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『ゾンビだらけの世界でただ1人の魔法使い』  作者: mixtape
第2章:シグル・イン・京都

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第5話:魔笛

2025/8/6 加筆修正済み

2026/6/2 大改稿版投稿

(さあ、どうくる?)


 長杖の先を向けたまま、Class3の周囲を探るように視線を巡らせる。


 感知魔法では、Class3の周囲にはそれを守るようにゾンビがいるはずだった。だが、今はその姿が見当たらない。繋(けい)が相手の出方をうかがっていると、先に動いたのは相手だった。


 フルートの不協和音が空気を裂き、音の衝撃波が繋(けい)を襲う。


(──なッ! そんなことまでできるのか!?)


 咄嗟に杖へ魔力を流し、補強した状態で衝撃波を受け流す。


 だが、攻撃はそれだけでは終わらなかった。


 音が鳴り響くたび、音の刃が無数に繋(けい)へ襲いかかってくる。あまりにも手数の多い攻撃に、杖を下から上へと振り上げた。


 ゴッ! と前方の地面が勢いよく隆起し、分厚い土壁ができあがる。


 その壁を盾にして、一瞬でも反撃の糸口を探ろうとした。だが、その直後だった。土の壁が鋭い角に突き破られる。


(ッ……まさか、ここでゾンビ化した鹿を突っ込ませるなんて……!)


 すぐに後方へ跳び退き、相手との距離を取る。


(ヒカルさんから聞いてた通り、やっぱりある程度の知能があるのか……)


 そう思った矢先、周囲の空気がざわりと揺れた。


(まさか!?)


 近くにいたのは鹿だけではなかった。木々の上には、すでにたくさんのゾンビ化した猿が潜んでいた。


 顔が爛れた猿たちは、繋(けい)を煽るように手を叩き、キャッキャッと鳴きながら木々を飛び移っている。


 次の瞬間、──ピーッ!! とフルートの音がひときわ高く響いた。


 それを合図に、近くにいたゾンビ化した鹿や猿たちが一斉に繋(けい)へ飛びかかってくる。


「フロス!」


 唱えた瞬間、繋(けい)の周囲にシャボン玉のように柔らかく、透明な膜がぶわりと展開される。それは鋭い爪や牙すらものともせず弾き返す、繋(けい)専用の魔法の盾。


 飛びかかった猿と突進してきた鹿がその膜に激突し、まとめて弾き飛ばされる。


 間髪入れず杖を一回転させると地面が隆起し、土が槍状になって勢いよく突き出される。突進してきた鹿の数体を串刺しにし、さらに跳ねてきた猿の動きを阻むように次の槍を連ねていく。


 フルートの音色は刻々と変化し、まるで指揮者がテンポを操るかのように、動物たちの連携も次第に洗練されていった。1体、2体ではない。十数体が一糸乱れぬ動きで、繋(けい)の反応を上回る速度で襲いかかってくる。


(音を通じて意志を共有してるのか!?)


 フルートの音が響くたび、ゾンビ化した動物たちが次々と繋(けい)へ殺到する。襲ってくる敵たちを土槍の魔法と杖捌きで薙ぎ払っていく。猿や鹿を殴り払いながらも、合間を縫ってClass3の動きを観察した。


 隙を見ては土槍の魔法をClass3へ発動する。数本の土槍がザクザクとClass3の肉体を突き破る。だが、それらはすぐに自己再生され、どれも決定打にはならなかった。


(くそ……やっぱり初級魔法じゃ威力が足りない)


(それにしても、Class3はあの場から動いてない。いや、動けないのか)


 おそらく、フルートを演奏している間はClass2の支配と操作に集中しているせいで、自分自身は動けないのだろう。


(せめて演奏が止まれば、統率も乱れるはずだ!!)


