあってもメゲない、現金はヤツ。今夜のお祭りどうか? だって」


「ああ、花火もあるんだっけ? 行きましょうか? って、私付き添いでいいの?」


「うん。その方がいいんじゃない?」


 ということがあって。アパートにて。


「夜店、言うたら浴衣やろ。イリスちゃん。私のお古で申し訳ないけど、これ、どう?」


 藍染に白の撫子の花が描かれたシンプルな浴衣だが、有松絞り? かなり高価な浴衣のようだ。


「え、こんな高価なもの」


「ええから。ええから。」


 ノブコのは、青とピンクの朝顔の花があしらわれた浴衣。外見が、少し幼い感じに見える彼女にはよく似合っている。りんご飴を持った、銀髪のロシア系美少女風ということだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 14/14 ・まさかの野球!? 詳しくないけど分かりました。 [気になる点] やっべ物理忘れたw 回転どっちがどっちだっけw [一言] スマホやっぱり便利ですね。そして天使の目が物理的に…
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