第1話:目覚
書き始めて約二年。なろうに投稿して約一年。
読者の皆様のおかげで第四章まで書けてこれました、本当にありがとう!
「通信! 通信! class4が生まれた! 対処を求む!」
怒号のような緊迫した声が、焦げついた空気を引き裂く。無線の信号音、鳴り止まない銃声音と爆発音が重なりあい、戦場となった拠点の重苦しさがひしひしと伝わってくる。
「煌夜隊長! こちらはclass1の群れと、数体のclass3で手一杯です!」
「なんとか持ちこたえてくれ! 必ず助けに行く!」
無線越しのその声は荒々しく切羽詰まった様子ではあったが、煌夜は部下に諦めないように発破をかける。
「そろそろ、おいちゃんたちもclass3くらい余裕で倒せるようにならんとね。異能の覚醒条件が分からんてのが、ほんま厄介だ!」
独特な喋り方の男は、汗だくの額で真剣を構え、煌夜と背中を合わせて数体のclass3を睨みつける。
「まったくだ!」
class3と対峙するのは皐月と煌夜。
class4との死闘で重症負った繋と東京からの刺客から避難民を同時に守りきるのは困難と判断したシグルは、新たな協力者・皐月に託して、繋だけを別の場所、埼玉の軍事拠点に匿った。
それが、ここ――埼玉の軍事拠点である。
埼玉には新たな協力者である皐月と煌夜。
冬吾と春臣は東京から差し向けられたゾンビの大群に対処する為に広島の拠点へ戻り、一方、ヒカルと菊香はシグルの指示のもと、ゾンビを凶暴化させ誘導させる薬品を製造する研究施設の破壊任務に向かっていた。
そして誰もが繋の目覚めを願いながら、各々の戦場で戦っていた。
……その頃。
重傷で昏睡していたはずの繋は、懐かしく温かい記憶と共にパチリと瞼を開けた。
「ヒョードル?」
「───って、あれ?! また知らない天井だ!」
目に映ったのは、いつも寝泊まりしていた軽トラックの天井ではなかった。木目調の天井——しかしコテージのようないかにも人工的な優雅さではなく、合理性を重視して人の手で急ごしらえされた、簡素な造りの白い天井だと気がつく。
「そっか、ここは京都でも奈良でもないんだ。class4と戦った後……」
繋は自分が置かれている状況を冷静に分析する。身体中に包帯が巻かれ、動こうとするときしみが走る。
特に重傷だった腹部の痛みを思わず確かめるため、そっと手を当てる。驚いたことに、致命傷だったはずの傷口は自動回復魔法のおかげで瘢痕こそ残っているものの、いまはしっかりと塞がっていた。
(でも、あのとき魔力はほとんど枯渇してたんじゃ……。誰かが助けてくれたのかな?)
ぼんやりとした思考のまま、もう一度身体をなぞる。包帯越しに温もりが伝わることだけが、現実だと感じさせてくれた。
「そして、みんなはどこだろ?」
広々とした無機質な個室。ベッドと点滴、それ以外は何もない。
まるで病室のような静けさに、いつも一緒にいた二人がいない事に寂しさを感じる。
(菊香ちゃん達は無事京都に着けただろうか……)
思考を巡らせるが、気絶して以来の出来事はまったく思い出せない。
「今はどこで、近くに誰がいるんだろうか」
そこで繋は、ごく自然な動作で短杖を何もない空間から取り出し、感知魔法を行使した。
「この気配は……煌夜くん、それと誰だ? この人は……」
数ある生命エネルギーを発する群衆の中から一際強い気配がする。
それにポイントを当てると、一人は煌夜の気配だと感知する事が出来た。
そして彼に似た強い生命エネルギーを纏う人間の存在、そして何人かの能力者たちがclass3と激闘している様が、脳裏に届く。
「異能力者は生命エネルギーが大なり小なり差はあるけど、普通の人たちと比べると、随分と識別しやすくなったな……。でも、このもう一人は誰だろう?」
近くに春臣の気配はない。恐らく別行動だ。なら、この新たな存在は?