 小さく息を吐き、次の魔法へ意識を切り替える。


 だが、その間にもClass3はフルートを吹き続けていた。不規則で不快な音色が森に響くたび、新たな動物たちが奥からぞろぞろと現れてくる。


(数で押すつもりだろうけど、こっちも距離を取ろう)


 少しでも敵の攻撃を受けないよう、浮遊魔法でふわりと宙へ浮かび上がった。同時に、相手の動きを縛るため拘束用の魔法を行使する。


「グロウ」


 周囲に橙色の花弁が舞い広がる。魔力を帯びた花弁が地面や木々に触れた瞬間、Class2たちの足元から大地を割るように草の根が急成長した。さらに木々に絡まっていた蔦も大きく伸び、Class2たちの足や身体へ巻きついて次々と拘束していく。


(そして、Class3も!)


 同じように、Class3の動きを封じるように植物の根が猛スピードで伸び、足元からフルート型の腕にまで絡みついていく。


 それでもClass3は動じず、フルートの旋律を止めなかった。


(とりあえず、逃げることはできないだろう。あとは、あの演奏が止まらない限り無数の動物が湧いてくる。なら……ッ)


 繋(けい)は滞空しながら真下の土を浮かび上がらせる。ブロック状の土を数個。それらを鋭い槍へと成形し、斜め下へ向きを変えて遠距離からClass3を狙う。


「射出!」


 数本の土槍が、Class3めがけて空気を裂きながら飛んでいく。


 しかし、Class3は繋(けい)の動きを読んでいたように高音を響かせた。それに呼応するようにゾンビ動物たちが盾のように前へ立ちはだかり、次々と身を挺して倒れていく。


「……なるほどね、これは思ったより厄介だね」


 小さく苦く笑い、次の手を考える。その間にもClass3は今度はゾンビ化した野鳥を操っては繋(けい)へと向かわせる。


 一匹ずつ対処していては、魔力がすぐに尽きてしまう。だからこそ、飛び続け、鋭い嘴で突撃してくる野鳥たちをすれすれで躱していく。


 だが、このまま浮遊魔法を維持していても魔力が削られる一方だ。短く舌打ちし、判断を切り替える。


 やむなく地面へ降り立ち、防御魔法を張ることを優先した。


 着地した瞬間、それを待っていたかのように地上のClass2たちが一斉に動き出す。繋(けい)を360度囲むように襲いかかり、シャボン玉の防壁がガンガン! と激しい音を立てた。


「このままじゃ……ッ、ジリ貧だ……」


 額に汗を浮かばせながら呟いた、その直後だった。Class3のフルートが、今まで以上に唸るような不協和音を響かせる。


「なっ……」


 今度は鹿や猿だけじゃない。片眼を失った熊、骨の見えた狼が、フルートの音色に呼ばれるかのように森からぞろぞろと現れた。そして悲鳴のような咆哮を上げながら、繋(けい)へ向かって突進してくる。


 土魔法で足元の地面を槍状に突き上げる。だが狙いはわずかに逸れ、動物たちは滑るようにかわしてきた。


 次の瞬間、一体の狼の鋭い牙が防御膜をわずかに裂く。肩口をかすめた傷から、血がにじんだ。


「っぐ……!」


(集中力が途切れた……ッ)


 肩を押さえ、防御魔法を再展開する。だが、次々とゾンビ化した動物たちが集まり、じわじわと逃げ場を奪ってくる。


(まずいな……魔力を節約している場合じゃない……落ち着け、ぼく……。冷静に、“あいつ”だけを倒せばいい)


(それに、他のゾンビを操るコイツはここで倒さないと、後から障害が出る……!!)


 Class3は相変わらず演奏を止めない。まるで楽しんでいるかのように不協和音を響かせながら、笛の音色だけで他のゾンビたちを操り、完全に自分を守らせている。


 このままでは、本当にジリ貧だ。


 荒くなる呼吸をひとつだけ整えながら、傷口から流れる血を押さえた。肩の痛みが集中を削り、思考を鈍らせていく。それでも、ここで退くわけにはいかなかった。


(ごめん、ヒカルさん……やっぱり少し、無理をする!)


