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先輩

 食堂で朝食を食べ、数十分後。自室。


 僕は勉強をやめると教科書やノートをバックに詰め、教室へ向かう。


 この自室で勉強をするのにも慣れたが、気分転換をしたい気分だ。受験の時ほど時間に追われてるわけでもないし、少しぐらいは良いだろう。


 勉強の定番と聞く図書館はまだ空いていないが、教室棟はもう空いている。


 早朝の教室なら人はほとんど寄り付かないはずだし、静かだろうから、勉強に集中できるだろう。


 僕は廊下に出て一年A組の教室へ向かう。


 数分歩いて一年生の教室棟に着いた。


 周辺にはまだ誰もいない。まぁ当然か、かなり早い時間だもんな。


 僕は廊下の角を曲がる。すると、そこに歩いているメリーを発見した。


 こんな朝早くに一体……あ。もしかしてメリーも勉強をしに来たのだろうか?


 メリーは休み時間も常に予習をし、放課後もちゃんと一日の復習をしている。これだけ早い時間でも教室に勉強をしに来ていても不思議ではない。


 朝からメリーに会えるなんて、運がいいな。


 僕はメリーのもとへ駆け寄ろうとする。


 すると、背の高い一人の男が突然奥の角から姿を現した。


「やぁ、メリー」


 男はメリーに話しかける。


 喋り方からして知り合いか?


 僕は何となく近くの角に身を隠す。そして、顔だけ覗かせた。


 喋りに割り込むのは迷惑だろう。


 角度的にここなら二人から見えないだろう。


 僕の知らないメリーの一面を知るチャンスかもしれないし、会話を盗み見してみよう。


「……お久しぶりです、ドラン様」


 メリーが頭を下げる。


「ははっ、なんで敬語なんだよ。同じ公爵じゃないか。それに、先輩だけど様はいらないよ。支援もしたくてしてるだけだしさ」


 男……ドランがさわやかに言う。


「はい。その件は本当に感謝を……」


「大丈夫大丈夫。どんな家でも斜陽な時期はあるよ」


 ドランの喋り口は優しい。それに、何かモテそうなオーラも漂っている。


 にしても、支援……そんな話があったんだな。


 まぁ、トゥメルト家が今厳しい状態に居ることは漫画の情報で知っている。支援を受けていてもおかしくはないだろう。


「……で、考えてくれた?”あれ”のこと」


 ドランがメリーに聞く。


「……はい。申し訳ございませんが、お断りさせていただきます」


 メリーはきっぱりとそう言い再度頭を下げた。


 しかし、声は少し小さい。


 ”あれ”ってなんだろう。話の流れ的に支援に関係する話だろうか。


「えー。いいじゃん、別に。そっちとしても悪い話じゃないっしょ?」


「ですが……」


 メリーが言いよどむ。


「チッ!」


 ドランは、僕がいる場所にも聞こえるような大きな舌打ちを一回した。


「冷静になって考えてよ!ちょーっとお手伝いするだけでたくさん支援してあげるんだよ!?今までは無償だったけど、今回からちょーっと対価が付くだけ。いいじゃん、別に!今までの恩もあるよね!?」


 ドランの語気は強くなり、メリーを早口でまくし立てる。


 ……なんか、雲行き怪しくないか?


「はい。本当に助かっています。しかし……」


 メリーが一歩下がる。


「いーじゃん。せっかく可愛いんだし、もったいないよ?そういう使い方しないの」


 ドランは一歩近づき、メリーの髪の毛に触れた。


「や、やめてくださいっ!」


 メリーはその手を弾く。


「……は?」


 ドランの雰囲気が変わった。


「なぁ、お前、立場分かってる?」


 あ。


「分かってないよね。バカなの?」


 これ、まずいな。


「教育、要るよね」


 ドランが腕を振り上げる。


 僕はダッシュでメリーの元まで走った。


 そして、メリーと男の間に割り込む。


 バンッ!!


 僕の頬が思いっきりぶたれた。


 痛ってぇ。


「あ?」


 ドランが不機嫌な声を出す。


「誰?お前」


「メリーさんのクラスメイトですよ……」


 頬がジンジン痛む。


 こいつ、メリーのことをぶとうとしたのか?


「何してるんですか、先輩」


 そんなことしていいはずがないだろ。


「何って……教育だよ、教育。悪い後輩だから、先輩として指導しないと」


 ドランが当然のように言う。


 気持ちわる。何言ってるんだ、こいつ。


 先に許可もなく髪を触ったそっちが悪いだろ。


「それで殴るのか?」


「うん。別に良くない?立場的に弱いのはそっちだし」


 なんだよその思考。頭がおかしい。


 人を殴るだけでもゴミなのに、さらに立場的が弱い人間をターゲットにしているゴミ。


 まともな人間の考えることではない。


「弱いとか関係ねぇ……ですよね。メリーさんが嫌がることしないでください」


「嫌がることぉ?……はははははっ!!!」


 ドランが大きな笑い声を上げる。


「別にいいじゃないか、髪を触るぐらい!どうせそれ以上のことするんだから!」


 そして、僕の肩をポンポンと叩いた。


「それ以上……?」


「あーそっか。君はまだ子供だもんね。うーん、なんて言おっかなぁ……」


 ドランは気色悪く笑う。


「”そういう関係”、だよ」


「テメッ……」


 こいつ、さっきメリーにそんなこと迫ってたのか?


 ぶん殴る。


 僕は気付けば拳を振りかぶっていた。


 ドンッ!!


