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合流

本部のテント内は、外の喧騒が嘘のように静まり返っていた。

 

だが、その静寂は密度の高い殺気で満ちている。


各地から集まった隊長クラスのプレイヤーたち。一人一人が、一軍を率いるに相応しい、圧倒的な異能の気配を纏っていた。

 

「稔、やっと来たか……」


奥に座っていたのは、顔に深い傷跡を持つ、岩のように頑強な顔付きの男だった。アイギス本部の幕僚長。この数万人の頂点に立つ、歴戦の猛者だ。

 

「遅れてしまい申し訳ございません。……それと、道中で『家族団欒ファミリー』の幹部に遭遇しました」


その言葉が放たれた瞬間、テント内のすべての視線が稔隊長に集中した。針を刺すような鋭い視線の数々。だが、隊長は一切動じることなく報告を続ける。

 

「どんなやつだ」


幕僚長の短く、重い問いかけ。

 

「はい。我々が遭遇したのはファミリーの幹部、『次女』。能力は毒。周囲のコンクリートを溶かすほどの高濃度な毒霧を排出し、さらに弾丸すら溶かす毒の塊を放つことができます」

 

周囲の隊長たちの間に、わずかなざわめきが広がった。弾丸すら溶かす毒。防御不能の範囲攻撃。


「そいつを殺したのか?」


幕僚長が再び問いかける。その瞳は、報告の正確さだけでなく、名古屋ラボの「実力」をも推し量るような冷徹さを帯びていた。

 

「いえ……。瀕死まで追い込みましたが、例の『アイギス精鋭部隊を5分で壊滅させた男』――長男が乱入し、次女を抱えて逃げました」


テント内の空気が、一段と冷え込んだ。


あの「鉄の塊」の長男。その名が出ただけで、ベテランの隊長たちの顔に緊張が走る。

 

「……なるほど。あの化物と戦って、生き残ってここまで来たというわけか」


幕僚長は椅子に深く背中を預け、唸るように言った。

 

「稔。お前たちが持ち帰った情報は貴重だ。奴らは単独ではなく、連携して動いている……。そして何より、我々が総力を結集しているこの状況でも、奴らには『引く』という選択肢がないということだ」


幕僚長は立ち上がり、巨大なモニターに映し出された新宿の地図を指し示した。


「現在、新宿の各地で断続的に戦闘が始まっている。名古屋ラボ、お前たちには西新宿を担当してもらう。いいな?」


幕僚長の重厚な声が、テント内の空気を決定づけた。


名古屋ラボ一同、迷いなくその場で敬礼を捧げ、背を向けてテントを去った。


一歩外に出れば、そこには数万人のプレイヤーが放つ殺気と、排気ガスの匂いが混じり合った異様な熱気が渦巻いている。


「始まるんですね……」


俺は隣を歩く隊長に、震える声を押し殺して言った。

だが、隊長は歩みを止めることなく、呆れたように鼻で笑った。


「アホか。既に始まっとんねん」


どんな極限状態にあっても、隊長は隊長のままだった。その「いつも通り」の態度が、今は何よりも頼もしかった。


俺たちは再び護送車に乗り込み、西新宿へと向かった。


わずか数十分の移動。だが、窓の外に広がる景色は、俺が友達と遊びに来ていた「日本の中心」とは無縁のものだった。


天を突くようにそびえ立っていたはずの超高層ビルは、中層階から無惨に崩落し、剥き出しの鉄筋が牙のように空を睨んでいる。シャッターはひしゃげ、アスファルトには巨大なクレーター。


そして何より、いたるところに転がっているアイギス車両の残骸が、ここがすでに「最前線」であることを無言で告げていた。


(……これが、戦場か……)


俺は腰の短剣を、無意識に強く握りしめた。


掌に伝わる感触が、自分が今、命のやり取りをする場所の真っ只中にいるのだと改めて実感させる。

 

「おい……あれを見ろ」


後部座席で外を警戒していた石井さんが、低く鋭い声を上げた。


崩落した都庁の影から、ゆっくりと這い出してくる「何か」。

 

それは、さっき次女が連れていた巨人よりもさらに禍々しく、不自然な形をしていた。


猛スピードで地響きを立てながら突っ込んでくる石の塊。


日の光に照らされたその巨体は、不自然に角張った岩石が磁石で吸い寄せられたかのように組み合わさった、異様な姿をしていた。

 

(アイギスの車両を潰して回ってたのは、こいつか……!)

 

「異世界アニメに出てくるゴーレムかいな!」


隊長が呆れたように叫ぶ。


装甲車とゴーレムの距離がゼロになろうとしたその刹那、後部座席のドアが勢いよく開いた。


「……邪魔だ」


西村さんが、いつの間にか両手に持っていた巨大なリングを凄まじい速度で回転させる。

 

遠心力で重力すら無視したような加速を得たリングが、空気を切り裂く高周波の音を立てて放たれた。


それは「切断」というより「空間ごと削り取った」ような一撃だった。


突進の勢いそのままに、ゴーレムの上半身と下半身が真っ二つに泣き別れ、数トンの岩石が派手な音を立ててアスファルトに崩れ落ちた。

 

「ふぅ……危なかったな」


西村さんがふらつきながら戻ってきたリングを回収する。

 

だが、俺は「未来視」を解くことができなかった。


真っ二つになったはずの岩の山から、まだ不気味な「魔力」のような気配が消えていない。

 

「西村さん、まだです! 下がって!」


俺の叫びと同時に、崩れ落ちた岩の破片一つ一つが、生き物のように跳ねた。


まるで散弾銃のように俺たちを目掛けて降り注ぐ。


「未来視」が警告を鳴らすが、これだけの数と範囲は、俺の『加速』を使ってもすべては避けきれない——そう覚悟した瞬間だった。


隊長がひらりと俺たちの前に躍り出た。

 

「【能力:拒絶物体アンチ・オブジェクト】」


その言葉と同時に、空気が爆発したような錯覚に陥った。


俺たちの目の前にあったすべての「物体」が、まるで巨大な透明の壁に叩きつけられたかのように、凄まじい勢いで逆方向へぶっ飛んでいく。

 

岩の礫は瞬時に粉々になり、ビルの壁へと埋まった。


……しかし、その凄まじい「拒絶」の余波は、俺たちが乗っていた装甲車にまで及んでいた。

 

「うわああああっ!?」


バキバキと音を立て、アイギスの誇る装甲車がまるで紙屑のようにひっくり返り、数メートル先まで吹き飛んでいく。

 

「何してんですか隊長!! 味方の車ですよ!!」

俺は逆さまになった車内で、シートベルトに食い込みながら叫んだ。隣では西村さんが「もう……吐く……」と限界を迎えている。

 

「なんも考えずに使ってもうた! 反射的に全方位弾いてもうたわ、ダハハ!」


隊長は頭を掻きながら、ひっくり返った車の上に軽々と着地した。


どんな攻撃も無効化する最強の盾。けれど、その力は時に味方すらも容赦なく巻き込む「無慈悲な拒絶」だった。

 

「……あはは⭐︎ 隊長、相変わらず大雑把だねー⭐︎」


新島さんが、ひしゃげた窓からひょっこりと顔を出し、ライフルを構え直す。


だが、その視線の先——。


隊長の派手な一撃で一掃されたはずの空間に、再び「ノイズ」が走った。


「……えー、俺のゴーレム、あんな雑な能力で壊しちゃうの? せっかく設定凝ったのにさ」


上空から、不満げな男の声が降ってきた

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