小話:ヒカルとの出会い
2025/8/12 全改稿
───卒業式前日のあの日を思い出す。
ゾンビパニックが起き、なんとか逃げながら家に帰り着くと、そこには既にゾンビ化していた両親が待っていた。
その時の光景を、その衝撃を今でも覚えているし、自分を襲ってくる両親から逃げ走った、あの時の、絶望と混乱を今でも覚えている。
走りに走って、逃げ惑い、辿り着いたのが通学用に使っていた駅だった。
そこでも、数十体ものゾンビが駅を彷徨うように歩いていた。
菊香の後ろから、迫ってくる自分の両親のゾンビの足音が聞こえる。
絶望と悲しみに染まる心。目を閉じ諦めようとしたその瞬間───ガン!!っと金属音が鳴った。
金属音が鳴った方へ顔を向け、目を開ける。
菊香は息をヒュッと飲み込んだ。目に入ったその光景に驚きを隠せなかった。
そこには、バールの様な物を持った、駅員用の制服に身を包んだ大柄な男性が次々とゾンビに成った人達を殴り倒していた。
菊香はその男が偶に見かける、駅員のおじさんだという事に気付く。
彼が必死にバールを振り回している最中、彼が菊香の方に気付き走って向かってきた。
(いやあ、あの時のおじさん凄い形相だったし、背も高いからめっちゃ怖かったなあ)
菊香はふとヒカルと初めてあった時の出来事を思い出し、苦笑いする。
そして、次の瞬間懐かしむ様な菊香は遠い目をする。
「逃げろ!」と低く怒鳴るような声で叫ぶヒカルが菊香に向けられる。
菊香はその声で、自分がゾンビとなった両親に追いかけられている事を思い出す。
でも、足が動く前につい心が漏れてしまった。感情が追いつかなくなった。
「お父さんと、お母さんなんです・・・」
震える声で、声が出たのを今でも思い出す。
「・・・・・・すまん」
そう一言。菊香とすれ違い菊香の両親に向かっていたヒカルが取った行動は・・・
金属音と肉がぶつかる嫌な音だった。
彼は両親を──“だったもの”を、自らの手で倒した。
彼は自身の大きな身体で菊香の視界を防ぐように、その背で覆い隠しながら
悲惨な光景を隠す。
「やめて・・・! 殺さないで!」
必死に彼のガッシリとした腰を抱いて止めようとするも、彼は止まらない。
涙が止まらなく、泣いてしまう自分と殴打音が鳴り止まない。
殴打音が止んだ後、彼の腰に頭をくっつける自分の頭に大きくて硬い手が置かれる。
「・・・・・・すまない」
彼は大きな手で頭を撫でながら、何度も何度も謝ってくれた。
───それが、菊香とヒカルの初めての出会いだった。
その後は、ヒカルが菊香を連れて共に行動するようになった。
最初の半年は感謝と憎しみが混在した。けれど、やがて時間がそれを和らげた。
互いに手を取り合って、4年近く共に様々な場所をゾンビから逃げ隠れしながら生きてきた。
そして、何度目かの裏切りに会い、絶体絶命のあの夏。
自分達を救ってくれたのが、ケイだった。
そこからは、ご存知の通りだ。
菊香はあの1ヵ月を何度も思い出す、
(あの日々を、もう一度・・・今度は平和になった世界で3人と皆で・・・)
菊香は希望を膨らませ想像する。
あの家で、賑やかで楽しく過ごす3人を。
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