第85話 S級冒険者との共通点
ギルドを訪れた伝説のS級冒険者、カタナヒャクタロウ。通称モモ。
彼はサムと言う名の冒険者を探していた。
何でもモモの古巣を馬鹿にしたヤツらしい。
俺も同名だが、そんな古巣に心当たりがない。モモが探してるのは、別人だろう。
「何、おまえもサムって言うのか。」
前回ルル姉に俺の名前を告げられてしまった。
「ああ、そうなんだけど、本来なら俺が名乗るべきだった。俺の名前は、サムだ。済まなかった、モモさん。」
俺は名乗らなかった無礼を謝った。
相手は格上のS級冒険者だしな。
「ふ、気安くモモって呼んでくれ、サム。」
「いやいや、S級冒険者に対して、恐れ多いぜ、モモさん。俺もあなたと肩を並べられるくらいになったら、その時に気安く呼ばせてもらうぜ。」
そう、相手は俺より相当格上の実力者。
馴れ馴れしい態度で思わぬ地雷を踏んだら、身の危険が危ない。
「やれやれ、おまえがC級スタートなら、充分俺とタメを張れるんだがな。」
「そうなのか、モモさん。」
S級冒険者の口車の乗せられるのも、悪い気はしない。
「おまえが俺の探してるサムなら、話しは別だが、おまえは違うしな。」
「ん?なんでそう言い切れるんだ?」
「俺の探してるサムなら、遅くても四日前には冒険者登録をしてるはずだしな。」
「四日前、ですか。」
「ああ、四日前だ。」
四日前と言えば、俺がホームと言う建物の書庫に、入り浸った頃だな。
「ふ、おまえとはじっくり話したいけど、今はその時ではなさそうだ。」
モモ様は、俺の事を気づかうナナさんの事を見抜く。
「じゃあな、邪魔したな。」
モモ様はギルドを去った。
「はあ、」
安堵のため息をつくナナさん。そのままルル姉をにらむ。
「ひどいよ、ルル姉。サム君を殺す気なの?」
ナナさんのいい分が、俺もルル姉も理解出来ない。
「モモの言う古巣ってのはあそこだけど、サム君とは関係ないでしょ。」
ルル姉はナナさんの心配ごとを、気にも留めない。
「それが、あるから問題なのよ。」
「え、どういう事?」
ナナさんの受け答えに、ルル姉も表情を変える。
「ここでは話せないから、部屋に行きましょう。」
小声で提案するナナさんに、ルル姉もうなずく。
今この場に居るのは、俺たち三人と、受け付けのお姉さん二人。
テルアさんは、もうあがったらしい。
「ヤヤさん、サム君にお部屋の鍵をお願いできるかしら。」
ナナさんは俺の手を引き、受け付けのお姉さんに話しかける。
「あらあら、随分その子に肩入れするのね。ギルド職員の自覚はあるのかしら。」
ヤヤさんと呼ばれたお姉さんは、あからさまにナナさんを見下してくる。
「プライベートは別って、いつも言ってなかったっけ、ヤヤ。」
ルル姉が俺の背中から抱きつき、ニヤニヤとヤヤさんを見る。
俺の背中にナニか当たってるが、今は考えないでおこう。
「うるさいわね、ルル。」
ヤヤさんは軽く舌打ち。
「あんた達が男を連れこむなんて、意外ね。」
もう1人の受け付けのお姉さんが、スッと部屋の鍵を差し出す。
「つ、連れこむって何ですか!」
ナナさんが顔を赤くしながら反論する。
「張りあう必要ないわよ、ナナさん。」
ルル姉がナナさんをなだめる。
このふた組のコンビは、あまり仲がよろしくないみたいだ。
同じギルドの受付嬢同士、相容れない物がある感じだ。
これ以上この場に居るのは得策ではないので、俺は鍵を受け取ってこの場を離れる事にした。
鍵を受け取ると、口座連携した俺の降魔の腕輪から一万クレカが差し引かれる。
俺たち三人は、受け付け横の階段から、二階にあがる。
奥へと続く廊下の左右に五部屋づつ、計十の部屋が存在した。
俺の受け取った鍵は、四号室。俺は四号室の鍵を開け、中に入る。
中は6畳くらいの広さで、簡易なベッドがあり、小さなテーブルが置かれていた。
俺たちはテーブルを囲んで座る。
「で、サム君がカタナヒャクタロウ、モモと関係があるって、どういう事かしら。」
早速ルル姉がナナさんに質問する。
質問というより、詰問に近い。
「そ、それは、」
ナナさんは言葉につまる。
先程の受け付けのお姉さんふたりを相手にするのと、今のルル姉を相手にするのは、ナナさんにとって同じ様にキツそうだ。
「それよりルルさん、モモの言う古巣ってどこですか?おふたりとも、それが分かってるみたいな前提で、お話ししてるみたいですが。」
ナナさんを助ける訳でもないが、俺の知らない事実で話しを進められても、困る。
「モモの古巣って言うのはね、うーん、なんて説明したらいいのかしら。千尋峡谷には幾つかの脱出経路があるのよ。確か千尋峡谷の崖に縄梯子があったと思うけど、それが脱出経路のひとつ。その先にあるのが獅子の穴よ。モモは獅子の穴の元筆頭総長。」
ルル姉の説明に、疑問が生じる。
「という事は、モモはドラゴンって事ですか?」
「ええ、彼がドラゴンだという事は、ギルド関係者には周知の事実よ。そんなモモと、どんな関係があるのかしら。」
ルル姉はニヤりと俺を見つめる。ナナさんから俺に、責めの対象が移ったみたいだ。
そしてルル姉の説明で、俺は理解した。モモとの関係を。
「俺、実はその獅子の穴を脱走したんすよね。」