 杖の先を地面に向け、「ダン!!」と強く叩きつける。


「ブレストゥ(弾けろ)!!」


 自分の周囲を包んでいた防御膜が、バン! と破裂するように弾けた。防壁に群がっていた野鳥も、猿も、鹿も、熊も、狼も、まとめて魔力の爆発に吹き飛ばされた。


 わずかにできたその隙を、見逃さなかった。


「グロウ!!」


 再び植物を急成長させる魔法を唱える。だが、今度は先ほどとは比べものにならない出力だ。魔力を過剰に注ぎ込まれた蔦と根はさらに長く、さらに太くなり、Class3のフルートの腕と身体を強く捕縛した。


 Class3が無理に動こうとする。だが、強化された蔦と根はびくともしない。ググッと身じろぐばかりだった。


 その代償はすぐに繋(けい)自身へ返ってくる。予定以上の魔力行使に、身体が悲鳴を上げた。視界が揺れ、耳鳴りが激しくなる。


(意識が……遠くなる……けどッ!!)


 魔力が急速に減っていく感覚に耐えながら、奥歯をギリリと噛みしめる。


「──今だっ!!」


 ビュッ! と左手を空を切るように振る。指には、空間魔法で取り出した薄紫色のリアトリスの“花の栞”が挟まっていた。


 全身の魔力回路をフル回転させ、魔力を一点に集中する。


 薄紫色の“花の栞”を目の前へふわりと投げる。


「──低出力。概念抽出魔法(オルタナティブマジック)起動───リアトリス」


 彼の足元に、光を帯びた橙色の魔法陣が出現する。“花の栞”へ魔力が流れ込み、栞は紫色の花弁へと姿を変えた。花弁はしだいに形を整え、細く、鋭く、美しい紫色の槍へと変わっていく。


 目の前に生成されたリアトリスの紫槍(しそう)をClass3へ向けた。


 傷ついた腕を押さえながら、残った魔力をすべて槍へ注ぎ込む。


「ゲイル《貫け》! リアトリス《炸裂する槍よ》───!!」


 放たれた紫色の槍は空気を切り裂き、Class3のフルート状の腕ごと身体を貫いた。


 それでもClass3は、ぐぐぐとわずかに身体を動かし、なおもフルートに口をつけようとする。


「……無駄だよ」


 それを見て静かに言った。


 直後、ドスッ! と何かを突き破る音が響く。


 それは一度で終わらない。続けざまに、何度も何度も肉を裂く音が森の中へ広がった。


 Class3の身体に刺さった蔦の槍が、その体内で急成長していた。身体の内側から無数の蔦の槍が突き破り、肉体を内側から食い破っていく。


 Class3は悲鳴を上げることもなく、ゆっくりと事切れた。


 そして、その身体は塵となって宙へ舞っていく。


 それを確認した瞬間、繋(けい)はその場に膝をついた。


 はあ、はあと荒い息を吐き、今にも崩れそうになる身体をなんとか杖で支える。魔力は限界を迎え、意識も遠のきかけていた。


「はは……良かった……なんとか無事倒せた……」


 胸の奥に、ようやく息がつけたような安心感が広がる。だが同時に、左肩から血が滴り落ちているのが目に入った。


(……もう少し余裕だと思ってたけど)


(久しぶりの戦闘だったからか、やっぱり色々と鈍ってるな……)


 異世界にいた頃であれば、もっと多くの感覚が研ぎ澄まされていたはずだった。


「でも、これで分かった……」


 Class3くらいなら、今の魔力でもまだ十分に戦える。


 まだ禁呪も、完全出力の概念抽出魔法(オルタナティブマジック)も使わずに、今の魔力量と自分が扱える初級魔法だけで戦えることを確かめる事ができた。


(次はもっと魔力配分を調整しながら戦わないとね)


 視界が霞む。


 けれど、ここで倒れるわけにはいかない。ヒカルたちに余計な心配をかけるわけにもいかなかった。


(……取りあえず。二人に心配をかけないように、傷を治したら少しだけ休んで帰らなきゃ)


 身体を支える膝に、もうほとんど力は入らない。


 それでもと、歯を食いしばって立ち上がる。


(……約束を……守らなきゃね)


 震える足で、一歩ずつ。


 繋(けい)はヒカルたちのいる場所へ向かって歩き出した。



いつも読んで頂いてありがとうございます!

もし良かったら、ブクマ・評価・リアクションのどれかを押して頂けると更新が頑張れます!٩( 'ω' )و

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