「新しい協力者なのかな?」
意識を失っている間に、どれほどの時が経ったのか分からない。それでも、仲間が増えていることに繋の心は少なからず安堵した。この混沌の世界で敵対者よりも味方が増えていたなら、それだけで僅かな希望を感じてしまう。
——とはいえ、敵対勢力はまだ多い。特に東京本部は、彼らにとって明確な"敵"であることに違いない。
ゾンビ化現象の原因が、空から飛来した未知の何か——それ自体がこの世界を剪定し、淘汰するための意思を持つ、と仮定すれば、もはやその正体は”魔王”と呼ばれても差し支えない。
そこまで考え、繋は「よいしょ」と独りごちてベッドから降りる。
点滴の針を抜いて試しにストレッチがてら身体を動かしてみる。
身体は存外よく動き、痛みもほとんどない。これで二度目の昏睡だが、充分に魔力は回復し、class4との戦いも経験値として己の中で糧にできていた。
次こそ遅れは取らない。今はそう確信が持てた。
身体の隅から隅まで魔力を流す。
class4との戦いでは少ない魔力量を節約しながら戦わらないといけなかったが、今はそんな事を気にせずに魔力が身体に満ち足りていると分かる。
%ゲージで言えば、やっと80%近くまで回復した。
今まで使う事を控えていた概念抽出魔法の複数展開も、大規模魔法も、ある程度気にせず使う事が出来る。
「よし、急いで支援しに行かなくちゃ!」
愛用の短杖を再度手に出現させ、ひゅっと一振りする。すると包帯だらけだった自分の体は瞬時に普段着へと変わった。
さあ、と思った矢先——
「ガチャリ」と扉が開き、見慣れない青年が立ち尽くす。手に持った新品の包帯と消毒液。自衛隊の迷彩服から彼が衛生兵であることは明らかだった。
「も、もう動けるんですか?! まだ安静にしないと……!」
驚きのまま固まる青年に、繋は微笑みかける。
「ありがとう。もう大丈夫」
穏やかな口調で礼を告げ、事情を説明する。戦う仲間たちを助けに行くつもりだと。
「でも……病み上がりなんですよ……」
不安げに繋を気遣う青年。そんな彼に繋は「ありがとう」と素直に感謝の言葉を告げた。
「でも、皆戦ってるみたいだし、少しでも戦力として戻らなきゃだからね」
彼の優しさに内心温もりを感じつつも、繋は青年の気持ちだけを貰う。
現状、煌夜達がゾンビの大群と死闘を繰り広げている。少しでも被害を抑える為には、動ける者が即座に動かねばならない。
(それに、スタンピードの事、東京の件もある。戦力は残しておきたい)
どこか冷たい判断だと、自分自身も思う。しかし綺麗事だけで救える世界でないことは、異世界での旅路で何度も痛感していた。
(だからといって、犠牲者を増やすつもりはない)
やれる事はやる。とギリギリまで最善を尽くすのが自分達スヴィグルの勇者パーティだと気合を入れる。
繋は「大丈夫」と短く告げ、他にこの拠点に人がいるか尋ねると、
「ここのキャンプ地には負傷者と衛生兵、そして万一に備えた少数の戦闘員だけです……。一昨日にはclass1と3の大規模襲撃があって、みんな眠らずに限界寸前で……」
青年の口ぶりから、ここを守る苦労が痛いほど伝わった。
「分かった。ありがとう。じゃあ負傷者や他の人たちの所へ案内してくれる?」
青年は一瞬戸惑ったが、繋の目を見て決意したように頷いた。
辿り着いたのは、土の上に大量のレジャーシートが敷かれ、包帯と血と呻き声が充満している仮設野営地だった。かつてのキャンプ地とは打って変わり、ここは地獄と呼ぶには相応しかった。
目の前に広がる惨状を見て、繋は眉間に皺を寄せる。
「酷い……」
思わず、そう呟いてしまう。
異世界でも見慣れた光景だったが、慣れる事などなく、凄惨な光景に胸を痛ませる。
「医療器具も、包帯も全部使い切ってしまって、ぼろ布を千切って何とか止血するのが精一杯なんです……」
青年が繋の隣に立って、現状を説明してくれた。口は僅かに震えているのが分かる。よほど精神的にもきているのだろう。
そんな彼に繋は「よく頑張ったね」と告げた。
「え?」
「ここまで、良く何とか持ちこたえたね」
「そんな……褒められる事なんて、なんにも───」
「ううん。生きていれば、僕が何とか出来るから」
そう。この場所には渡繋がいる。
この場所には治癒能力を持つ異能者は居ない。
この場所には人を癒すための包帯も消毒液も尽きている。
この場所には───ここには、魔法使いがいる。
「うわッ」
青年の周りに一陣の風が強く吹く。
繋の周りに魔法陣が浮かびあがり、橙色の花びらを模した魔力が吹き荒れた。
「概念抽出魔法同時展開」
「不死の花園、対死人結界」
「───発動!」
呟くがごとく唱えると、空中にふわりと二枚の栞が現れた。短杖で栞をなぞるように杖を横に振ると、大地から赤い花弁が次々と咲き誇り始め、傷つき倒れていた者たちを包み込むように治癒し始める。
さらに、頭上高くにはシャボン玉のような光球が連なり、地面に触れると同時に防護結界が拠点全体を覆うように展開された。
誰もが、その光景に息を呑む。 青年は、繋の後ろ姿を見て思わず興奮気味に呟く。
「……すごい……!! これが、噂の魔法使い……!!」
どこか既視感のあるセリフ。かつて初めて出会ったとき、菊香が零した言葉と同じだった。
繋は「ふふふ」と懐かしい過去を思い出しては、肩の力を抜き、朗らかに笑った。
「結界を張ったけど、安心はしないで、念のため逃げれるときは逃げるように」
そう言うと、繋は空間魔法で虚空からゾンビの動きを遅くする煙玉を何個かひょいひょいと青年に手渡す。
「もちろん、近くにいるゾンビは任せて。煌夜くん達を援護する前に今から退治してくるから」
杖を長く変形させ、固まっている青年にいつもの調子で、まるで散歩に出かけるような口調で語りかける。
「じゃ、行ってくるね!」
風が周囲に渦巻き、枯れ葉が舞い踊る。
突風が渦を巻き、繋の身体を天高く押し上げる。
まるで映画のワンシーンのように、曇天の空へと舞い上がる魔法使いのその姿――絶望の只中に差し込む希望の光となった。
人々はそれぞれの瞳に光を宿し、遠ざかる繋の姿が見えなくなるまで追い続けた。
青年と負傷した兵士たち、他にも疲れ切った衛生兵達が空を見上げる。
太陽の光に照らされた魔法使いを。
自分達の希望をその目に焼き付ける。
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