第91話 伝説の片鱗
リバルド学園への編入に際し、歓迎セレモニーの名目のもと、なぜか伝説のS級冒険者モモと戦う事になった。
「じゃあ、始めるか。」
モモは闘技場中央へと歩きだす。俺に背中を向けて。
格上のS級冒険者モモ。
確実に勝つには、今しかない。
俺は奇襲をしかける事にするのだが、モモには隙がない。
俺がどうしかけても、返り討ちにあう未来しか予想出来ない。
「何してるのよ、サム。今がチャンスでしょ。」
横からミーシャが口を出す。
「いや、無理だな。」
俺は奇襲をあきらめ、歩きだす。
そんな俺の横から、火球が放たれる。
俺の代わりに、ミーシャが奇襲しやがった!
その火球は、モモに命中する直前、跳ね返ってきた。それも速度を増して。
「く、」
俺は棒立ちのミーシャの前に立ち、跳ね返った火球を右手でつかむ。
後は転移魔法の応用で、火球の位置をずらす。
俺の横に転移した火球は、そのまま後方へと飛んでいき、闘技場の壁に炸裂する。
あまりにも咄嗟だったので、転移させた火球を跳ね返してやる事は出来なかった。
「ほう、俺の極界陣とは違うみたいだが、似たような事は出来るんだな。」
「きょっかいじん?」
背中を向けたまま立ち止まるモモ。
「ああ、この結界の中で攻撃を繰り出せば、その攻撃は跳ね返されるって寸法さ。って、うん?」
立ち止まったモモが振り返る。
「今の攻撃は、おまえじゃなかったのか。そして、そいつをかばったのか?」
俺の立ち位置が変わってる事に、モモは驚く。
「極界陣だかなんだか知らねーが、女の顔面に攻撃って、そりゃねーんじゃねーか?」
「知らんがな。極界陣の中で攻撃を仕掛けるヤツが悪い。」
「貴様ぁ!」
俺は一気に距離をつめ、スピードの乗った右ストレートを繰り出す。
「ぐは、」
俺の右ストレートは空をきり、俺の腹にモモの左拳がくいこむ。
「これが、極界陣、か。」
どういう仕組みか分からないが、カウンターに特化した構えって事か。
俺は膝を崩しながらも、腹にくい込んだモモの左腕をつかむ。
そのまま身体を反転、背負い投げに持ち込む!
「おっと。」
モモは投げられる直前、地を蹴って自らジャンプする。
俺は背負い投げに抵抗を感じない。
モモは身体を反転させ、着地する。
「え、」
俺は地面に叩きつけたはずのモモが目の前にいて、思考が停止する。
ハッと思うと同時に、モモのショルダータックルを受け、吹っ飛ばされる。
「くそ、」
俺は素早く立ち上がり、モモとの距離をつめる。
極界陣とかいうカウンター特化のモモに、打撃系は通用しないが、組み技投げ技は通用する。はず。
このままタックルかまして倒せば、何とかなるはず!
そんな俺を前に、モモは背中の剣に手をかける。
俺の身体が反応するが、そのままタックルを続行。
しかしモモに両手で受け止められ、倒す事は出来なかった。
あの一瞬の戸惑いが、タックルの威力を削いでいた。
「おまえ、なんで突っ込んできたんだ?てっきり後ろに周りこむかと思ってたぜ。」
モモは俺を両手で受け止めたまま、声をかけてくる。
「も、モモさん、刀は使わないって言ったから。」
「おまえ、それを信じたのか?」
俺はタックルの体勢のまま、うなずく。
モモの言葉を信じたのもあるが、剣に手をかけたモモから、殺気を感じなかったのも事実。
「あははは、」
突然笑いだすモモに、俺もタックルの体勢から頭をあげる。
「なるほどな。おまえに今の獅子の穴はあわない訳か。」
「え?」
突然あがる獅子の穴の名に、俺の理解が追いつかない。
「ま、ここじゃなんだ。場所を変えて話そうか。」
モモの足元から、魔法陣らしき円が広がっていく。
「これは移動系の道具で、帰還魔法と同じ効果がある。」
モモが足元の魔法陣を説明する。
その魔法陣に、ミーシャも入ってくる。
「ちょ、ミーシャ?」
突然のミーシャの乱入に驚く俺。
「こ、こんな所に、ひとりで残れる訳ないでしょ。」
ミーシャは理由を説明する。
俺とモモが居なくなった後、ミーシャと副会長どもが残されるから、それは確かに気まずそうだ。
「別に構わないぜ。おまえにも用はありそうだしな。」
「え」
ミーシャの同行を許可したモモ。
広がった魔法陣が、縮小されていく。
俺たち三人は、別の場所に転移する。




