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俺と彼女の動物虐待  作者: 中高下零郎
俺とあげはの動物実験
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俺とあげはと動物の常識

「……あの、鹿野さん、これ……何?」


 呼ばれた俺が彼女の研究室に向かい、彼女が読んでいる本を後ろから覗くと、そこに描かれていたのは二匹の虫が愛を語り合っているという誰向けなのかよくわからない内容であった。


「タガメ×ゲンゴロウよ。両方オスよ」

「あ~……あれですか、鹿野さんも、そういう、あれですか」

「芸術として嗜んでいるだけよ。本当の同性愛は芸術なの、美しいの。そこらのゾンビがキャーキャー言ってるような、偽物の同性愛と一緒にしては作者に失礼というものだわ。さて、そこのコードがたくさんある椅子に座りなさい」


 うっとりとした表情で本を閉じる、素人の俺からすればそこらのゾンビとの違いがわからない彼女。言われるがままに椅子に座り、察しがいいので自分から身体につけるであろう装置をペタペタと貼っていく。


「電気とか流れないよね?」

「まあ電気ですって、天使のような心を持った私にはそんな発想はできないわね、流石日頃から動物を虐めているだけのことはあるわ。冗談はおいといて、これは貴方の興奮度、それも主に性的興奮を測るための機会よ」

「ほほう、自分のスタイルに自信のない鹿野さんが自分の魅力を測るために今から脱ぐと」


 自分で興奮して欲しいだなんて、何て鹿野さんは可愛いんだろうかと脱ぐ前から興奮する俺。そんな俺を見ながら、彼女は無表情でリモコンを操作する。すると俺の身体にビリビリと電流が走った。


「あああああああっ!?」

「これの本来の用途を教えてあげるわね。宗教の原理主義者が禁じているロリコンや同性愛者を炙り出して処刑するために開発されたのよ。安心しなさい、天使のような心を持った私は人体に影響が無いレベルにまで威力を下げておいたから。というわけで貴方のロリコン度を測ってあげるわ。じゃあとりあえず16歳から」


 本当に流れるのかよと絶望する俺をニヤニヤと眺めながら、悪魔のような心を持った彼女はモニターに水着姿の女の子を表示させる。16歳。余裕で抱ける。


「はい電流」

「あばばばばば……いやいや、何で16歳で流すの!? おかしいよそれは?」

「世間的には大人がJK好きになる時点でロリコンだと思うわ。私は民意に従うの。はい次15歳」

「余裕。あれだよね、中学を卒業までに処女も卒業しないとって焦る子が出てくるんだよね、だから狙い目なんだよ」

「はいギルティ」

「おほおおおおおおお!?」


 その後も彼女の拷問は続く。最終的に9歳のスクール水着を着た幼女が出てきたところで、流石にこれには欲情しないわと俺の脳が大人しくなってくれたことでようやく俺は解放される。痺れてうまく動かない身体で席を立とうとして、そのままぐにゃあっと床に倒れこむように突っ伏してしまう俺を笑いを堪える表情をしながら眺め、近くにあった俺の興奮度のグラフを見る彼女。


「なかなかのロリコンね。でも安心しなさい。人間としてはロリコンは異常じゃないわ。人間の歴史的にはロリコンが認められていた時代の方が長いと言ってもいいかもしれないわね」

「じゃあ何で電流流したの」

「キモいものはキモいじゃない、どんなに納得いく説明されたって生理的嫌悪感は無くならないわよ。腐った女は貴方からすればキモいでしょう? どれだけ『ホモが嫌いな女はいない』と説明されたところで、キモいものはキモいでしょう?」

「それもそうか」


 ロリコンは異常じゃないと言いながらもキモいと断定する彼女。全くもって彼女の言う通りだと俺も納得してしまう。どんなにきちんとした理由があったって、現代の女性はロリコンを認めないし認めることは彼女達の存在価値を無くすことに繋がってしまうから認める訳にはいかないだろう。彼女は先ほどまで読んでいたタガメとゲンゴロウの本を再び開き、読みながら話を進める。


