第十八話《キメラ幼女と出会った俺はこうしてキメラ美少女への変身を成し遂げました!》
全身から吹き出したスライムに包み込まれた俺は、まるで巨大な透明の卵の中にいるようだった。魔法少女が変身する時のような、ふわふわしたファンシーな空間をイメージすれば問題ないだろう。卵の中のエメラルドグリーン空間で、俺は『キメラ美少女』へと変身を開始する!
「ベースは人型! まずは胴体!」
俺が両腕を左右に広げると、ゴポゴポと卵内に気泡が発生し首から下がスライムに変わる。そして光を放ち、腰から鮮やかな緑の葉っぱがミニスカートのように生える。上半身は脇腹から胸、首周りが木の皮で覆われる。肌が露出している部分は人間のままだ。
「次は脚!」
回し蹴りするような動きで右脚を上げると、太ももから先が光り輝く。太ももから膝にかけての部分は人魚の銀色の鱗をまとい、膝からつま先は白銀のケンタウロスの脚に変わった。すねの部分には魚のヒレが生えている。左脚も同じく、蹴るような動きで変化させた。葉っぱスカートと人魚の鱗の間、絶対領域は人間の肌のまま!
「腕も変える!」
両腕を広げてくるくる回ると、光を放ちハーピーの翼が完成する。白銀の羽根が舞い散る!
「背中!」
お尻の辺りが光り、アラクネの腹が出来上がる。次に肩甲骨から蜘蛛の脚を生やしたなら、脚と脚の間に糸を張ってマントのようにしていく。右四本、左四本でマントが二枚だ。マントをたなびかせる俺!
「マフラミア!」
首に巻き付くようにラミアの尻尾を作り、それを胸の方へ垂らしマフラーに見立てる!
「暴走なんて怖くない!」
最後に腰周りの辺り、スカートの両サイドからスキュラの触手を計八本生やす。美しい光と共に触手が伸び切った!
「最後はこれ!」
翼を左右に広げて上半身を反らすと、頭にアルラウネの花のつぼみがポンと現れ、そして肩までの長さだった白銀の髪が光って一気に腰まで伸びる!
「変身、完了!」
全身のスライム化を解いた俺が舞うように回転すると、俺を包んでいたスライムが一際輝き弾け飛ぶ! キメラ幼女と出会った俺は、こうしてキメラ美少女への変身を成し遂げました!
◆ ◆
「女王、完成しました」「おぉ、素晴らしいぞ! 変身の過程も美しかった!」
「もう、そんなに褒めちゃって、女王らしくないですよー」
テンションの上がった俺を軽くあしらってきた女王だが、今回は女王も興奮しているようだ。変身が完了した俺に駆け寄り、ピコピコ動きはしゃいでいる。かわいい。
「うむ? そう言う貴様は、なんだ、随分と落ち着いているじゃないか」
「そう見えますか? でもですね、何だか身体の内側に、すごいエネルギーを感じてるんですよね」
「ほうほう、それはどんなだ?」
どうしようもない感情の塊、とでも言うべきか。自分の中に何かを感じる。
「えーと、エネルギーというか、あっ、分かった」
そうか、この感覚の正体、それは……!
「すっごくムラムラする」
「……」
この期に及んでドン引く女王だった!
◆ ◆
「そうですよ! 今の俺の状態、すごく、なんて言うか、すごいじゃないですか!?」
うわ、テンション上がってきた! 行き場のない衝動! 発散したい!
「うわ、ゾクゾクする! ん? ゾワゾワ? なんだこれ! なんだこれ!」
「ちょっと地球人くん! 羽根をバサバサしないの! 風がすごいわよ!」
ハオン星人が近付いてきた!
「すごいでしょコレ! どうスか!? どうスか!?」
翼をブンブンして! 蹄をパカラパカラして! クルクル回りながら! うひゃひゃ!
「う、うん、すごいじゃない。良いわね、良い」
もじもじするハオン星人かわいい!
「『百獣の女王』のキメラより身体が大きくて、色んなモン娘が入ってるじゃない? これはもう『女王』を越えたんじゃないかしら?」
「なるほど! 確かにキメラ幼女王よりボリュームありますよね、俺! バストもビッグだし!」
鏡の前でポーズを取りながら俺!
「でもでもハオン星人さーん、そんなこと言ったら女王が怒りますよー? ねー女王ー……あれ? 女王?」
女王がいない? なんで?
「……地球人くん、確認するけれど、地球人くんの身体が『本体』なのよね?」
「はい? ええと、今のスライム女王は、俺が出した粘液で作った仮の身体だから、そうなりますかね……?」
なんだ? ハオン星人の様子が変だぞ? 広くて何も無い白い部屋を見渡し、何かを警戒しているみたいじゃないか。
「何も、無い……?」
あれ、さっきまであった巨大な鏡が、何で無いんだ?
「地球人くん!」
「え?」
ハオン星人の叫び声。そして一瞬、俺の視界は真っ暗になり、次の瞬間には、俺は俺の姿を見ていた。その俺の顔は、とても悲しそうな表情だった。
第十八話:おわり