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第94話 亡国の美女の片鱗

 刺客に追われるミーシャの死を擬装するため、モモがミーシャを斬る。

 普通に致命傷なその傷に、俺は回復魔法を使う。





「ふう、これでミーシャは助かった。」

 俺の回復魔法で、ミーシャは峠をこえた。

「で、モモ。なんでミーシャを殺そうとした?」

 俺はミーシャの前にしゃがんだまま、背後のモモにたずねる。


「ふ、さっきも言ったが、これくらいしなきゃ、証拠にならん。」

 モモはミーシャの血を吸った剣を見せる。

「それで殺してたら、擬装になんねーだろ。」

 俺はのっそり立ち上がり、モモをにらむ。


「だが、そいつの美貌は危険だ。近い将来、国を滅ぼす事になる。」

 モモも真剣な表情で、にらみ返す。


 亡国の美女。

 モモの台詞に、その言葉が脳裏をよぎる。

 俺の前世の記憶から、その美貌で国を滅ぼし歴史に名を刻んだ女性たちの名が浮かぶ。


 俺は首をふり、その前世の記憶を否定する。

「そんな事、ある訳ねーだろ。」

 俺はモモの台詞に、ある歴史上の女性を重ねるのだが、モモの台詞を否定する。


「ふ、おまえが虜になってる時点で、その片鱗は見え始めてるんだがな。」

「なに?」

 モモの台詞に、ゾッとする。

 俺が虜になってる自覚はない。だが、はた目にはそう映るのか。


「おまえは知らんと思うが、昔名君と呼ばれた君主がいてな、」

 戸惑う俺をよそに、モモは語りだす。

「その名君も女の色香に誑かされて、国を滅ぼした。」

「な、」


 殷の紂王。

 モモの台詞から、その名が脳裏に浮かぶ。


「ほう、この手の話しは、結構あるみたいだな。」

 何かを察した俺を見て、モモは意外そうな顔をする。


「ち、例えそうだとしても、ここでミーシャを殺すのは、早急すぎるだろ。」

 俺もモモのいい分が、分からなくもない。

 だが、まだ何もしてないミーシャを、殺す気にはなれない。


「だと良いんだがな。」

 モモは一瞬ニヤける。

 だが、すぐに真顔に戻る。

「ところで、おまえは本当にドラゴンなのか?」

「なに?」


 今は俺もモモもミーシャも、ドラゴンに戻ってる。

 外見ドラゴンなヤツに、何を聞いてるのか。


「俺もドラゴンの状態で、まともに会話が成立するヤツは、初めてなんだよ。普通はそうなる。」

 モモはチラりと視線をそらす。


「ぐるるる、」

 モモの視線の先で、ミーシャがうなってる。

「み、ミーシャ、どうした?」

「ぐがー!」

 俺の呼びかけに呼応して、ミーシャが襲いかかってきた。

「や、やめろ、ミーシャ!」

 俺は右手でミーシャの左腕をつかんで、そのままミーシャの背後に回る。

 ミーシャの左腕をねじり上げながら、左腕をミーシャの首に回す。

「お、おちつけ、ミーシャ!」

「ぐがー!」


「普通はそうなる。ドラゴンの時は理性がふっ飛んでるからな。」

 モモが冷静に分析する。


「そういや、そうだったな。」

 かく言う俺も、暴れたい本能をなんとか押さえてる状態だ。

 俺はミーシャから手を離し、首の後ろにトンと手刀をかます。

 ミーシャは気を失い、その場に倒れる。

 やっぱ気絶させるには、この方法が一番だな。


「ん?どうしたモモ。」

 モモはなぜか、驚きの表情を浮かべている。

「いや、それを使うヤツを、初めて見たからな。」

「そうなのか?まあこんなの、誰かがやってるのを見る事なんて、そんなにないだろ。」

「ふ、そうかもな。」


 ひとり納得するモモをよそに、俺はキョロキョロと周囲を見渡す。

 ここは千尋峡谷の廃墟群と果てのホームとの、およそ中間地点。


「なあモモ。ここに来た時の道具で、あそこまで行けないか?餌の子羊を調達したい。」

 俺は廃墟の街並みを指差す。

 ミーシャが暴れだしたのは、体内の魔素が尽きかけてたから。

 その魔素を補充してやれば、正気に戻るはず。

 俺が転移魔法で、ひとっ走りして捕まえてきても、この場所は特徴もないので、転移魔法では戻ってこれない。


「あれは帰還魔法の効果が封入されている。だからここにしか移動できないぞ。」

「マジか。じゃあ直接行くしかないか。」

 俺は気絶したミーシャを左肩にかつぐ。

「何してんだ?」

「ミーシャが暴走したのは、おそらく魔素ぎれだろ。だから餌を食べさせれば回復するはず。」

 俺はモモに右手を差し出す。


「なんのまねだ。」

「俺は転移魔法が使える。だからつかまれ。」


 モモはニヤけながら首をふる。

「いいのか、俺にそれを教えて。それに敵に利き腕をあずけるなんて、何考えてんだ。」

「敵、か。俺も話しの通じるドラゴンは、あんたがふたり目なんだよ。あんたを敵とは思えない。」

「ふたり目?」

「ああ、ひとり目はこいつだ。」

「ミシェリアが?」

「ここに堕とされた時、最初に出会ったのがこいつで、色々教えてもらった。だからこいつには恩がある。」

「ふ、甘いなサム。そいつは言いなりになってくれるコマを探してただけだぜ。」


 モモは俺の右手をにぎる。

「そうかもな。だけど今は見捨てられない。」



 俺は意識を集中させ、廃墟群の外れをイメージする。

 そして転移魔法を使った。

ども(・ω・)ノ

千尋峡谷の設定として、餌の子羊があります。

千尋峡谷では魔素の濃度が濃く、その魔素の澱みが子羊の姿で具現化されます。

この沸いた子羊をめぐって争いになる事もありますが、常に餌が提供される環境は、ニートにとって最高の環境とも言えます。

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