「同性愛は、動物の世界ではそこまで珍しいというわけではないわ。だから人間は同性愛を認めるべき。そう思う?」

「人間は人間でしょ。マイノリティだよ。異常だよ」

「そうね。大半の人間は屁理屈だとしか思えないでしょうね。でも最近はマイノリティの声も大きくなってきたわ、平等だなんだと都合のいいことを並べている現代、そんな理論がまかり通るのかしらね。私怖いのよ。動物の世界の常識なんてものが、人間の世界に雪崩れ込んでくるのが。レイプだって、いじめだって、托卵だって、生き物という枠で考えたら間違った行動でも何でもないの。寧ろ合理的とすら言えるかもしれない。けれど、私達は人間よ。認める訳にはいかないわ。例え羊水が腐ろうが、障害を持った子供が産まれる確率が高くなろうが、若いうちから女の人生を男に委ねるべきではないわ。晩婚は必然なの」


 IPS細胞の研究次第だが、同性愛を認めてしまえば子供ができないし、ロリコンを認めてしまえば女性の立場は悪くなる。いじめや弱肉強食なんてもってのほかだ。都合のいい時だけ動物の世界の話を持ち出せば、いつか都合の悪い時に動物の世界の話を持ち出されてしまう。だから人間はそこらの動物とは違うのだと自覚しなければいけない。下等な動物がやっているような行為は辞めなければいけない。そう語りながら、彼女は部屋の片隅で飼われているカマキリとクモを見やる。


「以前私は、女性優位なカマキリとクモを研究して、強い女性を目指そうと言ったわよね。でも、本当に私がやるべきは逆じゃないかって、この頃思うのよ」

「逆って言うと、カマキリとクモを、女性優位で無くすってこと?」

「そう、その通りよ。だってまずいでしょ、交尾の後に相手を食べちゃうなんて。そんなの、人間の価値観からしたら許されないことだわ。人間より遥かに繁殖のスパンが短いこの子達なら、現実的に可能なはずよ。可能だとして、許される行為なのかしら。人間は動物を自分好みに変えてきたわ、家畜化したり、交配させたり、全ては人間のためという大義があるから許される行為、私はそう思っている。けれど私が考えていることは違う。カマキリやクモが女性優位で無くなったところで、人間に大した影響はない。完全に人間の自己満足。人間の価値観を押し付けるだけの。そんな自己満足で、生き物を変えてしまっていいものか。人間は動物を好き勝手していいものか」


 人間は秩序を大切にする生き物だ。けれども今のところ、外の世界にまでそれを強制したりはしていない。ネコのように食べもしない生き物を殺すのも、カマキリのように交尾の後にオスを食べてしまうのも、イルカのように一匹のメスを集団で犯すのも、カッコウのように他の鳥に育てさせるのも、ライオンのように別のオスの子供を皆殺しにしてしまうのも、これが人間だったら大変なことだが、『生きるって美しいよね』とでも言いたげに放置している。やろうと思えば彼女の言う通り、人間を変えるよりずっと簡単にできるはずなのに。


「そんなことをする暇があるなら、人間に尽くそうよ。カマキリやクモを食用にでもしてさ」

「そうね。そんなことをしていいのは、それこそ神様だと私も思っているわ。人間はまだ他の動物を気にしてられるほど、余裕のある生き物では無い。さぁ味噌汁、今日もネズミとゴキブリを捕まえるのよ。人間のために。いつか人間が神様のようになるために」


 実際のところ傲慢な考えなのだろう。利益にならないことをしていられる程、人間は余裕に満ち溢れた生き物ではない。けれどもいつか、いつか人間が更に優れた種族になったならば、自らが崇めていた神様のような生き物になれたのなら、そんな時が来るのだろうか。味噌汁に餌を与える彼女を眺めながら動くようになった身体を起こし、神様のように進化したいと願う彼女の優れた遺伝子を残すために、『俺はなかなかのロリコンだけど、だからこそ鹿野さんくらいの中途半端なスタイルでも興奮するから安心して』とフォローして照れながらも冷たい目で見られるのだった。


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