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俺と彼女の動物虐待  作者: 中高下零郎
俺とあげはの動物実験
11/57

俺とあげはとハチモンマスター

「私ああいうの嫌い。人間の理想と欲望を詰め込んだだけの話、まるで女の書いた夢小説。あるいは二次創作の枠を占拠する腐った小説。見てるだけで気分が悪くなるわ」

「そんなもんかねえ。じゃあ今度リベンジしようよ」

「そうね。丁度来週から凜子ちゃんの上映が始まるのよ」

「何それ。聞いたことないけど」

「まぁ、あの90万人が泣いた話題作を知らないなんて」

「ページビューの数を勝手に泣いた数にする最近の風潮はどうなの、しかもユニークアクセスわかるのに」


 夏休み中盤。俺は普通に彼女とデートをしていた。映画でも見ようよと誘って、承諾を貰って、待ち合わせして、映画を見て、ファミレスでご飯食べて、ついでに次のデートの約束も取り付けて。夏って素晴らしい。ファミレスを出た後、特に目的も無くその辺をぶらぶらと歩く俺達。


「次どこ行く?」

「貴方が決めて頂戴。ホテル以外でね」

「じゃあそこの公園の茂みにでも」

「あら、いいセンスしてるわね。珍しい虫がいそうだわ」


 ホテル以外でねと言われたので、公園の茂みでアバンチュールしようよと冗談をかましてみたのだが、悲しいかな通じていないようだ。結果的に好感度が上がったようなのでいいけれど。公園に向かい、手袋をして虫眼鏡を持って、さぁ探すぞと意気込んでいる彼女だったが、突然の邪魔が入る。


「おいおばさん、そこ退けよ」

「おば……!?」

「そこはホネットンが出るんだよ、狩り場所なんだよ」


 いかにも夏休み中の小学生ですと言わんばかりのクソガキ集団だ。おばさん扱いされてわなわなと震える彼女など目にもくれず、スマートフォンを取り出してその場にたむろする。怒りを鎮めるために何度か深呼吸をしながらその場を離れた彼女が、ぼーっと突っ立っていた俺に手招きをする。


「銃貸して。ハチの巣にする」

「駄目です」

「いつ殺るか? 今でしょ」

「違います。さあアイスを食べよう、甘い物を食べれば嫌な事だって忘れるさ」


 深呼吸をしても怒りが全然治まっていない彼女の手を強引に引き、近くのアイス屋さんに連れて行く。甘ったるいハニートースト味のアイスを口に突っ込みながら、悔しそうに何度も地団駄を踏む彼女。


「復讐するわよ。手伝いなさい。デート中の女の子を馬鹿にされて憤慨しない男に私は股を開かないわよ」

「わかったから女の子が軽々しくそんな言葉を使うんじゃありません。そして俺はそんな身体目当てで女の子に接してるわけじゃありません、そこは誤解しないで欲しい」

「公園の茂みにでも行こうよとか言ってる全身下半身男が何か言ってるわね」

「それより、さっきの子供がホネットンって言ってたけど、あれはハチモンGOだね。ホネットンは元のゲームでも経験値稼ぎでお世話になるハチモンだったから、GOでもよく狩られてるみたい」


 先ほどのセリフをきちんと受け止めていた彼女のアイスのように冷たい視線から目を逸らし、先ほどの子供があの公園に来た理由を説明する。俺が子供の頃に流行っていたゲーム、ハチモン。そのハチモンをAR技術を用いて現実世界で捕まえられるようにしたのがハチモンGOで、ブームがやや去った今も小学生は飽きずにやっているようだ。


「ふうん。私は名前くらいしか知らないけど、ハチだのホネットンだの、私が食べてるこれ?」

「そうだよ、ハチがモチーフだよ。ホネットンはホーネットと骨をかけたハチモンで、虫とアンデッド属性を持っているんだよ」

「なかなか面白そうじゃない、私もやればよかったわ……この辺りにハチの巣はないかしら。銃で撃ったら巣が落ちて、下で遊んでるクソガキ共が冥府に行くようなハチの巣が」

「落ち着きなよ鹿野さん。鹿野さんまで冥府に堕ちる必要はないよ」


 アイスを食べて顔を緩めながらも、本気でハチの巣を探しているのかキョロキョロと辺りを見渡す彼女。そんな簡単にハチの巣があるわけないし、あったとして見つかる場所にあったら駆除されるだろうにと冷静になっていると、


『ブゥゥゥゥゥゥゥン』

「ひぃぃぃぃぃっ!?」

「お、おおお、落ち着きなさい、ハチは黒いモノに群がるのよ、だから黒いモノがあったら捨てなさい、えーと、えーと、そう、下着を捨てなきゃ」


 それだけで人間を硬直させる恐ろしい羽音と共に、目の前に巨大なハチが現れる。俺は固まってしまい、鹿野さんも気が動転して下着の色をカミングアウトする始末。刺されるのが先か、彼女が下着を脱ぐのが先か、ドキドキしながら審判の刻を待っていたが、一向にハチはこちらを刺そうとしない。