 僕の頭が両手で掴まれ、腹に膝蹴りが飛ぶ。


「ガッ……」


 吐きそうだ。くそいてぇ、気持ち悪い。


「俺、運動系のサークルなんだよね。勝てると思わない方がいいよ」


 僕は地面に這いつくばる。


「雑魚いなー。何でかっこつけちゃうんだろうね」


 ドランが僕の頭を踏みつけた。


「よっと」


 そして僕の頭を蹴り飛ばす。


「ぐっ……」


 僕はされるがままに地面に転がった。


「こいつ、お前の知り合いだっけ」


 ドランがメリーの方を向いて聞く。


「……はい」


 メリーが正直に答えた。


「そ。じゃっ、お前も同罪」


 ドランが拳を振り上げる。


 まずい。


 魔法を使うか?でも、魔法を使ったところで僕はこの男に勝てるのか?


 魔法は暴力なんかよりはるかに強い。最悪死ぬかも……


 あ。


 いや、大丈夫だ。


「やめろ!!」


 僕は大きな声を出す。


 ドランがこちらを向いた。


 僕はドランに人差し指を向け、魔力を溜める。


「なに?魔法で勝負するの?俺A組だよ?三年の」


 ドランは手をこちらに向けた。


「……バレなきゃいっか」

風弾ウィール


 僕に魔法が当たる。


 バンッ!!


 体がぶっ飛んで、壁に当たった。


 緩衝材として防御魔法展開をした方が良かったか?威力が高すぎる。クソいてぇ。


 意識が……やばい。


 でも、使わせた。


 魔法を。


 口角が上がる。


 ビィィィィ!!!ビィィィィ!!!


 その瞬間、周囲に警報音のようなものが鳴り響く。


「なっ、なんだこれ!!」


 ドランが動揺する。


「魔法って……使うと、アラートが……鳴るんだよ……」


 昨日のホームルーム、魔法を使おうとしたアリアに先生が言っていた言葉だ。


 魔法を使えばアラートが鳴る。そして、アラートが鳴れば十中八九先生が来るだろう。


 品行方正な貴族学園で校則を破るやつなんてそうそう居ないだろうけどな。


 頭のおかしいバカ以外。


「はっ……だからどうしたよ……」


 ドランが僕の方に歩いてくる。


 その時、一つの人影がドランの背後に立ち、腕を掴んだ。


「はい、動くなよ―」


 ナヅ先生だ。来てくれたのか、早い。


「なっ……」


 ドランがたじろぎ、半歩だけ動いた。


 瞬間、ナヅ先生はドランの腕をひねり、足を軽く蹴って姿勢を崩すと、頭を掴んで地面にたたきつける。


 バンッ!!


 すごい音が鳴り、ドランは動かなくなった。


 ……死んでないよな?


「はい謹慎処分~」


 ナヅ先生はメリーと僕を交互に見る。


「何があったかは知らねぇけど、多分よくやった。ヒューマ」


 そして、僕にそう言って笑いかけた。


「は、はい……」


 僕はメリーの方を見る。


 メリーは無事そうだ。


 怪我もしていない。


 なら、よかったか。


 あっ。


 やばい、安心したせいで意識が……。


 倒れこみそうな僕の視界に映ったのは、メリーの制服。


 視界が真っ黒に染まる。


 トサッ……


 なんか、やわらか……い……




 目が覚めた。


 知らない白い天井。


 でもまぁ、多分保健室だろうな。


「大丈夫ですか?」


 僕の視界に映ったのはメリーの顔。


「はい、なんとか……」


 僕は痛む体を無視して上体を起こす。


 その時、奥に居る保健室の先生が僕が起きたことに気付いた。


「いやー、大変だったわね~。魔法使われたんだって?可哀想に~」

「ナヅ先生も心配……してはなかったかな。かるーい回復魔法はかけたから、お大事にね~」


 先生は穏やかな語り口で僕にそう伝える。


「はい。そうします」


 僕はそう答えて、メリーの顔を見た。


「メリーさん、えっと……」


 なんて言うべきだ?


 まずは謝罪か。勝手に事情に首突っ込んで、関係を悪くさせてしまったわけだし。


 もしかしたら、これのせいでトゥメルト家はもっと追い込まれるかもしれない。そしたら僕は……


「ありがとうございます」


 メリーが僕に頭を下げた。


 ……え?


「わたくし、怖かったです。でも、助かりました」


 そして、頭を上げて僕の顔を見る。


「改めてありがとうございます。ヒューマ」


「……どういたしまして」


 僕は少しだけ笑う。


 格好はつけられない。ただボコされただけだけだし。


「おーい!ボコされたって聞いたぞ!大丈夫かー!」


 その時、保健室にアリアとデリヴェ、そしてフェトムが入ってくる。


「大丈夫ですよ。心は元気です」


「体はダメってことだな」


 フェトムがため息を吐いた。


 デリヴェとアリアは何の許可もなしに僕のいるベッドの上に座る。


 少しは遠慮しろよ。


「いやー、大変だったなヒューマ。トゥメルトさんも大丈夫だったか?」


 デリヴェがメリーに聞く。


「はい。ヒューマのおかげで」


 メリーが答えた。


 大丈夫ならよかった、大丈夫なら……


 頭が、くらっとした。


 そして、押し殺していた睡魔がだんだん襲ってくる。


「ごめんなさい。少し寝ますね」


 僕は再度横になる。


「おやすみ」


「おう。おやすみー」


「おやすみなー」


「おやすみなさい」


 僕は目を閉じる。


 体は痛い。


 けど、メリーを守れて良かった。

最後まで作品を読んで下さりありがとうございました!


面白かったらぜひブックマーク、高評価、感想をよろしくお願いします!


次話もお楽しみに!

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