「……って何よ、クマバチじゃないの」

「何だクマバチか。俺の地元だとクマンバチだけど」


 目の前をブンブンと飛んでいるそれが温厚なクマバチだと気付いた彼女は、勇敢にも素早く手を伸ばして掴み取る。流石にそれはまずいんじゃと心配する俺に、捕まえたクマバチを見せる彼女。


「外で飛んでるのは基本オスよ。ほら、刺す動きはしてるけど針がないでしょ。ねえ、そこに落ちてるそれ」


 刺すこともできないのにヘコヘコと下半身を彼女の手に押し付けている、見ようによっては犯そうとしているようにも見えるクマバチを掴んだまま、近くに落ちているガチャガチャのカプセルのゴミを見る彼女。察しのいい俺がそれを拾って持ってくると、彼女はクマバチをその中に入れてカチャリと閉めた。


「クマモン、ゲットよ!」

「ちょっとその名前はまずいかな」


 辺りにはマナーの悪いマニアが捨てたのか、他にもいくつかカプセルのゴミが落ちている。それを見て、彼女はとても悪い笑みを浮かべた。


「架空のハチで遊ぶのもいいけれど、やっぱり現実のハチを知った方が子供の成長にはいいわよね。その辺を飛んでいるクマバチは怖いけど安全だということを教えてあげましょう。都合のいいことに花畑があるし、この分なら後数匹くらい見つかるかもしれないわ」


 カプセルを手に持ち、クマバチが好むらしい花の周辺を探し始める彼女。俺も同様に探していると、早速一匹発見する。オスは刺さないから大丈夫だと言われても、やはり彼女のように手で掴むのは抵抗があるし、そもそも実はメスだったりしたら大変だ。それでも彼女の喜ぶ顔が見たくて意を決して捕まえようとするが、鈍重そうに見えてもやはり羽根の生えた虫、人間に怯えて逃げ出してしまう。先ほどの彼女の捕獲はかなりのファインプレーだったらしい、鹿野さんの方を見ると彼女は彼女で別の個体を見つけたが悪戦苦闘している模様。


「鹿野さん、もう辞めた方がいいんじゃ。そもそもクマバチだけがこの辺にいる保証なんて無いでしょ。ミツバチやスズメバチもいるかもよ」

「うっ……た、確かにそれは考えて無かったわね、流石にあいつらを刺激したらまずいわ。私としたことが、怒りで冷静さを失っていたわね。仕方が無いわね、この1匹であのクソガキ共とハチモンバトルよ」


 小さく羽音が聞こえるカプセルを手にしながら、先ほどの公園に向かう俺達。鹿野さんをおばさん扱いした怖いもの知らずなガキ共は、キャッキャと騒ぎながらスマホを弄っていた。


「おとなのおねえさんがハチモンバトルを仕掛けてきた! おとなのおねえさんはクマモンを繰り出した!」


 物陰から恥ずかしいのか小声でそんな事を呟きながら、カプセルを彼らに向かって投げる彼女。絶妙なコントロールによりカプセルは無事に近くに投げ入れられたが、閉めすぎたのかカプセルが開かないという問題が発生。彼女は悔しそうな顔をしながら、俺のカバンを見る。


「出番よヒットマン」

「えー……日中から銃を使うのはちょっと……というかそれなりに人もいるし最悪バレるって」

「私を信じなさい。総合病院の跡取りよ、ある程度の犯罪なら揉み消せる気がするわ」

「そりゃまた素晴らしい自信で」


 彼女以外誰も見ていないことを確認すると、ため息をつきながらカバンから愛機を取り出して狙いを定める。狙うのはカプセル。クソガキに直接当てたいのはやまやまだが、俺もそこまで悪魔じゃない。神経を集中させてトリガーを引くと、パァンとカプセルに弾が当たる音。そして解放されたクマバチがブゥゥゥゥンと飛び出す音。


「ぎゃあああああああああああ!」

「うわあああああああ!」

「ハチだああああああああ!」


 そしてクソガキ共の絶叫。一目散に逃げていく彼らを眺めながら、ガッツポーズをする彼女。その後、祝勝会ということで居酒屋に向かう俺達。何杯か飲んでいい感じに酔ってきた俺は、思い切ってアプローチを仕掛けてみることに。


「そういえば憤慨しない男に股は開かないわよとか言ってたけど」

「憤慨したら開くとは言ってないわよ」

「んだよーいいじゃんかよー俺かなり鹿野さんに尽くしてるんだから一発くらいさー、そもそも黒い下着って普通は勝負用じゃないんすか? それともアレですか? 破瓜が怖いんですか?」

「……!? そそ、そ、そ、んな、訳、無いじゃない、わ、私は、単にプラトニックなだけよ、別に、怖いとか、有り得ないから」


 どうやら本気で破瓜を怖がっているらしい。可愛いところあるなあと思いながらも、あまりにもデリカシーのない話をしてしまった自分の愚かさから、イケると思ったけど断られてしまった悲しさから逃げるようにお酒を注文するのだった。





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